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名前のない英雄譚【無能の白銀騎士】  作者: 木ノ添 空青
神殺しの少女編

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白い糸が繋いだ絆

 夏風が心地いい夕暮れだった。

 街の喧騒に混じって、遠くでひぐらしが鳴いている。

 

 大通りから路地を覗いてみれば、陽気な歌や笑い声。

 行き交う親子は微笑ましく手を引き合い、軒を連ねた露店の吟味中。


 私たちは、流れる人混みに逆らい、懐かしい騎士学校の校庭を後にした。


 普通ならば人気のない場所だけど、この一週間は学生や街の人が露店を並べ、この校庭も一つのお祭り会場に姿を変える。

 一方で校庭の隅には、剣の跡だらけになった訓練用の木偶が並んでいる。

 きっと、たくさんの騎士の剣技を育ててきたんだろう。


 今日は、風花さんたちのお陰で、久しくなかった賑やかなひと時を過ごせた気がする。

 今はある露店で買った焼き菓子の取り合いを眺めながら、彼の待つ病院へと帰る途中だった。


「ちょっと!! それあたしが買ったのに!」

「いいじゃねぇかひと口くらい」

「だめぇーッ!!」


 前を歩くティナさんとパンチさんのそんな些細なやり取りに、周りの人も振り返って笑っていた。

 でも、不思議と気恥ずかしいなんて気持ちはなく、むしろどこか嬉しいような。


「ふふ、やっと柔らかくなりましたね」

「へっ?」

「始めてお会いした時から、ずっと辛そうな顔ばかりだったので心配していたんですよ? ティナちゃんなんか特に」

「ティナさんが、ですか?」

「えぇ、あなたのこれまでの境遇を聞いた後、真っ先に病院へ駆けつけたのだってあの子なんですよ? かぐやをひとりにしないでって、団長や私に泣きそうな目で詰め寄ってきて」


 数歩先でパンチさんと取っ組み合いをしている無邪気な姿に、今の話にあった、別の表情のティナさんが重なった。

 そっか、私はもう一人ぼっちじゃないんだ。

 

 ガリベニアスさんも、精霊王様も。

 ……そして、ジンくんも。

 私をこんなに温かい人たちと繋げてくれたんだ。


「良かったらティナちゃんと仲良くしてあげてくださいね? あの子も、普段はツンケンしてますし不器用なんですけど、まだ寂しがりやな女の子なんです。そういえば、かぐやさんと少し似ているかもしれませんね」

「……ありがとうございます、風花さん。私、ちょっとティナちゃんと話してきます!」


 優しい微笑みで背中を押してくれた風花さん。

 ようやく落ち着いたと思われる前の二人組に、ちょっとだけ強引に飛び込んでみよう。


 息を切らし、髪がぼさぼさになった少女を後ろから抱きしめる。


「ティナちゃん! ありがとう!!」

「んなぁッ!? なによあんたはいきなり!?」

「おっ、なんだなんだ!? 復活かぐやちゃんも参戦か?」

「ティナちゃんティナちゃん!」

「なんなのよもぉーッ! わかったから離れなさいってぇ~!!」

「微笑ましい光景なんだからもっと拝ませろよ、ティナちゃん?」

「あんたは“ちゃん”っていうなぁ!!」

「ふふ。ほら皆さん、あまり騒ぐとご迷惑ですよ?」


 温かい、ほんとに温かいよ。

 まるで、まだ夢を見てるみたい。


 この国のみんなを傷付ける兵器として、孤独な檻の中で殺されかけていたのに。

 いくら叫んでも、いくら手を伸ばしても無駄だとさえ思っていたのに。


 ……諦めなくてよかった。

 ジンくんに出会えて、本当に良かった。

 にいさん、私を守ってくれてありがとう。


 まだ沁みる思い出。優しく繋がった大切な人たち。

 

 霞む夜空。

 瞬きはじめた星々が描く星座と共に、まだ賑やかな街を歩く。


 戯れる笑い声に、頬を伝う涙を隠して。

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