ふたりぼっちの凱旋
ゴドナーに突き付けた剣を握り直す。
未だ震える手を、もう片方の手で固く握った。
胸の中央に切っ先をそえて、高く振り上げる。
「俺の信念は、俺が死んでも滅びることはない。むしろここが始まりだ。我々と貴様らの長い戦争が、古の時を経て再び始まる。そして思い知るがいい、貴様らが辿る世界の結末をなぁッ!!」
『か、グやヲ、たの、ム、な』
僕はまだ、ヤマトにいちゃんとの約束を守れていない!!
だから、これからもずっと……。
「――――ッッ!!!」
歯を食いしばり、全身の力を刃に込める。
ゴドナーの眼光が一際大きく見開かれた。
剣先が肉を貫く鈍い感触が、両腕に重く返ってくる。
とても、英雄譚のような物語なんかで描かれている、気持ちの良い決着なんかじゃなかった。
握り締めた剣から伝わる力に両手は痺れる。
そよぐ風と共に、鉄臭い砂塵が舞った。
震える四肢にどうにか力を込めて体を起こすと、靴底に、すがるような血が流れてきた。
深く突き立てた剣を引き抜き、目を開けて眠った敵の瞼をそっと下ろす。
胸に手をあて、そっと顔を伏せて呟く。
「……終わったよ、かぐや。やっと本当の自由になったんだよ」
因縁晴れた代償に、べったりとにじんだ紅の戦果。
その汚れた拳を握りしめて、僕はこの戦場に涙を手向けた。
最後にゴドナーが残していった天竜は、腹に大きな剣筋を残して倒れていた。
傍らにはまだ火の灯った煙草の吸い殻が一つ。
「……ゴイル団長、ありがとうございました」
戦場では未だに火柱が昇り、爆破音が響いている。
時折聞こえる甲高い咆哮は、討伐の進捗を物語っていた。
『お疲れ様、宿主さん』
どこか疲れたような声色に聞こえる。
あながち間違いでもないようで、明らかに口数は減っている。
「ありがと。オリジンもお疲れ様。だいぶ無理させちゃってごめん」
「本当だよ。無能な宿主さんを支えるのは、想像以上に骨が折れるんだから」
言葉の棘でちくりとされるのは相変わらずだけど、今はそっと飲み込んだ。
「一緒に戦ってくれてありがとう。ゆっくり休んで」
『そのつもりだよ。……まだ地べたすれすれを這い回っただけだったけどさ。いいもんだね、君の言う翼になるって。いつかもっと高い景色を見せてよ。宿主さん』
柔らかい橙色が染めた風は、どこか暖かい様な気がした。
夕陽が照らす一本道。
不格好に挫いた足を引きずりながら、ゆっくりと歩いていく。
僕とオリジン、二人ぼっちの凱旋だ。
決して憧れを持たれる様な、立派な姿じゃなかったかもしれない。
オリジンや博士の言う通り、僕はまだ無能で未熟な騎士だ。
でも、もう歩くことをやめたりはしない。
まだ形にもなっていない僕の信念の為、まだこの手に残った鈍い重みに、ちゃんと向き合う為に。
それに僕は、もう一人じゃない。
こんなにも真っ白な翼があるんだから。
「これからよろしくね、オリジン」
夕闇に変わりゆく空に、真っ白な星が二つ輝いていた。




