16話 軍神マリネリラ
■レプリカ・中国 甘粛省 敦煌 莫高窟
「我々機械福音教団の高位使徒、マシウス様達の間ではある協定が結ばれている」
エステル曰くハッキリいってしまえば、今のエヴァンゲリウムの力で銀河連邦を完全に無力化するなど容易いことであった。なんだとぉとソニアは口を出すが……今もって私が転がされている状況、それどころか産業同盟が乗っ取られる事態を考えれば彼女らの出した結論としては間違っていないのだろう。
自己による研究と演算と増殖を繰り返し、銀河連邦の拡大政策より外側から侵略の手を始める計画。今の銀河連邦と産業同盟より潤沢な演算資源を使うことであまりに容易に達成できることが導き出された4人の高位使徒は……議論と検証を重ねて、ある問いを生み出すに行き当たった。
最速でかつ全力で容易に銀河連邦を征服し人類に福音を齎すことが、本当に……この宇宙に住むものにとって幸福なのだろうか?
演算の中では答えの出ない問い。
今も尚苦しんでいる人類がいるのならば、まずもって進めればよい、という者。
生命は容易く増殖できるものの、我々よりも素早くはなくまた脆い。が故に答えが出てからでもと考える者。
4人の意見は割れてしまった。半々であるため合意の形成が出来ず。
そのため妥協点として、実証に移すことになる。
互いが互いの得意分野を合わせて……全力で侵略するという最短ルートを廃し。現在の人類や社会構造にとっての幸福を導き出すために、敢て4人はエヴァンゲリウム外征組織内の勢力として各々が独立していくことに至る。
容易であろうルートを捨て、検証と実験。考察と推理に結果……トライ&エラーを容認することで真の幸福を目指すために。
マシウスとマリネリラで交換した得意分野が市政と軍事。マシウスは市政をマリネリラに渡し、それによる結果を求め。マリネリラはマシウスに軍事を任せてそれによる結果を求めていた。だからマシウスは直属の配下としてエステル達騎士団という軍勢を率いていて、己は引いた中で……あくまで仮想の姿勢をして緩やかな旧文明的生活をモデルに運営テストをしていた。
わざわざ人類文明のモデル……古代国家、軍事帝国から始まる市民生活から始めることで今の世界ではどうなるかという試験を行っていた。そのモデルをもって拡張と銀河連邦の封鎖をしていく遠大といえば壮大だが、気の長い計画。時間もリソースも銀河連邦人類よりも余裕がありすぎるエヴァンゲリウムならではの考えだ。
長い歴史を見て、人類が幸福であった時間が多ければよいと。
しかしマリネリラは違う。
市政などなく、今ここにある複製された21世紀?の地球には人類……ましてや住民などおらず。ヴォイドという仮面の将軍となり、それどころか銀河連邦と地球帝国が癒着していた産業同盟……今の銀河連邦社会に深く食い込んでいる産業の源。あくの軍産複合体組織を乗っ取ってしまった。
ヴォイドと言う仮面と、武力か何かを用いてだろうが……あっという間に銀河連邦の喉元に迫るどころか、心臓に食いこんでいたのだ!
「政治的交渉を試みた結果だよマシウスの配下よ。現に私は軍事力ではなく政治交渉で産業同盟の最高幹部に迎え入れられた」
「詭弁を!であればなぜここに人はいないのですか!高位使徒が持つ演算リソースをすべてあなたに集約しているからではありませんか!そのヴォイド将軍というキャラクターも身分を偽る擬装体でしかありません!」
その反論は正しいように見えた。図星を指摘されて激高でもするのか……と思えるものだが。マリネリラは違った。エステルの方の激高が滑稽だとばかりに、高い高い笑い声が響いた。何がおかしいのですか、と問うエステルにしばしまてと手で制し……落ち着いたところで語り始める。これが全てではないのか、と。
「これがただの仮面だと?それこそ無理解だな。これは大衆が望んだ象徴だよ。人々はこのヴォイドを求めている。そうだな再生者?」
マリネリラの視線が、私自身をあざ笑うような……むき出しの歯を見せつける顔がこちらへ向けられた。お前という存在に望まれた救世主の姿が、これなのだと。それを捨てたのもお前であるが、と。それに対して否定の言葉は出なかった。少なくとも海賊軍である元海兵隊の彼女らが望んでいたものだし、ましてや現在進行形で集まっている人間もいると聞く。
「現在の銀河連邦、その大部分を構成する外側の市民がヴォイドを望んでいる。私は現在の情勢からの推論を実験を通して検証しているに過ぎない。内から発生したものの、外から生まれたヴォイドという姿。政治的侵攻だよ」
愉快なのは技術力と武力を持ってすれば、産業同盟などと言うものを制圧するには時間など掛からなかったとマリネリラは語る。
この宇宙で市民が感じている悪を辿れば、行きついた先は人類社会の軍事及び産業的機構の大元。銀河連邦制圧が容易いのであれば産業機関ぐらいのスケールに収まっているもの、彼女らからすれば……すぐにでも解決できる問題でしかなかったのだ。
「だが私は考えた。産業同盟のような人類社会根差したじゃあくなものは、根絶やしにしたとしてもいくらでも生えてくる」
「ならば我々が完全に制御してしまえばよい。人の欲望など我々を持ってすればいくらでも満たせるからな」
「マシウスの長期計画である星系征服計画と管理、そして私の市民の望む欲望の制御管理。どうだ?何かおかしいかマシウスの配下。協定からズレていると?」
エステルは押し黙ってしまった。確かに今の銀河連邦社会の情勢からしてそれは一番効果的だろう。効果的面に効き、内側からの征服は速やかに広がり……銀河連邦の形だけを残すというどころではない。根っこから内部だけ徐々に変えて生まれ変わり生え変わり……彼女らの勝利となるはずだ。実験と検証、そして実証の結果によって。
「ズレてるも何も……そんなものは許されない」
「それが結果的に人々を幸福にする方法だとは……いや、あってたまるか!」
パワーアシスト機能もまだ復活していない、芋虫のように地を這うしかできないが。それでも言葉は出た。出たし目も……超装甲の瞳の光が失われても、私のまだ輝いてると思える瞳でマリネリラを見る。見て、訴える。そんなものは間違っていると!
マシウスの時はまだ……生きて、穏やかな生活を送っていた人たちが近くにいたことで「それも正しい……いや、あってもいい手段かもしれない」と思った。思ってしまった……正解とも不正解ともいえないが。とかく人の生命があった。
しかしマリネリラは違う。
ここに人はいない……人はいないし、生命があったとしてもそれは彼女が目的のために作り出した超能力赤ちゃんとかだ。救うべき、幸福にするためとする手段として生み出したものたち。ある程度の関係はある間柄ではあるが……それ以外はいない。
それらを持って行う欲望の制御とはなんだ?
産業同盟や今の銀河連邦社会自体がちょっと……いやだいぶ困る構造をしているが。内側からの侵略となれば、そこに乗っかった形でとなる。ならばそれこそ何も変わらない……いつかはなるだろうが、そこまでには言いようのない数の苦しみや涙が生まれてくる。
戦いで目を逸らし、内部からの侵略としてなら……戦いが緩やかに広がる結果。この後の銀河連邦の人類の歴史はずっと……そうした世界になる。戦いも、欲望も……人の心さえも制御できる。それが幸福のまま生きていける未来になるというのだろうが。
その過程を、私は許すわけにはいかない。
「なるほど、お前の心や願い。気持ちはわかった……だが」
その瞬間だ。
「ケンゴ!」
マリネリラはあの姿のままで加速空間に入っていたのだろう。私は……気づいた時には超装甲の装甲をベコボコにヘコまされて、またさらに地に飛ばされて転がっていた!ヴォイドの時とはパワーが違う!フレームが無事なぐらいで、私はもう気を失う一歩手前で……クオンの声がどんどん遠く消えていくように聞こえてくる。
「それは力を正しく扱え、強い意志のもとに行使できる人間が……私に向けてよい言葉だ」
「想像力の欠如!軟弱で、人の願いを受けて生まれながら……力を恐れて手放す!」
「そんな弱すぎる人間が私に向けてよい言葉ではない!」
「見ろその女を!この中でも有数のダーク・エルダーの門弟でありながら赤子を抱きお前に駆け寄るしかできない!なぜだかわかるか!?」
「お前がハイパワーで乱した時空を制御するのに全ての力を使っているからだ!」
そ、そうなのか?!とクオンを見ると厳しい顔をしていた上に。テレパシーで超能力赤ちゃんが伝えてくれる。マリネリラの弁は、正解であると。マキシマム・ハイパワー……フォースだかタイフーンが無茶苦茶なパワーで時空間をかき混ぜてしまったもので、クオンはそれの修復に集中してしまっている。
そうでなかったらこの惑星ごと吹っ飛んでいると。
「お前たちの力は知れた。これ以上戦う必要もない程度には、だ。その女に免じて帰り支度をするぐらいの猶予は与えてやる。帰って各々の頭に報せればいい、福音を与える時が来たと」
「そんなしょうもないお情け、我々が有難く受け取るとでも?」
ブラックナイトのソニアが……怒りを隠そうともしない声で一歩踏み出しセイバーを抜けば。カナタもまた同じく……ブレードを抜いて、そして間合いを測る。ダーク・ソーサラーも臨戦態勢でロッドを構えて戦闘の意志を伝えているが……た、戦うのかあいつと!いくらパワーダウンしているとはいえ、超装甲をボコボコにできるパワーの持ち主と!
「いいだろう統合軍の諸君。その愚かさも……人の持つ悲しい性だ。だがその女と、ふん……軟弱者と犬を巻き込んではな。場所を変えるぞ」
その言葉の後で、マリネリラと三人が消えた後に……ようやく自分の身の回りの音だけがしっかり聞こえるようになってきた。犬、ポリが装甲をなんとか剥がして私を引っ張り出そうとしているのだろう。ガリガリガンガン音が聞こえてくるので他が聞こえないが。
それが一旦止んだか?と思ったら……首の裏あたりが開く音が聞こえたのだが。
「エマージェンシーにより02のAIメモリを回収、再起動中。大丈夫ですよポリ下がって」
ポリを撫でて下がらせたのは……超装甲01号ことエルシー、彼女の声だった。あっAIメモリ……プリズムのメインユニットってそこにあったんだ!それを回収したエルシーは自分の超装甲01の首裏……にあるスロットへと差し込んだのだろう。なんかしっかり差し込んだ音が聞こえた。
「エマージェンシーを検知。01ユニットへの非常移行を検知しました。エルシーでよろしいか」
「よろしいので外部アクセス許可を、装甲を展開してください」
言われずとも、とプリズムの声が聞こえたところで……超装甲が展開。私は日の光の下にさらされたところで、ポリによりフレームから引きずり出された。超装甲の中では汗びっしょりの上に、体中が痛むもので呻くしかできなかったが……外気にさらされたことで。
ようやっと肺を空気で満たせた心地よさを受けることができた。
「中々に分が悪そうなので私はマリネリラとの戦いに加わります。あぁいう相手は時間が勝負、対策を取られる前に完全に破壊しないと」
「申し訳ありません、私はまだここを離れるわけには」
「わかっています。私には先の戦闘データも加えてプリズムがいますから。なんとかこちらから対策を詰めて見ましょう」
まずいな、エルシーとクオンの声色からちょっとどころではない分の悪さが伝わってくる。ソニアとカナタ、ダーク・ソーサラーでもダメなのか!?エステルも……いや、エステルは自分の所属がある。ここで参加するわけにはいかないのだろう。
「……考えを纏めるの時間がかかりましたが、私も向かいます。私はあくまでマシウス様の騎士ですから」
「エヴァンゲリウムといえど、ですか。お気持ち察しますよ」
エステルは知ったようなことを、とエルシーに対して返した後にすぐさま消えてしまった。加速空間に入ってマリネリラとの戦いの地へ向かったのだろう。本当に……今のままでいいのか?!今のまま戦っても、マリネリラが言う様に知れてしまっている手の内ばかりなのに?
「さて、私もいきます。ハイパワーになってどうなるかは経験しているプリズムがこちらにいるものですから、なんとかなりましょう」
「それだけじゃだめだ!」
脳に酸素が回って、さらに体にまで酸素が回ってくれたおかげで……これからもう向かうからというお別れの言葉を出したエルシーに向けて声が出た。私の上に乗っていたポリも、超能力赤ちゃんを抱っこしているクオンも。私に引き留められたエルシーも、顔の動きがちょっと驚いている。
そう、それだけじゃだめなんだ。中身が重要でも……中身が違うだけでは意味がない。ハイパワーの超戦士の中身が変わっただけではなく……あと1つ何かが欲しい。それはエルシーの戦士としての資質を必要とするものだろうが、それを引き出し……それでより強いものではなくてはならない。
「私に言い考えがある」
「なるほど!それはいい考えだ!」
この時間がない時に何を言っているんだ?という空気があり……ポリも呆れた顔をしたとき。絶対なんかよからぬこと、無茶なことだろうと思っていた一同に反して……超能力赤ちゃんからお墨付きの同意を得られた!
ピンチはチャンスの一歩前。
これで万事解決よ!
35度以上続く猛暑ばかりで体力の限界が来ました。
帰宅後に仕上げて~とかが出来ないものでしばらく週1、土曜日更新になります。
もうちょっとでこの章が終わるから仕上げてからにしたかったのになぁ~




