15話 明日のその先へ
■レプリカ・中国 雲南省 石林
複製された中国南方。東方ともいえる江蘇省南京から加速装置を用いて移動してきたヴォイド将軍と私……超装甲戦士マイティ。時間がゆったりと流れたり、止まっているような空間の中で戦いながら移動してきたわけだが。場所は雲南省の石林へと移る。中国南方カルスト……石灰岩と古代からの雨水等の浸食が生み出した石の林に行きついた。
アーマード・フォームの私は加速空間での格闘戦で……なんとかヴォイドのスピードに慣れてきていた。しかしその一方で中身の実力差は如何ともし難いように……私が狙っていく拳のライン、そのさらに上を徐々に取っては返していく。まるでこちらの実力を量るように。
そしていよいよもって、2手以上の差にまで持ち込める段階になってしまったからか……私は石林のマングローブのようなエリアの投げ落とされて。石林を砕きつつ翡翠の水面にポチャられてしまったのだ。加速空間が解除されて……水面に腰まで浸かってしまった私と周囲に、バラバラと石林の破片が降り注ぐ。
そこへ現れたヴォイドは石林の上に降り立ち言い放つ。
「話にならんな!お前の力はそんなものか!?」
「この目で貴様の……再生者の成長速度を確かめたくはあった。だが遅い!あまりにも遅い!」
成長速度も、加速の度合いも上とはどういうことか?プリズムによって加速の度合いは計算されているというのに……何かがおかしい!カウンターシステムであるタイム・ジャックを使うためにも測定が必要なはずなのだが雲南省に着くまでの間で終わっていない!
「プリズム!どういうことなんだ、計測が完了しないのは!?」
「対策されていました、申し訳ありません。この対策を相手は予期していたのです」
「なんだって!?」
エルダー同士の戦い、またはダーク・エルダーの配下との戦いに備えて搭載されているタイム・ジャック。ファイター・フォームに移行して決着をつけるための一手ではあるが……それに対してなぜヴォイドが対策を打てているんだ?
ヴォイドもエルダーとの戦いは備えているはず。ならばタイム・ジャックのような機能を搭載していてもおかしくはない。しかしあくまでもそのようなもの、というものだ。それ以前の機能計測の段階で対策されているというのはどういうことだ?
「ヴォイドはこちらの計測、追従を利用し必ず少しより速く時間流を生み出しているのです。これは体感的や経験的、才能や術のようなものではなく計算されたもの」
「タイム・ジャック機能そのものの対策なのです。完全に我々がそういう想定で動くことを読まれていました」
なんだって!?と同じ言葉が口から出てしまった。ダーク・エルダー対策をしている私の……超装甲戦士の対策を既に持っていた。流石にそれはズル……いや、速すぎる!タイム・ジャック機能使って2日も経ってないんだぞ!?
バファムトの時よりもずっと早いじゃないか!対策と傾向が早い、最強の学習塾みたいなことをされると手も足も出ないんだが!?この調子じゃウロボロスの時にアース・ゼノンを出さなくて正解だったが、これでは何を出しても同じかもしれない!
「わからない、プリズム……ヴォイドは私の行動も考えも全部読んでいるのか!?」
「いいえ。おそらくダーク・ソーサラーが言っていたように、あなたの周囲の人間の思考を読んでいるのかと。それか単純に対策を立てるのが早い」
「その、どちらもだ!」
超装甲の上から強打の一撃、水面を跳ねれば……またもう一撃。加速空間のオンオフを連続で使いこなしながら、ヴォイドは私を水面から岸辺へと飛ばし……また石灰の石壁にブチ当てる。
「言っただろう!遅すぎると!対策を講じることそれ自体は早いに越したことはないだろうに。ザ・マスターの遺産やエルダーどもに甘やかされているようでは……私に勝つどころではないわ!」
ぐぅの根もでない。
ここまで……特に今回は、クオンや超能力赤ちゃんにより補助輪つけてもらってなんとか戦ってこれた。それもプリズムのサポートや、ポリがいてこそ。私自身で解答を考えて戦えているかと言うと……ちょっと怪しい。つまり彼らの補助なしで、ヴォイドの対抗策を考えなければいけない。
もっと根本的な、相手への対処ではなく……その対処の根幹たる相続力の柱を作らなければならない。しかし何もないところからそんなものを考えられるのか?いや……いやいや、そうだ。何もないわけではない。私にはその柱になりそうなものがあるじゃないか!21世紀に見たものと……今生まれているもの。
超装甲戦士秘聞録が!
「プリズム、ファイター・フォームへチェンジだ」
「タイム・ジャックは対策をされています。使用を想定せずに移行し、戦っても勝ち目はありません」
「頼む、聞いてくれ!このままでも装甲をベコボコにされていくだけだ!なら……何でも試してみる。ヴォイドの先へ行くために」
プリズムは黙って承認してくれて、超装甲たるアーマードをパージ。細身のファイター・フォームに変わり……石灰の岩肌から立ち上がり構えてヴォイドへ向き直る。ファイティング・ポーズ、というものではなく……ここからまた場所を移すための跳躍の構え。
「姿を、場所を変えたところで同じだ。ファイターとなったところでタイム・ジャックの使えないお前など……ただの痩せこけた羽虫でしかない!」
「やってみるさ……その先へ行くために!」
「加速装置!」
■レプリカ・中国 甘粛省 敦煌 莫高窟
雲南省からさらに移動し……敦煌石窟にまで高速移動をする中で、格闘戦をかけあい。ファイター・モードでの速度の具合や、格闘戦の技術を確かめる。決して深入りせず打てる場所は打ち、引くべきところはひく。おそらく超装甲戦士1号のエルシーはこの選択が簡単にできる。プリズムの補助はカットしている私では遠く及ばないだろう。補助があってようやく、程度であるのだから。
私はそれでも……戦士として少しでも追いつくために、トレースするように……いや、なんとかそれに追いつくことを目指しヴォイドと競り合う。競り合うといっても苛烈なものでもなく、自らを自らの拳と速さで試す私へ……ヴォイドは苛立つことはなく。ただし合わせてやるつもりもないのか、鋭い蹴りがまた飛び。
防御を寸時しくじった私は……石窟寺院の外部たる岩肌に作られた高層仏教建築の前にまで転がされた。だが致命傷でもなく、転がる程度で済んだのは……毎度の拳闘を深く打ち込まなかった程度。ようするにファイターモードでの体の動きを確かめていただけなのだから。
「どうした再生者。戯れ程度の拳では……私の仮面を砕くことはできないぞ」
「わかっているさ、ヴォイド。だが体の動きはわかった。あとは……プリズム」
「これからマスター・パワーの出力調整に集中!後は任せてくれ」
「意味がわかりませんが、本当にそれでよろしいのですか?」
プリズムの確認の声を聞いたヴォイドは、数歩下がる。完全に警戒している姿勢……私が変なことを言い出したからだろう。変なこと……プリズムによる戦闘補助ではなく、機械の外装ボディに関することだけを注文しているところ。つまり戦いに関することは私が完全に決めるから、その私が考えた術に対抗するためだ。何考えてくるかわかったもんじゃない、という具合か?
なのでご期待に応えられるように、私は……戦いの構えから半歩体を前にずらし。手を斜め上に掲げて……何かこちらへ来るものを待つように構える。ヴォイドもそれにつられて視線を手の先を頂点に私を広く見るように変えていくのが感じ取れた。
そして呼ぶ。ヴォイドを倒すために考えた……私の対抗策!クオンにイメージを引っ張られているのは間違いないが、その先は私が呼ぶもの。
「ハイパワー・フォーム!」
「なにっハイパワーだと!?」
虚空から呼び出したのはパージした装甲。しかしその装甲が変形し……今のファイター・フレームとボディに張り付くように合体していく。アーマードの蛹から甲虫のファイター。
背中に追加で装着された装甲は、羽根を広げて羽ばたくように……大型フィンへと変形し広がる。両腕には鋭利なカナード翼のような装甲ブレード、足にはターボファン・エンジンのジェットノズルのような追加モジュール!
「ハイパワー・マイティ!これがヴォイド、お前の対抗策だ!」
「また形を変えてか!たかだが出力を上げた程度、いや上げれるようなった程度で勝てるとでも!」
「ならばその具合を見てやろうじゃないか……加速装置!」
「プリズム!出力調整、コントロールだけでいい!私の呼び込むマスター・パワーを調整してくれ!」
「何をしたいのかはまだわかりませんが、了解しました。加速追従に入ります」
追従に入ったとしても、さらに加速を続けていくヴォイド。こちらが捉えられない速度で……いや、プリズムへは捕捉よりも調整を頼んだ結果。周囲の石窟をベキベキに窪ませるような立体的機動でこちらを攻撃するチャンスを伺っている。
私が何かをした、そのタイミングでのカウンターとして……このハイパワー・フォームという策を完膚無きにまで打ち砕くつもりだろう。だから待っている……私の考えた決定打が繰り出されるのを。
だが、しかし。私の考えた策……術ならば、後手は打てない!
「マキシマム・ハイパワー・フォース!」
私が両手を掲げ、とにかく「すげい出力で!すごい力で!すごい量のマスター・パワー!来てくれ!」という具合に頭の悪い単語の羅列で叫ぶと……その力の暴風が莫高窟周辺に吹き荒れて加速空間が乱れに乱れていく!
「なんだと!?なんだこれは……!?加速空間で私が動けん!」
「新規に接続したモジュール類をコントロール専用に調整し加速させます。パワー放出限界まであと30秒」
それで充分!ヴォイドは、加速空間の中で止まった!縫い留めるように……いや、マスター・パワーの流れに乗れずに止まってしまったのだ。
理屈は簡単、になるように考えた。マスター・パワーを扱うヴォイドが虚空を広げて力を呼び込むような存在であるならば、その虚空よりもとにかくハイパワーを呼び込み……穴を捻り綴じるように力の流れを無理やり注ぎ込めばいい!超能力赤ちゃんが言っていたように、私なら際限なく力を呼び込めるのだから!
加速空間で……時間調整の追いかけっこなどもう出来ないし、意味をなさない!
止めている時間も30秒あれば十分!私は上空、石窟の岩肌を蹴って飛んでいたヴォイド目掛けて飛び上り……体を捻り!脚部の追加されたジェット・ノズルを噴かして振りかぶった!
「ハイパワー・マイティ・キック!」
宙で数度回転した後に、鋭く撃ち抜くような回し蹴りが……ヴォイドの顔へ打ち込まれ!その漆黒のパワー・アーマーを石窟の壁へと叩きつけた!
「ハイパワー・オーバー。全ての機能を解除します」
暴力的なマスター・パワーの出力調整に回された演算能力、そしてマイティの機械的な機構が悲鳴を上げるまで30秒。到達した瞬間、加速空間は解除され……ファイターどころかアーマードにまで戻っていく。とにかくパワーを使う、呼び込む無茶苦茶強引な方法をテストなしで実行してしまったためだ。
ザ・マスター直接の遺産である管理AIプリム、その分身でもあるプリズムですらシャットダウンしかけている。私も膝を付き、完全に限界一歩手前にまできている。超装甲……パワー・アーマーのアシスト機能に回す余力すらないようだった。
「ケンゴ!なんて無茶なことを!そんなことをすればあなたも、この次元まで壊しかねないのに!」
「だがヴォイドのアーマーは破壊出来たようだ。みろ!」
同じく時間移動か、それとも超能力赤ちゃんに連れてきてもらったのか。クオンやエステル……ソニアやカナタにエルシー。それにダーク・ソーサラーまで来ている。この戦いの決着がついたからだろう。その勝敗を見届けに来てくれたのか……エステルの声の導きに続くように私はなんとか視線を石壁に移す。
砂煙が晴れて、壁に撃ち込まれたヴォイドのアーマー。そのフレームについていた装甲や、仮面が砕けてパラパラと剥がれて……現れた体と素顔は何者を表していたか。それが全て明らかになっても、私はその顔に覚えがなかった。
いや、正確にはそのシルエット……雰囲気には覚えがあった。
真白の肌に、暖色の瞳の色に……体に入るライン。髪の毛も色素を元々持たないような白く美しい髪。それをクラウンブレイドに纏めているが……間違いない。機械福音教団の特徴そのままだ。
「まさか……あなたはなぜ!?マリネリラ様!」
「エステル、あなたがそのように呼ぶということはこの者はエヴァンゲリウムの」
「マシウス様と同じく高位使徒……しかしこれでは協定違反でありませんか!」
ソニアの問いにエステルが答えてくれたが、あのバリキャ風騎士のエステルがここまで動揺しているなんて……いや、いやいやおかしいぞ!?ヴォイドの正体がエヴァンゲリウムの高位使徒っていう偉い人!?
産業同盟がエヴァンゲリウムに既に乗っ取られているのか!?銀河連邦が、惑星開拓機構や産業同盟……銀河連邦人類の一部が戦争相手として選ぶだろう相手。既に静かな侵略と国境紛争が始まっていた相手。エヴァンゲリウムは……既に銀河連邦に食い込んでいるって!?
どういうことだよ、という問いに答えるように……石壁からヴォイド・フレームを脱いで出て来た2m声で……スラッとしてスリーサイズの寒暖差激しい長身の女性が口を開く。あれだけのハイパワー・パンチを打ち込まれたのに……なんともないような、土埃を払う所作で出て来てだ!
「それもこれも再生者、救世主であるお前と私の同期体であるマシウスらの手が遅いからだろう」
まいったな、ちょっと困るぞ……そういう直接的に反論しようがないようなことを持ちだしてくるのは。
ヴォイドみたいな重い声ではなく、凛とした声で「お前らが不出来だからだと」言われてもさぁ!
あっだめだ。そういう声が出かけて、お腹からの力と気が抜けてしまった。膝で立つのも限界。
ちょっと横になるね……
「寝るなケンゴ!マリネリラ、我が父母はまだ健在なのだ!立ってくれ!」




