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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
精霊界
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水鏡 


 シモーンは水鏡を再生しながら『全てを見ている時間はないからな、かいつまんで必要な所だけを映すぞ』と言った。

 『まずはお前の家族と従者をな』と。


 そして人間界の情報と共に、俺は自分の家族の現在を見る。


 宿に俺を迎えに来た両親の姿が映る。夢で見たままの、そして花を撒いた時に見たままの優しそうな人達。緊張した表情の2人は、やっと会えるとやって来たのに俺の姿がなかった事で落胆していた。そして、精霊界に行ったと聞いて、10年待ったのだから、もう1〜2週間くらい待とうと言っていた。


 史朗を伴って城に戻る途中も平民である史朗に横柄な態度は取らず、大立ち回りをしたばかりで落ち着かない様子を気遣いながら、どこで俺と知り合ったのか、俺がどのように暮らしていたのかを静かに訪ね、まとまらないままに話す史朗の話を聞いていた。


 城に着いて、迎えに出て来た祖父母や、寝ないで待っていたらしい妹と弟に経緯を話して史朗を紹介した。それから、部屋を用意するがすぐ休みたいか、何か食事や飲み物は必要ないかと尋ねた。

 史朗が「どうも落ち着かないので、良ければもう少しアランの話をしましょうか」と言い、皆が是非聞かせて欲しいと頼む。 


 祖父母は俺が生まれた時の映像で見た通りとても上品な2人だった。お年寄りなのかも知れないが、それ程おじいさんとかおばあさんという印象ではない。史朗を訝しんでいたようだったが、お父さんが何かを言うと「そうか」と言って黙った。


 初めてちゃんと見る妹と弟は、ニルスで花を撒いた時に城の庭に出て来た2人だ。あの時は女の子の方が少し大きいのかと思っていたが、こうして見ると同じ位なのかな。もしかすると双子?


 『双子ではないぞ。一つ違いだ。11才と10才だったかな。妹がレジーナ、末っ子がミステリオンだ』


 シモーンが教えてくれた。…そうか、俺はお兄ちゃんなんだな。

 

 場面が変わる。

 これは城の居間だろうか。何となく覚えているような気もするが、気のせいかも知れないと思う。皆いるのに姉のテレーシアの姿がないようだ。不在なのか?

 史朗が見たことのない服に着替えている。なんかキラキラした衣装だ。客人用の服を借りたのかな。コスプレで日常とは違う格好をするからなのか、史朗は初めての衣装でも雰囲気を作って着こなしてしまう。服に負けるという事がない。この衣装もまるで最初から史朗の物だったみたいだ。…ちょっと大きいけど。


 座って飲み物を一口飲んで、そして『子供の頃の事は俺もアランに聞いただけですが』と前置きをして史朗が話し始める。

 行方不明だった間に俺がどんな所でどう育ったのかをかいつまんで話している。環境について雰囲気を伝える前に、爺ちゃんがどれだけすごい人なのかを伝えようと力が入っているようだ。元々王家の血筋の人で、没落した家を一代で再興した人だと。多くの人に手を貸し生きる道を示し助け、やがて己の王国を築き上げたのだと。王侯のような人達の頂点に立つ皇帝のようになった人で…と言っている。間違ってはいないが、微妙に誤解を生んでいないか。


 俺と知り合ってから招待されて家を訪れたら立派な城だったので驚いたとか。確かにあの時驚いてたし、うちは城と言えば城だけど、こうして見ていても、聞いている皆の中で、俺が「異世界の皇帝の元で帝国の跡取りとて育てられた」という方向に理解を進めている事がわかる。

 大分話が盛って受け止められている感はあるし、俺が皇太子って辺りは笑えるけど…まあいいか。そんなもんだと言えば確かにそんなもんだしな。


 それよりも、異世界に飛ばされていたと聞いて半信半疑な表情だった皆が、どこで育ったにせよ辛い思いをしていたのではないと知り安堵する様子と、それからの史朗の話で感動し、口々に爺ちゃんに感謝を述べ始めたのは悪くはない。

 安心してくれたなら良かったし、本当に俺がこうして生きているのは爺ちゃんのお陰なんだから。ちょっと話はおかしくなってるけど、解ってもらえたのは嬉しい。

 

 あの執事とかメイドは俺の子供の頃を知っているのかな?えらく感激して泣いている。特にメイドの方が「やはり若様の高貴さはいずれの世界でも…」とか言ってて、なんか奈々恵っぽいニオイがする。


 やがて弟が眠そうになって来る。頑張って起きていようとしてるのがわかるが、その様子を見てお母さんが大分長く話していたと気付いたようだ。そして今夜は話を切り上げましょうと提案する。『シロウ様もお疲れでしょうから、今日はもう休んでいただきましょう』と。

 そうだ。興奮していて落ち着かないとはいえ、疲れていないはずがない。やっぱり横になった方が良いよ。

 史朗も『ありがとうございます。今日は休ませて頂いて、明日また写真…ええと、絵姿をご覧にいれながらお話しましょう』と約束していた。


 お父さんとお祖父さん、それとお祖母さんは、それから休むでもなく捕らえた刺客の様子を見に牢の方に行ったようだ。お母さんは妹と弟を寝かせるんだろうな。


 史朗が部屋に案内されて一人になってすぐに、スマホを出して爺ちゃん達に動画で報告をしようとしている。話し出した史朗は、まず爺ちゃん達に俺は無事だと伝えてくれていた。俺が戻ったら連絡をするから大丈夫だと。安心して待っていれば良いと。


 そして、その後に話された内容を聞いて俺は赤面した。史朗はほぼ全部の俺の独り言を聞いていたんじゃないか。恥ずかしいぞ。後半ちょっとだけ聞こえたみたいな事を言ってたのに。 


 でも、史朗が時々黙り込んでしまった理由や、エルフの里からずっと、俺の出生の話になると記憶が飛ぶようになった理由を知ってショックだった。俺は何も気付いてなかった。自分の事でいっぱいで、史朗もずっと不安で怖かったんだと思いもしなかった。

 いつも飄々と笑っていたから、史朗は楽しんでいるんだと思っていた。不安で怖いのは自分だけだと思っていたんだ。ごめん、史朗。ごめん…。


 刺客の話になり、俺が意識を無くしていた時に、シモーンとサンドゥールが史朗に警告をしてくれていたと知り、俺は2人にお礼を言った。『言わなくてもあの者であれば心配はなかったであろうよ』とサンドゥールが笑う。

 それは違うよ。やっぱり事前に教えてくれたのは有り難い。知っているのと知らないのとでは心構えが違う。動きも全く違ってくるはずだ。そして、その少しの差が明暗を分けていたかもしれないんだ。  


 史朗がお父さん達と協力して黒幕を突き止めると言った所で場面が変わる。


 言葉の通り捜査に加わって捕らえた刺客の尋問に一役買ったり、街に出て情報を集めている史朗の様子が映る。街ではバーティスも一緒だ。スザナと文官が他の騎士や城との連絡係をしているようだ。

 あ、史朗達を見送ったスザナと文官が手を繋いで寄り添った。何だか良い感じだぞ。ほう、文官は中々積極的なようだ。あ、場面が変わってしまった。おしい…。いや、そうじゃない。俺はそういう覗きをしているのではないのだ。

 

 豪華な部屋が映っている。そこに王様とお父さんがいる。そうか、お父さんが王宮に来たんだな。

 やはりここでも刺客は俺を誘拐した者が送ったのだろうと話している。つまり、黒幕の正体はワルノー侯爵だとわかっているという事だ。サンドゥールに良く似た王様(俺の伯父さん)もお父さんも、そして宰相の人も証拠が無いのが悔しいと言っている。


 そういえば、あの宰相の人ってネッコが言っていた息子のライアンさんなんじゃないか?あれだ、子供の俺を抱き上げて俺が伯父さんにそっくりだと言った人だ。なんか、ここの皆のやり取りの様子を見ていると、優しげに俺に伯父さんにそっくりだと言ったのは、やっぱり特に褒めたわけではなかったんじゃないか?


 『あの子も君も、口を尖らせて拗ねた顔をするだろう?その顔がそっくりなのだよ』

 そう言ってサンドゥール、いや、曾祖父さんが笑う。似てるってそこかよ…。


 宰相のライアンさんが、俺の身元が知られた経緯を言い当てた。さすがだ。後でネッコに教えてあげよう。

 王様の命令で、すぐに入管(イミグレ)のあの日の当番が調べられる事になった。お父さんも行こうとして止められている。


 しかし、入管(イミグレ)の時に気づかれたとして、気付いた間者はどうやってあんなに迅速に黒幕に繋ぎを付けられたんだろう。着いた日の夜に襲ってくるなんて、まるで準備でもしていたかのような素早さじゃないか。 


 『それはな、シロウとやらがこの後に突き止めるのだが、間者めは他の当番達にはシャノトワ城に急ぎ知らせに行くと偽って、飛竜に乗りワルノー侯爵領まで飛んだのだ。

 ワルノーは外国に出向いていて留守だったが、城内の転移ポートを使ってワルノーに書状を送った。そして指示を受けて行動に出たのだ』


 それじゃワルノー侯爵自身はあの日は国内にはいなかったということか。それは黒幕として繋げるのは難しいな。言い逃れが出来そうな状況だ。やはり決定的な証拠が必要だな。その間者を捕まえられれば…。


 『それは叶わぬな。その間者は既に始末されておる。飛竜でグワエウに戻り、ワルノーに送られた刺客が公式の転送ポートからグワエウの街に入るのを手助けした。同僚には馴染みの業者が頼んだ物を運んで来たと言って通用口に連れて行き、そこからこっそりと街に入れたのだ。それからすぐにその刺客達に口封じされたのよ。そやつが生きていて万が一にも捕まっては困るという事だろうが…』


 それじゃ刺客達がワルノー領から来た事は記録に残っていないのか。


 『ワルノーめは実に気持ちの悪い奴だ。お前も見ればわかるだろうが、あやつは身に纏う存在感が気持ちが悪い。恐らく根底から狂っておるのだろう。そうとしかと思えぬ』 


 『同感だ。あやつは更生の余地がない。私利私欲に(まみ)れたなどという生ぬるいものではない。自分以外は家族であろうと、どうなっても気にかけぬような男よ。悪事に手を貸す妻や長男夫婦も、同調しなければ生き伸びられなかったのやもしれん。だが、奴と共に悪事に関わって笑っている事は変わらぬ。やはり更生は不可能であろう。魔物の様な一家だ』


 つまり、救いの道はないということか。そんな家族の中で抵抗し続けた良男(よしお)くん(仮 )は益々すごい奴だと感じる。牢に入れられているという事だが、大丈夫なんだろうか。 


 『まあ、大事な駒だからな。使えなくなるような事はしまい』

 

 そうか、そうだね。悔しいけど「使える状態にしておく」という事が、今は良男くん(仮)を生かしているんだろう。だが、出来るだけ早く救出した方が良いのではないだろうか。俺は人間界に戻ったら、ワルノー侯爵が外国に出ている間に良男くん(仮)を救い出してしまおうと思った。 


 それにしても、ワルノーは何しに外国に行ってるんだろう?観光じゃないよね。


 『知人を尋ねてという名目ではあるようだが、ワルノーめは賭博や不法な人身売買も行っているからな。それを元に恐喝も行っておる。

 お前が誘拐されて後に、ディアネル達の手で一度組織を潰されたのだが、ほとぼりが冷めた頃にまた同じ様な事を始め、今では各国に手を広げてかなり大きな組織になっているはずだ』 


 他国でまで悪い事をしていたら、この国としては大変な責任問題なんじゃないのか?!


 『今回の行き先は君の姉君が嫁いだ国だ。奴は彼の国でも拠点を持ち、随分と暗躍しているようだ』


 『え、姉テレーシアは結婚してるんですか?だから城に居なかったの?』


 俺は声に出して言った。


 『ああ、結婚して隣国に居るぞ。あの娘は勇ましいぞ。剣の腕も立つし攻撃魔法も得意だ。15歳になると「アルの(かたき)、ワルノーの悪事を暴く」と、奴が暗躍している隣国に、留学という形を取っての隠密を買って出た。肝の座り方が並の令嬢ではない。お前の祖母に似たのだろうなあ。

 そういえば、留学した際に再会した婚約者に、軟弱だ、鍛えてやると言って喧嘩を売っておった…。馴れ初めまで祖父母に似ておるわ』とシモーンが面白そうに教えてくれる。 


 えー、喧嘩売ったんだ、婚約者に。良くそれで上手く結婚になったもんだな。 


 『あれ?姉は何歳なんですか?俺とあんまり変わらないんだと思うけど』


 『テレーシアはお前より2つ上だったか。既に18歳になっておるはずだぞ。17歳で卒業と同時に結婚したのだ。結婚もな、そうすれば卒業後も隣国で探りを続けるのに都合が良いからという理由でな』


 まじか?! 


 『シモーンよ、それだけではないだろう。彼女は情がある美しい女性だ。婚約者が改めて惚れ込んでしまい、離れ難くて「結婚をしてしまった方がこの国で動きやすいよ」と上手いこと理由を付けて成婚を急いだのではなかったか』


 えー、自分に喧嘩売って来た女性に惚れ込んだの?お義兄さんってどういう人なんだろう。


 『まあ、実際に会ってみればわかるだろうが、お前の姉は実に気持ちの良い娘だ。賢く美しく、そして鮮やかに悪をぶちのめす。素晴らしい淑女(レディ)だぞ』


 なんだそれ。


 『留学したばかりの頃は、他国から来た新参者のテレーシアをいじめようとした者達もいたようだがな、全く歯牙にもかけなかったぞ。如何にヒヨコが群れをなして黄色い嘴で突こうとも、大きなトラにはこそばゆいだけよ。軽く尾を振っただけで払い除けられる。まあ、そんな所だ。

 もちろん払い除けて後は恐れられ遠巻きにされておった。だが事件が起こったのだ。学園が襲われてな、そこで大きく強いトラは我が身を盾にしヒヨコ共を庇い助け、賊を叩きのめし捕らえた。そして怯えるヒヨコ共に「もう大丈夫だ」と笑顔で手を差し伸べたのだ』


 …物語の英雄とか王子様っぽい。でも、わかる気がする。10年前のあの時も、賊が侵入してきた時に姉がした事は、まず俺を後ろに隠し庇う事だった。そして間髪入れずに火球で攻撃していた。


 『我が国でも隣国でも「炎の乙女」として、それはそれは慕われておるぞ。まあ、苦手とする者も居るがな。しかし、あの娘の為なら力を貸すという者達は多いだろうよ』


 姉テレーシア、ご先祖様に「大きく強いトラ」と例えられるうら若き乙女。


 いや、賢く美しく、そして鮮やかに悪をぶちのめすって事だから、あれだな、きっとワンダーウーマンみたいな感じなんだ。

 すごいのはわかったけど、なんかちょっと会うのが怖い。だって、性格が変わっていないみたいだから、多分俺には厳しいし、間違いなくやり込められそうだ。

 

 『とにかく、君の姉君も色々動いているのだ。協力し合うと良いよ』


 『…はい、そうしてみます』


 水鏡の映像が切り替わる。どこかの地下のようだ。


 『これはワルノー侯爵領の城から繋がる地下道だ。ここから繋がる場所を探ってみなさい。既に探っていた者達もいたのだが、(ことごと)く行方不明となり戻って来なかった。ここには魔法というか、呪が施されていてな、ダンジョンの様にもなっており、特別な呪符を手に入れなければまともに通り抜けが出来ないようなのだ。安易に探るのは危険だということで今は触れることが出来ないのだ。だが、この奥には多くの証拠が隠されているはずだぞ』


 ダンジョン。ちょっと気になるキーワードだな。魔物とかいっぱい出るのかな。


 『君なら呪符などなくても造作もあるまい。別の言い方をすれば、君以外の誰も出来ぬということだ』


 『わかりました』


 『坊主、これを見よ。これはワルノーが訪ねている隣国のブラックモア家だ。こちらはテレーシアも怪しみ気をつけているようだが、確信を持って捜査に踏み切れないらしい。だが、此奴はクロだ。それを教えてやってくれ。それだけ伝えれば後は姉達に任せれば良い』 


 『了解です』


 『国内にもワルノーに協力している者はいるぞ』そう言ってシモーンがまた違う場面を映す。


 『此奴はランタン男爵と言ってな、ワルノーに弱みを握られて使われたのがキッカケではあるが、悪事に手を染め、それを刺激として楽しむようになり、今では自ら進んで手を貸している』


 ランタン男爵か。茶色い巻毛にちょび髭の5頭身の男。にこやかな笑顔ではいるが、ふとした瞬間に死んだように冷たい目をする。うわ、粗相をした使用人達を穏やかに許すような素振りをして、後に捕らえて酷い扱いをしている場面が映る。日常的にこういう事をしてるんだな。

 屋敷の裏の林を掘り起こしている男たちが映る。さっきの粗相をした使用人と思われる人が、まだ生きているのに穴に放り込まれて埋められている。それをわざわざ見に来てニヤニヤしている。こいつは気が狂っているとしか思えない。身体の周りに纏うものがどす黒くぬらぬらとしているように視える。気持ちが悪い。


 『ワルノーの気持ち悪さは、此奴の比ではないぞ』


 もっと酷いの?想像がつかないよ。


 

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