斜坑入り口
突然鳴り響いた轟音に驚き、前を見つめるユウキ。
見ると、ホコリが舞う建屋の奥に、斜めに切り立ったようなケーブルカーが、山側の斜面から滑り込むように入っていくのが見えた。そして、斜面の出っ張りに沿って、ガタン!と、大きく車体を揺らすと、プシュー…と、空気の抜けるような音をたてて、ゆっくりと停車をしていった。
停車した車両の前後のドアが、バタン!と開くと、中から人影が現れ、その脇のプラットホームのような場所に降り立った、そして、帽子の唾をクイッとあげるような仕草をして、扉の脇に身を寄せた。
「ノッポさん?」
ジリリリリリリリリリ!
突然、ベルの音が廃屋内に響いた。
驚いたユウキが周りを見回すと。廃屋内のそこここから、黒い人影が、複数体、何処からともなく現れた。そして、それらは、ユウキ達のほうを見向きもせず、停車した車両に向かって、ゆっくりとだがまっすぐ歩いていった。その影達はケーブルカーの脇に列を作って、次々と乗り込み、座席に座っていった。
ノッポの影がトロッコに乗り込んでいくのを見たユウキは、一瞬、遊園地でのことを思い出し躊躇したが、どんどん埋まって行く座席を見ると、意を決したように、脇にいるランスロットと影猿のほうを向いた。
「行くよ!ランスロット!サル君!」
そう言うと、そのままケーブルカーのほうに進んでいった。
影達は、駅のプラットホームのような場所で、ケーブルカー脇に列を作って並んでいた。
ユウキは、ホームに上がりこむと、影達の一番後ろに並んで、自分の順番を待った。その後ろに、ランスロットと影猿が続く。
並んだ影達は、さきほど車輌から降り立った車掌のような影に順番にうなずかれると、そのまま車両に乗り込んで、座席に座っていった。自分の後ろにも、影達が並び始めると、前後に挟まれてユウキの心臓は段々大きく早く跳ね上がっていった。遊園地で、ダム湖の底で、奇声を上げていたノッポの影達の姿が頭によぎる。
ユウキの脇では、ランスロットと影猿が並んで順番待ちをしている。ランスロットのお座りは、相変わらず、キョロッとした目で周りを見て、ハッハハッハと舌を出してのんきな様子だ。影猿は、黒い顔に、眼の光だけが真ん丸くギラギラしていて、表情が読み解けない。その前で、自分の順番を待っているユウキに、車掌のようなノッポの影が徐々に近付いてくる。
うつむいて、パーカーのすそをギュウ!っと握るユウキ。
そして、ユウキの前で待つ影の番になった。ユウキはその後ろで動けずに並んでいる。
「ホッホウ!」
ユウキはその声を聞いて、あっ…、と思い出した。ダムの中でゴンドラに乗せてくれたあの時の声だ。
ユウキの前にいた影が、ゆっくりと車両に乗り込んでいく。次はいよいよユウキの番だった。
ユウキがじっとして立っていると、ノッポの影が、ホッホウと鳴いた。ユウキがその声を聞いて、ゆっくりと顔を上げると、そこには、あの時道案内をしてくれた、ノッポの影がいた。
一瞬ユウキはそう感じたが、良く見ると、いや、やっぱり違う、別の影だと感じた。
「ホッホウ!」
そのノッポの影は、ユウキに向かって軽くうなずき、車両の座席を指差した。その後、脇に並んでいるランスロットと影猿にも「ホッホウ」と鳴いて、車両の座席を指差した。そのまま、後ろに並んでいる影達に向かって行ったので、ユウキは、ケーブルカー列車の入り口から座席に滑り込み、そのまま席に着いた。そしてその隣にランスロットと影猿が続き、三人がギュウと詰め込まれて待っていると、周りの座席は、全て影達で埋まった。
ベルの音が再び鳴った。
ユウキ達を乗せたケーブルカーが、がくんと揺れて、ゆっくり傾斜を山のほうに向かって進んで行った。プラットホームを抜けて、斜面を登っていく車両の前方には、大きな坑道がぽっかりとその口を開けていた。
そして、そのまま、ユウキ達の乗るケーブルカー列車は、レールが続く暗い坑道の奥に向かって、ゆっくりと滑り込んでいった。




