5話 課題?
■予選後 惑星内 レプリカ・ハコダテ レストラン
「全くひどい目にあったよ!みんなして寄ってたかってさ!」
「まぁまぁよろしいではありませんか。顔見知りの方と出会えたのでしょう?」
「そうだぞ、まったく不甲斐ない。この予選でも一番最後に決まったのがお前のブロックだったではないか」
エステルがなんでいるんだよ!というのはもう言わない。予選では参加者全員バラバラにされていたし、本選が始まるまでみんな暇なのではないでしょうか?なのでこうした具合にレストランで……私が紅茶を出してお茶と軽食の時間となっている。
おやつは……バターしっかり使って焼いたショートブレッド(21世紀のカロリーブロックみたいなやつだが、伝統的なスコットランドのお菓子である)を。クオンに提供した方はジェンガ(こちらはみなさんご存じイギリス発祥の積み木パーティーゲーム)のように積まれいる。
この前より近くで控えているポリが……ショートブレッド・タワーを1つ取っては齧って消して胃へ消しているような、違う遊び方で遊んでいるクオンをありえないものを見ている顔をしているね。積み木食ってるようにしか見えないもん。
エステルはエステルで……エヴァンゲリウムの騎士はそこまでの大食漢ではなく。少量味見程度でいい、というもので。3~4本積んでりんごのコンポートを添えて提供。少しずつ味というものを見ながら食べているようだった。
さておいてエステルではあるが、以前惑星ネザリアであったときのような軽装騎士という具合ではなく。上はライトブルーなシャツに……下はボリュームのあるスカート。ヒールの長い脚を組んで悠然とテーブルでティータイム中。デキそうな女性の所作そのままではあるが、長身細身に暖色の瞳。そして真白の色素のない長髪……サイドで結んでいるのは以前とは違うところ。妙に人間っぽいので困ってしまうが。
なんかやりづらいなぁ……って具合ではあるものの、一方でエステルの言う通り。あの後エステルと共に銀河ならずものを一掃できたのだが……なんと私が一番最後の予選通過者。それどころかエステルは上から数えた方が早いタイミングで予選突破できたもので、一番最後のところに紛れ込んでいたというのだ!
どうも予選は各エリアごとに同時開催ではなく、ある程度間隔をあけてのところだったようだ。そこから通過者は休憩するもよし……そのまま決着がついていないエリアに行って参加者と戦ってもいいみたいな無茶苦茶なルール!
一番到着が遅かった私が、一番予選の開始も遅く。そしてぐだぐだやっているうちに……通過したエステルが駆けつけてきてちょっかいをかけて来たところだろう。他のブロックではエリアブロックごとぶっとばされたのもあるらしく、なんて恐ろしい大会に参加してしまったのだろう。スケールが無茶苦茶すぎる。ただのハイパー銀河的斧を手に入れるだけの大会だよな?
「これは単に、お前が私と同じく課題をクリアしていないからだろうな」
「それが何かは察しがつきます。リィン導師とおばあ様はまだ教える段階ではないと考えていたのでしょうが」
「えぇ~?二人ともずるくない?何かわかって黙っているなんてさぁ~私だけ除け者じゃないか」
「いえ、そういうわけではないのです。先日お話した内容に関わってくるのですが……なんと説明したらいいのか」
ふむ、つまりまだそのあたりよくわかていないのだな?この男はという具合にエステルは勝手に納得している。な、なんだか悔しいな?!私だけ高校生活で授業についていけない……いや、仲のよい友達が揃って夏の間に講習受けていて。私だけ置いてけぼりにされている感じがする!大体そろそろ教えてくれてもいいのにさぁ~レーツェンもリィンも……いい歳した大人だから不貞腐れはしないが。
与えられているだろう答えは既にあるだろうに、そもそも課題が何かわからないから導き出せないモヤッとした感じを抱えながら。なら私からどう聞けばいいのか……と考えていれば、外の雲行きが怪しくなっている。この惑星に来てから天気を気にしたことはないが、こう急変するとちょっとびっくりしてしまうよな。雨の上に……いきなり雷が落ちているようだし。
「ならば知らねばなるまい!マスター・パワーと聖鉄!重なり合う時に得られる力の一端を!」
バァン!とレストランの扉が開かれて、雷鳴と共に姿を現したのは……ヴォイド将軍!?なんで今!?というか聞こえていたのか会話の内容を!?あまりに突然だし、この雷鳴と暗雲と似合いすぎるダークなシルエットに驚いてしまい……つい椅子にしがみついてしまった!コワイ!ポリも引いているし!
「ヴォイド将軍、やはり気づいていたか……この男の不完全さに」
「左様。この大会の予選こそ、マスター・パワーを操る者の技量を推し量り……真の資格者であるか否かを明らかにするもの」
「マイティ、貴様にはその資格がありながら全く扱えていない!テクノロジーで勝ち進んでいるようなものだ!」
「この方が扱えるようになることで、他の者の技量を量るか引き出すのがアナタの目的であると」
クオンの問いへ「いかにも!」と声高に答えたヴォイド。いや隠さないのかい!何か押し黙ったりせず、明快に快活に答えるもんだから納得で押し込まれてしまったよ!どうしようこれ……という具合にポリを見たらちゃっかりこちらの椅子によじ登っている。怖いもんね、ヴォイド。
「来い!貴様に力の一端を見せて教えてやろう!本選までの間にこの力をモノにするがいい!」
「ヴェアハハハハハ!」
そしてまたバァン!とレストランの扉を開いて……マントを翻しながら出ていくヴォイド!これ着いていかないとダメ?怖すぎるよ、何で主催者自らやってくるんだかさ!午後の優雅なティータイムが……台無し!でも知らないといけないんだろうな……マスター・パワーと聖鉄が合わさった時の力とやらを。
■レプリカ・ハコダテ 五稜郭
「超装甲になったな?では行くぞ……構えろ」
超装甲を装着し、ヴォイドについていった先は五稜郭。レプリカされたものであるが立派な城塞。ここはそこそこ開けているがそこまで広くない。市街地よりちょっと離れたところで……そんなに派手にやるわけではない、ということだろうか。風にたなびくマントを脱いで飛ばしたヴォイド。私もつられてマントをとって……風に委ねれば、なんだか決闘の雰囲気も出てきてしまう。
北海道の秋の……ほぼ本州の冬とも近い冷えた空気。それが吹きすさび、紅葉を散らした瞬間。ヴォイドの声が聞こえた。
「……加速装置!」
加速装置!?加速装置と言ったか?!そんな驚愕の声が出る前に……私は吹き飛ばされ。気が付けば五稜郭の石垣に叩きつけられていた!いや……正確に言えば、石垣に叩きつけられていた、という結果だけしか体感できなかった!本当に加速しているのかヴォイド将軍は!?
「これはお前がわかりやすいものとして言葉を選んだに過ぎない。そうだなエヴァンゲリウムの騎士、そしてヤガールの巫女」
視線だけ動かすと、私服姿のままのエステルとクオンがこちらを見ながらも……ヴォイドの言葉に頷く。ポリはこちらに駆け寄ろうとしたが、私はなんとか手で制し止めた。危険だから、というよりこれは助けてもらうような戦いではない。いや戦いですらない……コーチングだ。
視界には秋コーデっぽい美女二人と犬がいるのに、実際にはドクロ仮面と対峙しながら戦闘の指南。なんとも物騒だが……これが課題とは。
「プリズム!どうなっているんだ!?本当に加速しているのか!?」
「サンプル2件との照合から推測すると時間流操作です。エステルもヴォイドも時間流の中を移動することで高速移動を可能にしているのです」
「ほぉ……お前の補助AIはそう導き出したか、興味深い。これもただの現象でしかないと」
次の瞬間にはヴォイドはまた消えて……現れた、と思ったらティーカップとソーサーを持って紅茶を飲んでいる。飲んでいる?それ私がレストランで淹れていたものじゃないか!ここからそこそこ離れていたというのに!
そうか!クオンが言っていたことはこのことだったのか!?時間と空間と物質とか虚空とか……なんだか観念的なこと。あの時はうっさん臭い話だなぁぐらいにしか思っていなかったが、大間違いだった。マスター・パワーはそういうものであり、聖鉄はそれを叶えるに十分な力があるマテリアルなのだと。
ちょっと待ってくれ、そうなると今回の大会の予選通過者は……大なり小なり聖鉄製に近い武器を持っているのか?!
「予選通過者全てはこれぐらいできる。お前もまずその入り口に立ってもらわねば、話にならない……今ここで稽古をつけてやってもいいが、ふふっははっ……どうする?」
「プリズム?出来るのか?!」
「可能であり既に機能は構築できています。しかし問題があります」
「なんだ!危ないのか!?」
出来たとしても、格闘戦闘の技量が何段か劣るため……勝敗とするならば勝てる見込みはないと。プリズムのあまりに冷静で容赦のない解答が返ってくる。しかしそれでもまず試してみないとわからない。戦いの技量はその時によりけり、今はこの時間流操作に慣れなければならないのではないだろうか。それを指導してくれるというのなら……ボコボコにされようが、願ったりかなったりだ。
「準備はいいのか?プリズム」
「起動合図を」
いつでもいける、プリズムの答えと共に……埋め込まれるように叩きつけられた石垣から這い出て構える。また少し、一陣の冷たい風が吹いて……紅葉のさざ波が空に流れたその瞬間に叫ぶ。課題に挑戦する、試練のための合図の言葉を。
「加速装置!」
超装甲のバイザー越しに見える世界の……紅葉のさざ波が止まり。しかしその何もかもがスローどころか止まった空間で……私とヴォイドは対峙し。両者とも動けるのを確認した後に、高速移動を始めて、格闘戦に移行した!
「いくつか死線を乗り越えたようだが……それで私に勝てると思わないことだ、マイティ!」
「やってみなければわからないだろう!」




