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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
人間界
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無限複製


 『アルランティアの帰還を祝おう!』


 父上が宣言をし、皆でシャンパンで祝杯をあげた。 


 初めて味わう地球の酒や贈り物を喜び驚き、全員が揃って過ごせるこの日を、ずっと夢に見ていたのだと嬉しそうに涙を流す家族達。 

 人生の正しい状態への修正を受け入れ、懐かしくも新しい感覚で家族と触れ合う嬉しさを感じながら、同時に俺の頭の片隅には、やはり常にロートリングの家族が存在した。


 悪い感覚ではないのだ。どっちも俺の家族だ。ただ、それが重ならずに分かれている事が、どこか理解し難く違和感が拭えなかった。それだけだ。


 皆の希望でワインとシャンパンだけでなく、贈り物の中の飲食物、色とりどりのアイシングで飾られた祝い事用の芸術的なクッキーと、マカロンやチョコレートの詰め合わせボックスを、一番美味しい状態キープで幾つか複製した。

 こちらにはチョコレートは無いらしく、初めて見る黒っぽい小さな塊に『これは食べられるの?』と言っていたが、恐る恐る一粒口に入れ、その途端に全員が虜になったようだ。

 姉テレーシアが婚家にも土産にしたいと言い、義兄まで『5箱、いや10箱お願いします!』と初めて俺に話しかけて来た。 

 

 爺ちゃんは母方の祖父母である前国王や王太后、伯父夫婦である国王夫妻や従妹達にも同様に贈り物を用意してくれていた。黄色い包みが王家用だったのだ。

 『さすがはフリードリヒ皇帝陛下。細やかなお心遣い痛み入る』と父上が言い、『ワインとシャンパンも一緒にお裾分けをしましょうね』と母上が微笑む。


 王家への献上ではなくお裾分け。正確には俺関連なので「下賜(かし)」となるそうだが、ここでそこまで言わずとも良かろうとお祖父様が言う。 


 下賜か…。


 俺は、ガレオ村でおばばが言った「菓子を下賜する」というナイスなダジャレを思い出した。楽しかったなあ。同じセンスを持つ人との出会いはとても心が満たされる。

 「あの時のしわくちゃで小さいおばばはもう居ないんだ」と思う。スラッとした美人になっちゃったもんな。なんかちょっと寂しいや。  


 爺ちゃんからの皆への贈り物開封の儀は、それはそれは盛り上がったのだが今は割愛する。後でまたゆっくりと記録しよう。


 残る水色の包みは何が入っていたかというと、これから家族と共に俺の側で仕える事になる皆への贈り物だった。

 史朗がカードを読み上げた時には、家族達だけではなく、その場にいた執事、家政婦長を始め侍女や従僕達、そして護衛騎士達が驚いていた。


 『私共にまで…でございますか?』と、恐縮というよりも驚愕して震えている。


 そんなに驚いちゃうのか。爺ちゃんは国外に出た時なんかは、よく家の者達みんなに行き渡るようにお土産を手配していたし、特に働きの良い者がいれば覚えていて別にご褒美をあげていたよ。

 こっちは身分制度が強いから、そういうのはよっぽどの功績を上げない限りは有り得ないのか。


 『フリードリヒ様は何と御心が広く公正な御方か…』と父上が呟き、それから皆に言う。


 『お前達、フリードリヒ陛下のお気持ちを無駄にしてはならぬ。有り難く頂きなさい。そして、アルランティア様にしっかりとお仕えするのだ』


 その言葉に一同が頭を下げた。


 『私もフリードリヒ様に習う事としよう。この後の国賊の掃除が済み、アルランティアの帰還、即ちグラウギリスへの神の降臨を公にする時には、この城の者全てに、いや領地の者全てにワインとシャンパンを振る舞う事としよう。国中に祝福の花を降らせよう!』


 父上が高らかに言い誓う。その時を思い描き、そこに居た全員の心が一つとなった。…俺と史朗を除いては。 


 「良い話っぽいけど、ワインとシャンパン増やすのも、花降らすのもお前だな」


 「だよね…。まあ、大した手間じゃないから別に良いけど」


 「軽く手をふるだけの簡単なお仕事だもんな」


 「爺ちゃんに色んな種類のワインを用意してもらおうかな…」


 「それは良いな。俺が嬉しい。あとさ、お前と子供達用にコーラとかもな」 


 「…はい」



 俺がこの街に戻って来ている事は、既に襲撃の黒幕達には知られている。暗殺が失敗したこともわかっているだろう。だが、俺がどの様な容姿であるか、そして城に戻っている事はバレてはいない。

 城の者達も現場にいた少数を除いては、大きな黒い布が掛けられた丸い物が運び込まれた事しか知らず、中身が俺だった事は知られていない。


 これから数日の間、いや数週間かもしれない、ワルノー達を捕らえるまで、俺は城の客人として顔を隠して過ごす事になる。

 アンティアン(蟻人)の扮装が基本だが、皆が口を揃えて『黒く長いフード付き外套も羽織るべきだ』と言うので、それも常に身につける事にする。


 そんなの死神みたいで怪しさ満点だが、確かに俺がアンティアン(蟻人)の扮装で街に戻ったことは暗殺者達にすら知られているわけだから、更に隠す方が得策だろう。

 そう言うと、史朗が「そういう事じゃねえんだよな…」と呟いたような気がするが、まあ、気の所為だろう。

 しばらくは史朗が俺の従者という事で、身の回りの事もしながら行動を共にする。史朗だけでは足りないところは侍女が2名付くことになった。


 1人は、俺が生まれてから誘拐されるまで俺の専属だった人、つまり「ばあや」だ。騎士団の女騎士を付けるはずだったが、『若君のお世話をするのに、わたくしよりも相応しい者がいるとは思えませんっ!!』と引かなかったらしい。

 多分、あの恰幅のいい、発言が奈々恵っぽいおばさんだろうなと思っていたら当たり。涙でぐちゃぐちゃになったままこちらを見て頷いていたので、俺も微笑んで頷いた。そしたらもっとぐちゃぐちゃになったので、あとで抱きしめようと思う。


 もう1人は、なんとスザナだ。事情をよく知っているという事と、作戦中に騎士たちとの繋も出来るかららしい。


 その他、今回この場にいるのは、事情を知らされている信用のおける使用人達だという。後でシャノトワ騎士団の団長とバーティスが来るそうだ。


 史朗が『ああ、ワイン美味いなあ』と幸せそうに言いながら、『騎士団長は子供の頃のお前を知ってるらしいな。それならまだいいけどさ、バーティスは素顔のお前を見たらびっくりするだろうな。うしし』と笑う。

 捜査で行動を共にし仲良しになったようで、『驚く顔が早く見たい』とワクワクしているらしい。


 ずっとこの部屋に居る者達は、これまでの時間でだいぶ慣れたと思うが、それでもこちらをまともに見ようとする者はいなかった。

 「俺がイシルディン神の絵姿と同じ容貌なので、どうにも緊張が解けないのだろう」と考察する。繭の状態を見ている者達もいるだろうし、人ならぬ存在と感じ恐れているのかと思う。


 程なく騎士団長グレゴリー・グレゴリウスとバーティス・サガンがやって来た。

 俺が金色に発光する繭になっていたのは知っているが、何故そうなっていたのかは知らない2人は、作戦会議を「公爵家の方々と居間で?」と疑問に思いながら来たようだ。

 畏まりながら入室し、『若君のご無事のご帰還をお慶び申し上げます』と挨拶をしてから顔を上げ、俺と目が合うと目も口も開けたまま固まった。 

 やはり、俺がイシルディン神と同じ容貌なので…以下略。


 面倒臭いから放っておいて話を始めちゃおうっと。

 父上に頷くと、父上が話し始める。


 『これで全員だな。グレゴリーとバーティスもこちらに』


 そう言われて意識が戻った騎士団長とバーティスが、ギクシャクしながら執事達の隣に並ぶ。

 

 『これから話すことはこの場にいる者達だけが知る事である。

 まず、アルランティアが無事に帰還している事は極秘事項だ。既に一部の衛兵から噂が出ている可能性はあるので、城内外で耳にし訊かれる事があるかもしれないが、知らないふりをするように。

 また、しばらくの間、アルランティアは顔を隠し城の客人のという事で過ごす。黒いフードを被って顔も身体も全体が見えないようにするが、覗き込むとアンティアン(蟻人)として目だけが七色に反射するので慣れておくように。

 誰かに聞かれてもアンティアン(蟻人)だという必要はない。知らされていないと答えなさい。

 そして、この場にいる者同士での連絡事項以外は話題には出さないことだ。連絡事項を伝える際にも周囲には気を配り、この場にいない者達には聞かれないように気をつけるのだ。


 さて、ここからは特に気をつけて聞いて欲しい。

 いずれは公になることなのだが、今後の事もあるのでお前達には先に伝えておく。既に気付いている者もいるとは思う。こちらにおいでになるのは我が息子アルランティアであると同時に、イシルディン神の御力を受け継いだ現人神であらせられる』


 既に薄っすら聞いていた使用人達はゴクリと喉をならしたものの、動揺は少なかった(多分)。

 だが、そこまでは知らされていなかった騎士団長とバーティスは、驚きを通り越して真っ白になっているように見えた。頭のネジが数本すっ飛んだような感じ。それを見ている史朗が楽しそうだ。


 『先日、街の宿で刺客に襲われシロウ殿がその者達を捕らえた事は知っているだろう。シロウ殿と共に宿にいらしたアルランティア様は、襲撃の直前に精霊界に移行なさっていたのだ。

 こちらの世界に帰還された際には、見た者もいると思うが、金色に光る繭のようになり、その強大な神力で人の世界に影響を及ぼし過ぎぬようにと、御力を調整して下さっていたのだ。

 調整がお済みになり、本日、人の姿で我らの前に御降臨下さった。300年ぶりにこの世界に神がお戻りになったということだ』


 騎士団長とバーティスが神妙な顔になり、知らされている事の重大さを受け止めようと葛藤しているようだ。

 2人とも大丈夫だよ。俺も父上の話を聞いていて、思っていたよりも重大だなと噛み締めている所だから。300年ぶりの神の降臨って、なんかすごくない?自分の事ではあるんだけど、でも客観的に「えー、本当に?」って感じじゃない?


 父上の話は続く。


 『アルランティア様がこの世界へのご帰還を公になさるのは、我らの働きにより、悪事を働く組織を壊滅させ、誘拐や暗殺を指示した黒幕とその一味を捕らえた時である。一刻も早く奴らを捕らえる事が、我が領だけではなく、この国、ひいてはこの世界全ての為になると知っておくように。

 尚、これからの作戦については王宮の騎士団とも共同で動く事もある。その都度指示に従い動いて欲しい』 


 全員が神妙な表情で頷く。

 

 ここで俺はひとつ提案をする。


 『父上、皆も口外をしてはならない事はわかっているでしょう。ただ不測の事態が無いとは言えない。部外者が聞いている、または探っている場合はこの件について話せなくなるように術をかけておきましょう』


 『察知と合わせた口止めと言うことでございますか?』

 

 俺が何者であるかを皆に告げてあるので、父上は俺に敬語を使う。俺も偉そうに話した方が良いのかな。ま、いいか。


 『ええ、誰もいないと思っても、誰かがたまたま、またはこっそり聞いている可能性もある。そういう時には本人達が気が付いていなくても、この件について話せなくなり、変な歌を歌ってしまうようにします。そうすれば、周囲に探っている者がいる場合も察知しやすいでしょう』


 『な、なるほど。急に自分が変な歌を歌いだしたら、即ち口を(つぐ)むべしという事ですな…』


 『ええ。更に敵方の者が近くにいる所では小さく「ピー」と言ってしまう様にもしておきましょう。敵を見つけやすい』 


 我ながらいい考えだと思う。

 恐ろしい術…という言葉がいくつか聞こえた気がするが、気にせず俺はすぐにこの場の全員に術をかけた。家族も含めてだ。


 史朗が「呪いレベルだな…お前、シャンパンで酔ってるんだろう」と呟いたが無視だ。


 全員に口止めが完了した所で、ここからは犯罪グループ撲滅、いや壊滅作戦会議だ。この作戦には関わらない使用人達と子供達は下がらせる。


 シャンパンでの乾杯で、特別に父上の許可が降りて初めての飲酒を経験したレジーナとミステリオンは、すっかり大人の気分で気取ってグラスを傾けていた。大人の仲間入りをしたので、当然この後の作戦会議にも出るつもりでいたようだが、それは却下だ。色々と子供には聞かせたくない話もあるからね。

 いずれにしても、既に酔って眠くなっていた様なので、贈り物達と共に円満退場をさせた。


 実は、危うく俺も退場組になりそうだったのだが、そこは頑張って持ちこたえた。俺が退場してしまっては会議にならない。

 グラスをもらって清めの水を満たして飲むと頭がすっきりした。アルコール分が抜けるらしい。残っているシャンパンは飲み切りたいので、清めの水と交互に飲むことにした。


 「そこまでして飲むのかよ…」と史朗に笑われたが気にしない。本当はコーヒーが飲みたいんだけど、それはもう少し後にしよう。


 残ったのは公爵家の大人達と史朗、騎士団長、バーティス、護衛騎士など、基本的に現場で動く者達のみ。執事も共に残っていてお茶を出したり、ワインを注いだりしている。

 史朗が「やっぱり入ってた。これつまみにしたら?ほれ」とザックからタタミイワシを発掘し俺に渡す。喜んだ俺は小さい火を出し軽く炙ってからパリパリとつまんだ。ホントこれ好き(ハート)。

 その様子を見ていた姉テレーシアが片目を細めた。

 

 『アル、今青い炎を使ったわね。随分と軽々とやってくれること…』


 そう言って自分も掌に炎を出し、温度を上げて行って白い炎にし、そこから少し時間がかかったが、青い火を出してから俺の方を見てニヤリと笑う。

 姉さん、対抗意識ですか?と思っていると、『シロウ、わたくしにもその四角い紙の様な食べ物を』と言ってタタミイワシを炙り出した。


 ちょっと、やめてよ。史朗もなんで渡すんだよ。炙り加減の指導なんてしなくていいよ。あ、父上まで火を出して炙っている。お祖母様も!

 1袋に3枚しか入ってないんだよ!あと4袋しかないのに皆でつまみにしたら…、あ、待って父上、それは下賜しないで!

 父上が炙ったものを執事に渡し、一口サイズに割ってこの場にいる者達に配らせている。やめて、無くなっちゃうよ!俺まだ1枚しか炙ってないのに!!

 ダメだ、このままでは1枚しか食べないうちにタタミイワシが終わってしまう!いやだ!


 気付いた時には俺は残っていた1袋を掴んで叫んでいた!


 『無限複製!』 


 酒が入っていた上に焦った俺は、欲望のままに新たな術を編み出したようだ。


 無限複製。

 この術がかかった物は、使う事により無限に複製され続け、決して無くなることがない。使わない限りは増えないので、在庫が溢れて大変な事になる心配はない。

 一袋3枚入りのタタミイワシなら、常に3枚入っている状態がキープされるというわけだ。


 俺は今、無限に複製され続けるタタミイワシをこの世に誕生させた。


 「お前、またワンランクアップしたな!」


 史朗が面白がっている。


 まあいい。タタミイワシに使う分には、俺の心が安らかになるという効果がある。悪い術ではない。よし、皆、どんどん炙って食べると良いよ。 


 ちなみに、俺が使う力は魔法と言っても問題はないが、厳密には神力と言った方が正しいんだろう。こだわり屋の俺としては考えた末に「術」と言う事にした。

 自分だけなら気にならないんだが、始祖様と同じ力ということ、そしてあの俺銀河になった時の神聖な感覚があるから、魔法(マジック)というのがちょっと違う気がしてしまう。


 神力なので、うっかりすると一袋3枚入りのタタミイワシが生命を持ってしまう可能性もあった。気をつけなければならない。

 今ならわかるが、始祖様(イシルディン神)が生み出したという、触れた者の情報を正確に読み取るiPadに似た形の魔法生物、あれは魔道具を作ろうとしてうっかりやっちまった系だ。ふふふ、始祖様も意外とうっかりさんなようだ。

 

 さて、安心してつまみを楽しめる状況にもなり、ついでにコーヒーも淹れて(くつろ)いだ。


 それでは話を始めよう。


 まず、俺が誘拐された時の記憶を話し、あの時の状況を明らかにする。黒幕が誰かを明確にするのだ。

 そして悪事を謀る犯罪者、それに組する者達を捕らえる為の作戦を話し合うのだ。 


  

 

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[良い点] 尽きることのない食料を生み出す奇跡の袋を酒に酔っぱらって生み出す系の神様
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