3話 聖遺物
■翌日 朝 惑星内 レプリカ・ハコダテ レストラン
テーブルの向かいに座るクオンは、ニットセーターから両袖を通して出す白い手を……ティーカップに添えて。朝食後の紅茶を啜っていた。レプリカといえどハコダテの朝は冷えるもので、私もコーヒーをやめて彼女と同じように紅茶を口にしている。口の中を注ぐ意味合いもあり、無糖だ。
品種はわからない……ヴォイド将軍からの支給品でなんかアールグレイっぽいが。ポリにはぬるい白湯提供し、それを舐めてもらっている。我々からちょっと離れたところで……若干クオンが慣れていないみたいだ。恐れ知らずのポリ、恐れる必要なんてないと思うが?
「聖遺物についての、お話をする時間がありませんでしたから」
「聖遺物がもう何って感じなんだけど……今西暦でいえば34世紀ですよね?」
「あら天使や悪魔の名前が付いた武器のほうが良かったのでしょうか?」
そういうことじゃなくてさぁ、いやなんでクオンがここに?という疑問は後なのね、これは。話をちょっと戻すと私はズボンを洗った後に……クオンへ朝からステーキを450g(おおよそ1ポンド)とバゲット1本を提供した。したがペロリと食べて……本人曰く軽くお腹が落ち着いたので、お話を始めましょうとのこと。
ペロリだよペロリ、ポリもその静かに消えていくお肉へ若干引いてる。クオンって筋肉あんまりついているイメージないんだけどなぁ……セーターからわかるシルエットも……胸以外恵まれた体格って具合ではなさそうだ。スカートの方からもパッツパツで広がる足とかバキバキふといね、であるわけでもなし。
ヤガールの重装巫女服ではないクオンが珍しいもので隙あらば目でシルエットを見てしまうが……お尻は大きいみたいかな。やっぱり剛じゃなくて柔のほうだよ柔。食べてる肉類が筋肉になっているわけでもないだろうに。
「さて聖遺物とは、聖鉄で作られたもの。精錬で伝導率の割合が黄金律とも呼べるものクラス、それで作られた遺物をそう呼びます」
「それは聞いたな、特にザ・マスターの時代なのはすごいのだって。鉄でいえば炭素含有量で色々決まるもので……聖鉄はマスター・パワー関係の伝導分子がって話だっけ」
まずはそれであっています、とクオンが返事をしてくれる。よかった事実確認のとして、まず最初の話の素材とか認識の共有だよな。聖鉄で言えば超装甲のアーマーやショック・セイバーもすごいのらしいし。私が呼べば飛んでくるセイバーでもあるし、もしかしたらアーマーも呼んだら飛んでくる?
「そう、そして技術的にいえばあなたがこの時代に蘇り継承の資格を有したことで……ロスト・テクノロジーではなくなったのです。もちろんザ・マスターが生み出したものであるという貴重性はあるのですが」
「確かに話に聞いている限り、アーモリーで再現はできそうだよね。でもレーツェンが探させていたようだし、ヴォイド将軍も何かと分かってトロフィーにしている……」
「聖遺物にはザ・マスターより与えられた力が宿っています。4つそれぞれ違う力が、それを扱う者にはその力をも扱うことができる」
何を?というのがまず聞いて思ってしまった。私の……いかにもピンと来ていない顔をクオンは読み取ったようでニッコリと笑ったまま。続けてよいか?と聞いているようだが……何を、何の話なんだろうか。ショック・セイバーが巨大遺跡構造体でのキーやらパスにもなるというものと同じ原理だろうか?
精神感応で硬度?や重量が変わり超エネルギーの伝導率が高い超合金。すごいんだけど、いまいちどう使えばいいかわからないなぁ。再生者である私がおかしいのかもしれないが、技術も機能も問題なくアーモリーで生産されているものだからさ。通常のもの……銀河連邦に広くある物質と比較として考えづらいのだ。そういう超金属って結構あったりするんじゃないのか?
「今あなたが生産するとして許されているのは、メカニズムやテクノロジーの話です。最も中心としての考え方が抜けているのです。何をもって作るのか。なぜ聖鉄を使うのか?では聖鉄はマスター・パワーの伝導率が高いのが特質、精神感応能力を持つ超合金……つまり要素と繋げていくとこうなりませんか」
マスター・パワーとは虚空と呼ぶ別の次元から呼び出される力。それの伝導率が高いということは……呼び出したこの宇宙と、別の次元とを繋げるもの。この宇宙と自分を繋げる超合金。それは時間、空間、虚空を調和し……人の心という意志の在る所を繋げるもの。
人の外なるものと、人の内なるもの。宇宙の中のもの、宇宙の外ものを繋ぐことができる。マスター・パワーはそれを満たし1つのするものであり、聖鉄は器であり楔でもあり鎖でもある。
まずいな、クオンの話が観念的な話に入りかけている。こう……スピリチュアルなフィーリングがバチバチ来るもんで絵がやばすぎる。穏やかそうな女性からレストランで聞かされるスピリチュアルな話!マスター・パワーってなんか超すごいだけの別次元エネルギーとかではないのぉ?
たしかに私の想像力が貧困なせいで……いまいちマスター・パワーが何なのかわかっていない。そもそもマスター・パワーとはなんなんだろうか?別次元ってどこの話?
むっ精神的なと直訳すれば……スピリットであったりミスティックでコスモスな力だから……あっているのか!?クオンはレーツェンの記憶を読み解いているから、間違っている話をしているわけではないんだろうが。これが21世紀の喫茶店だったら怪しい話なんだけどなぁ~ここ34世紀で再現されたハコダテのレストランだからマジなのかぁ?
「ごめんなさい、逆にわかりにくく……してしまいましたね。つまり聖斧にはザ・マスターの意志と力が遺されている……とされているのです。それを手にしたものはザ・マスターと繋がれる、とも」
「ん、んんん?資格があれば?とか選ばれしものならば?」
「そうでなくともという可能性はあります。おばあ様が聖刀をサンプルとして産業同盟への技術供与をし、教導院のグランドマスターが確保している聖剣は封じられ」
聖斧と聖槍は失われていた。失われていた2つがどうなっていたかもわからず、エルダーのように何がどうという力かはわからないが……レーツェンでさえハッキリものを言わない案件。彼女が敢て触れていないのならば、何が起こるかもちょっと理解しにくい。どうなるのかもわからない。
いやレーツェンが育てた巫女とか武士を使って何かやってたなら先にやってた結果があるため、どうなるかという話は早いのでしょうがそれがないのならば。
「逆に言えば、ヴォイド将軍は聖斧をもつ資格がない」
「あるいは資格のありそうなもの達を呼び寄せた」
己の手駒にするために。捕まえて……洗脳して改造する。悪の組織の最高幹部らしいやり方じゃないか!いやでもヴォイド将軍がそういうことをするタイプなのかどうか……はちょっと判断に困るな。もしかしたら完全にヴォイド将軍を看板として使い、隠れ蓑に銀河あくのサタニストしぐさ(80年代悪の軍産複合体のイメージ)をしているのかもしれないが。
「単純に仲間を探そうとしていたか、という線もなぁ普通にありそうだし」
「まずマスター・パワーを扱える存在が銀河にはそれなりにいますが、実力者もなると相当に搾られます。これを機会にアタリをつけたいというものかも」
本選まで残れれば、残るぐらいの実力者だけになる。その中でマスター・パワーをある程度操れるものをチェックするだけでもいいか。あわよくば……味方に引き入れて強戦士にしたいと。私自身そこまでマスター・パワーについて見識が深いわけではないが、選別にするにしてもその純度はどうなるのだろうか。
「私から言わせれば、ただ聖斧を希少超合金かトロフィーとして見てきている戦士の程度などたかがしれます。あれが何か分かった上で参加した戦士たちは……皆ソニアさんぐらいに力は扱える、と見た方がよいかと」
半端に使えるものがやってきても、おそらくは予選ぐらいで脱落してしまうだろうなのは明白だと。追加でバゲットをむしり取っていくクオンは語る。それ昼飯用に焼いてたんだけどな?まぁおいしく食べてくれるならいいんだが。
「より強力な力を求めてきた戦士こそ注意すべきか……予選とかもうどうなるんだろうね。もしかしたら参加者も、マスター・パワーを扱えるものの顔を見に来たものかもしれない。クセモノばっかりじゃないのか、この大会」
「まぁ何を弱気な。あなたならすぐ本選に通過してしまいますよ。軌道上での戦いもかっこよかったですよ」
おっかっこいい?クオンが持ちあげてくれるもので……そぉ?そっかぁ~?と追加の皿と昼のメニューを聞いてしまう。スープに肉450追加に昼はカレーオムライスとのことだ。がんばっちゃうかなぁ~?!
ポリはしょうもないものを見ている感じで自分で皿を下げている、えらい。あぁそうか、ポリもがんばってくれてたもんな!あとでお肉追加しておこう!忘れてたわけじゃないからね?クオンでびっくりしただけで。
「しかしザ・マスターから残された意志と力かぁ。再生者に託された使命とは別なのかな」
「それを知るための、ヴォイド・コンバットなのかもしれませんね。誰もまだ……今の時代に彼らと繋がったわけではありませんから。ある意味みな世界に対しての助言を求めて、かもしれません。その相手がザ・マスターかヴォイド将軍かの違いでしかない」
私の夢の中に出て来た誰かも、厳密には彼らではないのだろう。だからなんかこう……抽象的な話で終わったような覚えがあるし。力を何に使うか、という意志だったか?本当になんか……そんなことを言われてもだよな。力がどうのと言われても、力自体でどうってもんでもないでしょうに。今出来ることを精一杯やってたらなんとかなりませんか。
「予選まであと2日、どうするかな。あと2日で何をしろっていうんだか」
「操術の訓練を詰めますか?棒術と剣術もある程度なら教えられますが」
「……車借りてハコダデ観光しよう!」
無人の街をですか?と聞いてくるが別に人がいてもいなくともだろう。レプリカといえど北海道は広いし、車でダラダラ走って風景を見るだけでもいい観光になる。それに複製された21世紀の地球というのも気になる……もしかしたら、地球再生の別のアプローチもあるのではないか?と思ってしまったし。ついね。
「ではポリも連れて行きましょう。せっかくですからお昼も持って」
「よし、お昼が出来次第行こう。ついでに車両の申請してぇ~」
あぁさよなら懐かしい日々。残念ながら21世紀には休日に2000年代美女と共にオープンカー・ドライブデートはついぞなかった。無人だろうし、いてもドロイドぐらいだろうが……美しい景色と一緒に見る人と犬がいればそれだけでもう気分は上々。
予選までのこり2日でわかったのは、隣に誰かがいれば本当にどこにいっても楽しい時間であり。
また……複製模倣されたものといえど、実際に体験してしまえば過去を懐かしむ心が出てしまった自分がいたということ。
アンジェラには「へいきへっちゃら」とは言ったが、結構に考えないようにしてたんだなというものを……痛感してしまった。隣にいるのがアンジェラじゃなくてよかったよ、本当に。




