選鉱場
「ノッポさんだ!」
ゆらゆら揺れている影を見つけたユウキは、思わず叫んだ。
巨大な廃屋は緑生い茂る斜面の向こう側ににひっそりと佇んでいる。ノッポの影は、陽炎の揺らぎに溶けて無くなる様に、建物の影に消えていった。
「行こうランスロット!」
「ファン!」
「キキッ!」
一つ返事が多い。ユウキが改めて見ると、ランスロットの後ろで、影猿が首をかしげてユウキを見上げていた。
「エーと、じゃあ!サル君も行こう!」
「ファン!」
「キキッ!」
ランスロットと影猿が返事をしたのを聞いて、ユウキは改めて、レールが続く先の廃屋を見つめた。
橋の上部に組まれた鉄骨は、表面がまるで赤色であるかのように錆が全体を覆っていた。レールもほとんどが錆びて、その表面は赤茶けてボロボロにさかむけていた。レールに沿って敷かれた枕木と、それを支える木製の基礎部分は黒く変色して、いくつかは崩れたり、コケが生えて緑が混じったりしていている。下は吹きぬけになって丸見えで、眼下には、広がる緑の枝葉、切り立った岩肌などが見え隠れしていた。下を覗き込むとなかなかの高さだ。
ユウキは、片手を上げて、レールが続く先を指差した。
「出発進行!」
「ファン!」
「キキッ!」
というわけで、三人そろって、レールが続く鉄橋を渡って、廃屋を目指した。
枕木の上をジャンプして、ピョンピョン跳び越していくユウキ。見てくれはボロボロだったが、意外としっかりした造りで、枕木の上に立ってもレールの上に立っても、橋はびくともしなかった。リュッ君と、以前渡ったつり橋に比べれば、全然たいしたことが無い。ユウキは、リズム良く枕木を飛び越えて、あっという間に鉄橋の向こう側に着いてしまった。振り返って、ランスロットと影猿のほうを見るユウキ。
見ると、ランスロットも影猿もすぐ後ろを付いてきているが、どちらもやや足と体を引きずるように付いてきている。
ランスロットは、昨日、おとついの夜に僕たちを守ってくれていた…、体には、その時の傷跡がまだ残っている。
サル君は瓦礫に挟まれて足を痛めていた。
難しい顔をして見つめるユウキ。橋を渡り終えたランスロットと影猿が、ユウキのほうを見上げて座っている。
「…、じゃあ、ゆっくり行こう!」
レールに沿って「シュッシュッ!ポッポ!」と言いながら、歩いて、その先の廃屋に向って行くユウキ、その後ろから「ファンファン!」「キッキッ!」と、ランスロットと影猿が付いてくる。
ユウキ達が向かうその先には、巨大な廃屋がそびえ立っていた。
山の片側を大きく覆うそのバラック小屋のような廃屋が、レンガ造りの基礎の上にうずたかく積みあがっている。それらのほどんどは崩れ落ちて、柱や一部のバラックが飛び出すように残っているだけで、ユウキには、まるで大風か何かで、その上積みの部分が吹き飛ばされた後の残骸のように見えた。。レールの先に広がる廃屋の群れは、さらに混沌とした様相で組み合わさって、斜面の先のコンクリート作りの遺構に繋がっている。段差のある斜面の向こうには、ふもとの別の視線から伸びているレールが幾重にも枝分かれして延びていたが、そのほとんどは雑草に覆われたり、レールや枕木がなくなっていたりして、その痕跡を伺うのみとなっていた。
「大きなプールだ…」
そこにはコンクリートでできた、円環状の巨大なため池が並んでいた。水面は青緑色ににごっている。外周を覆うコンクリートをはって伸びているツタや枝葉がその水面にまで達して覆っていた、ため池の真ん中には赤錆びた陸橋が掛けられ、それらはため池同士を鉄骨の通路で繋いでいた。
ユウキはレールを歩きながら、大きな遺跡のようなこの風景を呆然と眺めていた。
「すごいなあ…」
脇を歩く、ランスロットに向かって、ユウキが聞いた。
「こんな広いところで、こんな小さい☆がみつかるかなあ?」
頭の上にフワフワ浮かぶ三つの☆を見てユウキが呟いた。
ランスロットは、舌を出しながらユウキのほうを見上げて、黙って付いてくる。そんなランスロットを見て、「ランスロットには、わかんないよねえ…」と諦めたようにため息をつくユウキ。
レールに続く廃屋はもう目の前に来ていた。大きな鉄製の扉が半開きになって、レールを中に導いている。先ほど見かけたノッポの影は、ユウキが着いたときにはもういなかった。
ユウキは、ポケットから再び“さいごのしれいしょ”を取り出して、がさがさと広げると、その内容を声を上げて読み上げた。
「せんろのさきにあるたてもののなかで、とろっこにのってちかにもぐれ…」
ユウキが鉄扉の脇から、そっと中の様子を見てみると、先ほどの車両庫と同様に、なかに続くレールは枝分かれして、幾つかの支線が入り組んで並んでいた。
ゆっくりと廃屋の中に入っていくユウキ達。
中は鉄骨とパイプとなんだか分からない重機のような機械で一杯で、それらを繋ぐためのフロアーや階段で複雑に階層が入り組んでいた。四角い筒状の大きなブロックのようなものや、ミキサーのような筒状の機械など、その形状は様々で、小さいユウキには圧倒されるような巨大さで廃屋の中でひっそりと佇んでいる。
「ガタンゴトン…ガタンゴトン…」
ユウキは小さくつぶやきながら、レールに沿ってゆっくり進んでいく。
高い天井までの間には、鉄骨やシリンダーが入り混じり、複雑な階層を組み上げていて、その上を繋ぐ支柱のレールから、多くのクレーンの鎖が垂れ下がっている天井は、一部崩れて、その他、窓辺や、穴の開いた天井、崩れたバラックの隙間から、幾重にも光が差し込み、時折ユウキ達を照らしだした。廃屋の中はホコリっぽく、入射光の中でちらちらとホコリの瞬きがユウキの目をしばたたかせた。ユウキは、時折目をこすり、パーカーの袖口で口を覆いながら、前に進んでいった。すると、レールの先には枕気を組み上げたような遺構があり、その先は行き止まりになっていた。
「行き止まりだ…」
ユウキは立ち止まり、その先をうかがった。
廃屋のその先は、無理やり建物を継ぎ足したように左右に通路を広げて、傾斜になって繋がっていた。行き止まりの枕木越しに斜面のその先をうかがうユウキ、ランスロットと影猿もそれに続く。
「あそこがトロッコのある場所かなあ?」
とランスロットと影猿のほうを向いて聞いてみる。
「クウ~…」
「キキッ!」
分かっているのかどうなのか分からない返事で、ユウキのほうを見つめ返すランスロットと影猿。
困った顔で、二人を見つめていると
ゴオオン!
と、大きい地鳴りが廃屋に響いた。
その音は、そのまま連続的にごんごんごん…、と続いて屋内に響いてきた。どこかで何か大きなものが回転しているかのようなその音は、レールの先の、傾斜が続く穴の中から聞こえて来た。横辻の傾斜の中は、屋内に日の光が阻まれて、茶色く濁った影に覆われている。
驚きそちらを見つめるユウキ。
すると、その傾斜の山側のほうから、斜めに傾いた車両が、車輪と車両のきしむ音を立てて、横滑りにホームに入り、ゆっくりとユウキ達の目の前で停車した。




