奇襲への奇襲
「おい爆発事故だッ! 逃げろーー!!」
「急げ、どこでもいいから逃げろ!」
「ダメだ、転移装置が使えない!? 走って逃げるぞ! 門を開けてくれ」
闇に身を潜めながら、紅色に染まった空を眺めた。
「……いよいよ、始まった」
作戦通り、天竜の捕食者の皆さんも侵攻を始めたようで、非常事態を伝える警報がけたたましく鳴り響いていた。
「おい、謎の集団暴れまわってるぞ!?」
「政府に連絡をッ! 緊急事態だ!!」
研究所内は騒然としていた。人生で初めての戦場は、酷く罪悪感を覚えるものになった。
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
胸に拳を押し当てながら、小さく呟く。
人の声が大分遠退いたことを確認し、物陰から飛び出す。
僕が向かうのは零番研究棟。一度完全に打ちのめされたあの場所で、あの子が助けを待ってる。
「来たか。今開錠が終わった。扉を開けるぞ」
髪が少し乱れた博士は、珍しく息を切らしていた。
見たこともない博士の必死な姿に少し驚いていると、突然後ろから尻を蹴られた。
「はよせんと間に合わへんで。ほら、走った走った」
「精霊王陛下!? なんで、ここに?」
「説明は後や。ええからはよせぇ」
走り込んで行った精霊王様と博士を追いかけて中へ入ると、どういう訳か、あの叫び声が既に響いていた。
「嘘……、なんでッ!? ゴドナーはまだ到着してない筈じゃ!?」
追いついた二人に言葉を投げかける。
「やられた。まったく別の技術を使った転移装置を新たに設けていたらしい。先程同志が聞き出してくれてな。ゴドナーは既に神殺しを起動している」
「そんな……。まだ間に合うんですか!?」
「御託はええから足動かせ。一刻も早く辿り付かな手遅れになる」
そういう精霊王様も、神殺しの影響を受けているようで、顔は見えなくとも、苦痛が声色に伺えた。
「おのれあの豚が、ただでは済まさんぞ」
博士もかなり焦っているようだ。
神殺しの最終起動施設は地下深くにあるとは聞いていたけど、予想以上だった。
まるで奈落へ続いているみたいに、階段は延々と地下へ伸びていた。
「くっ、あかん。暴走が始まっとる」
「しっかりしろ。もうすぐだッ!!」
博士はそう声を掛けるが。ついに精霊王様から返事を聞くことができなくなった。
背中を見ると、少しづつ姿勢が崩れて来たのが分かる。かなり辛そうだ。
何かいい方法はないかと考えていると、歪んだ表情がこちらに向いた。
「心配はいらん。まだ大丈夫や。ほら、ええから足動かせ」
「すみません!」
「お前も喋ってる余裕があるなら足を動かせ!! 急ぐぞ」
「わかっとるわ。ほれ少年! 急ぐで」
痩せ我慢なのは、一目でわかった。異常な量の汗が頬を伝っている。
そして、それはすぐに目に入った。
「着いたようだな。開錠するぞ」
肩で息をしながら、博士が何桁もの数字を打ち込んでいくが……。
「――エラーだと!? くそっ、開錠番号が変えられた」
「あぁ~もう邪魔臭い!! 吹き飛ばしたるわ」
そういうと、精霊王様は扉に両手を突き当てた。
「なっ、おいバカ、正気か!? ジン、伏せろ!!」
博士は、精霊王様が触れている扉から跳び退きながら珍しく大声をかけてきた。
驚いて物陰に飛び込むと、その直後、轟音とともに暴風が体を吹き飛ばした。
「うわぁッ!?」
飛び込んでいる最中の体は踏ん張りが効かず、思いっきり吹き飛ばされ、壁に激突した。
落ち着いたことを確認して恐る恐る立ち上がる。
十中八九爆心地であろう精霊王様を見ると、頑強そうな鉄の扉には穴が開けられ、そこに足をかけ、乗り越えんとする姿があった。
「なに? ……今の」
ズキズキと疼き始めた背中をさすりながら近付くと、二人共無事だったらしく、扉の先から博士の小言が聞こえてきた。
「まったく、なぜあんたはいつもそうなのだ。不器用な癖に無鉄砲な行動は慎めと何度言ったことか」
「ええやんけ、喧しい。こっちも必死やねん」
博士が説教している姿を見るのもなんだか奇妙ではあるのだが、それ以上に奇妙なことが起きていることに気が付いた。
「気付いたみたいやな少年。声が止んどる。急いだ方が良さそうやな」
あの子の声が、ピタリと止まっていた。
意識すればする程気持ちが焦る静けさ。
響くのは僕らの足音だけ。人の気配など全く感じられない。
「――ッ、急ぎましょう」
「最終起動施設はもうすぐのようだ。いいか? あそこには何があるのかわからんのだ。さっきみたいなことはやめろ」
「はいはい、お前に言われんでもわかっとるわ」




