8話 ノーウェイ・ホーム
■地球帝国首都惑星 首都ニュー・ブリュッセル 迎賓館 ゲストルーム
「あなたの帰る場所なんて、とっくになくなっているのよ!」
うおっ何かよくわからない具合に滅茶苦茶キレたなアンジェラ……と思った時には遅い。ポリはそそくさと退室し、私とアンジェラだけが部屋に残された。丁寧に後ろ足で扉を閉めていくぐらいにポリは冷静。待ってくれないか?私としてはなんじゃそりゃ、という具合でポリに助けを求めたかったのだが……アンジェラは相当極まってしまっているもので話が通じるのか通じないのかもわからない。
「今日のことでよくわかったわ。あなたは何でもできる、何でもしてくれる。なんとでもしてくれる。へらへら笑いながら何でもないかのように!」
「いやそれはアンジェラ達がいてくれるからじゃないか、私にだって出来ないことはあるよ」
「どうやってということじゃない、どうして出来るのかって言っているの!」
どうしてって、そりゃ君らが助けてくれって言っているからで。本当にのっぴきならない?状況だから私がやることになっているわけじゃないか。大変そうだから、私の出来る範囲でやっているわけだからどうしてと言われても困る。わけがわからない、アンジェラの問いかけそのものがわからない。そう伝えたら……アンジェラは私に近づき、両肩を掴んで屈んで視線を合わせてくる。途中で胸が顔にぶつかったが、それどころじゃない。
「あなたがいた地球はとっくに滅んでいるのよ!遥か昔に!あなたには今の人類なんて何の関係もない!ましてや……今の人類なんて、昔の地球の人間じゃない!」
「どうしてそんな関係のない連中が生み出した問題に、あなたが引っ張り出されないといけないの!自分達の都合ばかりあなたに押し付けて!あなたはそれでいいっていうの!?こんな……こんなどうしようもない世界のために!」
いやぁそりゃ美女のみなさんに頼まれたら断れないよ~なんて言ったらこのまま肩を握りつぶされそうなので、はてさてなんて答えたものかと言葉を考えなければならない。これはちょっとアンジェラがかなりマジになっているもので、マジな方向の言葉で応えなければいけないのだが。あまりに突飛なタイミングで言われたもので……中々いい言葉が出てこない。
「えぇそうよ、そう。私があなたを墓場から引っ張り出したの。わかっているわよそんなことぐらい!それが許されない……そんな、そんなことをしなければならないこの世界の何がいいの!?あなたにこんなことをさせている世界、滅んでしまえばいい!こんな宇宙の何が!」
「流石にそこまで、ではないよ。アンジェラのように、今をなんとかしようとしてくれている人らがいるじゃないか」
「よくそんなことを!そうやって……誰かがと言って!わかるわ、あなたの考えていることが!あなたにとってこんな世界どうでもいいんでしょう!だからそんなことが言える!へらへら安請け合いして、呼ばれれば飛んで行って!」
「どこにもいないから、どこにだっていけるの!もうどこにだっていけばいい!あなたもザ・マスターと同じ!助けるだけ助けたら勝手にどこかに行って、消えてしまうのよ!またこんな世界を生み出して!」
ついに限界に来たのか、アンジェラは私をそのままテーブルにブン投げて扉から早歩きで出て行ってしまう。さすがにこのままじゃまずいので、なんとか体を起こし……いや結構腰が痛いな?痛いがこのままはよくない。とにかく走って追いつき、アンジェラを呼び止めるが止まる気配はない……どころか速度を速めていく!このままじゃ絶対に追いつかない……そう思ったもので彼女の腰に飛びつく!
「アンジェラ!止まって!止まっ……うおっ……うおっ!」
飛びつくが止まらない!止められない!しかも腰から臀部への揺れがひどい!サスペンションが壊れて効いていない軽トラの荷台ぐらい揺れる!その場に踏み止まってなんとか引き留めよう……なんて出来ない、むしろ私が腰のポーチぐらいバンバン揺れる!
しかしこのまま離したら本当によくない……どうしよう、と思ってた時にアンジェラが止まる。止めたのは……警備を請け負っている海兵隊の最高責任者であるフランソワーズ。助かった!流石にアンジェラも彼女を無視していくわけにはいかないようだ。
「それで、本日の夜はどのようなご用件で護衛とお遊びに?」
「どいてくれるかしら、私はあなたに用はないわ」
「あのねぇ……ロメオ分遣隊の隊長様さぁ……こう二日連続で問題を起こされるとね、政治的にも影響が出てくるの、わかる?再生者様も」
仁王立ちでオカンムリのフランソワーズ。そりゃそうだ、式典初日の夜には酒に酔ったエレナとボール遊びしてガラスブチやぶったことになってるし。今夜は今夜で騒音騒ぎだろうか。ちょっとみるとポリが後ろにいる!あぁなんだフランソワーズを呼びに行っていてくれたのか!信じていたよポリ!
「えぇと……その、ついね。今回予定に入れられなかったアーマー・ボウルがどういうものかをね?アンジェラに聞いていたらエキサイトしてね」
「はぁん?それで……アーマー・ボウルの皇帝杯なら席を用意できますし、我々がお教えできますが」
「お願いします。経験者からの意見を是非」
「それとね、ロメオ分遣隊や第三艦隊の連中とだけ組んでいるのは他の連中がいい顔をしませんよ」
「ではフランソワーズ・バロウズ提督のアーマー・ボウル講座を是非」
フランソワーズのまぁまぁ……いや納得してないが?って顔と視線、あと騒ぎをこれ以上起こさないでくれ呼び出されるのは私だがって気迫をひしひしと感じさせてくれたもので……アンジェラも少し、大人しくなって私の部屋に戻ってくれたのだが。扉の建付けが悪くなっている上に、テーブルが倒れて水のボトルが倒れてるしで。
とかく座ってもらって、ちゃんと話すから落ち着いてくれと宥める他なかった。ボトルをテーブルに戻して。
「まず……そうだな、確かにショックなことは多かったけど。みんなすごい気を使ってくれているのはわかっていたし……いや、違うなこれは」
そう、違う。アンジェラが気に病んでしまったことに対して「誰かが」というのを持ちだすのは答えになっていない。「私が」何を思っているか、考えているかを伝えなければならない。アンジェラの問いと考え、懸念を解くためにも。
「確かにひどい状況だ。でもひどい状況でも諦めていない人がいる限り、私は終わったとは思っていない」
これは銀河連邦やこの宇宙世界、そして地球帝国に対してだ。アンジェラが考えている、感じている通りのことは……流石に私も察している。しかし他の人らが言及しないものだから、そこを態々ほじくるのはよろしくないと思っていたに過ぎない。状況が悪く……ハッキリ言ってしま手、地球に住んでいた人類と今の地球人類はほぼ別物かもしれないと言われても。まだあきらめてない……良くしようとしている人らがいるのならば、私はまだその人達と共に何かしようと胸を張って言える。
「居場所については……もうどうしようもない。時代も場所も変わっているなら、新しい場所が私の戻る場所。アンジェラ達がいる場所が、私の戻る場所なんだ」
こればっかりはもうどうしようもない。私が今戻ったところでどうなるんだろうか?どうにもならない。いつかは地球が再生される時は来るだろう。かつての土や海に大気…風や水は戻るとしても私がいた時代は戻ってこない。私が知っている人も……なぜ、私なんだとたまに思うし一緒の時間を歩めていればとも思う。
しかしそれを考え悩み、苦しんだとて今この世界で苦しんでいる誰かを助けられるのだろうか?目の前のアンジェラでさえ今、私が言葉にするようなものではないものに……耐えきれなくなってしまっている。あぁその通り、眠ったままがよかったなどど言っていいものか?いいわけがない。
「それで言えば、だ。私の戻る場所はアンジェラのいるところだというのに……アンジェラの方が勝手にどっか行こうとしているじゃないか」
「私はあなたの戻る場所じゃない、私はそんな人間になれない……私は、もうこんな世界に」
「でも、私を起こしたのはアンジェラだよね?」
こんな世界にいたくない?アンジェラのその言葉は……私のお返しの言葉でぐっと止まってしまった。やっぱりそう。自覚があって悩んでいるのならば、多少ひどい方向での言葉になるが……こういう方向性で説得するしかない。悪く思わないでくれよ、こんな男をよみがえらせたのはアンジェラなんだから。
「今ならわかるけどさぁアンジェラ、最初の巨大遺跡構造体の時もそういう感じだったでしょ。あのタイミングでがちょうどいいと思ってなかった?」
私から出た二の句。巨大遺跡構造体で……私を逃がすため、といい一部兵士と残り宇宙怪獣の囮になろうとしていたあの時。一番最初の、アンジェラと意見が合わなかった時だ。いや根に持っているわけじゃなくて、彼女の考えていることからピンと来てしまって突いたら正解だったようだ。本当にそうだったようで、黙り切ってしまった。
「私を起こしたのは君なんだから責任とって最後まで居てくれないと。天文学的な数の惑星を再生するまでかな?途中で降りるのは、流石に無責任過ぎやしないか?」
私の心からの説得のお陰でか、アンジェラは深い深いため息を吐いて……ようやく理解してくれたか。水のボトルをラッパ飲みした後に落ち着きを取り戻したが……椅子から立ち上がり、ボトルを置いてこちらを睨んでくる。そんな顔されると美人が台無しなんだが?
「わかった、最後まで付き合う。もうグダグダ文句は言わない……ただし覚えておいて」
「何を?今日のことを?アーマー・ボウルの体験会のことかな」
「口が達者なヤツは嫌いなの、口だけ達者なやつではなく」
「私はアンジェラのこと好きだけどなぁ?もうちょっとお話してくれると、もっと好きになれるんだが?」
あぁ言えばこう言ってる私の今日の物言いが特に気に入らないのかきわめて渋い顔をしている、アンジェラと共に……荒れた部屋を片付けたところでその日はようやく落ち着いてくれた。明日からもまだ仕事が残っているし、ぐっすり寝つきたいところだ。アンジェラもこれで落ち着いて休んでくれることだろう。
■翌朝 迎賓館 ゲストルーム
翌朝、以前から協議していた案件で海軍捜査局とのスケジュールを抑えられた……というものでクラウディアが伝達と案内のために来てくれたのが朝食の時間。アレクサンドリア……ネロからの連絡事項を伝えてくれたものの、怪訝な顔をされて対面でコーヒーを飲み進めている。
「連日の公務であまり眠れませんでしたか?顔色が優れないようですが……時間を調整しましょう」
「いや、大丈夫。ちょっと犬がね……お腹の上に乗って寝ていたもので、こう……ね」
「ポリ……ではない犬ですか。昨晩もここでトラブルがあったようで、ポリが夜に他の犬も連れて来たので?そのあたりの躾はした方がよろしいかと」
「賢いからしなくてもいいよ、一度言えばわかってくれるし……まぁわかった上でやるのかもしれないが」
私がいいならそれでいいんですが、という風にクラウディアはそれ以上言及せず。海軍捜査局の人間であり秘密工廠アヴァロンの管理者であるメリナ・ハイマン提督のとのスケジュール調整の話を始めてくれた。その半ばというところで、隣で着替えてから合流してきたアンジェラとポリが入って来たもので……彼女らの方を一瞥して頷くクラウディア。
「調子が良さそうですね、ここ連日トラブル続きだというのに」
「再生者様の無茶な要求に応えていれば、コンディションの調整にも慣れてくるわ。あなたもそうでしょう?」
えぇ、それはもう。とクラウディアが続き微笑み……スケジュールの確認が再開されていく。くそぅアンジェラめ、人の腹を枕にして寝ていたのがそんなによかったのか?居場所ってそういうもんじゃないだろうに!
これ連日続くと便秘になりそうだな……お腹が物理的に痛い。




