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名前のない英雄譚【無能の白銀騎士】  作者: 木ノ添 空青
神殺しの少女編

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跳躍の前

 戦場を二分するように、高々と築き上げられた氷の砦。

 ティナさんの規格外な精霊術で、瞬く間に顕現したその砦で、あの巨大な天竜の行進さえ食い止めてしまった。

 天竜を討つべく集ったのは、天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)の面々。

 パンチ部隊長、ティナさん、風花さん、そして青龍騎士団のギルバート・アダムス副団長。


「いやはや、ずいぶん派手に仕掛けましたねお嬢さん。危うく共に凍るところでした。僭越ながらゾクゾクしてしまいました」

「仕方ないでしょ!? 少しテンパったんだから。ちゃんと抑えてたらあの天竜だけ狙えたわよ」

「ついさっきまでげぇげぇ言ってたもんな?」

「わざわざ副団長にまで言わなくてもいいでしょ!?」

「はいはい、皆さん。戦略会議を始めますよ」


 手当てを受けている僕の後ろでは、つい先程から天竜討伐に向けた戦略会議が始まった。


「……っ」


 ……何も、できなかったな。

 僕がかぐやを救い出したばかりだったから?

 オリジンの力を使いこなせなくて、ヘトヘトだったから? 


 ……違う。博士の言っていた通りだ。

 僕は、自分が無能なことを受け入れて、今までまったく成長していなかったんだ。


 傷だらけの体に治療を受けながら、未だ平然としているあの人たちを眺めていると、どれだけの差をつけられているのかを思い知った。


「ジン、ご苦労だったな」

「博士。お疲れ様です。お陰で治療を施してもらえました」

「そうか。しかしまだ転移装置が安定せんのだ。ごく少数の転移しか終わっていない。ところで、どうだ? 本物の英雄たちは」

「……正直、感動を通り越して、自分に絶望しました。あれだけ僕が愕然としてしまった戦場で、確実に勝利を手繰り寄せてる。しかも、あんなに馬鹿デカい天竜を押し留めるなんて」


 博士の横顔は、いつものしたり顔だったが、どこか嬉しそうにも見えた。


「現実を見せられたようだな。……ふっ、また逆ギレでもしてみるか? 拳の準備はできているぞ」

「やめてください!! 忘れてください僕の黒歴史!! てか取っといたメロンパン食っただろあんた!?」

「まったく。今回はだいぶ元気ではないか。また打ちのめされていると思ったぞ」

「いや、完全に打ちのめされましたよ。今の自分じゃ、あの人たちの背中にすら届かないんだなって」

「今更だがな、無能な騎士よ」

「でも、はっきりとわかりました。僕、強くなりたいです。かぐやを守れるように。今度は、一人ぼっちにしないように」

「貴様にしては良い心掛けだな。……強くなりたい、か。私にもそんな時代があったものだ」


 珍しい声色に、首が先に反応してしまった。


「なんだ急に振り向きおって、気色悪い。私にも、軍人だった時代があったというだけの話だ。別段気にもならんだろう」

「いや、めちゃめちゃ気になりますって。てか博士、もともと軍人だったんですね」


 頭を抱え、鬱陶しそうに溜息を吐き出した。

 しかし、そんな表情とは裏腹に、僕の隣へ静かに腰を下ろした。

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