9話 タイム・ジャック
■惑星バニッシュ・グラウンド レプリカ・ホンコン 高速時間流空間
「お分かりいただけましたか?設計者クオンが、加速機能をあくまで対処のみに留めた理由が」
「十分ね!プリズムもそういう認識なのか!」
「だろうよ!いくら機能や術が追い付いたとしても、場所を変えたに過ぎぬ!たかが加速如きを真髄と思ってもらっては!」
加速装置が小手先の技とは。だが言っていることはわかる。加速出来ない相手に対して、加速装置を使うのならば……それは絶対的なアドバンテージがある。しかしクオンが考えている通りなのか、それとも術者……エルダーの弟子たちはそうではないのか。
加速した相手に対して加速を合わせて追従していくのならば、加速空間に場所を変えたに過ぎない。時間が止まった中で戦うのも、そういう場所で戦うだけだ。時間が流れている場所で戦うか、時間が止まっているような場所で戦うことになるのか。
であれば普通に戦うのとなんら変わりがない。
エルダーの弟子たち……特にダーク・エルダーの弟子たちは、エルダー同士の戦い方としてこの中でどう戦うか?の対処法を修めているからこそだろう。私が……超戦士マイティが機械的機能でそれを補っているように。
カーネイジ・アサシンはもっと単純な対策を取った上で、流術と呼ぶマスター・パワーを操る方法で襲い掛かってきている。
「4~5人!正確な人数はわからないが、もうちょっといるな!クソッ……本選ではないから、バックアップとして連れて来たのはいいってことか!」
「いかにも。特に超戦士……いいや、再生者相手ならばこれでも手ぬるいほど!」
レプリカ・ホンコンシティの市内、80年代から90年代にかけて猥雑に生えている建物の……ネオン看板を蹴りながらこちらに向かってくるカーネイジ・アサシン衆!確認できただけでも5人!彼らがネオン看板を蹴ると、破砕されて飛び散る火花でさえもスローモーションで咲いていく。私はそれをショック・マグナムで狙うものの、基本的な体裁きは相手が上!
プリズムやクオンは……ましてやカーネイジは高速で移動出来たからといってそれが重要ではなく。中身が重要というが……私にそこまでの技量はない!なんとか無い知恵を絞りだすか、またはプリズムに対処方法を考えてもらうしかない!プリズムに考えてもらった方がいいなコレは?
だって相手の方が数が多いのだから!1:1でも怪しいのに1:5以上って!
「既に対策方法は私に組み込まれています。ですから今しばらく、耐え凌いでください」
「耐え凌ぐっていってもさ!」
あの時代の香港の猥雑な街並み、そのアパートメントな壁面から突如出てくるのがメタル浪人笠。笠を被ったカーネイジ・アサシン衆が回転して突っ込んでくるものもあれば、槍が飛んでくることもある。私が出来ることは……一刻も早く市街地から抜け出すことなのだが!複数で四方八方から攻撃されているせいで、考えて移動が出来ない!
プリズムのナビの通りに進もうとすれば、アサシン衆が塞いでくる!
「流術をようやく理解出来て来たようだな?この時間流の中で、さらに異なる時間流を波紋として重ねる術法。生半可な対処法でこれを破れるかな?」
「我々が持つ高速時間流空間の中での戦いの術は……ザ・マスターに一番近いエルダーの流派!貴様を捕らえて我らのマスターに差し出せば……我々もエルダーになれるというもの!」
あくまでマスター・パワーを用いて時間流についてのことしか口にしていないカーネイジ。だがプリズムが警告しているものは、この高速時間空間でも……その波紋のようにこちらへ向けられてくるものがある。パワー・コントロールを狂わすもの、という助言をしてくれている。連中にとってこれらが本命の術かもしれない。
超装甲の重装甲部分をパージした今、ファイター・フォームである今は軽量に動けていると思うが……パージした分は装甲に不安は残る。もう1度似たような症状、パワーダウンをしたら解除できるかは……怪しい!
九龍城砦らしき建物に追い詰められてしまったが、ここで戦うことこそ敗北が最も近くなると思えた。なもので……そこらへんに転がっていた大砲の砲身?のような筒を抱えて壁に突撃!力技でぶち抜き脱出を試みたかが……またしても追い込まれてしまう!
小型の木造船舶が連続で停泊している……港湾に!
たしかタン……タンミン(蛋民)?と呼ばれた船上生活者の船がこういう形状だったはず。だったはずとかではない、結局どこに行ってもなにがしかの障害物があるところがある!本選も何もないが、この戦いで場所選びがいい方向に効いてくれたことがないのでは!?
「プリズム!まだなのか!?流石にもう逃げきれる気がしない!」
「スタンバイ・レディ……」
「ここまでで十分だろう再生者!我が師であるエルダー……ヴァイア・スーの門への誘いを受けてもらう!」
聞いたこともない人の名前も出てくるし、誘われた覚えもないんだが!?そう返事をした途端、方々の船が……海面から飛び上り!その中からカーネイジ・アサシン衆が出て来た!手には槍を持つもの、エネルギー・分銅鎖を振り回すもの!まさしく絶体絶命と思われた時。
「タイム・ジャック」
ジャック!?何!?とプリズムに聞いてしまったものの……それが何を表すか、意味するか。答えが返ってくる前に……単語と視覚的なものの連想で少しわかってしまった。
私に向かってくる、槍や鎖が……先ほどまでと違いゆっくりなのだ。スロー・モーションでこちらに向かってくる!さらにゆっくりなもので、周囲へ気を配る余裕が出てくると……HUDにより私の後方からも不可視の鎖が延ばされていることがわかった。
それだけではない、あのマスター・パワーを乱すような波紋の流術もこちらに向けられていた。だがどれも完全に包囲する前に……スロー・モーションの世界と変わっているためすり抜けることは造作もない。
これは一体!?タイム・ジャックという呼び名の通りなら……時間を乗っ取るということなのだろうが。どういう原理なのだろうか?
「設計者クオンとの協議で決まりました。時間流操作を行う相手が出てきたら、相手の操作する時間流よりも少量上方加速させるさせることで完全に優位に立てます」
「ただしこれは相手が操作している場合のみ。操作されている流れを測定してからになります。それまで耐え忍ぶためのアーマード・フォーム」
よくわからないが、対抗手段ということはわかった。本当によくわからないが……とにかく速度的に?優位に立てたのは助かった。このままなんとかこの人らを無力化しないといけないが……近接戦闘のパンチでいいのか?
「マスター・パワーを呼び込み、この空間で相手に打ち込めば……対象の時間流共々を狂わせエネルギーの渦で内側から爆発四散させられます」
「そこまでしなくていいよ!?コワイことを言わないで!?えぇと……じゃあ」
流石に殺し合いをしに来たわけではない!我々は殺し合いをしているわけじゃないんだ!解ってください!とにかくそこまではしなくていい、放置はまずいが……まずいから無力化をする。
ヘルメットのレーダー機能から探知できたのは6人。隠れていたカーネイジ・アサシン本人も含めて見つけ出せた。ならばここからは……色々考えて対処すればいい。それだけの時間的余裕がある。今あるもので十分対処できそうだが。
彼らの背後に回り、彼らを押すように拳を打ち込み……あるいは蹴りを打ち込む。どちらへ向けてか?それは彼らが放ったマスター・パワーを狂わせ霧散させる毒の波紋に向けて……これらに纏めてかかってもらうためにだ。
「ジャック・アウト」
そして高速時間流空間の乗っ取りは解除され、同時にカーネイジ・アサシンらの操作していた時間流すらも強制的に解かれていく。飛び上っていた船は海面に叩きつけられ、しぶきが高く舞って……雨のように降り注ぎ始める。
「なっに……をした?やはりリ・マスターが得た遺産の力を……」
「よくわからないが、そうらしい。大人しく拘束されてくれ、あなた達をフリーで逃すわけにはいかない」
あなたがたの主であるところのダーク・エルダーの情報も喋ってもらいたいところだ。そう伝えながら……数歩離れてショック・マグナムの照準を合わせていたがカーネイジ・アサシンも大人しく捕まっているような武術家?ではなかった。メタル浪人笠を掴み、こちらへ渾身の投擲をするために振りかぶる!
振りかぶるが、そのメタル浪人笠が投擲されることはなかった。
なぜなら紫電……紫のスパークが彼らに向けて放たれたからだ!
スパークによりダメージを負ったカーネイジ・アサシン一党はそのまま倒れ伏す!フェイタリティ!というほどではないが……完全に戦闘不能と言う具合に倒れこんでいる。このスパーク……見覚えがあるぞ!?ダーク・エルダーのティアマトが宇宙超獣ティアマトの時に放っていた……ダークなプラズマ!
「な、何者だ!?」
「その者たちの処遇、私に任せてもらいたい」
スーッと影から現れ、転覆している船の上に乗っていたのは……また漆黒に近い法衣を纏ったシルエット!僧侶のような網代笠に加えて、番傘をも構えたダーク僧侶!高速時間流空間が解かれたもので、振り落ちてくる水柱から散り続けている雨を……そのダブル傘で受けた者!
本選の参加者であり、第8試合の参加者にいた……ダーク・法師!まさかこのダーク・法師もダーク・エルダーの弟子なのか!?声にエコーが乗っているせいで性別もわからないし、怖さ100倍なんだが!?
「安心しろマイティ。殺しはしない……この本選が終わり、これらの頭であるダーク・エルダーの所在を聞くまで拘束するだけだ」
「そ、その後は……どうするつもりなんだ」
「好きにするがいい。打倒したのはマイティだ。私に決める権利はない」
信じてもいいのだろうか?なんかダークな法衣の上からダークな呪符みたいなヤツが貼られまくっているし。ダーク呪術法師だぞ相手は?!お札を貼られて傀儡にされてしまうとか……ないよな!?どう思うプリズム!?
「今はダーク・法師に預けるのが最良かと。我々では完全に拘束する術を持ちません。このタイミングで介入してきたことに違和感はありましょうが」
そうだ、様子を窺っていた上でのこと。そして……ダーク・エルダーの門弟かもしれないのならば。ダーク・エルダーの派閥同士での戦いがあり……私を巻き込みたいのかもしれない。今は敵対はせずともだろうし……交渉のためこちらの反応を窺っての返答だろう。態々反故にするようなら、最初から私ごとカーネイジ達をどうにかしていたかもしれない。
「わかった、その言葉信じよう」
ショック・マグナムを仕舞い頷くと……ダーク・法師さんも頷き。しかし影から出て来た漆黒の手によってカーネイジ・アサシンたちを……影に沈めて収納していく。コワイ!ダーク・法師さん怖い!なんだその術は!?
「ヴォイド将軍によれば、本選第4試合は既に行われた扱いになるだそうだ。戻って体を休めるがいいマイティ」
「あ、あなたはどうするつもりで?」
「私は備えるだけだ……戦いに。さらばだマイティ」
あっ待ってと言う間もなくダーク・法師は影の中に消えてしまった!?なんて超常連中だ……もうこれダーク・エルダーの門弟とエルダーの門弟とで戦う本物の他流試合ではないのか!?
恐ろしいことになってしまった……!
「すまないケンゴ!私では手出しできなかったようだ。だが君が帰る分のパワーは戻って来た。ひとまずポリと共にレストランに戻そう」
「そこでまた話の続きをしよう。ソニアの試合は終わったようだし、彼女も転送しておくよ」
■惑星内 レプリカ・ハコダテ レストラン
えっもう?と思って答えたら……周囲の空間が歪み、くしゃっとした途端。私はレプリカ・ハコダテのレストランに戻っていた。近くにはポリと共に。そして……ソニアもいる!?ブラック・ナイトの姿で?
「なっこれは……エルダーの、クオンの術ですか!?」
「いいえ私では。どうやらとんでもないことが起きているようですね」
とんでもないことの連続だよ!何がどうなっているのやら……
「そうだね。僕も状況を整理したい。予選が終わり次第、情報共有の時間を作ろうじゃないか」
ウワーッ!?超能力赤ちゃんがテーブルの上に!私が外出前に脱いだジャケットで包まれている!平成なオレンジ色のジャケットを、おくるみにする赤ちゃんなんて……聞いたことがない!
「こ、粉ミルクとおしめと……いや産湯用のタライが必要なのかな!?」
「あ、主!?これは一体!?誰の赤ちゃんなんですか!?」
「あの声の主がこんな子供とは、一体この星で何が計画されているやら。クオンはどう考える?」
「ヒトの赤ちゃんを育てたことがないのでなんとも……」
そうではないだろう、というエステルの返事を背に。レストランをお掃除しているドロイドに何でもいいから赤ちゃん用の補給物資を……と伝えるとドロイドも困ってしまっていたようだが。それでもすぐさま届くホスピタリティ、注文してすぐ届くお急ぎ便も驚きのスピード。
「ここにいる誰もが未婚の身だろうが、私の世話をさせてしまって申し訳ない。ただできればメインは父と母であるケンゴに頼みたいのだが」
「主の子ぉ!?母は誰!?誰が手を出したんですか!?いや……えぇと人間の子どもは10か月ぐらい必要だから……誰!?誰が母なんですか!?」
私が聞きたいよソニア!落ち着いてほしい!
見て見なよポリを。なんて落ち着いているんだ……テーブルに乗って赤ちゃんの前で待機してくれているんですよ。
デカいスペース・ウルフの見守りモード……頼もしい。でもなんだこいつって顔でぐるぐる見て匂いを嗅いでいる。そういえば人の赤ちゃんを見るのは初めてなのか……あぁお湯が沸き過ぎている!
「ミルクは私が作りますから、ケンゴは衣類を」
「エステル!ベッド作っておいて!スウェーデンの家具屋さんのより簡単だろうから!」
「ソニアにも手伝わせよう。先ほどから要領を得ない」
「だって気にならなんですか?!あの子の母親!一番乗りですよ!?まさかこのトーナメントは母親を決めるためのもので……?」
「黙って手を動かしてくれ、ベッドのサークルが壊れるぞ」
何が一番乗りなんだか……赤ちゃんがいる前で騒がしいなぁもう!
私だって色々聞きたいことを抑えてだね!大事な話だって色々あるのにさ!




