王と公爵と宰相 (前)
すごく長いので分けて全中後編としました。
宿での襲撃より4日後、王からの呼び出しで王宮を訪れたシャノトワ公ディアネル・エアイン・アダル・シャノトワ。
「この忙しい時に呼び出しおって」と心のなかで毒づく。
足早に王の居室に向かう。道を開ける者達が、あからさまに不機嫌な様子に何事かと互いの顔を見合わせる。
行方不明になっていたシャノトワ公爵家の嫡男が戻って来ている事は誰も知らない。ましてや領地内で襲撃を受けた等、知る者はいないはずだ。
…襲撃をした者達を除いては。
その襲撃をした黒幕を突き止めようと犯人を問い詰め、証拠をあげようと探っている大事な時に王からの呼び出しだ。元々不機嫌な所へ、更に捜査の邪魔をされるのだから大大大不機嫌にもなろうというもの。
すれ違う者達が恐れおののく事など構ってはいられない。苛立ちを隠すこともなく王の居室に到着し、扉の前で警護をしている兵士に顎をあげ無言で開けろと命令する。
『陛下、シャノトワ公爵閣下がおいでになりました』
侍従に案内され部屋に入ると、そこには王と共に宰相のライアン・ブルトウスの姿があった。
これはまた面倒臭い。あれこれ説明をしなければならぬようだ。公爵は心の中で舌打ちをした。
宰相のライアン・ブルトウス。長く王家に仕える半人半エルフ。王と公爵にとっては師でもある。この人物には小手先の説明は通用しない。非常に頼もしい存在であると共に、苦手な存在でもある。
もう400歳になろうというのに、相変わらずお若い事だ。我々と然程変わらぬようではないか。そうだ、今度あの髪を少し煎じてエキスを絞り出し塗ってみてはどうだろうか…などと考えて気を紛らわせてみる。
『これは公爵閣下、ご機嫌麗しゅう。…私の髪のエキスは何の役にも立ちませぬぞ』
さらりとライアンが言う。
くそう。何故わかるのだ。
視線を右下に動かすと、ライアンが言う。
『あなた様は昔から同じ事をお考えになる。幼い頃より、この髪に秘密があるのだろう、少しよこせと散々言われましたからな』
私は何も言っていないのに会話が進行する。しかも成り立っている。全くもって面白くない。と公爵は思う。
『もう良い、そなた達の漫才は見飽きたぞ』 と呆れたように王が言う。『それで、ディアネルよ、私に何か話す事があるのではないか?』
『はい、陛下…ご報告が遅くなりまして申し訳ございません…』
『お前は本当に固いな。許しがなくとも旧知の者だけの時は普通にしろと、毎回言うのも飽きているぞ』
王がため息をつく。
身内とも言えるこの顔ぶれで気取った話し方をする必要はないのだ。だが公爵は王の許しが出るまでは臣下の態度を崩さず親し気には話さない。そこが良い所でもあり非常に面倒くさい所でもあると王は言う。
ライアンが笑いながら『我らは互いに面倒臭い相手だと思っておるようですからな。出来るだけ面倒臭くないように話を進めるべきではございませんかな?』と言う。
『私は面倒臭いなどとは思っておらぬぞ。ディアネルは水臭いというやつだ。面倒臭いわけではない』
『左様でございましたか。これは失礼を致しました』
にこにこしながら頭を下げる宰相を見て、口を尖らせて王が公爵に言う。
『そなたのせいだぞ。良いから早く話せ。普通にな、普通にだぞ』
『…はい』
公爵が参ったなという顔でため息をつく。
2人のやり取りを見て、ライアンは「お二人共お変わりにならぬなあ」と微笑ましく思う。
長くこの国で宰相を務めるライアンにとっては、王もシャノトワ公も仕えるべき存在であると共に教え子でもある。本人達には内緒にしているが、オムツも替えたしミルクも与えた。子守唄を歌ってゆりかごも揺らした。先代の王も、その先代の王も同様にあやしたものだった。
ローレル陛下は祖父である先々代に良くにておられる。ディアネル様は先代の公爵閣下に似ておられる。この2人は年も近く仲が良い。元々出来の良い子供達であったが、特に大きく優れていた点は、2人ともに早いうちに「学ぶことの意義」を理解した事だった。
何のために学ぶのか。その意義を知る事で、同じ学習をするにも大きく違いが出て来る。
何かを学び身につける事で、確実に目には見えない力を得ていく。多くを知ることで得た力を発揮し、願う事を形に出来る自分に近づいていく。
だが、押し付けられていると感じながら嫌々学ぶ事は大して身にはならない。
この2人は、学びにより自分が深く豊かになり、自らも喜びを得る事に繋がるだけではなく、それがやがて他をも助ける力になると気付いた。幼いうちにそれぞれがその事に気づき、誰に言われずとも必要と思ったことには努力を惜しまなかった。
自ら求める欲求によって、学びはそれぞれの糧となって行った。
賢い子供達だと喜び嬉しく思ったものだ。
幼い頃から豪胆で自由な王。派手で目立ち、何かを思いつくと勢いよく放たれた矢のように飛び出し止まらない。穏やかな父王とは違う性質であるが故に、ただの我儘な王子と思われていたこともあったが、そのような事は気にもとめず、『私はワガママなのだ。心して仕えよ』と逆手に取って言い放っていた。
そして、口数が少なく思慮深い、少々神経質な公爵。王が思うように動けるようにと、常に先んじて動き舞台を整える。
世間では公爵が上手に王の手綱を握っていると思われているが、実は一度感情に火が点くと手がつけられないのは公爵の方で、真面目で頑固であるが故にこうと決めたら誰の言うことも聞かなくなる。
それを上手く宥め押さえられるのは王だけかもしれない。実は暴れ馬の手綱を握っているのは王の方だろう。
『私は皆が思うよりも苦労しておるのだぞ』と、時折こぼす王の言葉が真実である事は、身近に居るものでなければわかるまいなあとライアンは思う。
このライアンの母はネッコというエルフである。
つい2〜3日前の事、長く連絡が途絶えていた母が神殿を通して手紙を送って寄越した。母にとっては300年など数日の感覚なのだろうが、ライアンからすればとても長い時間だ。どうせ元気でいるのだろうと思いながら、自分が生きているうちにはもう会えぬのであろうと寂しくも思っていた。それが急に手紙を送って来たのだから驚いた。
手紙の内容は「イシルディン神の力が蘇り、世に光が強く降り注ぎ始めている」と。そして、「行方不明になっていたシャノトワ公爵家の嫡男アルランティア様が、イシルディンの化身としてこの世界に戻って来ている」というものであった。
しばらく前にシャノトワ公爵夫妻が揃って「息子の気配を捉えた」と言い出した時には、誰もが諦めきれずに探し続ける親の思いが感じさせたもの、つまり気の所為ではないかと無言で目を見合わせた。だが、その頃に「世界の大気に変化が生じている」と言う者達も多く現れた。
気配を辿って密かに捜索隊を出すようにと王が言い、魔の森の一部に浄化が起こっている事がわかった。だがアルランティア様は見つからなかった。
魔の森を上空から探すという案も出たが、あの一帯を飛竜で飛ぶのは危険過ぎる。古の竜達の領域を荒らし不興を買うのは得策ではない。それにあまり魔の森を奥に進むと闇の一族の領域をも荒らすことになりかねない。
それに加えて、アルランティア様の捜索は秘密裏に行われなければならぬ。あまり目立って動くと、未だ捕まらぬ誘拐犯、陰謀を企てた者が活性化してしまいかねない。
捜索隊が諦めて新種の花を持って戻って後に、貧困に苦しむガレオ村に白銀のエルフが現れ失われた森を蘇らせたと報告があった。村の救済と移転について通達に行っていた公爵の使者が、白銀の若者が神の鳥に乗り、あっという間に森を再生して行くところを目撃したのだ。
そして、高巫女エルスペス殿が不思議な紙に「シャノトワの光が戻っている」と書いて寄越したという。
更に、再び送られた使者たちが霊峰の守り手である狼達に会い、白銀の若者によって霊峰カラド山の聖なる石の力が蘇り、揺らいでいた光と闇の境界が強まり安定したとの証言を得た。イシルディン神が若者を通して狼達に語りかけ祝福を与えたのだという。
そして、村には天上の食べ物が与えられ、使者たちにも分け与えられたという。
ライアン自身も強くなる光を感じてはいた。そしてつい先日、その目で王宮に現れた神の鳥と、その背に乗って飛ぶイシルディン神そのままの姿をした若者を見た。
母の手紙に『お前の義父になるかも知れませんよ』と謎の言葉が書いてあったことだけは解せぬと思っているものの、この世界から長く姿を隠していらした神がお戻りになったのだと喜びを感じた。
やがて再び人の街にも現れるであろうアルランティア様を、すぐに見つけ出しお迎え出来るようにと公爵家の配下の者達が動いていた。そして、公爵家とは別に王命によって密かに動いていた者達もいた。
神の鳥が現れ、その背に乗っていたということは、既に公爵家だけの問題ではないのだ。この国の、この世界全体に関わる事である。
そして4日前、公爵領グワエウの領都にドワーフとアンティアンが現れた。ガレオ村を訪れ森を再生させた白銀の若者とドワーフは、最初に訪れた時には二人と蟻人=アンティアンに擬態をしていたという。
神の鳥の訪問の時より王はグワエウと王都の神殿に、そして公爵も自領グワエウの神殿に手の者を待機させ、ドワーフと白銀の若者、またはアンティアンが現れたら報告をするように命じていた。
森の再生の際の情報で、言語が不確かな為に「言葉の実」を求めて神殿を目指しているらしいとわかっていた為だ。
王の手の者は二人の神殿への訪問を王へ報告し、そして公爵の手の者は上手く誘導して警護の者を付け、領内での所在が明らかであるように進めていた。
そして、公爵夫妻が滞在場所を訪れ、名乗りを上げて城に連れ帰る手はずだった。
だがそこで、襲撃があったとの報が入ったのである。
どういう事なのか。
王の配下の報告によって、アンティアンと共にいたドワーフが、一瞬で刺客の動きを封じ捕らえたらしいという事はわかっていた。そして刺客は駆けつけた公爵に引き渡され投獄。取り調べが行われるとのことだ。しかし、その後の流れが見えて来ない。
確かではないが、アルランティア様と思われるアンティアンが姿を消してしまったらしいという報告もあった。
公爵からの報告を待つものの、一向に詳細は聞こえては来ない。一体どうなっているのかとしびれを切らした王が、いよいよ公爵を呼びつけ、ここに至るというわけである。
深く息を吐いて公爵が話す。
『刺客は捕らえて尋問を進めておる所だ。…黒幕は恐らくあの者であろうが』
憎々しげに言う公爵に王が言う。
『証拠もなしに滅多なことを言うな、と言いたいところだが、まあ、彼奴であろうな』
皆、黒幕が誰なのかはわかっているのだ。大小に渡り悪事を働く小太りの男。しかし巧妙に逃げ、いけしゃあしゃあと恭しい笑顔を作って挨拶をしてくるタヌキ親父、ワルノー侯の仕業であろう。だが証拠がない。此奴は証拠を残さない。
10年前、王家の長女であり次期女王、つまり王太女殿下の婚約者に我が息子をと望み、その為に邪魔であった婚約者候補筆頭のアルランティア様を排除しようと誘拐を企てた…と噂の男である。
崖から魔の森に落ちていた馬車と、誘拐した犯人達の亡骸が見つかった時も、白々しく同情をするような素振りを見せていた。
その後、他の年の近い男子達は誘拐こそされなかったものの、様々な形で婚約者候補から引きずり下ろされて行き、王太女殿下よりひとつ年上のワルノー侯爵の次男だけが候補者として残ったのだった。あまりにもあからさまであるが、それであるが故に『私を陥れようとする何者かの企てでしょう』と言い逃れ続けている。
ワルノー侯の次男は父や母や年の離れた兄とは違い、利発で心根も良い少年のようだ。当時まだ6歳だったので当然父親のしている事には関わってはいない。大人たちの思惑とは別に、自然に王太女殿下と親しくなり互いに心を通わせていた。
だが、成長するに従って、自分の父がしたであろう事、家族が自分を使って何を求めているのかに気付いて行ったのだろう。12歳になった頃、王太女殿下が婚約相手に自分を望んでいると知り、それから敢えて距離を取るようにしていたようだった。
成人を目前にしても一向に決定しない王太女殿下の婚約。焚き付けても殿下との距離を取り続けようとする息子。そこにアルランティア様の帰還となれば動き出しても不思議ではない。
だが、どうやってアルランティア様の帰還を知ったのか。
『で、肝心のアルランティアはどうしたのだ?親子の名乗りを上げ共に過ごしておるのか』 と王。
問われた公爵は顔色が優れない。
『それなのだが、…まだ会えていないのだ。何というか、現在アルランティアは精霊界に行っているようだ。それ以外はわからぬ』
『何だと!?』
『精霊界でございますか?』
精霊界とはこれはまた…とライアンは思った。
この世界には妖精がいる。そしてエルフもいれば魔族もいる。様々な人種もいる。この世界は多種多様な世界だ。皆少しずつ暮らす世界に違いがあるが、自由に行き来は出来る。
だが、精霊は別格である。その精霊のいる精霊界は、神の世界に準ずる高次の世界だ。行こうと思って行けるところではない。
歴史の中で稀に精霊界を覗き見たという記述が残ってはいるが、自分が生まれてからは、実際に行き来したという者は現れていはいない。
元々、王家の始祖であるイシルディン神は精霊の王であったと言われている。同じ始祖を持つシャノトワ公の血筋の者であれば、精霊界に出入りすることも有り得ない話ではないだろう。しかし…。
『ディアネル様、如何様にしてアルランティア様は精霊界に行かれたのでしょうか』
『…どうやら、我が高祖父シモーン様により連れて行かれたらしい』
『何だと?とうに亡くなった祖先に連れて行かれたというのか』
『…その場にいて一部始終を見ていたシロウ殿の言葉だ。シロウ殿は連れ去られるアルランティアを取り戻そうと、シモーン様達を追って行こうとしたらしい。だが、精霊界には入れられぬと弾き飛ばされたのだそうだ。
そして、その時にシモーン様達に「刺客が来るので迎え撃て」と命じられたと。生きたまま捉えて、私ディアネルに引き渡せと命じられたらしい』
『それは、その者の騙りではないのか?シロウとはドワーフの事であろう?』
『騙りではないだろう。シロウ殿は嘘は言っていない。刺客は3人だと教えられたと言っていた。アルランティアを狙って来る刺客だと』
『しかし何故だ…。そもそも戻ったその日に刺客とは。アルランティアが街に入った事を知る者は、私が動きがあれば知らせるように命じておいた神殿と、それに連なる幾つかの者達だけのはずだ。…まさか、我が手に裏切り者がいるというのか』
『ローレルよ、そこがわからぬのだ。捕らえた者共は当初は口が堅かったが、シロウ殿が脅か…尋問に加わった途端に恐れおののき口を割ったのだ。だが、誰からの依頼なのかは奴らもわからぬらしい。間に幾つかの仲介が入っているようなのだ。
奴らはただ、あの宿に泊まっている虫人アンティアンとドワーフを始末するようにと言われたのだと。…だが、刺客のうち一人が、依頼を受ける時に仲介者から「アンティアンの方が領主の息子らしい」と聞いたと言う事だ』
『では、虫人とドワーフではなく、明らかにアルランティアを狙ったということだな』
『そういう事になりますな…。彼の人物が黒幕だとして、どこでアルランティア様の事を嗅ぎつけたのか』
『うむ。…しかし、そういう事もあるかとは思っていたが、アルランティアはやはりアンティアンの変装をしていたのか』
『ああ。街に入る前の数日、麗しの森でエルフ達と共に過ごしていたそうで、そこでイシルディン神に「癒しの泉で禊をするように」と言われたのだそうだ。
元よりイシルディン神に瓜二つの容貌であったが、その禊の後から更に人ならざる美しさになったのだと。いや、我が子だから言っているのではないぞ、シロウ殿がそう言うのだ。そして、そのまま街に入ればあまりにも目立ち普通に過ごすことが出来まいという事で、あの子だけがアンティアンの扮装で姿を隠していたのだそうだ』
『なるほど!アルランティア様はエルフの里に滞在しておいでだったか。それで母上がおかしな事を…』
『何だ?ライアン』
『いえ、何でもございません。時に陛下、公よ、アルランティア様は街に入る際に、陛下が発行された許可証を持っておいでだったのではないでしょうか?』
『ああ、持っていただろうな』
『であれば、一般の者用ではなく貴人用の入管を通ったはず。そちらでは個人の確認の為に真偽球ではなくイパードを使っております。如何に見た目をアンティアンと偽ったところで、イパードによって素性が示されてしまったのやもしれませんぞ。それを見た者がもしや…』
『そこまで優秀なイパードなどいるのか?あれは偽りを申しているかどうかを確認するものであろう』
『陛下、イパードはイシルディン神がお創りになった魔法生物でございます。特に血筋の者でなければ、或いは遠い血筋の者であれば単純に真偽を判断するに留まりますが、イシルディン神の気配が強ければ強い程その存在には強く反応するのではないでしょうか。
己の創造主であるイシルディン神を慕い求め血筋を遡る。血が濃ければそれだけ素性を的確に辿る。例え本人が知らずとも家系を示すことなどは容易いはず』
『そのような事が…。いや、待てよ。そう言えばアルランティア達が立ち寄った仕立て屋と宿屋の者達が、身分証のイパードプチを読み取った際に「ご両親の名と家系が表示され驚いた」と言っていたという報告があったな』
『ディアネル、その者達は信用できるのか?』
『ああ、そやつらは私の手の者達が重用している信用のおける者達だ』
『では、やはり入管が怪しいな。街に入る際に素性が明らかになり、それを知った者が動いたということだろう』
『我が領に、しかも兵士に間者を潜ませておるとは…ワルノーめ』
『採用の際にもイパードを使っておりますが、採用後にすり替わりが行われているやもしれませぬぞ』
『うむ。すり替わりがあったのであれば、すり替わられた者がどうなったかも調べねばならぬ。黒幕は恐らくあやつであろうが…』
『今度こそ必ずしっぽを掴んでやる。…許さぬぞ』
公爵の身体から怒りの炎が上がるのが見えるようだ。握りしめた両手が震えている。それをチラリと見てから王は、心の中で「68%」と思う。今ならまだこの炎を押さえ意識の方向転換をさせるのにそれ程の労力はかかるまい。
王は控えていた侍従に申し付ける。
『ここ1週間の間にグワエウの入管の当番だった者達を早急に調べるように黄金騎士団に伝えよ。密かにやれ。第一門、第二門の両方だ。誰一人行方をくらますことの無いように全員の所在を明らかにしておくように。グワエウ領主シャノトワ公爵も了解していると』
『はっ』 一礼をして侍従が伝令の為に部屋を出ていく。
『私も行かねば。では、これにて…』
『まあ、待てディアネル』
じっとしてはいられぬと、自らも出立しようとする公爵を王が制止する。
『お前が動いては目立つであろう。警戒させぬようにここは大人しくしておれ。此度の事で刺客を捕らえた事は広まってはおるまいな』
『…目立たぬようにと、遅い時間にそっとあの子のいた宿屋に向かったからな。宿の方でも上手く誤魔化したはずだ。刺客を捕らえたシロウ殿も、どうやら一瞬で形をつけたようだから、宿にいた者たちも何かが倒れて壊れた程度にしか思っていないはずだ』
『ほう。シロウとはそれ程の手練か』
『黒髪黒ひげでドワーフの如き小柄な男だが、怖ろしく強いようだ。刺客が一瞬で刃物を粉々に砕かれたと恐れおののいておった』
『一瞬で刃物を…粉々に砕いただと?』
『ああ。更に、シロウ殿の拳が掠っただけで脚を切り落とされたと言っておる』
『なんだそれは…。手練どころの騒ぎではないではないか』
『シロウ殿が言うには「別に特別のことをしたわけではない」そうだぞ。刺客に逃げられないよう殴って脚を折ろうとしたが「当たらなかっただけ」だと。刃物を砕く事については「普通のこと」だそうだ』
『普通ではあるまい。待てよ、以前ガレオ村の森の再生の際に報奨金を送ったな。あの時に大きな熊の魔物などの毛皮や素材を受け取ったという書状を見たぞ。そこにはドワーフが遠く離れた所の大きな岩を触れずに粉々に砕いたと記録してあった。魔法であろうと思っていたが、まさか…』
『ローレル、シロウ殿は魔法が使えぬのだ』
『なんと…。魔法ではないと言うことか。記録にあった一撃で熊の魔物を倒したという発言は真であったか…。ディアネルよ、その者はドワーフで間違いないのか?』
『いや、この世界とは異なる世界の人間だそうだ』
『異なる世界だと?』
王と宰相が顔を見合わせる。この世界以外に一体どのような異なる世界があるというのか。




