9話 海軍捜査局
■ 帝国宇宙海軍 総司令部 海軍捜査局
「話は聞いていますが……本当に、いいんですか?ご自分らが何を言っているかわかっているので?」
「いや私は申請したものが何かってのはちょっと把握していないんだけど、アンジェラが申請していたものだよね?」
当然だが?と言う顔で胸を張っているアンジェラではあるが。何を申請していたんだっけか、なんだか地球帝国に来る前と後でずいぶんドタバタしていたから思い出せない。確かアンジェラが申請しているバファムトの残骸?処理?が条例か何かに引っかかるという話で。詳しい話を伺うためにあちら……海軍捜査局から呼び出しがあってのこと。
「ほんッとうに何で私が……ネロ執政官補の言っていた通りになりそうで嫌……ッ」
「まぁまぁ……ほら、色々手続き上とかの問題もあるからでしょうし大丈夫だよ」
その海軍捜査局のロビーで私らを出迎えてくれたのがクレア少佐。惑星ヤマト04で助けてくれたフリゲート艦の艦長クレア・アルテンブルク少佐。苗字があるし結構な階級の人のようだが。その彼女をもって案内人にしてるのもだいぶ気が引けるが……まぁこういう捜査機関で他に知り合いもいないのも緊張してしまうし、見知った顔を派遣してくれた彼女の上官の配慮と思っておこう。
しかし流石は捜査局、こういうところは専門家が協力者として色々な機関の人が出入りしているのだ。そのプロまみれのロビーで私のような猟師か登山家みたいな恰好をしている男がいても……流石はプロ、誰も気にも留めやしない。そこらにいる人へこちらがちらっと見ると視線を外してどこかへ……あっこれ避けられてるやつだった。
「ここでだらだら待ってトラブルでも起こされたら堪ったものではないので、とっとと行きましょう。くれぐれもここで変なことをしないように」
「何をするっていうのかねぇアンジェラさん」
「えぇまったく。身に覚えはないわ」
「ここに来てから毎晩トラブルばかり起こしているのを聞いているんですが!?」
そんなわけでクレア少佐に引っ張られる形で私とアンジェラはロビー・エントランスから進み。デッカい公共機関特有の透明でロングなエレベーターにより運ばれていく。その先は最上階、ではなかったものの……かなりの高層であることがわかる。数字の表記がないんだが?
■海軍捜査局 局長室
「ようこそ海軍捜査局へ、再生者ケンゴ・ナンブ様。そしてアンジェラ。今回は積もる話がありますもので、まずはそちらに」
通された局長室……遮光とか透過率がよくわからないガラス窓の壁、地位にふさわしいデスクに絨毯に観葉植物とか如何にもそれっぽい調度品。しかし物理的な情報媒体も置かれているものでアナログなイメージも感じる部屋の主。
メリナ・ハイマン提督……海軍捜査局の局長にしてアルテミス艦隊の司令。
どんな雰囲気だろう、と思っていたがびしっとした捜査機関のクール・ビュティーっぽいのは制服に包まれた服装ぐらいで……顔は、いや髪型がちょっと穏やかだ。右側だけテールの……サイドテール?でかつロングの後ろ髪?なんか学生時代のギャル系幼馴染っぽいな……捜査機関のボスが陽のギャル系ヘアスタイル?
さてまじまじ見てしまった相手、その彼女曰く積もる話もあるでしょうから……ではなく積る話があるからと来たもので。これはちょっと……長くなりそうだ。どういうことだろうかとアンジェラを見れば素知らぬ顔で応接用ソファーについた私の横に立っている。あぁアンジェラは座らなのが作法なのね、と思いつつも自分で考えるしかないと思い至る。
まいったな、思い当たる節はどれだろう……ちょっと色々ありすぎるな?
「まず我々が押収しているものからお話すれば、主な捜査対象についてご理解いただけると思います。クレア少佐」
「はい。我々海軍捜査局の管理拠点にアヴァロンがあることはご存じのはず」
「海軍秘密工廠アヴァロン、でいいんでしたっけ」
「秘密工廠というのは外部からの呼び方しかありません。その主な目的は開発されたゼノ・テックの回収です」
そういえば、という話になるが……そもそもゼノ・テックの定義というものがよくわかっていない。外から来たものというとなると……地球から見て、なものでこの宇宙から来たもの。ならこの宇宙にあるものなのだから、別にそういう呼び方をするものではないのだろうか?
「定義するところによりますが、我々はあなたの言うところの……マスター・パワーを用いるものと考えています」
「あのエネルギー自体がこの宇宙とは別の次元や宇宙から呼び込まれているもの、と。調査結果や、仮定によりといいますか……そういう前提と思っていただければ」
大昔、彼女らのいうところの1000年前に起きた第一次地球防衛戦?の時のは「銀河連邦から持ち込まれたマスター・パワーを用いる外から来た技術」ということでゼノ・テックと呼んだ。
「その技術自体はザ・マスターがこの宇宙から離れて途絶え、継承するものはエルダーのみとなっていましたが。地球に与えられたことで再び世に戻りました」
しかし地球が現在の銀河連邦側になると……それがこの宇宙に蘇ったのだ。それは「外から呼び込まれたマスター・パワーを用いる技術」としての呼称として……地球側の呼称を適用することになったと。概ね、わかったな?
「あなたが触れただけでも、恒星系の復活を始め人智を超えた技術。この宇宙に存在していいものか、と思いますがそれでも存在する」
そして存在し、蘇り、間近にあるのならば……人は欲する。より大きな力を……人智を超えた力を。ザ・マスターのように宇宙を自在にし創世する力を。メリナ・ハイマン提督は淡々と私に伝えている。だが私には……その、技術ではなくその力自身に触れる機会どころか操っていただろう機会がいくつもあった。
正直に言ってしまえば、彼女に全面的に同意したくなるほどのものと思っている。それでもリィン導師やクオンのように扱い方を指導してくれる人がいるもので……なんとか間違わずに来ているが。悪用しようと思えばいくらでもできるのだ、バファムトのように。
そうした機会のお陰で、自分の中でもわかってはいることだったが……喉が鳴る。緊張感というか、ハイマン提督が考えているようなことは真っ当なことだ。真っ当なことなんだが……それを用いて色々やっているもので、つい外から圧された形で喉が鳴ってしまい。のどの渇きを覚えたところで……ドロイドがお水を用意してくれた。私はハイマン提督に水をもらうもので会釈し、喉を潤し問う。
この件に繋がるとなると……やはり、あれしかない
「今回お話する必要があるのは、アース・ゼノンのことでしょうか?」
「いえ、アンジェラが申請している宇宙超獣バファムトの外部装甲、アーマーを彼女のタイタンの外部強化装甲にしたいという要請についてです」
んぶふっ!
二口目の水が噴き出てテーブルをびしゃってしまったもので……クレア少佐がわざわざハンカチで拭いてくれた。いや本当にすいません、寝耳に水どころではない……いや、違う確かクラウディアから聞いていたな?再利用をしたいって。
「再利用ってそこぉ!?聞いてないよアンジェラ!あぶないって絶対!」
「バファムト自体がもういないのなら、何か起きる心配はないわ」
「そうは言ってもどうなるかわからない遺物、こちらでも惑星ヤマト04へ調査隊を派遣し解析させていますが……あまりに危険です。ダーク・エルダーが遺した兵器を流用するなんて」
「いやバファムトはいるから、いるけど今すぐ何かってならないだけで」
ピシッという音が聞こえた。いやこの場を包む空気が変化したのを……私が感じたから聞こえた気がするという空想の音じゃない。それは私の持っているグラスではなく……ハイマン提督の、持っているティーカップの持ち手がひび割れて外れたのだ。
そのままカップが落ちるところだったのを、彼女がソーサーで受けてガチャリと音を立てるのを見たが……その目はカップではなく私を見ていた。あくまで私を見て、見続けていた。あり得ないものを見ているような目で……でも口元は微笑んでいる。今何か言ってもな、なのでそちらから何か言ってくださりませんこと?というサインにも見える。
ごめんってこういう報告がね……こう、色々関係各所とかにがまだ。
「冗談言わないで、バファムトはあの時に私が倒したのよ。その後にあなたがクオンに……ちょっとまさか、あの時に出ていた歪みはバファムト」
「そうそう、宇宙超獣バファムトから緊急脱出も出来ていたようで次はクオンのボディ……ボディ?の方を乗っ取ろうと狙っていたようなんだけど。私とクオンで虚空の狭間に留めてさぁ。今私の深層意識の中?とかそういうところにいるんだけど……」
次にソーサーも割れた音が聞こえた。
聞こえたもので一度ハイマン提督を見た後に、どう……その、どうお言葉を?続ければいいの?とクレア少佐を見ると「あなた達とは絶対視線を合わさない!」という強い意志を感じるような表情でガラス壁側を見ていた。ハイマン提督ではなく、彼女の背にあるガラス壁から見える遠くの景色を見て。
「ご理解いただけた?ハイマン提督。こいつが目覚めてから毎日こんなことばかりよ」
「そんなこと言っても、私が呼んでいるわけじゃなくてさぁ!」
「大変なことだ、ということはわかりましたが……まずそれはさておいて我々の話を聞いてから、お願いします」
「あのお姉さま、私はこれで……」
「そこにいるように。ではなぜ今回我々が、ということをご説明しましょう。これは銀河連邦統合軍総司令官であるあなたへのお話です」
海軍捜査局が捜査対象にするもの、それは当然海軍関係の法令関係の違反。しかし憲兵とは違う層の犯罪に対処するための組織。将校の違反、まぁエレナのクーデター?関係であったり申請されているもの以外の武装や製造等汚職。
特に彼女が率いるアルテミス艦隊は兵器関係の話。銀河連邦警察や憲兵では対処できない、対敵性異星体……宇宙怪獣用に保有が許可されている巨大人型兵器が正しく運用されているか、という調査が主。それ以外にも艦艇等の調査……これはここ最近私が関わっていることの、で言えば宇宙海賊軍となっていた海兵隊や海軍の部隊に対しての対抗措置。予備戦力や準備期間を与えないようにとのことだったという。
そのうちの最大の懸念事項がゼノ・テックを用いる兵器群。
そんなに考えるような?と思ったが……ハイマン提督曰く。私の所感は私が、プリムやアルマのような正式に管理できるAIに製造を任せていたり……そもそもの権限を正当に持つ私がいるからそうは思えないだけと。なにせ完成品がちゃんと出てくるのが手元に存在しているのだから、何も脅威はないというとんでもない状況らしい。そこまで出来るのは……この宇宙に、私たち以外存在しないと。いるとしたらバファムトのようなダーク・エルダーだと。
「犯罪シンジケートであるギルドに所属している多くの者たちも狙っている、惑星国家でさえ見つけた遺跡構造体を秘匿しなんとか自分達のものにしようとしています」
「アヴァロンにある押収品の殆どは、それらのように密造されたもの。構造体を完全に攻略出来た、と言う話は聞きませんがその過程で得たデータを元に作られました」
そしてそのどれもが、マスター・パワーを利用するもの。その精度や受容の具合で出来が代わるような粗末な代物ではあるが……強力無比なものには間違いなかった。それらを試験している段階での事故や暴発を聞きつけて……アルテミス艦隊や銀河連邦警察がすっ飛んでいく、というものが続き今は大人しくなってはいるとか。
「あなたが目覚め、監獄要塞と海賊軍の遺跡の不当占拠を解放したことで……より事態が鎮静化するとは思われていました」
「しかし、機械福音教団が現れた。その力を、技術をほぼほぼ解析しつつある彼女らが」
私の言葉へ頷くハイマン提督。そりゃそうだ、遺跡を隠匿したりヤバイい技術研究これ以上どうするかでお咎め受けるか受けないか。どのラインでと探っている間に……エヴァンゲリウムがその力をもって緩やかではあるが銀河連邦を侵略し解体し始めている。止める理由がなくなくなってしまった。私たちもやっていい、となったのだから。
「そうした危険な状況の打破のため、バファムトの鎧が必要と考えたまでよ」
「そうした危険な状況を生み出しているもの、そのものの話をしています。あなたはどう考えますか?この状況とアンジェラの申請を。これが今回お呼びした本題です。あなたのお考えを海軍捜査局……アルテミス艦隊の司令として、統合軍総司令官の再生者へと問います」
「バファムトの鎧を使うのは危険だとは思う。私は反対だ」
「ナンブ!」
まぁ待ってくれ、とアンジェラを手で制してから水を一口。その間にもアンジェラは何か言いたそうな顔をしていたが……私がこれからちゃんと説明する、という姿勢でいるものだから大人しく引いてくれた。うん……コンセンサンスが取れている気がしてきたな?コミュニケーションの方かな?
「それがどういうものか、わからないまま使うのは危険すぎる。解析なら素直に頷けたけどね。正直に言えば……強力な鎧をあの聖鉄だかレアメタルで作った、作るのはわかる。だがバファムトが作ったモノはわからないんじゃないか?それに込められた意図っていうか」
どれを用いて作ったか。作られたかはわかる。ではバファムトが作ったそれは……どういう意図をもって作ったか。宇宙を崩壊させるために作った、作らせてマスター・パワーを奪う?ように作らせたもの。それをただの金属じゃない……何か意志を通すような金属で作ったものだ。バファムトがこの宇宙に居ようが居なかろうが、使うのは怖い。
「多分残留思念とかあるよ、絶対。それであの鎧を通してこの宇宙に再び出てくるんじゃないか?そんでアンジェラ・バハムートとか名前が渋滞しすぎているヤツが誕生するんだよ」
「適当に言ってない?コミックとか映画で見たシチュエーションって言いたいんでしょう」
ザッツ・ライト!両指をアンジェラに向けて、正解!と示せば……座っている私の足にローキックが放たれる。痛い!確かに後半は適当に言ったが、なんかわからん宇宙ファンタジーっぽいものを使うのはやめたほうがいい!あいつら私の心の中だか夢の中に住み着き始めているんだぞ!?
「ただこれからそういうものと戦う場合、何か手がというのは……同意するよ。スター・ブレイザーにある装備じゃ足りないから申請したんだろうし」
「それには私も同感です。いずれあれと同等かそれ以上のものが出てくるかもしれません。今も尚作られているかもしれないし……やってくるかもしれない。そこで海軍捜査局長アルテミス艦隊の司令として、打診したいことがあります」
なるほど、私を呼んだのはそういうことか。私の対応や反応を見て決めたかったのだろうが……今回ハイマン提督の話はこれだろう。そう言われるとピンと来るものがちょっと思い浮かぶ。クレア少佐のフリゲート艦に搭載されていた武器?マ、マジン……超合金な剣とカタナ。それを持たせていたこと、そこから辿っていけば。
「押収品をサンプルとして提供、解析の依頼。そしてクレア少佐を専属の調査官として派遣します。今後の捜査協力体制を構築したい、と考えていただければ」
「あの、お姉さま?それ私が受けない場合はどうなります?」
「あなたを捜査局長に任命し、私がアルテミス艦隊の一部を率いて統合軍に派遣されることになります」
「クレア・アルテンブルク少佐、辞令を拝命します」
おぉすごい。シスター・フッドかはわからないが……こうした捜査局の局長の任されるような若き人材なんだろうなぁクレア少佐。そんな信任厚い彼女が来てくれるのは、ありがたい。それに惑星ヤマト04でも助けてくれたし……知らない顔でもないしね。
「では、統合軍ロメオ分遣隊の隊長へ。精査してもらいたい装備や情報があります」
おお……アルテミス艦隊から提供品されるサンプルの装備群とは……!




