"まもりたい"もの
すべてを冒涜する兵器神殺しを生み出した元凶の男、ゴドナー・ハンバッグ。
精霊を害あるものと決めつけ、一方的に排除しようとしただけでなく、勝手な思想からかぐやまで傷付けた。
「おのれッ! こんなところで死ぬ訳には!」
「届けぇぇぇ!!」
なにも考えずにただひたすらに願った。
あの男に追いつきたい。その一心で、叫ぶ。
「アクセル―ッ!!」
踏み締めた足から白い光が湧き上がる。体が地面を反発し、千切れんばかりの速度で風を切る。
「これで、終わりだぁッ!」
振り下ろした剣が、ゴドナーに狙いを定めた。
これで、ゴドナーが今までかぐやにしてきた報いを受けさせられる。
『チ、チカヅカナイデ、コナイデ、コロサ…ナイデ、ヒトゴロシ』
「――ッ!!」
身に纏った騎士服に、真っ赤な飛沫が飛び散る。勢いそのままに地面を叩いた剣が、高々と粉塵を舞い上げた。
「ぐあぁぁぁッ!! はぁ、はぁ……」
「ッ……」
『宿主さん!? 何してるの!?』
僕自身が一番困惑していた。
剣を握る手が震え、切りかかる瞬間に手を緩めてしまった。その結果ゴドナーの傷は浅く、仕留めることが出来ていない。
「な、なんで……!? なんで今になって!?」
どうして思い出した!? ヤマトにいちゃんを、殺した記憶を。
必死に飲み込もうとするも、あの声、あの感触、あの匂い、あの体温、あの光景が止めどなく蘇ってくる。
「うっ……、はぁ、はぁ。どうしたクソガキ。手が震えているぞ? 俺はもうしばらくは立ち上がれない。この俺が信念を貫いて築いてきた理想や野望を散々ぶち壊した挙句、今更俺を殺すのが怖くなったなどと腑抜けたことを抜かすなよ?」
「……黙れ」
「やはり、所詮貴様はガリベニアスの信念に便乗し、英雄を気取っているただの小僧だ」
「黙れッ!!」
「己が信念の為に人を殺すことが怖いなら、もう英雄ごっこはやめろ。貴様のように信念もなく、都合や民意で善悪を決めて首を突っ込む連中が、一番浅ましく無様であることを思い知るがいい」
「……僕だって、まだ上手く言葉にはできない。でも、守りたいものならある」
「その感情は人を斬る恐怖に劣る程度のものか? そんなものは信念ではない、ただの憧憬だ。信念とは、たとえ己自身が立ちはだかろうとも無慈悲に殺せる覚悟の理由だッ!」
「自分すら殺せる、覚悟の理由……」
人を斬る恐怖。
命を奪うということ。血の匂い。
そんなものを自分から背負ったこともないまま、僕は英雄に憧れていたのかもしれない。
ゴドナーの言葉は嫌いだ。絶対に間違ってると思う。
それなのに――。
『信念とは、たとえ己自身が立ちはだかろうとも無慈悲に殺せる覚悟の理由』
その言葉をはっきりと否定するには、僕にはまだ、経験が足りなかった。
「……確かに、あなたの言う通りかもしれません。本当の信念なんて、僕にはまだわかりません」
『宿主さん……』
「でも、絶対にしたくないことはあります」
震える剣を、握り直す。
「僕の甘えのせいで、誰かの未来を奪ってしまうことです。ここであなたを逃がせば、かぐやがまた傷付くかもしれない。それだけは絶対にできない」
脳裏に浮かぶ。
泣いていたかぐやの顔。怯えていた自分。
それでも手を差し伸べてくれた人たち。
「だから今の僕は、やっと自由になれたかぐやの未来を、あなたなんかに壊されたくない」
血で滑る剣を、強く握り締めた。
「くだらん。ならば証明してみせよ。貴様の言葉を。この俺の執念を思い知るがいい。貴様には一生拭えぬ血の匂いを覚えさせてやる。さぁ、みせてみろ。貴様の覚悟を」




