表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前のない英雄譚【無能の白銀騎士】  作者: 木ノ添 空青
騎士見習い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/85

十三歳の師匠

 用事があるからと先に帰ってしまったパンチさんと別れ、連れられてきたのは騎士団の訓練場だった

 夕陽に染まった訓練場には、僕たち以外誰もいない。

 昼間なら騎士たちの怒号で満ちているらしいその場所も、今は風の音だけが静かに響いている。


「さて」


 訓練用の白線の向こう側で、ティナさんが木製のフォークをくるりと回した。


「始めましょうか」

「ほんとに模擬剣使っていいんですね?」

「どうぞ」

「……じゃあ、いきます!」


 ゆっくりと相手の様子を見定める。

 どこから崩せそう?

 避けるならどうする?

 危険な間合いは?


 ある程度の隙を探しながら飛び込もうと思っていたのに……。


「どうしたの? いつでも来ていいわよ?」


 まったく先が見えない。

 どういう感覚なのか理解もできないけれど、どこからでも切り込めそうなのにどこから切り込んでも避けられそうだ。

 不思議そうに小首を傾げる姿に緊張感なんてまるでない。

 相手の得物は小さなフォーク一本、リーチはこちらの方が圧倒的なはずなのに、どうしてこんなにも遠く感じるのだろう……。


 でも、たった一撃、それだけでいいんだ。

 ここは遠慮なく積極的に狙いにいかなきゃ。


 そう決心を固め、地面を蹴って距離を詰める為に前進していたはずだった。


 カンッ! と乾いた音が鳴る。

 次の瞬間には、視界が天井を向いていた。


「えんッ――!?」


 何をされたのか理解するより先に、背中が地面へ叩きつけられる。

 静かな訓練場に、僕の情けない呻き声だけが響いた。


  まだ鈍い痛みの残る背中を摩りながらゆっくりと起き上がると、ティナさんは、何とも言えないといった表情で僕を眺めていた。


「……ねぇ」


 しばらく沈黙したあと、ティナ先生は心底不思議そうに口を開いた。


「はい……」

「あんた本当にあの戦場にいた?」

「……聞かないでください」


 どこかもう気持ちでも悪そうなほどに渋い顔だった


「……えっと」

「はい」

「ちょっと待って。頭整理させて」

「えっ」

「いや、そもそも騎士学校には通ってたのよね?」

「通ってましたけど!?」

「はぁぁぁぁ……」


 ティナさんは額を押さえながら、その場にしゃがみ込んだ。


「え、そんなに酷かったですか!?」

「酷いとかそういう次元じゃないわよ……。一周回って天才的ね」


 生まれて此の方天才と言われたのは今回が初めてだったが、言葉通りの意味ではないのだろう。

 乾ききった笑いでティナさんが震えていた。


「どこから直せばいいのやら……。でも安心したわ。あたしにも先生ってやつが勤まりそうで」

「ありがとうございます?」


 ぎこちないお礼を冷たく睨み返すと、ゆっくりと立ち上がった。

 手に持っていたフォークで肩を叩きながら目の前にやってきた。


「はぁ……。まず踏み込み」

「はい!」

「危なっかしい」

「…はい」

「重心高い」

「……はい」

「剣振る時に肩から力入ってる」

「………あ、はい」

「あと視線」

「え? 視線?」

「丸見え。次どこ狙うか全部分かる」

「うっ」

「それと防御」

「はい」

「あんた防御する気ある?」

「ありますよ!?」

「嘘。絶対避ける前提で動いてる」

「……いや、でも避けられるかなって」

「避けられなかったら!?」

「まぁ、気合いで」

「気合い入れて死にたいの!?」

「…………いやぁ」

「いやぁじゃなぁぁい!!」

「ひゃい!?」

「……はぁ」


 深々とした、もう何度目かという溜め息。


「あんた、よく今まで死ななかったわね」

「はは……」

「笑い事じゃないのよ」

「あはい、すみません……」


 しかし驚かされる。あのたった一瞬でこんなにも僕の癖を見つけるなんて。

 言われている僕本人は身に覚えのない癖ばかりだ。

 

「凄いわねあんた。あの一瞬で自他共に認めるめんどくさがりのあたしが、こんなにも戦い方を教えなきゃって危機感を抱かせるなんて」

「もうこの際文句とか言ってられないのでほんとうにお願いします、僕を強くしてください」


 先程までの軽い調子を少しだけ引っ込め、ティナ先生は真っ直ぐ僕を見た。


「……わかった。でも弟子にしたって、今のあんたを騎士団に導く事までは保証できない。二段跳びみたいに騎士団に入ったあたしだからわかる。今のあんたじゃ無理」

「お恥ずかしい限りです」

「騎士団に入るなら騎士学校の連中をボコボコに出来るような実力がないとダメ。いい? ちょっと自信があるって程度じゃ足りないの」


 確かにそうか。

 騎士団に入れるという事は、よっぽどの実力が必要なんだ。


「まぁ、そういうことだから、弟子にする条件は、騎士学校には通い続けなさい! ってことね」

「え!? でも、その、お金が……」

「それは心配しなくていい」

「……え?」

「あたしがあんたの学費を出してあげる」

「はい!? いや、ダメですよそんなの」

「もちろんタダとは言わないわよ。あんた、あたしの家で働きなさい? 家事全般をこなしてもらうわ。その対価として足りない分の学費は持ってあげる。足りない分だけよ!?」

「……つまり、ティナさんの弟子兼家事のお手伝いさんってことですね」

「まぁ、そんなとこね。掃除洗濯料理買い出し庭の手入れ、少なくとも暇はさせないわよ」

「やります! やらせてください!」


 きっかけはどうあれ、僕はチャンスを貰えたんだ。

 強くなりたい。変わりたい。

 こんな先生に手を差し伸べてもらって、腑抜けたことなんて言ってられないな。


 夕陽を逆光にして立つティナさん、いやティナ先生が腕を組み直した。

 陰になった顔からは少し表情は読みにくかったけれど、なにを思っているんだろう?

 めんどくさいことになったとか思われてるのかな……。


 そんな予想を知ってか知らずか、ふん、と鼻を鳴らして笑ってくれた。


「あんたが腑抜けてると、かぐやに何かあった時な心配なのよ。あたしの友達を任せられる騎士になるまで、ボッコボコになるまで鍛え上げてやるわ」


 なるほど、そういうことでしたか。僕じゃなくてかぐやの為ってことですか……。


 どういう繋がりなのか教えてはくれないが、僕が目を覚ます以前から、ティナさんとかぐやはとても仲良しになったらしい。

 一人ぼっちにしたくないという思いが実って、かぐやに仲のいい友達が出来たことはとても嬉しいのだが……。


 かぐやを守れるだけの騎士になりたい。という目標に、ティナさん本人が引き合いに出てくると返す言葉がない。僕の中にはまだ、あの日の戦場で見た、ティナさんの勇ましい背中が鮮烈に焼き付いている。


 ティナ先生は腕を組んだまま、じっと僕を見ていた。

 夕陽を背負ったその姿は、やっぱりあの日の戦場みたいに格好良くて。


「僕は、ティナ先生たちみたいな強い騎士になりたい」


 ゆっくりと膝を折り、もう一度深く頭を下げた。


「改めて、ティナ先生。僕を先生の弟子にしてくださいっ!!」

「……ふふ、いい眺めね。完全に躾けられて今どんな気分なの?」

「……弟子入りって、もっと情緒のあるものだと思ってました」


 僕はこうして、何度目かの屈辱と共に、僕には勿体ないほど優秀な先生に巡り合えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ