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オリジン・シード  作者: 草間
アース・エンパイア~地球帝国~
114/127

16話 地球帝国皇帝

一応5章はここまで

次のエピローグで5章は終わりですね

■地球帝国首都惑星 首都ニュー・ブリュッセル 宮殿 玉座の間


 地球帝国首都惑星、セカンド・アースは地球帝国の政治軍事経済……全ての事柄において中心地となっている。その中枢であるニュー・ブリュッセルの宮殿にある玉座の間こそ、皇帝のいる場所であり……地球帝国の中心となっている。


 そこには滅多に関係者が入ることもない上に、呼ばれたものしか入れない。皇帝が代替わりした後から日もそう立たない間は……前皇帝と同じく遺伝子疾患により新皇帝の容態よろしないが故に、皇帝ではなく宰相がほぼ全てを取り仕切っていた。そのため宰相が呼ぶものしか入れないのが実態であった。


 皇帝が身元保証人となっている宰相……つまり婚約者である執政者がほぼ全てを取り仕切る政治。執権政治ではなく、簾政とも言われるような政治形態。しかも皇帝が完治した後は、それをやめるどころか特に諫めることもなく。皇帝はそのままの体制を今しばらくは維持することを決めた。


 外からの者からはどう見えるかはさておいて、白とも黒ともいえぬ不可思議な内情が続いていた。それもこれも不可思議な、よくわからない……とある存在により地球人類帝国が引っ掻き回されているからだ、と宰相であるヴィルヘルミナ・ミュラーは考えているわけだが。


 前皇帝の早すぎる崩御後に抜擢されたうら若き才媛であり、たった一人でも宰相として完璧に政務を熟してきた彼女。肩までかかるウェーブの黒髪、豪奢とまではいわないが……地球帝国で実質No1と言っていい立場らしい礼装のドレスを着用した彼女。


 その宰相閣下は玉座の間で現皇帝の下、不機嫌な気を……鍋の表面張力ギリギリまで張ったお湯の如く封じながら。淡々と昨日まで続いた銀河連邦からの来た惑星再生事業に関する使節団との合意文書の進捗について述べ上げ。そして最後に……この場に集まった面々、地球帝国の中枢たるメンバーといっていい地球至上主義者の者たちに告げる。


「私からは以上だ。残るところがあるとすれば、近衛兵団(ロイヤル・ガード)の団長に問いたいことがある。よろしいか」


「どうぞお好きなだけ。ミュラー宰相、私からは特にありませんが」


 皇帝の親衛隊であり直接の護衛団であり当代最強の軍団ロイヤル・ガードの長であり、惑星アレクサンドリアに駐在武官として派遣されているエルシーが涼しい顔で答えた。もちろん彼女の本来の忠誠を尽くす相手である皇帝の下にいる間は……象徴的なサングラスも解いて、その美し瞳を露わにしている。露わにした上で私に聞かれても困ると微笑んでいる。


 その隣にいる後輩筋であり部下であるクラウディアなど、知らぬ存ぜぬという顔である。その態度が癪に障りに障ったったのか、ミュラー宰相の鍋の具合は一機に噴き沸いた。


「何が特にもないだ!ロイヤル・ガードがついていながら、お前たちは何をしていた!」


「何をしていたと申されても、困りますな。辞令の通り、惑星アレクサンドリアの駐在武官として職務を全うしただけですが。クラウディアも賓客(ゲスト)の護衛を続けていたわけですから」


 なぁクラウディア?フィオナ、と首を傾けて両者へ問うエルシーではあるが……振られた二者とも宰相がそこを聞いているのではなく別件について問い詰めているのはわかっている。なのでそんなことを我々に振られてもな、という素知らぬ顔で頷くしかない。言っていることは正しいでしょうがと。

 

「滞在中である賓客達の護衛、与えられた職務を完璧に遂行してみせたではありませんか。今更何がご不満なのです」


「お前が私の上を通り越して、皇帝から勅命を受けていたことを知らないとでも思っているのか?」


「いいえ?当然ご存じだということは承知しています」


 ついに耐えきれなくなったのか、ヴィルヘルミナ・ミュラーは怒りの鍋の湯を溢れさせるどころか……鍋ごとぶちまける勢いで中央に運ばれた巨大なテーブルをブッ叩いた。これでもかという音が響くが、宮殿中枢という特殊な環境であるため外に漏れることはない反響。そもそも大声を出したり大きな声を出すことを想定されていない造り。それが故にそのキレにより出た音が何度も響き……宰相を省みさせ、冷静にさせるかと思えばよりヒートアップさせていくのだが。


「まぁまぁヴィルヘルミナ、これは僕が頼んだことなんだし」


「しかし通させたのはエルシー近衛兵団長!あなたもあなたですが!コトを理解しているのですか!」


「いやぁでも通してくれたからなぁ……まさかじいさんが会ってくれるなんて思わなかったし」


 その軽薄な言い方をやめてください、とヴィルヘルミナが懇願するのは……玉座に座る一人の少年。彼女からして一回り以上も年齢が離れた、たった一人の少年であり……地球帝国の現皇帝である少年である。しかし少年は少年で、そうは言われてもと()()()()()()と交わしている。だって最初に面会許してくれたのは、あの再生者(リマスター)と呼ばれる彼なのだからと。


 遺伝子治療(ジーン・セラピー)の結果……一人で立ち歩き運動できるほど完治した彼は、まず真っ先に21世紀地球人類種の遺伝子(オリジナル・シード)データを提供してくれた彼に会うことを切望した。だがそれを許す政治的状況とはとても言えず……それが故にロイヤル・ガードの長であるエルシーを通してジョエル・バルテルミー参謀の遣いと言う形で面会を取り付けた。


 取り付けた後も、どう対応されるかはわからず。先に様子を窺っていたエルシーやその部下であるクラウディアの弁では、悪い扱いをされることはないと聞いていたが当日までどうなるかわからなかったものの。会ってみれば、少年を職責もある一人の人間として対等に扱ってくれた上に……手料理で暖かく迎えてくれたのだ。


 ならばこちらからも、彼の要請に応えていくのが礼儀ではないか?最低でも国際社会的な礼儀ではあると訴え始めたのがミュラー宰相を今も悩ませていた。


「だからといって、保証人になどと……アンリ様、あなたは地球帝国の現皇帝なのですよ!あんなのに頼らずとも……!」


「手続きは楽になるよ。じいさんの養子になったら、その後に再生させた地球を継承する際にも文句は言わないでしょ。トラブルもなくスムーズな交代になる」


「21世紀の化石から蘇ったのか、化石そのままなのかも!わからないものを!大体その言い分も、再生者という肩書で通せる強権的なもの!あれ次第で国際社会からどういう反応が来るかなど如何様にも変わりましょう!そうだなフィオナ!」


「ハッキリ言ってしまえば、アンリ様の見通しは些か甘いかと。同じ地球人類である、というところからの不公平と不平等感は信頼を貶めます。継承も今回の文書合意で否定しているところ……目の付け所は悪くはないと思いますが」


 そうした言い方は何か同じアプローチで別の方法があるのだろうか?太陽系防衛機構をスルーし、かつ銀河連邦と惑星開発機構から干渉されない手が……と身を乗り出すアンリではあるが。それが何かを察した他の幹部は……各部門の長は押し黙り、ミュラー宰相はよりキレてテーブルを叩く。そんなことは認められないと。


「彼が皇帝を継承すれば、皇帝でありながら地球圏統制に関与しない政治体制になります。条件も整ってはいますから不可能ではありません。そうなれば統治するために帝政ではなく共和制に移行ともなるのでしょうが……」


「いいじゃん、やろうやろう!じいさんが皇帝か~いいじゃん、ヒーローが皇帝なんて!」


「ご冗談もそこまでにしていただきたい!今の時代の、皇帝はあなただけなのです!」


「私もそれには同意です。それに彼もそれを望まないでしょう」


 フィオナが首を振り語るものに納得したのか、アンリは乗り出していた身を引いてつまらなそうに呟く。対面で見て入ればわかるが、あの男にはとにかく野心や権力欲というものがない。敢えていうなら……そういう渇いたものであったり、生臭いものがないのだ。暖かさや穏やかさ、悪く言えばヌルさを感じるものの。そうしたものを感じさせない、彼の短い人生の中でも見たことのない人間なのだ。


「現帝政を維持してください、とまでは言いません。ですが崩壊させるようなことだけは、おやめください。それだけは前にも後にも歴史として残すわけにはいかないのです」


「そうは言ってもさぁ……産業同盟の方はどうなっているわけ?ちゃんと管理出来ているの?」


「進めています。こちら側への復帰も近いうちにと」


「へぇ~()()()()()()()()()がここに来るんだ?我々の席に」


 どこまで把握しているのか、どういう意図を持ってその言葉を出しているのか。ミュラー宰相とアンリの間には……探るような間があった。こうしたことは何度もあるが、互いに同じものを見てはいるものであり……険悪であったり敵対しているというものでもない。


 アンリも自身の身をヴィルヘルミナが案じているのは重々承知しているし、その上でちょっと世話を焼き過ぎという具合に反発心を覚えて遊んでいるだけだ。エルシーも最近アンリがこういう手合いだと気づき、両名ともに手を焼いている。


 特にエルシーは最近実態がよく見えるようになって来た……口の達者な男が悪い影響を与えていると。


 そういうものでヴォイド将軍の実情を知れど、産業同盟とミュラーらの間で何が行われているかは知らないエルシー。彼女もどこまでどう何がとも言えない状況……何ともな顔で二人を見ていたが、会議をこのまま胡乱に混乱させてもよろしくない。それは全員の見解の通り。皇帝でありこの場の主たるアンリへ、とりあえずこの場を収めてくれと合図をすれば。


 アンリは軽く手を上げて、これ以上なければと閉会を告げる。


「各々我らが母なる星……青き地球を取り戻すために、引き続き邁進されたし」


「それが地球人類全てに引き継がれている願いだ」


「されど今この時代に、青き地球より来た者がいることを忘れぬように」


「彼が我々を見ている。それは我々への試練であり、力でもあることもだ」


 各々それぞれが頷き退室していく中で……ミュラー宰相は最後まで残り。皇帝にただ一言告げて帰っていく。この時代の帝国を率いて、地球を取り戻すのはこの時代のあなたであることも忘れないようにと。


「そう言われてもなぁ……エルシー、ねぇ?」


「私としてはそこまで彼を買う方が理解できません。ミュラーの方に同情したくもなります」


「だってじいさんは、地球の人間だけど銀河の平和のことを考えているんだよ?話の次元が違うのさ、文字通り」


「彼ならやってくれる……やってしまいまそうな、この時代を変える気がするじゃないか!」


 気がするだけですよ、するだけと答えるのもエルシー。当然のことだ、彼女が答えるように……彼もただ一人の人間でしかない。会ってみればわかる。アンリが懐くこともだが、それでもただ一人の人間でしかないことも。


 たかが人間一人にどこまで出来るのだろうか?現実的な話をしているヴィルヘルミナの言い分がずっとわかる。しかし一方であの男にはそういう期待を持ってしまう何かがあるのも確かだった。実際にやってのけているのだから、出来てしまいそうな期待を持ってしまうのも……おかしくはない。


「さてヴィルヘルミナも行ったことだし、部屋で続き書かないと」


「まだ書いていたんですかあれ!」


 超装甲戦士がもっとデカい敵と戦うヤツを書いてる!と笑顔で答えるアンリは、年相応で可愛げがあるのだが……何を書いているやらと……エルシーは溜息をつく他なかった。このまま行くとそれが預言書じみてきて、そうした事態がぽんぽん起きていく銀河になるかもしれないことは考えたくないなと……思いながら。


 


サイドストーリーは2つ挟みますがまだ内容決まってませんね、どうしましょうかね~

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