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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
精霊界
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人の恋路を応援し隊!


 こんにちは、爺ちゃん。体調は如何ですか?

 無理しないで大事にしていてくださいね。俺も出来るだけ早くそっちに顔を出したいと思っています。

 自分のバスルームでシャワー浴びたいよ。ペパーミントのマジックソープで全身を洗ってさっぱりしたいです。それから、エアコンの効いたリビングで料理長のストロベリーアイスを食べたいなあ。


 そんな事を思っている俺は今、燃え盛る炎の竜巻の中心に立っています。


 すごく熱いです。熱風が巻き上がってチリチリと俺を焼こうとしています。この状況の犯人は俺の血の繋がった6代前のご先祖様です。

 何か急に訓練だとか言って戦いを挑んで来ました。楽しそうだから多分悪気は無いんだろうなと思います。

 でもすごく迷惑です。 



 …なんてお便りを(したた)めている場合ではない。


 始祖様は「あの者達とも少し話すと良い」とは言ったが、戦闘訓練をしろとは言わなかった。

 これから人の世界に戻ろうと言う時に、何故俺は炎の渦の中で熱い思いをしているのだ。そもそも、いきなりの戦闘突入で何も教育活動はされてないぞ。

 薄々思っていたが、このシモーンという人は脳筋だな。サンドゥールさんの方はちょっと知的だけど、シモーンは脳筋。脳筋だ。 


 『おい坊主、聞こえてるぞ』 


 おっと、脳筋認定した事が伝わっているようだ。だが構わない。俺に熱い思いをさせる脳筋などご先祖様だなんて敬いたくもない。


 俺だってさ、さっきまではちゃんと相手をしようと思っていたんだ。


 こっちの世界に来てから生活の為に魔物を倒したりはして来たが、剣を持った人と戦闘というのは初めてだ。どうしたらいいのかと一瞬思ったが、俺は頭を切り替えた。

 「訓練」だと言うなら、相手は良く知らない人間シモーンではなく、剣を持ったセバスだと思って向かい合おうと。


 何だかんだで地球時間で10年以上、日々鍛錬というか戦闘訓練だって受けてきている。訓練以外では実際に戦うこともなかったし、生きるの死ぬの的な事はなかった。

 でも、やるときゃやります。俺は出来る子なんです。実は本気になったら史朗よりもずっと危険な男なんです。 


 相手をしようと構えながら、一瞬、俺も剣があった方が良いのか?とも思った。だが、あんな長剣を持っての剣技はわからない。ここは魔法と体術で対峙するべきだろう。まあ、バールくらいはあるとちょっと心強い気もするけど、魔法を使うことを考えれば、逆に気休めは的な武器は持たない方が動けるだろう。


 先手必勝かとも思ったが、ジリジリと距離を取ったまま出方を見た。シモーンは剣は持っているが、武器だけに意識を取られてはいけない。

 シモーンの右脇に僅かな隙が生じた。誘導か?と思ったが、高くジャンプして脇の隙と剣を握る手元、そして足元を狙い、細く小さく圧縮した空気弾を同時に数発放った。厚さ1cmの鉄の板程度なら貫通するくらいの威力に設定して。


 突然の飛躍に驚いたようなシモーンだったが、すぐにニヤリと笑って俺の攻撃を交わそうと小さく動く。最小限の動きで的確に俺の狙いを逸してしまう。だけどそれは想定済みだ。だって俺はシモーンを舐めてないもんね。セバスだと思ってかかってるんだもんね。 


 再びジャンプして位置を変え、相変わらず見えている隙をそのまま電撃で攻撃する。シモーンには電撃が通じないのは経験済みだが、試しに間髪入れずに更に出力を上げて40mA(ミリアンペア)でやってみた。

 2回目の電撃で「うぉっ」とちょっと効いたようだった。ふむ、準精霊で人の肉体ではないとしても電流が流れないわけではないらしいぞ。

 40mA(ミリアンペア)なんて、100ボルトで流しただけで人間だったら下手したら死んでるかもしれないのに「うぉっ」の一言で済んだので、それでは「他には何が出来るんだ」にお答えして、次は水攻撃だ。

 必殺ただの水バシャーン!…からの、再び電撃50mA(ミリアンペア)800ボルトだ!出力を上げてみたぞ。 


 「ぐあっ!!」と()け反って硬直するシモーン。だがすぐに『この私に雷撃が効くとは!今のはどういうことだ?!』とまたまた嬉しそうに言う。『だが、本気で私を倒すつもりではないようだな。お前は甘いな』と言う。 

 『では、私からの攻撃をくらうが良い!』と叫び、カッと目を見開いて、剣を大きく振り抜き白い光線を放つシモーン。


 『グワエウ牢獄!…からのボルン灼熱!!とうっ!』


 とうっ?何だそれは…と一瞬気を取られていると、あっという間にでかい竜巻が発生して俺を取り囲んだのだ。風魔法か?!牢獄とは竜巻の中心に捕らえ動きを封じるということか?くそう。


 でかい竜巻の中心で凄まじい空気の流れから目を庇い、辺りを探ろうとするが何も見えない。

 どうやって抜けようかと思っていたら、突然、竜巻が火を吹いた。いや、炎の竜巻に変わったのだ。これがボルン灼熱か?!猛り狂う炎の渦が俺に向かって徐々に大きさを縮め迫って来る。


 シモーンは笑いながら竜巻の外側をゆっくりと歩いている。

 『さあ、どうする?坊主』と余裕の言葉を投げかけながら。



 …という事で今の状況になっているわけだ。くそう、熱い。


 俺は考える。「これは訓練なのか?」と。

 そもそも、この人は訓練の意味を知っているのか?と。


_____

訓練とは 

1 あることを教え、継続的に練習させ、体得させること。

2 能力・技能を体得させるための組織的な教育活動のこと。

_____


 教えてやった方が良いだろうか?あなた間違っていませんか?と。


 もう一度言おう。始祖様は「あの者達とも少し話すと良い」とは言ったが、戦えとは言わなかった。これから人の世界に戻ろうという時に、何故、何故俺は炎の渦の中で猛烈な熱さに耐えているのだ?


 あの時、俺の心は「熱いのはいやだ!」と叫んだはずだ。どうして精霊界は寄ってたかって俺を熱く燃やすのだ。

 ボルン灼熱ってなんだ。

 とうっ!ってなんだよっ!


 腹が立って来た。ご先祖様らしいが、別に相手にする必要はないのではないかと思い始めている。

 「負けるもんか」なんて、真剣に向かい合わなくても良いのではないかと。


 俺は訓練を強制終了することに決めた。そして静かに言った。


 「この竜巻の存在を俺は許可しない」


 その瞬間、幻影が消えるように炎の渦は消えた。

 熱くなくなった。

 

 『な!?無効化したのか!』


 シモーンが驚いている。

 だが引き続いて『よし、それではこれはどうかな?』と次の攻撃を仕掛けて来ようとする。 


 シモーンが動く前に俺は言った。『ステイ!』と。 


 うっ!と言ったきり動きを封じられたシモーン。それまで様子を見ていたサンドゥールが声を上げて笑い出した。


 『見事だな。この世界の理を司る力をちゃんと使っているじゃないか。そうだ、君は神だからな。君が意図すればすべてその通りになる』


 そう言って、動けないシモーンに『どうだ、子供に抑え込まれる気分は?』とニヤニヤしている。 


 『もうかかってこないなら解くけど。まだやるならそのまま休眠させるよ』


 憮然として言う俺にサンドゥールが答える。


 『解いてやってくれ。自分では話せないらしいからな。悪気はないんだよ。可愛い子孫と遊びたかっただけの爺さまだ。私がもう何もさせないから許してやって欲しい』 


 その言葉を信じて俺はステイを解く。プハーッと息を吐いたシモーンが(息は止まってないはずだけど、そして既に準精霊になってるシモーンが息をする必要があるのかどうかわからないけど)『参ったな〜』と言って苦笑する。だが嬉しそうだ。 


 『無効化されたらどうにもならん。お前がそこに気付いてしまうとは、これではもう遊んでもらえないなあ』


 もっと何が出来るのか見たかったんだがなあ、じいじは寂しいぞ…と残念そうな顔をしてからチラッと俺を見る。ダメだよ。その手には乗らない。


 『俺は早く元の宿に戻らないとダメなんだ。地球で爺ちゃんを待たせてるから、早く連絡しないとならない。もうこっちの用事は済んだんでしょ。始祖様が送らせるって言ってたんだから、早く送ってくれ…いや、ください』

 

 『その様子だと我々が君の祖先だという話を聞いたんだね』

 

 『可愛い子孫よ。もう少しご先祖様と遊んでいかぬか。慌てなくても既に人の世界では2週間だったか、経っておるぞ、なあ』


 2週間?! 


 『あー、それなんだがね』


 サンドゥールが言いにくそうに言う。


 『1〜2週間位だと思っていたんだが、思いの外かかってしまったようで、実は人の世界では既に3週間が経っているようだ』


 3週間?!


 まさか、俺はそんなに長く行方不明になってるってこと?!それじゃ爺ちゃんが具合悪くなっても当たり前だ。大変だ! 


 『何?3週間だと?では、もう少し伸びた所でどうせ伝え置いた日を越えたことは変わらぬな。よし、我らと今しばらく過ごすが良い。ほれ、お前がこちらにいる間の人の世界での様子を見せてやろう』


 『シモーン、この子は一刻も早く戻りたいようだぞ』


 『まあ、そう言うな。ほれ、戻る前に流れを知っておくがいい』 


 そう言って、固まっている俺にシモーンが水鏡のようなものを空中に展開して見せる。「そんなの見てる場合じゃない!」と思いながら、映し出された様子を見て戦慄した。史朗が宿のあの部屋で誰かと戦っていたんだ。 


 『これはな、お前を狙って来た刺客よ。この小僧なら遅れを取ることはあるまいと思ったが、それどころか瞬殺だ。こやつは中々面白い』 


 面白いじゃないよ。何だこれ。刺客?俺を狙って来た?なんで??? 


 『君達が領都に入った時に身分証を作っただろう?あの時に使った魔法生物が君の中のイシルディン神の気配を追ってね、見事に追跡に成功して君が何者か突き止めてしまったんだよ。

 もちろん極一部の者達にしか伝わらなかったのだが、情報を得た者の中に敵方の間者がいてね、そこから腹黒大将に君が生きて帰還した事を知られてしまった。最初に君を誘拐した奴だ。

 君が今生きて戻っては都合が悪いから、皆に知られる前に刺客を送って始末しようとしたんだ』


 そうだ。そもそも幼い俺は何で誘拐されたんだった?王女の婚約が決まるまで隠すって言ってたけど、俺がいると都合が悪かったのか。俺が王女と婚約するはずだったのか。あの金髪のミリアちゃん? 


 『アルランティア、声を出して話しなさい。黒幕の腹黒大将は自分の息子と王女ミリア、次期女王だが、その縁組を望んでいるのだ。大きな権力を手にしたくてね。

 君は婚約者最有力候補だった。そんな君を邪魔だと思った。そして排除しようとして攫った。それだけではなく他の候補の男子達も牽制して蹴落としていった』


 『王女と黒幕の息子は婚約したんですか?』 


 これにシモーンが答える。


 『それよ。王達も馬鹿ではないからな。黒幕の狙いと悪行はわかっておるのだ。彼奴らの思い通りにはならぬよう警戒しておる。何とか決定的に黒幕の力を削ぐ証拠を探してな。更にお前の家では、必ずお前は生きて帰って来るはずだと言い続けておるのでな、それも理由の一つに挙げて、王家も王女の成人まで婚約を伸ばしておるのだ』


 え?それじゃ今俺が戻ったら自動的に王女と婚約することになるのか?いや、それはちょっと…。


 サンドゥールが続ける。


 『実はね、黒幕が使おうとしている肝心の息子が親に似ず賢く心根の良い子でね、早い時期に自分の親達が何を目論んでいるのかに気付いて心を痛め、それを阻止するために王女との距離を取り続けているんだよ。

 だがもうすぐ王女も成人する。このままではその者の息子との縁組が決まるだろう。王女とその息子は互いに恋心を抱き惹かれ合っているのだが、2人とも己の立場を理解していて、誠実であるがゆえに苦悩している。

 王女自身は彼との婚約は望みでもあるが、そうなる事で国に与える影響がわからないでもない。もしお君が戻ればお前との婚約を受け入れるだろうな』


 『あの、すいません。俺の意思はどうなんでしょう?』


 従妹のミリアちゃん。金髪のおとなしそうな女の子だった。まあ、そばに居たのが姉テレーシアだったから、どんな子でもおとなしく感じた気がするけど、でもピンクのほっぺの可愛い子だったのはわかっている。

 だが、それは4〜5歳の頃の事で、今はどんな風に育っているかもわからない。つまり、知らない人だ。そんな知らない女の子といきなり婚約ですよと言われても、地球の現代っ子である俺としては「はい、そうですか」とは受け入れられない。これは断じて考え過ぎによる混乱ではないぞ。

  

 それに、ミリアちゃんの心は黒幕の息子、賢く誠実な良男(よしお)くん(仮)のものなんだろう?互いに想い合っているのであれば、そんな2人が一緒になった方が良いと思うんだけど。 

 

 俺がそう思っているとシモーンとサンドゥールが『そうなのだよ』と声を揃えて言う。

 

 『お前の言う良男くん(仮)はな、自分たちは決して結ばれてはならないと、自分がいなければ親達の目論見は消えるであろうと、王女と国の為に我が身を害そうとしたのだ。それが見つかり一命を取り留めたのだが、二度とそのようなことをしないようにと魔法封じをされて、屋敷の牢のような部屋に幽閉されているのだよ。公には病気で療養中と偽られてな』 


 『自分の息子を牢に入れちゃうの?!』 


 なんてことだ!良男くん(仮)可哀想過ぎるぞ。


 『あの、それって、ワルノーって人ですよね。俺思い出したんだ。誘拐された時に犯人達が話しているのを聞いた。随分と悪い奴みたいだった。そいつを捕まえれば…』 


 『そうだ。ワルノー侯爵というタヌキ親父だ。其奴は欲深く悪知恵が働く者でな、何をしても証拠を残さぬので罪を暴く事が困難なのだ。しかも此奴に弱みを握られている貴族も少なくない。国内でも力を持っておる。我がシャノトワ公爵家が抑え込んでおるので、まだ大人しくする所もあるのだが』


 『王家も、君の家族も、良識ある貴族達も、可能であればワルノー侯爵を排除し良男くん(仮)と王女との縁を結んでやりたいと思っているんだ。だが、良男くん(仮)には年の離れた兄がいてそちらがワルノーの跡取りとなっているのだが、其奴がまた父親にそっくりで…しかも母親も嫁も良い人間とは言えないのだ』


 『良男くん(仮)かわいそうに。そんな家で一人で子供の頃から清い心を保って戦って来ているのか…すごい奴じゃないですか!良い奴じゃないですか!』

 

 『お前の誘拐も、その他の悪事も、恐らくだが兄や母親も関わっておるだろうよ。だが証拠がな…。お前の父達も何とか糸口が掴めないかとずっと探っているのだが、何か出てきてもワルノー侯爵に行き着かぬのだ』


 『人の世は証拠がないと断罪も出来ぬ。歯がゆいが仕方あるまい。何とかしてやりたのだが、我らとて手が出せないのだよ』


 『俺が誘拐の黒幕がワルノー侯爵だって覚えている事は証拠になるでしょう?』


 『まあ、そうだな。証言という点では重要だ。だがワルノーは言い逃れをする可能性が高い。これまでもそうなのだ。そして都合の悪い事を知っている者は消される。確実にこれというものを突きつけ一気に方を付けねばならぬ』 


 そして2人で目配せをしてから、俺に言う。


 『坊主、お前が戻れば間違いなくお前と王女の婚約の話が持ち上がる。そうなれば成約前にまたお前はワルノーに狙われる可能性が高い』


 『そうか!そこを捕らえれば』


 『上手くワルノーに繋げて挙げられれば良いんだが』


 『俺、つなげる。捕まえる。どんな小さな事も見逃さずにやる!』


 『動いてくれるか。あの者をこのままのさばらせておいては国の為にも、誰の為にもならぬのだ』


 『可能ならばなんとかして欲しい。まあ、君なら造作もないだろうね』  


 そうだ。俺ならきっと上手くやれる。ワルノーという奴がどれだけの事をしているのかは事前に情報が必要だが。


 そう思っているとシモーンが、『だからな、ほれ見せておるであろう。この刺客を撃退した後の流れをお前は知っておいた方が良いのだ』と言って、一時停止していた水鏡のようなものを再び再生し始めた。 


 俺は、さっきよりも注意深く映し出される映像に目を向けた。 

 

 

 



感電技にはボルト(電圧)よりもアンペア(電流)が大事。

あ、でも離れた相手や広範囲にやるならボルトも大事か。


落雷レベルなら300〜400万Vで1万〜10万アンペア位で良いんじゃないかな。余程の魔獣でもなければそれでもオーバーキルかもしれない。もちろん相手によるけど。

でも、ご先祖様との戯れの戦いにそこまでする気には…。せいぜいちょっとした感電程度で良いような気がするのです。 


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