静寂と白の天井
ヒンヤリとした殺風景な部屋。
不安になるくらい真っ白な天井。
静かに脈を刻むよくわからない機械の数々。
傍らから伸びる細い管が繋がれた彼は、まるで機械の身体にでもされちゃったみたい。
血色の悪い左手をそっと握り、不思議と穏やかに眠る彼の横顔を眺める。
あの時も、こうして私の手を握ってくれたのかな。
人一倍臆病で、誰よりも痛いのが苦手だったのに。
――『怖いけど、頑張るよ』
少しだけ寂しそうに言った彼の言葉が、いまでも鮮明に蘇る。
「ジンくん。もう夏になっちゃったよ……」
返る言葉などなく、淡々と動く機械だけが相槌をくれた。
「邪魔す……、なんだ小娘か。こんな暑い日にまでご苦労だな」
「だから私はかぐやですって何度言ったら……」
「そんなことはわかっている。ますます寝坊助に似てきたな」
白衣の袖を捲りながら病室に入ってきたのは、ジンくんと一緒に私を助けてくれたガリベニアスさん。
「お前の方はどうなのだ? もう喉に違和感はないか?」
「はい、お陰ですっかり良くなりました。ガリベニアスさんはお忙しいと聞いていますけど」
この人が率いていた革命軍と、アストピアの騎士たちが、アルデラント政府を相手に巻き起こした革命という名の戦争。それは、未だに両国を混乱させているほどの大事件になった。
あの戦いを皮切りに、アルデラントのあちこちで反乱が起こり、アルデラント政府と、数を増やした革命軍の同志が一時内戦状態になったという。
「あぁ、実に不愉快だ。あぁだこぉだと東西南北引っ張りまわされ、挙句の果てに薄給とは……」
「そのお陰で、今は戦争が抑えられているんです。名誉なことなんですよ? 革命軍の総統閣下」
その戦乱を治めたのが、ガリベニアスさんと精霊王陛下だった。
アストピアの騎士を介入させ、双方を抑えることで争いを止めていた。
「階級など要らぬと言ったのだがな……。まぁいい、それよりこれは土産だ。先日アルデラントへ帰った際に買ってきた饅頭だ。それでも食いながらにらめっこを続けるがいい」
「わぁ、ありがとうございます!」
「……たまには息抜きにでも行ったらどうだ? 看病する者ならこの病院にごまんといるのだ」
「いえ、目が覚めたら真っ先にお説教しなきゃいけないので」
「……ならば私はなにも言うまい。看護師に鈍器や刃物をこの病室に持ち込むなと伝えておくぞ」
「あはは……、お構いなく」
かけていた眼鏡をそっと押し上げ、さっさと病室を出て行った。
「もぅ。凶器を持ち出すほど怒っていませんよ」
そう言ってみても、胸の奥は少しだけ熱かった。
去年の冬に目が覚めた私は、精霊王陛下とガリベニアスさんたちから、改めて事の顛末を聞かされた。私が眠っている間になにがあったのか、今どうなっているのか。
ほんとは、まだ少しモヤモヤしている。
やっぱりもっと粘るべきだったとか、泣き落としでもすればとか……。
私だって、ジンくんに全部押し付けるような形になってしまうのは本意じゃなかった。
でも、私をずっと支えてくれていたのに、結局あんな姿にまでさせてしまった精霊のことを思うと、十年という時間は、あまりにも残酷に感じた。
利用されて、暴走させられて。
ようやく救われたと思ったら、今度は苦しみながら浄化され続けるなんて――。
だからこそ、ジンくんがちゃんと精霊の事も気遣って提案してくれたのがずるかった。
あんなこと、言われたら。
……甘えちゃうよ。
あの時は、正直夢でも見ているんじゃないかと思った。
透き通るように真っ白な場所で、ジンくんは困ったように笑いながら言った。
『絶対、帰ってくるから』
だから私は、今は信じて待つことにしました。
あの人が帰ってきた時、今度こそ、無茶な事しないでって、ちゃんと怒ってあげる為に。




