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オリジン・シード  作者: 草間
五章サイドストーリー~ドレスアップ~
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要人警備暇なし~フランソワーズ~

サイドストーリー2つぐらい挟みます。

■迎賓館 警備担当詰め所


「海軍名門のローデンシア家が男女で食事ってだけで騒ぎを起こしていたら、社交で食事できる場所がなくなるんじゃないかね」


「しかしぃ……相手はただの男性ではなくぅ……」


「どうだか、ただの人間に見えているけどねぇ」


 夜も深まる頃合い。迎賓館で……地球帝国からアレクサンドリアへ協力として貸し出された警備連中の詰め所。海兵隊の提督である私……フランソワーズ・バロウズが総責任者であるこの場所。


 その警備対象である人物、連日騒ぎ起こす再生者様は本日大人しく公務に励んでいたわけで。今日は何事もなければ……と思っていたが、だ。対面に座ってワインを追加で飲みながらクダを巻いているエレナ・ローデンシアが郊外のレストランでひと騒ぎ。近衛兵団の方へ連絡を取り次いだら……問題ないと言われてたわけ。何が問題ないっていうのさ?


 まず入って来たのはポリ、ここ数日再生者に何かあればこちらに来て伝えてくる優秀な軍用犬。アンジェラと交代で再生者の護衛をしているらしいが……本人警護の割合はポリの方が多く。警護をアンジェラが担当する場合は詰め所の端っこで待機している……主へ出しゃばりすぎない賢さを見せてくれているいい犬。


 一方で初日から出しゃばり、ドレス着飾って夜に単身突入して酒を飲み暴れたエレナ。続いて入って来たのが彼女。所属は違えど私の同期でもあり、年も近いもので交流は多いわけだが。その彼女が浮かれて入ってくるものだから、ついトゲのある言い方をしてしまったのが今。してしまったが毎晩トンチキな騒ぎを起こされたら堪ったものではない。


「あなただって知っているでしょう?我々が腫物だからと言って、帝国側が彼に押し付けようとしているのは」


「まぁねぇ。だからなんだって話じゃないか。逃げやしないでしょ、再生者様は」


「だってそんなこと、あの方が……こう、そう思われたら!」 


「だってさ、ポリ。あんたの御主人の話だよ」


「フッ」


 文字通り鼻で笑うように、くだらない話だとポリはため息を一つ。何をそんなことで世を迷っているのかと。


「みなよ、自分の御主人様はそんなこと気にしないってさ」


 まぁと喜ぶエレナではあるが、そもそもどういう意図でポリがこの反応か……短い間でも大方通じているもので。ポリが主へどういう所感でいるかぐらいはわかってしまう。そんなこと気にするほど神経質ではない、大雑把な……悪く言えばデリカシーがなさそうな顔。そういう緩い雰囲気をしているなあの男は……と、その顔を思い出しながらグラスの中の氷を揺らし。その顔を瞳の中から投影する。


 最初に見た時は34世紀に見ない……まさしく軽薄そうな緩い男。このグラスの中に注がれている蒸留酒の色の如く、琥珀色……琥珀。21世紀から蘇った琥珀のような男。21世紀の映画には琥珀の中に残されていた遺伝子から恐竜を蘇らせる……なんて口頭無形なものもあったようだが、こちらはそのままの化石だ。


 それが何かを成し遂げられるとも思えず。しかし近衛兵団(ロイヤル・ガード)筋から聞けば、母や祖母を巻き込み再統合の軍隊を作る切欠に出来ると来たものだ。いい顔をしてノってやってみれば……結果ロイヤル・ガードの思惑の通りに事が進んだようだが。それもどこまで思惑の通りかは怪しい。


「ヴォイド将軍ねぇ」


 最近産業同盟に最高幹部として迎えられたと言われる謎の強戦士。海兵隊や海軍あがりの荒くれ者やアウトローが、そいつの下に集まっているらしいが……お笑いだ。なにせそれが生まれたのが、ロイヤル・ガード提案の作戦。監獄要塞のあの一件だ。グラスを傾ければ、あの男の軽薄そうな顔が……漆黒の仮面に移り変わる。ドクロか恐竜だかのマーキングが施されているのだったか。


「お前の御主人の、ヴォイド将軍はどういう人間なんだろうね」


 それこそくだらないことを聞くな、とばかりに……ポリはこちらを一瞥しただけ。後はもうお休みの体制に入っている。あの軽薄そうな男の方が好みだろうエレナも……対面でいびきをかいて眠っている。ここで眠ってくれるなとあれ程言っていたのに。


 母であるエメラダ、祖母であるアメリアからのお話(報告書に記録できないため)によれば……パワー・アーマーに装着できる新兵用の鎮静モジュールとゼノ・テックでもある管理AIによる意識誘導の合わせ技。それでヴォイド将軍という存在が……人格が再生者という、あの男から生まれたらしいが。どこまで信じていいやら、と言う話だ。


 海賊軍が求める……戦闘的なカリスマ指揮官がヴォイド将軍だって?そんな単純ものじゃない。もちろん銀河連邦や地球帝国の現在の在り方に疲れて、落ちた海兵隊らが望む……救世主という存在はわかる。心理の学問的にもそういう救世者の形(メサイア)として要素を集めて形作ろうとすれば用意。


 だがそれがあのヴォイド将軍のすべてではないだろう。


 なぜなら……ヴォイド将軍が生まれたのは、あの男からなのだから。


 鎮静モジュールも、意識誘導というものも……元にある意識がなければ生まれない。火のないところに煙は起きない……のように、なくても起こせるようなものではない。種と土がなければ芽生えないように……あの男の中には、ヴォイド将軍を生み出したものがある。あの軽薄な顔からは想像できないようなものが、ある。


 グラスを再度傾ければ、瞳から投影されてガラスの氷に写るあの男の顔は……とてもとても冷酷な。しかしこの世全てを怒りの炎で焼き尽くさんばかりの憤怒の瞳を持っている。


 その冷酷さには、その憤怒には正義が無ければならない。


 ただ愚かな絶望や怒りではなく……でなければ、このポリが黙って従っていたことに説明がつかない。与えられた職責、宇宙海兵隊の理念、それを人と共に遂行する……地球帝国が生み出した宇宙最高の軍用犬。スペース・ウルフ・ドッグ。ただ人ではないだけで、海兵隊と魂を同じくするもの。


 配属前に事故と母艦の離反により海賊軍に合流した後に、ただ1匹……その従属を拒んだもの。母上らが飢えて死ぬことも処分することも許さなかったが。海兵隊でも武勇名高いアメリアのおばあ様でも手懐けることが出来なかった……孤高の犬狼。


 それが愉快なことに報告では……あの男を見たら真っすぐ飛んでいって、すぐさま懐いたというのだから。想像するだけで笑えて来る、笑ってしまったものでグラスの中にいたあの男の顔は……歪んでヘンテコな顔に変わってしまい、もう戻らない。


 アメリアのおばあ様も、エメラダの母様も……ある程度は相手選びに妥協していたようだが私は違う。そんなこんなでそれとない政治的なご配慮を蹴り続けていたら、対面で眠りこけているエレナと同じく……珍妙な男に押し付けられていた。無論エレナはあのままの顔でいいのだろうが……私は違う。私を従えられずとも、最低限並ぶような存在が欲しい。そう夢見てきて、これが出て来た。


「お前の御主人様、本当はどんなやつなんだろうね」


 返事は返ってこない。だがそれでも考えてしまう。もしあれも本性であり……今の我々が望むような英雄であるならば。銀河連邦も地球帝国もどうなってもいい。ただその英雄の隣で全てを……全てに対しても。


 そうしてグラスを握り潰すか、という具合に力が入ってしまえば。やってしまったと……破片が入っていないか、漏れていないか?と……ふとグラスを覗けば。氷に投影されたあの顔がこちらを見ていた。軽薄そうな顔ではあるが、憤怒に燃える瞳が……それは許さないと叫ぶような顔がこちらを見ていた。


「やめやめ、小休止」


 今日ぐらいはもうトラブルなしでこのまま穏やかに微睡んでいよう、中途半端に酒を入れるのは大層よくなかった。悪い酔い方をしている……せめてポリに上着ぐらいかけてやるか、エレナの。と……席を立ったところで、ポリの耳が立った。これは合図、再生者様のお部屋で何かトラブルがあった証拠。あぁやれやれはいはい、とポリを連れて歩いていけば……まぁまぁまたあり得ない光景が出て来た。


 女の腰に男が、情けなくしがみ付いて引き留めようとしているが?


「それで、本日の夜はどのようなご用件で護衛とお遊びに?」


 面倒極まりない。出て見に行けば……再生者様が、アンジェラの腰にしがみついている状況。こんな情けない姿を晒すなんて、いったいどんな何をやってんだか……片方の顔は何か言い訳を探しているし、片方はもうなにがなんだかで。


 適当に切り上げてもう戻ることを、この時点で決めた。


 ポリも面倒臭そうな顔をしているしさ。

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