さいごのしれいしょ
紙に書かれた文書を声に出して読んでみるユウキ。
しばらくしてから、ダムの管理棟で手に入れた、“さくせんしれいしょ”のことを思い出したユウキは、あっ!となった。
細かく折りたたまれた紙をかさかさと広げていくユウキ。
広げて見ると、その中には次のように書かれていた。
“つぎのもんだいをクリアーして、さいごの☆をゲットしろ!”
やった!ダムの時と同じだ。
最後の☆をゲットするためのヒントも無く、途方にくれていたユウキに少しだけ希望の光が見えてきた。ユウキはひとまずカンパンをポケットに入れて、“さいごのしれいしょ”の中身を読み始めた。
その紙には、すべてひらがなだけで次のように書かれていた。
①じょうききかんしゃがあるせんろにそってすすめ!
②そのさきにあるたてもののなかで、とろっこにのってちかにもぐれ!
③ちかのえきについたら、きたにむかってすすめ!
④こまったときは、しんごうをめじるしにしろ!
⑤はしのむこうにあるエレベーターにのってさらにちかにもぐれ!
⑥ちかのどうくつにいる、りゅうのくちにあるみどりの☆をげっとしろ!
ユウキは、その内容を読むと、①の「じょうききかんしゃがあるせんろにそってすすめ」を声に出して言ってみた。
じょうききかんしゃ。先ほどユウキが運転席に座ったあの蒸気機関車のことだろうか?と、車庫の奥に止まっている蒸気機関車のほうを見るユウキ。
蒸気機関車が止まっているレールは、その前方がターンテーブルにレールが繋がっている。そして、その蒸気機関車の後方、車両基地の奥側にもレールは延びており、機関車庫の奥に設けられた扉に繋がっていた。どうやら、そのむこう側にまでレールは続いているように見える。
“せんろのさき”は、この扉のむこうのことなのかしら?と首をかしげたユウキのおなかがぐうう、と鳴った。ユウキは甲板の袋を破ってカンパンを取り出し、口の中に入れた。むしゃむしゃと食べながら蒸気機関車を見つめる。口に頬張ったカンパンを、水筒の水で飲み込むと、ゆっくりと立ち上がって、蒸気機関車のある車庫のレーンに向って歩いていった。そして、石炭庫の脇から、レールが続く車庫の奥のほうを覗き込む。
「うわあ…」
思わず感嘆の声を漏らすユウキの脇に、ランスロットがチョコチョコと付いて来た。
レールが続く扉は、鉄骨で組まれた通路に繋がって、その向こうには、さらに柱やパイプやケーブルが入り混じった、バラック作りの車両用基地のような場所が広がっていた。レールは何本ものレールへと分岐して、そこここに、見たことも無いような駆動車、そして、それらが牽引するのであろう貨車やトロッコ列車のような車両がレールの上に捨てられて置かれていた。
レールに沿って歩くユウキ。そのまま通路を抜げると、廃屋の中に入っていった。デカデカと「安全第一」の文字が書かれた看板がフロアー中央にぶら下げられている。天井は高く、数十メートルはあろうかという高さの屋内に、複雑にフロアーが入り組んでいた。その奥には巨大な柱に支えられた昇降機のようなものが高々とフロアーを貫いて建てられていて、地上にも、階上のフロアーにも、電算機やコンテナ、クレーンや大きなシリンダーやパイプのようなものがいくつも並んでいた。それらはほとんど赤錆びて汚れてしまい、ユウキにも、もう使われなくなって何年も経っていることを感じさせた。
レールが何本も通った床には、使われなくなった沢山の工具や工事施設用の機械類、ホースやパイプの類が散乱して散らかっていて、それらに混じって天井から落ちてきたのであろうバラックや鉄骨などの瓦礫の類も山積していた。
屋根が抜けた天井からは、日の光が差し込んできている。そのほかにも壁がはがれて穴が開いた場所から入射光が、幾重にも平行に差し込んで、屋内をちらちらと薄ら明るく照らしていた。
ユウキは、枝分かれして伸びるレールを見つめると、目の前のレールを指を差して、ゆっくりあみだのようになぞり始めた。
良く見ると、レールの軌道が切り替えポイントで繋がって、一本、列車が進めるレールの軌道が見つかった。きっとあの蒸気機関車がバックするならこの軌道だ!とユウキが気が付くと、その顔がパッと明るくなった。キョロキョロと周りを見回すユウキ、ランスロットは、脇にお座りして、舌を出してユウキのほうを見ていた。
「ランスロット!最後の☆の場所が分かったよ!」
ランスロットはつぶらな瞳をユウキに向けて、ハッハハッハと下を出して見つめている。
ユウキは、指を上げ手前を差すと、「出発進行!」と言ってレールに沿って進んでいった。その後をランスロットがひょこひょこと続いていく。
ユウキが「シュッシュッ!」と言うと、ランスロットが「ファンファン!」と合いの手を入れた。
「シュッシュッ!」「ファンファン!」
「ガタンゴトン!」「ファンファン!」
レールに沿って進む先は、車両倉庫の出口に繋がっているようだ。
「シュッシュッ!」「ファンファン!」
「ガタンゴトン!」「ファンファン!」
「シュッシュッ!」「ファンファン!」「キッキッ!」
ユウキが、あれっ?と足を止める。
振り返ってみると、後ろのランスロットのさらに後ろ、レールに沿った先に、先ほどの影猿が座ってユウキのほうを見ている。ユウキはしばらく、じっと影猿を見ていると、先ほど、カンパンをユウキにもらった時のように、影猿がおずおずと頭を下げた。
ユウキが首をかしげて「…君も来るの?」と影猿に聞くと、影猿は、ユウキと同じように首をかしげて、じっと見つめ返してくる。
ユウキはしばらく影猿を見つめた後、ぷいっと前方を向くと、再び、「出発進行!」と言って、走り出した。
「シュッシュッ!」「ファンファン!」「キッキッ!」
「ガタンゴトン!」「ファンファン!」「キッキッ!」
廃屋と化した車両倉庫を、レールに沿ってユウキとランスロットと影猿がひょこひょこと走っていく。
やがて、廃屋の出口が近付いてくると、ユウキ達は、レールに沿って外に飛び出していった。
飛び出した先には、緑の木々が生い茂る中に建てられた、赤く錆びた鉄橋に続いていた。
鉄橋に続く枕木の合間から、木の緑と岩肌が見え隠れしている。やや高さがある鉄橋の先には、赤黒いレンガが斜面に高く、段々に積み上げられていた。巨大な城壁のようなそれは、太陽の光を反射して青く鈍く照り返していた。レンガの積み上げられた壁の一部には、ツタや根が食い込んで、木や草の緑がその囲いの上に生い茂っていた。その向こうには、バラックとトタンでできた大きな建物の影が見え隠れして、その真ん中に、背の高い巨大なコンクリートの煙突がそびえ建っている。
「すごおい…、お城みたいだ…」
鉄橋のたもとで、呆然と立ち尽くすユウキ。その脇に、ランスロットらやってきて、ユウキの足元でお座りをする。
巨大な煙突を見上げるユウキ。ポケットから“さいごのしれいしょ”を取り出して、がさがさと広げると、その内容を確認した。
「せんろのさきにあるたてもののなかでとろっこにのって、ちかにもぐれ…」
ユウキは②の項目を声に出して読み上げた。そして、足元から伸びるレールの先を見つめた。
「あの建物のなかに、トロッコがあるのかな…?」
ぼそっとつぶやくユウキ。
レールは鉄橋を抜けて、その先の廃屋に続いていた。レールの先の建屋の入り口が、夏の日の熱で陽炎のように歪んで見える。その先を見つめるユウキ。そんなユウキ達を、やかましくがなりたてるセミの鳴き声が取り囲んでいく。しばらくしてユウキは、あっ!と驚いて、目をゴシゴシとこすった。そして目を細めて、じっとレールの先の廃屋の入り口を見つめる。
すると、そこには黒く、背の高い人のような影が、陽炎の向こうでゆらゆらと立っているのが見えた。




