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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
シャノトワ領 グワエウの街
80/117

王と公爵と宰相 (中)

修正作業の一環で長かった前編を分けてこちらの中編を設けました。 

(2026年4月27日)


 『異なる世界とはどういう事でしょうか?神界や精霊界のお方であらせられるか?』


  『そうではないのだ、ライアン。シロウ殿の話では、シロウ殿は我々の世界と良く似た別の世界に住んでいたというのだ。そして、アルランティアは5歳の時にシロウ殿の世界に行き、そこで育ったらしい』


 『よくわからんぞ。どういうことだ…』


 『シロウ殿も上手く説明が出来ぬと言っておったが、…我らが暮らすこの大地グラウギリスが丸いと言うことは知っているであろう?』


 『なるほど!わかりましたぞ。丸い大きな生きている大地が我らの世界であり、それは夜空に光る数多の星と同様のものであると、古の書物にイシルディン神が記しておいでです。シロウ殿は、つまり他の星から来たと言うことですな?』


 『流石はライアン。飲み込みが早い。恐らくそうであろうとの事だ』


 『む。わ、私も気付いたぞ』


 『もちろん、そうでございましょうとも』 


 口を尖らせて拗ねる王と、面倒臭いという様子を隠さない公爵。ライアンは幼い頃の面影を見て、素直な感情表現は変わらぬと微笑む。


 そういえば、行方がわからなくなる少し前にお会いしたアルランティア様も、姉君にちょっかいを出されては同じ様に口を尖らせておいでだった。泣きべそをかいているのを抱き上げ「伯父様にそっくりですね」とあやすと、「僕は伯父上に似てるの?」と嬉しそうにじっと見つめ返してこられた。あの方も利発なお子であったと懐かしむ。

 

 『あの神の鳥を覚えておろう。シロウ殿はいつもアルランティアと共に神の鳥で移動をしていたのだという。私は王宮に来訪した時にも共に乗っていたのを覚えておる』


 『神の鳥、ニルス様と言ったか…』


 『ああ、ニルスという名をアルランティアが与え、それによって神の鳥として姿が変容したようだ』


 『あの時、ニルス様は背に乗っているのはイシルディン神ではなく、イシルディン神の欠片(かけら)だと言っておいででしたな』


 『ああ、シロウ殿が言っていた。アルランティアはイシルディンの一部であると』


 『イシルディン神の一部。神の化身であるということか?』 


 『…そのようだ』


 『なんと。それは大変な事でございますぞ!長きに渡り姿をお見せにならなかったイシルディン神が、人の肉を纏ってこの世界にお戻りになったと言うことではありませんか!』


 『神の鳥に乗っていた時点で、そういう事もあるだろうかとは思っていたが、まさかその通りだとはな。これは、我が甥アルランティアなどと気軽に呼ぶわけにはいかぬ。ディアネルよ、そなたは自分の息子をアルランティア様とお呼びすることになるぞ』


 『…ああ』 


 公爵は面白くなさそうである。それもそうだろう。やっと取り戻せると思った我が子が神の化身とあれば、王の言うように気軽に息子として扱うわけには行かないということだ。息子ではあるが、それ以前に畏れ敬うべき神であるのだから。 


  全く、何故こんな事になるのか…と公爵はつぶやいた。その小さなつぶやきを拾った王が言う。


 『そなたがアルランティアなどという名をつけるからではないのか?』と。


 どういう事だ?と王を睨むと、睨まれたことなど気にしない素振りで王が言う。


 『だって、アルランティアだぞ。高貴なる旅人という意味ではないか。名の通りになっているではないか』


 『…名付けとは、簡単な様で深いものですな』


 『2人とも、それはこじつけだ。関係あるまい!』 


 名付けは関係ないと言ったものの、公爵はこれより長く「私の名付けのせいなのか」と思い悩むのであった。王はその様子が手に取るようにわかる。適度な所で「そなたのせいではない」と言ってやらねばならんなと思う。だが、もう少し黙っておくことにする。

 ライアンは「本当にこの方達は幾つになっても変わらぬ」と思う。そして「放っておこう」と思うのだった。


 気を取り直して公爵が話す。


 『シロウ殿は世界が繋がる時に妖精や精霊が関わるようだと言っていた。詳しい事はわからぬそうだが、イシルディン神の御力と関係しているのであろうと。こちらに来てからアルランティアの髪が急激に伸びたそうで、髪が御力と関係があるようだとも言っていた。

 エルフの里に入った際に髪や目の色が変わったそうで、長老によればエルフの里では肉体ではなく魂そのものの色や輝きが現れるのだと。そして、アルランティアの髪は銀色に輝いていたそうで、長老が、その髪はイシルディン神と同じ力を持っている証だと言ったらしい』


 『色が変わるのか』


 『目の色も変わったそうだ。アンナ・マリーアから受け継いだ美しい紫の瞳に、シャノトワの青が反射するようになったと』


 『ほう』


 『エルフの里の長老が、王家の流れとシャノトワ公爵家の流れが一つになり現れていると言っていたそうだ』


 それは見てみたいな、と王が言う。完全に好奇心である。

 そして、エルフの里に行けば自分も何か色合いが変わるのであろうかと夢想する。 


 『陛下、エルフの里を訪問するには、まずはアルランティア様をお迎えして、この世界の光を強く取り戻してからですぞ。そうしてこそ陛下の真のお色が顕現なさいますでしょうな』


 『わ、わかっておる。ライアンは何故そうやって口に出してもいない考えを読むのか!読心魔法があるなら使い方を公表せよ!いつも一人だけずるいぞ』


 『ライアンよ、私も陛下に同意だぞ。そのような魔法があるならば、魔法省にて明らかにせよ』


 はぁ、とため息をついてライアンが答える。


 『そのような魔法はございませんよ。それよりもお二人共、考えていることが顔に出過ぎです。如何に3人だけとはいえ、気を抜き過ぎですぞ。それに陛下、何でもかんでも魔法のせいにせずに、少しは私に悟られない様にご自身で精進なさいませ。ほら、また口を尖らせて…全く』 


 『うるさいな。私は外ではちゃんとやっておるではないか。少しぐらい何だ。私だって気を抜くところは必要なのだぞ。もぅ、ライアンを呼ぶのではなかった。いや、待て、行くな。居てくれ。居て下さい。…ディアネル、話の先を続けよ』

 

  

 『では…。シロウ殿が言うにはグラウギリスに戻ってから、アルランティアはイシルディン神とよく会話をしていたと。一度、霊峰の聖なる石の力を蘇らせた狼達の儀式の際には、イシルディン神がアルランティアの身体を使って狼達に直接お言葉と祝福を与えられたそうだ』


 『ほう』


 『正に神の一部、神の化身ですな。アルランティア様は異世界にてどの様にお育ちになられたのでしょうか。そのような、神を身に宿らせるような、何と申しますか、修行のような事をされていたのでしょうか』


 『そう、それなのだがな、アルランティアを育てたのは異なる世界の(いにしえ)の王族の方だそうだ』


 『(いにしえ)の王族だと?』


 『数多の王家の祖でありながら没落し、ご自身は平民の如くに生まれ育ったそうだ。フリードリヒ様という方で、若くして己の力だけで家族や民の為に働き、家を再興して、今では世界中の数多の有力者を従えている皇帝のような地位にいらっしゃる方だそうだ。

 アルランティアを見つけその才を見込んで己の孫とし、跡取りとして慈しみ育てて下さったらしい』


 『なんと、皇帝陛下の元で皇太子としてお育ちになったということですか。それはアルランティア様としては申し分ない環境でしたでしょうな』


 『そうなのだ。英雄としても慕われていた皇帝フリードリヒ様の元で、優秀な従者達にも恵まれ、何不自由なくのびのびと、最高の教育を受け、皆に愛されて育ったということだ。…私はシロウ殿の話を聞いて、心から安堵し、手厚く保護を与えてくださったフリードリヒ様に感謝をした。

 どのような世界かはわからぬし、我らとの違いもあるであろうが、ひどい暮らしをしていたのでないと知り、神に感謝の祈りを捧げたのだ』


 『アルランティアはそのような強く立派な英雄に育てられたのか…。それで、そのシロウとやらは、その城でアルランティアの従者をしていたということか』


 『いや、それがな、驚くべきことに、あちらの世界では離れた場所、それもあらゆる国々をまたいで、瞬時に自在にやり取りが出来る通信手段があるそうなのだ。今ここで君と私が話しているように、まるでこのグラウギリスの違う国同士でも同時に複数が会話を出来るのだそうだ』


 『なんだと?それは如何なる魔法か?!そんな高度な魔法を多くが使える世界なのか?!』


 『それがな、そちらの世界には魔法がないのだそうだ!』


 『魔法がないだと?!ではどのようにして、離れた場所と会話をすると?風に言葉を乗せて送る魔法とは違うのか?』


 『どうやら魔法ではなく、それが出来るような「技術」が存在するらしいのだ』


 『「技術」?』


 『多くの者はその「技術」の仕組みはわからないらしい。だが、わからなくても簡単に誰でも使えるようになっているのだそうだ。シロウ殿も詳しく説明は出来ないと言っていた。だが、どうやらアルランティアはそういう分野に長けているようで、詳しく知りたければ戻って来たアルランティアに話を聞けば良いと。恐らく、もう良いやめてくれと言うまで詳しく説明をしてくれるであろうと』


 『…それは、是非とも我が国の学者たちを集めて説明をしてもらいたいものだな。いや、もちろん私も知りたいぞ』


 『うむ。それでな、実は本当かどうかと疑ってもみたのだ。だが、シロウ殿が持っていた小さな薄い板があってな。何と言ったか、スマ…スマー、そうだ、スマッホだ。

 あの個人情報を記録し読み取る魔法生物イパードが小さくなったような形で、話しかけるとしゃべるのだが、なんと生き物ではないというのだ。

 それを使って会話を記録したり、一瞬で精巧な絵画を作成したり、それどころかこうして動いて話している様子をそのまま記録することが出来るのだ。 

 他にもキャメラなる物があって、我々はそこに記録されているアルランティアの肖像画や、動画と言っていたが、動く肖像画を見せられた。そして、デンパーという見えない力があればスマッホを使って遠くとの会話が難なく出来るのだと言うのだ。世界中だ。あれを見てしまっては疑うことは出来ぬ』


 『それは、私も見てみたいものだな』


 『ああ、今度シロウ殿を御前に連れて来よう。ライアンにも居てもらおう』


 『うむ。…アルランティアはそのような物を作り出す事が可能だというのか。神だからではなく、その「技術」とやらで』


 『そうらしい。シロウ殿が言うには、アルランティアはあちらの世界でも特別に優秀であったそうで、他のものには理解できない事を実現することが可能なのだそうだ。そして、それ故に命を狙われたこともあると言っていた』


 『さもありなん。どの世界でも貴人というものは危険と隣り合わせであるのだな』 


 『フリードリヒ皇帝陛下の配下の者が優秀で、常に未然に防いで下さったようだがな。それはそれは恐ろしい将軍がいるらしいぞ。アルランティアもシロウ殿も、我らには想像が出来ぬ程に武芸に優れているようだが、その2人が化け物と恐れる戦士らしい』


 『ほう、それもまた見てみたいものだな。いずれ共に武芸大会などが出来れば面白そうだ』


 『いやいや、ローレルよ。武芸大会どころではないのだ。2人とも魔の森の大蛇を知っているだろう』


 『竜の王に匹敵する程の巨大で邪悪な蛇でございますな』


 『私は直接見たことはないが、恐ろしい蛇らしいな』


 『陛下、あれは恐ろしいなどと言うものではございませぬ。わたくしも一度だけ100年程前でしょうか、魔の森を訪れた際に遭遇したことがございましたが、どれ程遠く離れていても、その姿はひたすらに大きく、そして身体から発する瘴気が、言わば「死」そのものでございました。

 この王宮の塔から、王都の外をもしもあの大蛇が這っているのを見たとしても、その恐しさに身動き一つ出来ぬやもしれませぬぞ』


 『それほどか…』


 『はい』


 『シロウ殿もアルランティアと共に魔の森で、彼の大蛇に遭遇したことがあるのだそうだ。アルランティアがオークロガーと名付けていたらしいが…』


 『名付けた?!』


 『いや、大きな黒い川と言う意味だそうだ。大きな黒い川があると思って近づいてみたらあの蛇でな、あまりのことに2人ともその蛇が遠く離れて行ってしまうまで息をするのも憚られたと言っておった。だが…』


 『だが?』


 『フリードリヒ皇帝陛下の側近であるその将軍であれば、恐らく嬉々として戦いを挑み、一撃で葬ってしまうであろうとな…、シロウ殿が言っていた』 


 『あんなものを一撃ですと?!』


 『しかも、素手でだぞ』


 『素手でか。…それは、あまりにも恐ろしすぎて想像が出来ぬ。ただ、武芸大会などはしてはならぬ事だけはわかったぞ』


 『うむ』 


 『異世界か、凄まじいな。そんな所で英雄となったフリードリヒ陛下は、一体どのようなお方なのか』


 『陛下、お茶を用意させましょう。この話はまだまだ終わらぬと存じますぞ』


 『そうだな。これ、お茶を。それから軽食も持て』


 王が侍従に申し付ける。


 『あの、恐れながら陛下、…そろそろ大臣達との会議がございますが。公爵閣下も宰相様も会議にお出になるのでは…?』 


 『会議だと?今はそれどころではない大切な話をしておるのだ。この国だけではない全世界に関わる一大事についてだ。イシルディン神の化身を如何様にしてお迎えするか話しておるのだ。会議は大臣達で進めておけと伝えよ。だが、何事にも決定はまだするなとな。会議の内容を書面で提出するように。良いか』


 『かしこまりました。そのように申し伝えて参ります。それではお茶と軽食の用意をさせますので、少々お待ち下さいませ』


 『うむ。毎度の会議よりこちらの方がおもしろ…、いや、重要だ』


 『ローレル、面白がっておるのか』


 『何を言う!この国の王として、我が祖イシルディン神の御心に添えるようにと尽くすための準備に決まっておろう!』


 『それで、公よ、他にはどのような方々がアルランティア様の教育をなさったのでしょう?』


 『ライアン、私を無視するな!』


 

 

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