14話 産業同盟
■セカンドアース ニューブリュッセル 郊外 温室庭園
「連日ずいぶん忙しかったそうじゃないか。皇帝杯は楽しめたか?」
「もちろん。すごい盛り上がりじゃないか」
「今年からユニバース・プレミアム・リーグが再開だからな、再生者様様だ」
元々アーマー・ボウルという競技には海軍や海兵隊等の兵士から選手が出てくるフルコンタクト競技。その興業力もあって地球帝国の人類以外も、選手が出ていた時代があったのだ。それが人類側の……兵士という兵役の現役時代の中での活動期間での活動のみ、になったり軍隊自体に退役や自主退役者が毎年出ていく状態が続き縮小化。
今年からはそういう懸念、早期退職者や離反者が出なくなっていくだろう状況を省みて……新たな地球皇帝からの宣言で大規模なリーグが再開される運びとなった。ジョエルが再生者のおかげ、と言っているのはこれだ。私がそのあたりの人員を統合軍で受け入れられることになったためスポーツをしていく余裕ができたと。
「それで、どうだった。ここ数日間で関係者と関わってみて」
さもなんでもないよ、という体でジョエルは……植物の葉の具合を見ながら。庭園に設けられた茶の席でのんびりハーブ・ティーを飲んでいる私へ聞いてくる。顔を全く見ずに。ちらと横目を見ると……侍従らしきドロイドもこちらを見ようとせず、ジョエルの植物弄りを手伝っている。給仕の女性は目を伏せているので表情は読めない。
あっこれは「面白かったでしょ」~とか「君から見て好みの美女はいたか?」っていう話のレベルが低い答えを求められているやつではないな?毎日ブ厚い肉体で体格も背丈もデカい美女らとぶつがり稽古してて最高だったぜ~なんてものを求めているわけではなさそうだ、絶対。冒険者ギルド備え付けの酒場みたいな治安レベルの話は……絶対ない!
「地球帝国の軍事力はアーマー・ボウルというスポーツへ……方面軍ごとに精鋭チームが作られるほどの、規模があることがわかったけどさ。その……その規模で人員がいるのに海賊軍を生み出すような状況だったのか、とは」
「君はそう見たか、面白い見方だ」
正解だったかな?と思えた手応えを感じる姿。彼が植物の世話をドロイドに任せて、私の対面に座り……給仕から茶を受け取る。これから本題に入るぞ、という姿だ。
21世紀の……21世紀だったよな?アメリカでもアメフトの選手が軍隊に志願して、というようなことはまぁあった。スター選手がともなるとニュースになっていたと思うが。その規模ならいい。選手から、兵士へ。
だが34世紀の地球帝国では、銀河連邦のほぼ全ての軍事力をアウトソーシングされ……地球帝国の管轄はそれはもう広大。海兵隊と海軍それぞれの方面軍の担当を見ても膨大な数があるのがわかった。その……人員が、計画的に生産され続けては更新と退役を繰り返し余りに余り海賊やってたのだ。これ大丈夫なのか?と思うのも当然だ。
大丈夫じゃないから、私が今ここにいるのだろうが。
「今期の帝国軍への追加人員計画も届いた。参謀本部からは入れ替わる帝国軍の退役から希望者をそちらにと考えているが、どう思う」
どう思うって言われてもさ。受け入れるしかないだろうに……聞き方がおかしいな。総司令官としての立場なら参謀本部や統合軍で話せばいい話。それらの単語がないということは、それ以外の意見を求めているというのだろうが……先の話の連続性を考えれば。
「生んでいるのはさておき、生まれたものの……彼女らをどうとは言えないな」
「そうだな。君はそういうだろう人間なのはわかっている」
なら聞かないでくれよ、と思うが……これも意志の合意とか表明のものだろう。つまり「このような生産体制、続けていいものか?いいはずはないだろう」と思うものの……実際に生まれてきているし、しかも「やめろ」と言えるものなのだろうか?と私は思っていることだ。
やめろと言ってしまった場合、生まれた彼女らは……これから生まれる彼女らへも物言いをしてしまうことになる。それは……とても感じが悪い。命の色は一つなのに~
「君の意志の方向性とは違うが、既に稼働して社会を形成しているシステムを変えるのは容易ではない。連邦の軍事力の大多数を担っているという規模もある」
「研究工業機関でしかなかった産業同盟の三社がここまで巨大に膨れ上がるとは、当初は思っていなかっただろう」
セキ、ゾーリンゲン、シェフィールド。それらは21世紀の人間にも聞き覚えのある名称ではあるが……実態は全く違う。それぞれタイタンや兵士用の個人装備、人造人間の製造技術やバイオテック、艦船による造船技術等……地球帝国どころか銀河連邦に加盟している惑星国家の兵器もここから生産されていると。
惑星国家ごとに産業母体はあるだろうが、それでも銀河連邦が軍事力のために集約させた企業連合とは流石に規模違いすぎる。地球の銀河連邦加盟初期から軍事力アウトソーシング先という特権を得てからどんどん肥大化し、強大化し一大勢力にもなっている。
それらは銀河連邦の……惑星開発機構との影響ある拡大政策と合わさり。需要と供給が絶えず膨れ上がっている過程の1つに人造人間兵士の生産問題も関わっている。どうにかしたいところだが、どうにかした後に彼女らをどうするのかは……想像もつかない膨大な処理が必要なはずだ。劇的に何か変えるわけにもいかないだろう。
私に解決できるとは到底思えないが、私に思えなくても彼女ら……ネロやアンジェラ。フィオナやソニア達教導院の人たちが何か打開策を作ってくれるかもしれない。もちろん状況が何か好転したり、契機があれば……ジョエル達もだ。私は彼女ら人類の智慧を信じつつ、ハーブティーの御代わりをいただく。
この謎の雑草っぽさが堪らない。こういうの、毎度カフェで頼んでうげぇ~ってなるけどそれがいいんだよな。季節のハーブティーは、季節の雑草感を味わうものだ。
「地球至上主義者の連中とも合わさり影響力は衰え知らずだ。最近ではヴォイド将軍とやらを招き入れたらしいが……どうした?」
咽て口から胸まで雑草の香りまみれだ。
「ヴォイド将軍!?あいつは……監獄要塞で討たれたはずでは!」
「知っているのかナンブ、流石再生者だな……異端者とも背信者とも違う。漆黒の鎧を纏った強戦士。ヤツが今、産業同盟の最高幹部に就いているという話がある」
し、知らない!私そんなことしていないが?!なんで一人歩きしているんだヴォイド将軍は!自立機能があってもあれ、私の執務室にフレームむき出しで放置されてるし!装甲は再利用に回されて弄られてるって話だが!なんで今!?
「恐ろしい暗黒宇宙存在、人類の敵だ。現宰相のミュラー……新皇帝が保証人になっている者だが、やつは地球帰還のために彼奴と手を結んだというのがもっぱらの噂だ。彼の下へ元海賊軍兵士やアウトローどもが続々集まっているらしい」
噂レベルであり、確証はまだないがとの弁。そりゃそうだよ噂だよ噂!そのヴォイド将軍は今あなたの目の前にいるんだからさ!
「我々は以前から対抗措置として産業同盟を介さず秘密工廠アヴァロンでのスター・ブレイザーの建造や、捜査局との協力で戦力を集めて来た。しかしミュラー宰相と皇帝が筆頭である地球至上主義者達は公的であり最大限のバックアップがある、戦力比は言うまでもないのは、わかるな」
それでも我々がこうして話が出来るのは、地球に対して何かしら邪な考えを持つものではないというのが両者の間で暗黙の了解にあるからだ。心理的であったり物理的な距離感はあろうとも、地球を大事に思っているし再生自体は願っているからだと。その上で銀河連邦や地球帝国の分裂、内乱や混乱を求めていないとの合意の上だ。派閥ではあるが、互いには物騒な敵対勢力とは思っていないみたいならしいが。
ヴォイド将軍の存在が物騒すぎる。なんでだよ!?
「再生者である君がヴォイド将軍と戦うことになるのは想像に容易い。皇帝は望んでいないだろうが、ミュラー宰相には気を付けるように、将軍とどのような協力体制を敷いているかはわからん。二者とも戦うには……手ごわい相手だと覚えておいてくれ」
「私にもわからないからな……あれ、皇帝と宰相は方針が違うのか?」
「……あぁ、現皇帝は先代が亡くなってすぐに戴冠したこともあってな。宰相とは年齢が大きく離れている上に、考え方も違う。君に協力的なのは感じていなかったか」
確かに今回のセカンド・アース訪問では色々便宜を図ってもらえただろう上に、催しでは擬装越しではあるが……皇帝杯も共に観戦していた。
ジョエルの言い分からして宰相もフィオナ同様に、うら若き美人でお若い方。その方より大きく年齢が離れているということは……おそらく先代の弟だろう。皇位継承ではよくあることだ。先代に子がいたのか、いないのか。そもそも地球帝国のそういう男子の関係はよくわからないが。とかく公務が出来ているなら、結構な高齢のはずだ。
年齢と気力的にもあまり争いごとには関わりたくないタイプか、消極的なタイプなのかも。あと2~3日で地球再生事業関係の事務代表者協議は終わるし……一回ぐらい顔を合わせて見たかったものだ。21世紀の代表シティ・ボーイとして。
「明日以降の予定は決まっているのか?」
「休んでいようかな、と思ってたけど……いざ戻るとなったらね。アンリと遊ぶかな~超装甲秘聞録見せたいし」
「なんだその聞いたこともないような、映像か?書物か?」
「いや聞いてくれよ。クオンがさぁ態々古代エルダー文字を使って書いてくれたんだけど……」
今回の時間で十分にしただろう政治の話はそれまでとなり。茶の話は新たなエルダーと目される宇宙怪獣と人造人間のハイブリッド・ヒューマンであるクオンの話題へ。なにせ彼女が書いた書き物がヘンテコで、なのに文字が綺麗で……みたいなしょうもないことに変わり。
時間が来れば来たで、アンジェラにポリと共に迎賓館に戻ったわけだが。
「よく見るとこれ、パワー・アーマーの改修案ね。よく出てきている」
「誰が改修するんでしょうね……」
「それのアタリをつけるのを、あなたに任せたんでしょう。ちゃんと考えてあげて」
アンジェラはそういうけどさぁ~どうするんだろうなこれ。いやでも……ヴォイド将軍をどうにかするんだったら必要になるのか?誰なんだよ本当に!?ヴォイド将軍は私だよ!




