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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
人間界
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動き出した作戦と魔皇帝


 『ちょっとー、お兄さんたち、いい娘いるよ!この時間は安くしておくよ〜。楽しんで行かないかい!』


 昼間からそんな客引きが度々声を掛けてくる午後のワルノー領都の繁華街を、死神のような黒いフードを深く被って全身を隠して歩く俺と、冒険者風の出で立ちの仲間達。

 メンバーはシャノトワ騎士団団長のグレゴリー・グレゴリウスと部下である精鋭2名ジェスとダリル。そして王宮黒騎士団の団長であるシュバルツと、やはりこちらも精鋭らしい2名ネロとアーテル。



 三日前の夜、俺がシャノトワ城で目覚め家族と対面し、そして爺ちゃんからのお土産を皆で開封し、俺の帰還を皆で祝った。

 そして、そのまま「極悪犯罪グループ壊滅作戦」の作戦会議に突入となった。


 精霊界からの情報や、俺が精霊界で見たこ映像を再生し皆で見ながら、主犯であるワルノー侯爵が絡んでいる犯罪組織の壊滅作戦を練った。そして時を長く置かずに幾つかの作戦を同時進行で行う方向で決まった。

 自領外での行動が多くなる為、国王への報告と許可、協力を仰ぐ為に、翌日は役に父上と母上が王宮に向かい、結果として便宜上「王命」となり、王宮八騎士団がそれぞれに関わっての大きな作戦となる。


 そして、俺の帰還と作戦会議からわずか三日で、それぞれが迅速に動き出しているというわけだ。

 幾つかの隊に分かれて作戦を進める。組分けは以下だ。


<第一隊>

 まず、王都のワルノー邸に囚われている良男(よしお)くん(仮)の救出と、ワルノーの妻、長男夫婦を逮捕する。

 良男(よしお)くん(仮)の救出班は史朗とバーティス以下シャノトワ騎士団の数名。

 妻と長男夫婦の逮捕は王宮白騎士団の担当だ。

 救出後の良男くん(仮)は密かに王宮内で保護となり、その警護は王宮緑騎士団の数名が担う。


<第二隊>

 ワルノー侯爵の協力者であるランタン男爵の捕縛。

 こちらはお祖父様がリードして王宮赤騎士団と共に探り、犯罪の証拠が出た時点で捕らえる。

 精霊界で見た水鏡の通りに、屋敷の裏の林を掘り探ればすぐに証拠は出るだろう。


<第三隊>

 同じくワルノー侯爵の協力者であるビヨーク伯爵の捜査と逮捕。

 こちらは、お祖母様と王宮桃騎士団が向かっている。(なんとお祖母様は昔は王宮桃騎士団の団長を務めていて、現在でも「最恐の女騎士」として伝説になっているらしい)


<第四隊>

 魔法省および王宮内の複数の間者の摘発と逮捕。

 精霊界で得た、王宮内に複数の間者がいる事、また本人も知らぬ間に薬と呪によってワルノー侯爵に操られ使われている者が居るという情報を元に、国に不利益を齎す者を洗い出さねばならない。


 昨日、父上と母上が王宮に出向いた際に、準精霊となった前前国王サンドゥールのメッセージ動画等を、情報の証として王に見せたようだ。

 それに伴い、まず王宮警備の役回りだった黒騎士団と緑騎士団、それと魔法省の者達全員が魔法生物イパードで調べられた。この調査をでクリアした者達が、本日、王宮内での大規模な調査を静かに進める運びとなっている。


 こちらの総括指揮は、父上の親友でもあり、長年に渡って俺の捜索にも協力をしてくれていたスタイリッシュ侯爵に王命が下ったらしい。昨夜の内に王宮に召集され自身も検査を受け、既に動き出しているという。

 黒騎士団と緑騎士団が監視する中、魔法省の者が総出で各人の検査をする事となる。この検査の名目は「広がりが懸念される伝染病の予防のため」として、個人を尊重するために秘密裏に行われるという設定で進められる。


 昨日の内に、問題の黄騎士団以外の他の騎士団員は大方が検査をパスしていたようだ。その為、今日は王宮黄騎士団に集中して検査が出来るらしい。


 この流れで王宮内の全ての者を検査するとして、作業はとてつもなく時間がかかるだろう。いよいよとなったらイパードでなくても判別出来るように、検査官全員に「怪しい者に近付いたらピーピー言ってしまう術」を掛ける事を申し出てみようと思う。


<第五隊>

 確実にクロである王宮黄騎士団の団長リッカルド・ムバラの捜査と逮捕。

 これは父上が指揮を執り魔法騎士だけで構成されている王宮銀騎士団と黄金騎士団が動く。

 ちなみにどの騎士も魔法は扱うが、魔法騎士言えるのは優れた魔導士でもある騎士という事になるそうだ。父上は魔法にも優れた騎士であるらしい。


 国王からの呼び出しという名目で、通常通りに国王の近衛である黄金騎士団が警護する場に召喚し、外から銀騎士団が包囲しての突入となる、予定。

 こいつはすっごく強いらしいので、特に強い銀騎士団と黄金騎士団と父上で対応するのだそう。そこに強力な魔導士である国王や半エルフの宰相がいれば問題なく確保出来るだろうとのこと。

 …そんなに強いのかと心配になったので、実は昨夜のうちに父上にステイ魔法を伝授してある。


<第六隊>

 隣国であるイヴォール王国のブラックモア家への捜査。

 こちらの国内が片付いて後に、姉テレーシアと隣国の伯爵でもある義兄チャリエス・サコヴィネが、姉独自の配下とサコヴィネ家の騎士団を引き連れて乗り込む予定。

 イヴォール国内での捜査許可は義兄チャリエスと共に、というか主に姉テレーシアが、王に直談判のゴリ押しで取り付ける…らしい。


 『いよいよの場合は、アルが神託をおろしなさい』と言われている。

 もう、本当に力技だな。顎で指示をされ使われる神、それが俺です。でもあれだな、俺じゃなくて精霊王のサーラデアルさんにお願いしようかな。その方が威厳もありそうだしな。神託だと神殿を通したりするわけでしょ?それよりも直に王様のところに出てもらっちゃった方が早いし、良いよね。そうしよう。


 ここでひとつ。

 もし、ブラックモア家に乗り込んだ際に、現場に隣国訪問中のワルノー侯爵が居た場合、捕まえるか泳がすか、何かするかはテレーシアの判断に委ねられる。

 俺の家族がワルノー侯爵と鉢合わせした場合、過剰にやっちまう可能性がないとは言えない。とりあえずは喋れる程度にはしておかなければならないのだ。

 …まあ、いよいよの場合は回復させてから喋らせるという手もあるが、ゴニョゴニョ。


 理想としては、何も知らずブラックモア邸から自領に戻ったワルノー侯爵を、俺と仲間達が穏便に捕獲するか、またはもし王都の屋敷にいた場合は、白騎士団がそのまま確保するかが望ましいかな。


<第七隊>

 俺達だ。俺達はワルノー侯爵領の城の捜査と、城から繋がる地下道、そしてその先にある「隠されている証拠」を探る小隊。

 精霊界でシモーンとサンドゥールが、ここは俺でなければ探れないだろうと言っていた。『おぞましい光景を見ることになるが覚悟をしておけ』と言われた場所だ。


 当初は俺1人で潜入しようと思ったのだが、皆がそれをさせてくれなかった。

 呪によりダンジョン化していて、負の念がかなり強い可能性があり、普通の者では取り込まれる危険性もあると説明したが、それでも1人で行くことはダメだと父上が頑として譲らなかった。

 これまでにも探りを入れた者達がいたが、誰一人として戻って来なかった事も関係するのだろう。


 それだからこそ俺が行くわけなのだが、俺の腕を掴む家族の手が震えていたので、それではと観念し連れていける人選をしたというわけだ。それが俺の仲間の7人。

 

 と言っても、俺の詳細を知っているのはシャノトワ騎士団の3人だけだ。黒騎士団の3人は王命で俺に従うようにと言われている。

 黒騎士3人は何も余計なことは言わないけど、怪しまれている雰囲気は感じています。わかります。

 史朗が、王都で良男(よしお)くん(仮)の救出が完了したら、こちらに向かい合流すると言っているので、総勢8人になると思っている。


 俺はこの作戦会議中にまた良いことを思いついた。

 俺小隊は危険なダンジョンに向かうのだ。念の為に、「状態異常回避」「攻撃魔法反射」「身体強化」「物理攻撃無効化」を付与したペンダントを作ってみたのだ。

 それと爺ちゃんの飴に命の水を纏わせ、ペンダントと飴5粒のセットにして、同行者達に持たせようと。

 1セット作って悦に入っていると、それを見て説明を聞いた史朗がニコニコして言った。


 『そのセットは私も頂けるのでしょうね?』


 『も、もちろんだよ。この1セットは先に渡しておこうと史朗の分で作ったんだから(汗)』


 それを聞いた皆が期待に満ちた眼差しで俺を見るので、「当然最初から全員の分も用意するつもりでしたよ」的な顔で慌てて皆にも複製をして渡した。

 ペンダントはありふれたドッグタグタイプにしてしまったので、母上、姉上、お祖母様には、その時にそれぞれが身につけていたアクセサリーに同様の力を付与した。

 その場にはいないレジーナとミステリオンにも小さめのペンダントをお揃いで作って、翌朝の朝食の時に渡した。大喜びしていたよ、ふふ。


 この神力付与アクセサリーを手にした女性陣が、『美と若々しさアップ』も追加しろ等とあれこれ注文を言い出して面倒臭くなった話はまた後で…。




 話を現在に戻す。


 ワルノー領都の繁華街を抜けた広場に人だかりが出来ていた。何事かと覗いてみると、人々の関心を集めていたのは1人の剣士と2人の従者のようだった。3人ともとても美しいのだ。集まっていた何人かが、『初めて見る役者だ』『これから何か演目をやるらしい』と話している。


 3人のうち、特に人々の心を鷲掴みにしているのは、ひとりの青年剣士だ。艷やかな黒髪と、黒く見えるが光の加減でたまに赤く反射する瞳が神秘的だ。滑らかな白い肌に絹糸の様な黒い髪が映えて美しく、凛とした立ち姿と、静かな中に華やかさを匂い立たせる極上の美丈夫。


 彼等を見た時に俺は思った。『なんか面倒くさい事になりそうだな』と。

 恐らく騎士団長グレゴリーも同じ事を思ったのだろう。俺達は顔を見合わせ無言で頷き、そーっとその場を離れようとした。 


 だが、時既に遅し。 


 黒髪の美しい青年剣士は、俺達が後ろを向いて離れようとした瞬間に気付いたようで、人混みをかき分けて嬉しそうに駆け寄って来た。そして俺の前に回り込み、大きな声で『お待ち申し上げておりました、レ・アラン(我が君)!』と言って傅いた。彼に続いて2人の従者も俺に傅く。


 立っているだけで人だかりが出来る程に、むちゃくちゃ人目を惹いていた美しい青年剣士達が、駆け寄って来てビシッと傅くもんだから、せっかく目立たないよう入領したのに、あっという間に注目の的だ。


 集まっていた人達が『お、いよいよ始まるのか!』『あの黒いのを被ったでかい奴が剣士の主らしいぞ』『何の演目だ?』等と言っている。ああ、見世物ではないので。あああ、そこの人、口笛を吹かないで。


 グレゴリーが騎士達に指示をして集まった人を散らせる。


 『ただの練習だ。上演は後日!』と。


 俺は青年剣士を立ち上がらせ、路地に連れて行き『こんな所で何をしているのか』と小声で聞く。

 青年剣士は、『はい。ダンジョンへの潜入をなさると聞きました。我らであればお役に立てると思い馳せ参じました!』と言う。

 えー。いや、確かに彼等なら負の思念が満ちていても耐性があるから大丈夫かもしれないけど、えー。聞いてないよ。人数にカウントしてないよ。


 このいきなり現れた美しい3人が一体誰なのかと言うと、なんと魔災対本部の本部長と腹心の部下。つまり、魔皇帝とその従者達なのである。


 何故この魔皇帝と俺が知り合っているか。話は作戦会議の翌日の朝に遡る。



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