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リュッ君と僕と  作者: 時波彷徨
二日目
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8/88

焼き魚

 バチバチと火の粉をあげて赤々と燃える炎に、口から枝を通された魚が油を滴らせながらじっくり焼かれていた。その脇にはサワガニもしっかり火の手に掛けられている。ユウキは、その様子を、よだれをこらえるかのように口をつまんでじっと見つめていた。両の手をお腹に当てて瞬き一つしない。お腹の虫はなりっぱなしだ。


「ユウキ、辛いだろうが今は我慢だ。しっかり火を通さないと、寄生虫で腹がやられる可能性があるからな。」

「きせいちゅうって?なに?おいしいの?」


 その目は焼き魚を凝視したまま、リュッ君のほうを見ようともしない。


「いや、寄生虫は絶対食べちゃいけないものだ。」


 ぎゅるるるる~~~…。


 お腹がすきすぎたユウキの目は見開いたままで、もうリュッ君の声も届いていないようだ。ユウキの見つめている魚の表面には焦げ目が付き、薄く煙を上げてちりちりと粟立っている。香ばしい香りがあたりに撒き散らされ、ユウキの空腹にさらに追い討ちを掛ける。そんなユウキの様子をじっとみつめるリュッ君がポツリとつぶやく。


「まるで、飼い犬に「待て」と言っている飼い主の気分だな。」

じゅううううう。


銀褐色の表皮が火の熱で裏返っていく。


「塩が無いのが残念だ…」

「ねえええまだあああああ…」


 ふっ…。


 リュッ君の口から吐息が漏れる。そして、かっとその目が見開き、ユウキに向かって視線を送った。


「行け!ユウキ!今こそリベンジのときだ!焼き魚を食らい尽くせ!」

「うわああああああああああ!」


 火にくべられた木の棒をむんずとつかみ、フーフーと息を吹きかけるユウキ。焚き火の煙にあおられた目は血走り涙を溜めているが、そのまま瞬き一つせず、大きく口を開くと、ユウキは褐色のこげめが付いて、ぼてっ、と膨らんだその焼き魚の腹にかぶりついた。小骨をものともせず、もしゃもしゃとユウキが焼き魚にほおばっていく。ハフハフと、肉厚の白身を口の中で冷まして、そのまま舌鼓をうって飲み込んでいく。


「おいひいいいいい!」


 思わず声を上げるユウキが、焼けた魚を躊躇なくほおばっていく。そんなユウキの姿を見ているリュッ君が、


「取れた魚がアユでよかったな。」


 と、ポツリとつぶやいた。その言葉を聞いて、ユウキがリュッ君に聞き返す。


「アユ?っていうのこれ?おいしいね。」

「ああ、こんな山奥の渓流でも、今はそんなに簡単に採れるもんでもないんだけどな…」


 リュッ君の脳裏に、悠々とユウキの周りで泳いでいた魚の影がよぎる。


「いくらなんでも、穴場が過ぎるだろ。」


 ユウキは、再び気持ちを焼き魚に戻して夢中でほおばっている。その様子を見てリュッ君が、

「…うまそうだな。」

とつぶやいた。その言葉を聞いてユウキがリュッ君のほうを向いて言った。


「リュッ君も食べる?」

「見りゃ分かるだろう…?歯が無いんだよ…」

「ふーん」


 リュッ君の言葉を聞いて、またボソボソと食べだすユウキ。ユウキとリュッ君の間に川のせせらぎや、木の葉が風にそよぐ音が響く。


「お腹すかないの?」

「不思議とな…まあ、俺はリュックサックだからな…」


 バチバチと炎がサワガニを焦がしていく。


「サワガニが焦げているぞ、そろそろ火も通ったし、いけるんじゃないか?ホントは油に通すほうがいいんだけどな。」

「あぶら?」

「から揚げにするんだよ。そっちのがうまい。」

「ふーん」


 ユウキは答えながらサワガニを炎から取り出した。少し冷ました後、ばきっと手足をもいで、本体をそのまま口に放り込むユウキ。ハフハフ、バキバキと殻を噛み砕いていく。しかし、先ほどの焼き魚の小骨はあまり苦にしなかったユウキだが、さすがにサワガニの甲羅は口から取り出した。


「おいしいけど、ちょっと食べづらい。」

「そうか、苦味はないのか?」

「鮎のこの部分よりは気にならない」

 と言って、ユウキは焼き魚の胆嚢部分を指差した。

「なら、沢の水は相当綺麗なんだな…」


岩が連なった渓流の流れは時に激しく、時に穏やかで、その水面は、絶え間なくきらきらと陽光を反射していた。日の光がずいぶん高くなっているようだ。朝日とともに起床したのに、昼近くまでここで魚をとっていたことになる。リュッ君は少し思案をして、焼き魚のほうを見た。そのとき、リュッ君頭の中で何かが、ぱっと、ひらめいた。


「…ユウキ、ちょっと焼き魚を俺の体の中に入れてくれ。」

「リュッ君も食べるの?」

「ああ、そうだな。もしかしたら、腹の足しになるかもしれない。」


 焼き魚を一つとって、フーフー冷ますユウキ。リュッ君のふたを開けると、そこから地図とマッチを取り出して、入れ替わりに、リュッ君の中にそっと焼き魚を入れてふたを閉めた。


 しばらくすると、リュッ君のお腹(?)が少しゆれて膨らみ始め、中から光が漏れ始めた。あっとなるユウキ。リュッ君の中から地図が出てきたときと同じだと、驚き、その様子を見つめた。


 やがて、光が収まり、リュッ君が再び縮み始めるが、何かチョット形が角張って膨らんでいるようだ。


「ユウキ…、中を見てくれ。」


 苦しそうに言うリュッ君に近付いて、ユウキがリュッ君の口を開けて中を見てみると、そこには水色の箱みたいなものが、リュッ君の中一杯にパンパンに入っていた。リュッ君からそれを取り出すと、ユウキは驚いた様子でリュッ君の前に出てきた箱を置く。


「すごい、なにか、かばんみたいなものが出てきたよ」

「いや、こいつはクーラーボックスだよ。やったな、ユウキ。アイテムゲットだ。」

「うん!アイテムゲットだ!」


 思わぬ戦利品に喜ぶユウキを見ながら、少し自嘲気味な表情浮かべるリュッ君。


「…ちょっとご都合がすぎやしないかい?…」


 喜びクーラーボックスを調べるユウキ。ふたを開けて中を見ると、そこから水筒も出てきた。


「中から水筒も出てきた。これで水も持っていけるね。」

「ああ、あと、その箱。クーラーボックスには魚も入れていける。きょうの晩飯も悩まなくて済むぞ。とりあえず、さっきの要領で、後何匹か魚を取っていこう。」


 ユウキに声を掛けるリュッ君だったが、ユウキはクーラーボックスを持ち上げ、くるくる回してなにやら細かく調べている。そして、バンバン叩いて、

「もしもーし、ねえ、誰かいないの?」

と声を掛けた。


「どうした?」

「この子は…返事しないのかな?」

「え?」

「もしもーし…」


 ユウキはまだクーラーボックスをくるくる回して、時にパンパンとその側面を叩いて呼びかけている。


 ああ、そういうことかと納得した様子のリュッ君が、ユウキを諭すように声を掛けた。


「クーラーボックス君は、言いづらいからかな?、残念だったな。ユウキ。」



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