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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
人間界
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地球で


 「旦那様、シロウから動画が届いているようです。すぐご覧になりますか?」


 「ああ、ありがとう。アラン、あちらの様子が届いたようだぞ」


 「はーい」


 セバスが部下から受け取ったパソコンを持って来てテーブルに置く。爺ちゃんが、健康水4種(癒しの水、聖なる水、命の水、清めの水)のボトル詰めをしていた俺を呼ぶ。


 「わからなくならないようにラベル付けておいてね」とメイド達に言って、俺は爺ちゃんの隣に座る。奈々恵がコーヒーとクッキーをこちらに持って来てくれる。



 …というわけで、俺は今地球に帰って来ています。


 いきなり居間に現れたので、秋田犬のマサルとマサコに激しく吠えられた。愛犬の塩対応に軽くショックを受けていると、俺に気付いた爺ちゃんが来て「アランか?!」と俺を抱き締めた。


 それが今日の昼過ぎの事。もう7〜8時間前の事だ。

 そこに遡って話そう。


 ー ・ ー ・ ー ・ ー ・ ー

 「やっと来たか。待っていたぞ…!」


 「ずっと連絡出来なくてごめんなさい…」


 俺も爺ちゃんを抱きしめた。爺ちゃんの身体が震えていた。久しぶりに抱きしめた爺ちゃんは何だか小さくなってしまったようで、点滴をしていた時の姿を思い出して、心配を掛けてばかりでとても申し訳ない気持ちになった。


 「わかっている、大丈夫だぞ」と言いながら俺の頭を撫で、セバスがすぐに持って来た飴をいつものように俺の口に入れてくれる。爺ちゃんだってセバスだって、本当はもう俺が飴を貰って喜ぶような子供ではないとわかっているはずだ。でもやっぱり甘酸っぱいいつもの味は俺を安心させる。 

 

 いつもの様にコーヒーや黒オリーブたっぷりのピザ、ニシンの酢漬け、ミートボールがテーブルに並べられ、宿で食事をしたばかりで腹はいっぱいだったが、取り敢えず一口ずつ食べる。そして動画で報告した事も含め、早口であれこれ話した。


 いつの間にか補給物資の詰まったザックをセバスに背負わされていた。「いつ消えるかわからないから」と、俺が話している間に装着されていようだ。

 ザックには2つのでかいサファイアブルーのスーツケースがチェーンで繋いであった。

 「…今回の補給物資は量がすごいね」と言うと、スーツケースには俺の家族達へのお土産が入っているのだという。


 爺ちゃんが言うには、このスーツケースの青は俺の部屋に使ってある青と同じ色だと言う。確かにそうだ。馴染みのある青で、俺の持ち物に多く使われている。実はこの青は、俺がこの家に来た時に着ていた服に丁寧に刺繍されていた模様の色で、それをセバスが部屋を整える時に多く取り入れたのだと。


 「シロの動画で知ったが、どうやらお前の家を表す色らしい。なので、土産を入れるスーツケースをこの色にしてみたのだ」


 そうだったのか…。それは初めて知った。でも、だからこの家で自分の部屋を持った時に「帰って来た」と思ったんだ。

 「お土産までありがとう」とお礼を言って、他にも俺の知らない話を聞く。俺が精霊界に行っている間に、史朗の動画や写真の報告で俺よりも家族やあちらの暮らしに詳しくなっている爺ちゃん達だった。


 そうして話しながら30分が経ち1時間が経ち、更に2時間が経った。


 いつもならとっくに消えているはずの俺が、一向に消える気配がない。何となく全員が、いつもとは違った緊張を感じ始めていた。長く居られるのは嬉しいのだが、同時にいつ消える時が来るかというドキドキハラハラも長く続く。


 コーヒーではない何かが飲みたいと言ってグレープフルーツジュースが出された時、俺は背負っていたザックをちょっとだけ下ろそうとした。その瞬間、将軍セバスよりも厳しい叱咤が大将軍奈々恵から放たれた。 

 

 「ちゃんと背負っていなさい!」


 「はいっ」


 「一瞬の気の緩みが全てを台無しにする事を忘れてはいけませんよっ」


 「は、はいっ」 


 俺は慌てておろしかけていたザックを背負い直した。その直後、爺ちゃんとセバスが笑い出した。「確かに、作戦中に気を抜く事は死を意味しますからな」とセバスが言うので、「そうか、今は作戦中か」と俺も笑う。


 奈々恵が「私は何も間違ったことは言っていませんよ」とツンとする。その場にいたセバスの部下達は、噂の大将軍の降臨を目の当たりにして緊張した顔で固まっている。メイド達は慣れているのだろう、(こら)えてはいるが笑っている。


 この感じ、やっぱり家だなと思う。ちょっとホッとした俺は、これから再会をするであろう家族に対しての不安と緊張を爺ちゃん達に吐露した。


 「もう少ししたら迎えに来るらしいんだけど、どうしよう。俺、どうしたらいい?」


 どうやら俺は酷く情けない顔をしていたらしい。爺ちゃんが笑いながら、「そうだな、どうしたら良いかな。なあ、セバス」とセバスに振る。 


 「そうですね、まず相手は敵ではありませんからね、構える必要はありません。無理に上手く話そうとせず、逃げようとせず、腹を据えてしっかり向かい合う事かと存じますよ」


 「そうか…俺ちょっと逃げ出したい気になってたから、逃げないで向かい合ってみるよ。ありがと」

 

 「どうしたら良いかなんて事は考えるな。どう反応してもそれが正解だ。大丈夫だ。お前は私の自慢の孫で、我が家の自慢の子だからな」 


 俺は自慢の孫。


 「そうですよ。アラン様は自分らしくしてれば良いんです。私達がしっかりお守りして育て上げたんですから、そのままで良いのです!こんなに完璧な子はいません。自信を持つのです。そして、いいですか、お会いしたらお母様を優しく抱きしめてあげるのですよ。もうお母様よりもずっと大きくなっているはずですからね」  


 優しく抱きしめる。そうか、よし。 


 「あとは、おとなしく可愛がられれば良いのです」


 おとなしく可愛がられる。

 史朗も言ってたな、流れに任せるしか無いだろうと。 


 「そうだ、爺ちゃん、体調は大丈夫なの?俺さ、精霊界に居た時に一回帰って来たんだよ」 


 「ああ、言っていたな。きっとお前が来た時は私が貧血で倒れた時だろう。軽い貧血を起こしただけだからな、もう心配はないぞ。検査もしたが健康そのものだ。お前が来てそばにいたんだと知って嬉しかったよ」 


 「大丈夫なら良かったよ。大事にしてね」


 俺はシーラ達の事を伝えようかと思ったが、何となく今は止めておこうと思った。


 「ありがとう。爺ちゃんは頑丈だからな、大丈夫だ。精霊界はどうだったんだ?ご先祖様に会ったのだろう?」 


 「うん、精霊界は天地がなくて戸惑った。ご先祖様は知的な曾お祖父さんと脳筋な6代前のお祖父さんだった。でも見た目が若いから不思議だったよ。あと、俺にそっくりな神様にも会った。俺はその神様の一部が人の身体に入って生まれたって事だから、俺が神様に似てるというのが正解なんだけどね」 


 「そうか、お前は神様の一部か」


 「大きな意味では誰でも神様の一部なんだって。ただ俺の場合はちょっとだけ特殊だけど」


 そんな話をしているうちに、やはり俺は消えることも無く夕食の時間になった。家で爺ちゃんと普通に晩餐を楽しむなんて不思議ではあるが嬉しい事だ。

 本当は夕食前にちゃんと着替えたかったんだが、そうしている間に消えてしまったらいけないと、出来るだけ爺ちゃんの側を離れないようにした。


 奈々恵は戻って来た日常の様子に感極まり、必死で涙を堪えていたようだ。泣くまいと目を大きく見開いてまばたきをしている。そして、「こちらはアラン様がお好きな子牛フィレ肉のグリエでございます」等と給仕をしながら、見開いた目で凝視するのでちょっと怖かった。


 久しぶりの俺の帰宅を撮影班に撮らせ、奈々恵やセバスがやたらと俺の後ろに回り込んで一緒に写ろうとしている。爺ちゃんと俺は特に気にもせず食事を続けた。

 料理長が大喜びで腕を振るい、俺の好物ばかりが出て来る。炎の竜巻の話をしたからだと思うが、デザートはストロベリーアイスだった。


 家で食べる食事は全部美味い。美味くて胸が詰まった。何も考えずに、これが当たり前だと思って過ごしていた頃が懐かしいと思った。


 食事の後は、爺ちゃんと俺に付いてぞろぞろと皆で居間に移動しコーヒーを飲んだ。爺ちゃんが嬉しそうに「食事を最後まで楽しめてよかったな」と言う。やっぱりいつ消えるかという緊張が無くなることはないのだ。  


 俺の髪がとんでもなく長くなっているので、奈々恵が数箇所縛って纏めながら「座ると完全に床にとぐろを巻く感じですね。魔法で浮かせられないんですか?」と言った。

 とぐろを巻く髪の持ち主は嫌だから、どうせすぐに戻るらしいし肩の辺りで切ってはどうかと言うと、再び奈々恵大将軍が降臨してぶち怒られる。

 「ごめんなさい」と言いながら、地球で魔法が使えるのかどうかわからないが、ひとつやってみようと風を起こして髪を少し浮かせてみた。果たして髪は浮いた。ふよふよと床の10cm程上でとぐろを巻いている。


 「おお!」


 そうだ、俺はこっちで健康水を出せるのか試したかったんだ!そう思って、爺ちゃんのカップに癒しの水を出してみる。

 

 パァッと手が明るくなって爺ちゃんのカップに水が溜まる。こんな風に手が明るくなるのは初めてだな。地球だからなのか?


 「これは癒しの水なんだけど、どうかな?」 


 「どれ、飲んでみるか」


 そう言って爺ちゃんが一口飲む。皆でじっと様子を伺う。


 「…ほう、これは」


 「どう?」


 ぽわんと少しだけ爺ちゃんの血色が良くなったような気がする。 


 「少し甘みのある美味い水だな。すっと馴染んで、なんだか嬉しい気持ちが身体を巡るようだぞ。それに、まるで電気をつけたかのように自分の周りが明るくなった感じだ」


 そう言って爺ちゃんが立ち上がる。


 「首や肩、腰が楽だな。これは素晴らしい。この状態がどれくらい持つのかわからんが、身体が軽くて若返ったような気がする」 


 「ほんと?良かった。他にもあるんだ。今のが癒しの水で、優しいんだけど多分一番効果が深くて強いんだと思う。あとは聖なる水と命の水がある。他の国のエルフの居る所に清めの水ってのがあるらしいけど、それも俺出せるんだよ。こないだ地球にもあげたんだ」 


 奈々恵が「用意しておいたボトルを全部持っていらっしゃい」とメイド達に言っている。


 「飲むのは一口で大丈夫だと思うから、皆で少しずつ飲んでね」と言って、ついでに奈々恵に「聖なる水は顔につけると美肌に良いよ」と教えた。すると、ピクッとした次の瞬間に、「少々お待ちくださいませ」と言って足早に部屋を出ていった。そしてすぐにハァハァと息を切らせて戻って来た。


 絶対廊下を走って来たよね。俺には廊下を走ってはいけませんと厳しく言っていたくせに…と思っていると、奈々恵が2リットルの空ペットボトルを俺に差し出した。


 「アラン様、こちらに聖なる水を!満タンで!」


 「あ、はい」 


 それを見て「おまえ…」とセバスが残念そうな顔をする。爺ちゃんが笑いながら「セバスも自分用に一本持っておきなさい。アラン、セバスには何が良いんだ?」と俺に聞く。 


 「セバスは命の水がいいよ。体力回復とパワーアップに使えると思う」 


 「…そうですか。それでは、有り難く頂戴致します。ではボトルを持って参ります」と言って、セバスも足早に部屋を出て行き、そしてすぐに戻って来た。

 俺の前に20リットルの空のボトルが差し出される。東棟のセバス部隊控室のウォーターサーバーの空きボトルを持って来たようだ。

 持って来てから流石にでか過ぎたと思ったようで、少し頬を赤らめながら意味不明な事を言う。


 「わたくし、この程度でしたら片手で振り回せますので」

 

 「…そうだね。このくらいあった方が良いよね」


 そう言って俺は命の水を満タンにする。それを見ていた奈々恵がチッと舌打ちをして「その手があったか」と呟いた。いい夫婦だなと思う。


 メイドが3人で綺麗な青いボトルを沢山カートに乗せて運んで来た。それを4つのグループに分けて、そして冒頭の俺のボトル詰め作業となったわけだ。 

 

 一気に満たして行ったのですぐに作業は完了した。ここで史朗からの動画が届いたというわけだ。

 ボトルのラベル貼りは任せて、俺は爺ちゃんの隣に座り史朗から送られて来たという動画を見る。



 再生された映像を見て俺は言った。


 「なんじゃこりゃ」  



  

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