僕を弟子にしてください
「ぶふぁッ!? はぁ? お前を弟子にしろだ!?」
「はい!」
眉をゆがめ、口からお茶が滴っているパンチさん。
その正面に正座し、その困惑した瞳を見つめる僕。
これが、青龍騎士団本部の一室で落ち合ってまもなくの状況である。
以前の僕なら、恐れ多く、微塵も考えられないことではあるが、あの革命で戦場を共にしたことや、事後聴取で何度も会っていた事もあり、憧れだった青龍騎士団の白兵部隊隊長、パンチさんともだいぶ親しくなった気がする。
「いきなり弟子になりたいって言われても……。俺も腕っぷしを前の副団長に認められて入った推薦組だからなぁ。武術は問題ないんだが、学がなぁ」
「まぁ、そうですよねぇ」
「おい」
「あ、いやいや違います! 今のは断られたことに対してのやつで!?」
「てか、青龍の白兵隊希望だろ? 一般入団試験なんて、神王騎士団に漏れた実力者ばっかなんだぞ? 俺が武術だけ詰め込んだって間違いなく周りに見劣りしちまうぞ」
パンチさんの言う通り、青龍騎士団も子供たちの憧れの仕事の一つ。その競争倍率は恐ろしいほど高くて有名だ。
「困ったなぁ、どなたか知りませんか?」
「そうだな~。お前を弟子にしてくれそうで、実力も申し分ないやつか……」
そう呟きながら、あの人この人と指折り数えながら渋い顔をしていた。
「……あ」
そう言って動きが止まってしまった。
「あれ? パンチさん?」
「お前、騎士になる為ならプライドへし折れるか?」
「……えっと、それはどういう?」
手にしていたグラスを静かに置いて立ち上がると、日差しの差し込む窓辺に向かって行った。
束の間の静寂。妙に溜め始めたものだから、こちらも下手に動けない。
やがて一つ溜め息をつき、ようやく口を開いた。
「実は、お前の師匠に良さそうな奴を思いついた」
「えぇっ!? 本当ですか!?」
「あぁ、悔しいがアイツなら学もあるし実力も申し分ない」
「プライドでもなんでもへし折りますから教えてください!!」
正直、今置かれた状況では、吞気に選んでいる余裕なんて無い。
騎士になる為になにがなんでも乗り越えないと。
「そうか、なんでもするか。じゃあ俺はもう止めねぇ。確か、その大先生は今日団長と一緒に花見に行くって言ってたな」
「団長と、お花見……?」
団長と行動を共にしていて、なおかつ“学も実力もある人物”なんて限られている。
「もしかして、イヴメルティ団長補佐官!?」
あの人も素晴らしく優秀な騎士の一人だと聞く。
他でもない、あの絶対英雄ゴイル団長の補佐官に就いているのだから、今更多くを語るまでもない。
当時の青龍騎士団入団試験でも、群を抜いた成績で有名だったとか。
天竜の捕食者ではないものの、戦闘技術もかなりのはずだ。
問題は、イヴメルティ補佐官がかなりの美人で、とても温厚でふわふわと優しい人だという事……。
そそんな柔らかそうで完璧な人が先生になるということは――。
「……ごめんかぐや、僕は、色香に誘われて勉学に励むクズ野郎になってしまうかもしれない」
「何を考えているのか知らねぇが、杞憂だぞ?」
という事は違うのか。残念……、いやいや。
「とにかく明日また来いよ。夕方にここの応接室で待ち合わせしようぜ」
そう言って不敵に微笑むと、パンチさんは飲みかけだったグラスを手にして中身を一気に煽った。
「わかりました。また明日伺います」
とにかく、また明日来てみればわかることだ。
誰であろうと、僕を鍛えてくれる人ならば喜んで師事しよう。
ただでさえ僕は、騎士として長らく時間が止まったままだ。
一刻も早く遅れを取り戻さないと……。
もう、決して大切なモノを失わないように。




