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名前のない英雄譚【無能の白銀騎士】  作者: 木ノ添 空青
神殺しの少女編

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天竜の捕食者【ドラゴンプレデター】

 まるで弄ばれるような気分だ。

 後を追いかけてきた空前絶後の巨大な天竜。

 そいつは、あえて飛翔せず、地を這いながら僕たちに迫ってくる。


 ギャァァァ――ッ!!


「くっそ、このままじゃ追いつかれる!」

「パンチ部隊長、あれ!」


 そこには、アルデラント軍との戦闘に区切りがついたのか、向かい合って話をしているティナさんと風花さんがいた。


「おい二人共、一旦退くぞ!! 体制立て直しだッ!」

「ち、ちょ、ちょ、ちょっとぉ!? なによあれぇ!?」

「なんてもの引き連れてきたんですかお二人共!!」

「んなこと俺が聞きたいっすよ!! くそっ、キリがねぇ。ティナ!! あいつの動き止められねぇのか!?」

「知らないわよそんなの!?」

「足止め程度でいい!!」


「はぁ……。『絶氷を司りし尊き神霊。我が祈りを叶え顕現せよ』」


 彼女の吐き出した白い吐息は、瞬く間に足元を氷土へと変貌させた。


「ーーッこっち……、くんなぁ!!」


 両手を振り下ろすと、視界が真っ白な霧に包まれた。

 直後、地を揺らす轟音と共に、天竜の声が響き渡った。

 風に流れ霧が晴れた時、その視界にそびえていたものに思わず後退った。


 それは、天辺すら見えない程、あまりにも巨大で堅牢な蒼白の砦。

 滾々と冷気を吐き出し、静かに白煙を上げている。

 左右は大きく弧を描き、街外れの森林までもが氷付けにされていた。


「うっしゃ、天竜が止まった!!」

「ナイスです、ティナちゃん!!」

「げぇ……。気持ち悪っ……。力出し過ぎた……」

「……ッ!?」


 言葉を、失った。


 これが、天竜の捕食者(ドラゴンプレデター)の実力!?

 こんなもの具現化するのに、一般騎士は何年かかると思ってるんだ……。冗談でしょ……。

 それを、たった一瞬で……、しかも、まだ平然と立ってる……。


「今のうちに一旦退きましょう。ティナちゃんのお陰で時間は稼げるはずです」

「向こうじゃ天竜の半身氷漬けになってるかもねぇ~。うっぷ……」

「頑張りすぎだ、ちびっ子。やれやれ、風花さん、あの天竜どうします?」

「……私の見立てだと、私たちに加えて、あと一人いればどうにか討伐できそうですね。このメンバーで挑むことを考えると、アダムスさんが適任でしょうか。他のメンバーへの作戦伝達と状況報告もありますし、アダムスさんは私が呼びに行きます」

「了解! お願いします」

「了解~。……おぅえ」


 音もなく、風花さんは戦場に消えていった。

 こんなに途方もない敵を前にして、当たり前のように勝利の可能性を見つけ出せるのか。


 この人たちと一緒に戦場に立つのは、生まれて初めてだ。

 想像だけで憧れていた、本物の英雄たる、同じアストピアの“本物”の騎士の実力。

 僕は、未だ経験のない絶望感を味わった。


 こんな人たちに、追い着こうとしていたのか?

 白虎隊の見習い騎士にさえ遅れを取っている僕が……。


 巨大な天竜を前にしてなお、何事も無かったかのように対策を練る二人に、僕は、かける言葉を探すこともできなかった。

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