たとえこの身に変えてでも
「精霊王様、博士。……お願いがあるんですけど。かぐやの精霊の件、僕に任せてもらえませんか?」
そう告げると、二人とも互いに顔を見合わせ、飲み込めない面持ちのまま再び僕を見た。
「いや、少年。せやから方法はこれしか」
「もう一人声をかけていない大精霊がいます。というか、オリジンからの提案なんですけど」
「オリジンが!? なんか知っとったんかアイツ!?」
「あまり褒められた方法じゃなかったですけどね」
何かを察したのか、表情が若干強張った。
前のめりになっていた姿勢を少しずつ引き、不安気に唇が震えている。
「……いったい、何をする気や?」
「かぐやの精霊を穢れごと、僕の中に引っ張り込みます。かぐやの精霊回路を直接繋げて、オリジンが隔離した部分をそのまま引っ張り込むんです」
「――ッ!! 何を言っとんのかわかってんのか!? すでに精霊一匹喰い殺した穢れやで! どんな苦痛かも分かれへんのに認められるかドアホ!! 大変だった時のこの子を一番知ってるのはアンタやろ!?」
秀麗な姿からは想像できないほど鋭い剣幕で詰め寄ってきた。
しかし、それをそっと抑えたのは、それまでずっと口を噤んでいたガリベニアス博士だった。
「ちょっと待て。……ジン、その方法が可能なら、確かに小娘が今抱えている問題は解決できるかもしれん。だが、今コイツが言ったように、お前がただでは済まんぞ?」
「はい。それもオリジンから聞いていますし、重々承知の上での決断です」
「あのなぁ、確実に成功する保証もないねんで!? もし失敗したらどないすんねん。あんたもこの子も、一緒に死んでしまうかも分かれへん」
「……成功する保証なんて、僕にもありません」
「そうやろ? せやったら―――」
「でも、それでもやりたいんです」
「なにを根拠にそんな事ベラベラと」
「お前は少し落ち着け」
「……いえ、精霊王様が言うように無茶苦茶言ってるのはわかっています。でも、だからこそ、僕たちにしかできないんです」
そう伝えると、僕に掴みかからん剣幕だった精霊王様が、溜め息をついて両手を組んだ。
「オリジンはずっと、呪いを抱えたまま僕の中で耐え続けてきました。もちろん僕自身にも負担はあります。簡単なことではありません。でも僕は、オリジンなら、……僕とオリジンなら大丈夫だって信じています」
「それで……、あんたが身代わりになってその子が助かったとして、あんたに会われへんその子の辛さは考えたんか? 倒れたアンタを見るその子が何を思うか、よっく考えての決断なんやな?」
「……はい」
一度、眠るかぐやの方を見る。
小さく上下する胸。
ようやく手に入れた静かな寝息。
「きっと、怒ります」
思わず、小さく笑ってしまった。
「なんで勝手に決めたのって、泣きながら怒ると思う」
苦笑が漏れた。
「でも、だからこそ目を覚ました時、ちゃんと謝りたいんです」
「……」
「僕は、かぐやの未来を勝手に決めたくない。でも、このまま十年も眠らせるのも嫌なんです。だからこれは、“僕が助ける”じゃなくて――」
握った手に力を込める。
「かぐやが、また自分で歩き出せるようにする為の我がままです」
「……だそうだ、姉上」
「……それでも。認められへん。あんたらの意見だけ聞いて、そんなこと許可できん」
「でも、精霊王様!」
「だから! この子をちゃんと説得してからやないとあかん。ちゃんと話して、ちゃんと理解してもらって、ちゃんと納得してもらい。それが出来へんなら、この話はなしや」
「わかりました。……無茶はします。でも、絶対に帰ってきます。だから、お願いします」
「……わかった。ほな、まずは着替えて身体洗ってこい」
「ありがとうございます!」
そう言い残し、僕は病室から駆け出した。




