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リュッ君と僕と  作者: 時波彷徨
四日目
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スカフォード

 エレベーターのフロアーが、坑道の地下深くへ降りていく。


 へたり込んだユウキが、荒く息をあげて涙を拭い、歯を食いしばって鼻をすすった。リュッ君はそんなユウキの様子を背中で受け止め、黙って小さなため息を付いた。


 まだ別れてから一日もたっていないのに、随分経ったような気分になる。なかなかユウキに掛ける言葉が見つからない。口をへの字にして、困ったような表情を浮かべるリュッ君。お腹の中のランスロットはじっとして丸まっているようで、今のところ、胃がもたれることもない。ランスロットの呼吸が、リュ君のお腹に、微かに伝わってきていた。


「…なんだか、ずいぶん小さくなったんだな?この犬ころ…、えーと…、ランスロットだっけ?」


 ユウキがリュッ君の言葉にうなずく。

「なんでランスロットなんだ?」

「…わかんないけど、気に入ったから…」

「?ユウキがか?」

「ランスロットが…」


 エレベーターのウインチの回転する音が響いていく。


 なんだか良く判らんな?と疑問に思うも、リュッ君は、とりあえず、さっきの話の続きをしなければと思い直した。まずは、“しれいしょ”と、最後の緑の☆のありかを詳しく聞かないと訳が判らない。このエレベーターの降りる先に☆があれば良いが…。


「ユウキ。さっき言っていた“さいごのしれいしょ”は持っているのか?」


 ユウキはポケットをまさぐると、その中から、最後のしれいしょを取り出して、リュッ君の前に広げた。


 なるほど、確かに最後の☆をゲットしろと、いろいろやることがごちゃごちゃと書いてある。

「…で、今は、④のエレベーターにのってさらにちかにもぐれ!なわけか…んで…」


 ⑤ちかのどうくつのさきにいる、りゅうのくちにあるみどりの☆をげっとしろ!


 口に出してリュッ君が読んでみる。

「りゅうのくち…。こりゃまたえらいことが書いてあるな」

「りゅう…って、ドラゴンのこと?」

「そうそう、そうだなドラゴンだ。ううむ…」


 リュッ君が難しい表情を浮かべて、頭の中で思案する。お腹のランスロットにしても、あの大影猿にしても、ダムで遭遇した蜘蛛影にしても、あんなわけのわからないものがいるくらいだから、ドラゴンみたいなのがいてもおかしかないよな…。しかし…。


「ほんとにそんなのが☆を守っていたら…」


 リュッ君は、大きなトカゲのようなドラゴンが緑の☆を守っているのを想像して、そりゃダメだ、奪えっこねえよ…と、困ったような表情を浮かべた。いや、まてよ、昔話とかにあるように、寝ているときにこっそり奪うとか…そういうことか?アイテムに酒とか、眠らせるようなものなんか出てねえぞ…、と、声に出さず考えた。


「ねえ、リュッ君…」

「どうした?ユウキ?」

「ランスロット…大丈夫なの?」


 心配そうな顔をしたユウキが、リュッ君のお腹の辺りをさすった。ランスロットが収まっているあたりが、ぽこっと、下側に膨らんで収縮を繰り返している。


「うん、今のところ落ち着いているようだ…。息もしているしな。ユウキは、このランスロットと一緒にここまで来たのか?」

「うん!乗せて走ってくれた。あと、仮面の影と黒いランスロットからも守ってくれた」


 先ほど、黒い獣と大影猿の戦いに割って入った様子だと、相当激しく戦ってたのかな?確かに、こいつは傷だらけの様子だ。


「怪我…治るかなあ…」

「そうだなあ、今のところ安静にして、俺のお腹に納まってもらうしかねえな」


 なにせ、得体の知れない生き物だから、なんか勝手に回復してくれるかも知れねえし…、とは声に出さず、そう考える自分も、得体の知れないリュックサックだったことに気が付いて、憮然とした表情になった。そんなリュッ君のお腹をさすりながら、

「治るといいねえ…」

 とユウキが呟いた。

「…そうだな…」

 リュッ君も静かに答えると、エレベーターの速度が徐々に緩み、最下層のボタンが点滅すると、フロアーがゆっくり止まっていった。


 ガシャアアアン。


 両開きにケージが開くと、そこは円筒形の巨大な人口の穴がさらに奥深くまで繋がっていた。らせん状に続く穴は深く、ここからだと光が届かず、その先は暗い闇に覆われている。あたりにはライトが灯されていたが、ライトの光が当たるところ以外は影が落ちて、全体にその坑内は非常に暗かった。


 上を見ると、天井は見当たらず、高く長く縦坑が続いていた。階段が続くその先は暗く影に落ちていたが、微かな光が輝いていた。どうやらこの遥か穴の上は外に通じているらしい。


 ユウキの頭に浮いている☆の光がひときわ明るく周りを照らす。周りを見回すと、下層に続く階段が見えた。そちらを見ると、青い光がぼんやり明滅する。


「青だよ。リュッ君」

「本当に信号代わりなんだな、それは…」

 とあきれたように言い、改めて、くだり階段が続く先を見ると、下から巻き上がる風がひんやり緩やかに流れて、二人の体を包んでいった。


「さらにちかにもぐれ…、か…」


 ゴオオン!ゴオン!ゴン!

 縦抗エレベーターの上から、大きな音が響いた。


 突然の音に慌てふためくユウキ。

「な!なに?」


 リュッ君も口を真一文字に結び、分厚い鉄板が何層にも張り巡らされた天井を見つめる。

「さっきのやつかな…、あんまりうかうかしてられなそうだな…、行こう!ユウキ!最後の☆ゲットするぞ」

とユウキに向かって言った。


「うん!」

と、返事をすると、ユウキはその先に見えている螺旋の階段を下りていった。鉄製の巨大な階段であるそれは、表面は地下水で濡れて湿っていはいたが、全体にしっかりしたつくりで、握った手すりは少しの揺れも起こさなかった。


 手すりを握ったユウキが足場に体重をかける。何度か踏みしめて安全を確認すると、ユウキはそのまま階段を伝って、暗い穴の下に足早に下りていった。





 ゴオオン!


 ゴオオン!



 低く堅い何かがぶつかり響く音と共に、縦抗のケージがひん曲がって折れていく。


 ギャアギャアと羽ばたくこうもりの影が、群れを成して塊を造り、その塊がケージにぶつかって、轟音を立てていた。その塊は、次第に大きな獣の形に変化して、あの黒いランスロットの姿が現れた。


 バタバタと周りを激しく舞うこうもりの影をまとい、ケージを押し曲げていく黒いランスロット。そして、とうとうケージが外れてぶらりと垂れ下がると、先ほどユウキ達が降りていったエレベーターのシャフトが丸見えになった。のそりと縦抗のふちにまで近付くと、その下を見下ろし、グルルルル…とのどを鳴らした。


 黒いランスロットの背中に、蝙蝠の影が集まると、それらが渦を巻いて、次は人の形となっていった。


 その体は小さく、右手には長い槍を持ち、顔には長面の仮面を被っていた。仮面には、小さな角と、四つの金色に光る眼が爛々と輝いていた。


 チリチリとうごめく黒い粒子を全身に漂わせたその仮面の影は、黒いランスロットにまたがって、縦抗のエレベーターシャフトの下を見下ろすと。手に持った槍をエレベーターシャフトの下方に突き出してこう言った。


「イコウ…ランスロット…」


 黒いランスロットが、その声に応えるように上体を前に持ち上げる。そして、仮面の影を背中に乗せたまま、エレベーターシャフトを下に降りていった。




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