ダリ髭の店
「ピンクと水色ってあれか…」
俺達が紹介された洋服屋は、神殿から10分程歩いた南西エリアのにあった。教えられた角を曲がり、石畳で舗装された洒落た並木道をひと目見て、「ピンクと水色ですぐにわかります」と言われた意味がわかった。
「…何ていうか、随分とファンシーな店構えだね」
「中世の街にいきなり渋谷のディズニーショップを持って来たみたいだな」
「渋谷のディズニーショップはわからないけど、アリス・イン・ワンダーランドって気分」
「それな」
看板がピンクと水色なのかと思っていたがそうではない。建物そのものがピンクと水色だ。まるででっかいケーキが置いてあるみたいで、子供向けの遊園地のような外観だ。なるほど、これはすぐわかるな。
生クリームで枠を飾ったような装飾のショーウィンドウには、男性用、女性用、そして男女の子ども用の衣装がディスプレイしてある。少し歪んだレトロな硝子の向こうの服はどれもとてもセンスが良い。
…てか、なんで?何でこのシックな通りにこの一軒だけこれなの?
店を出す時にこの建物しか空いてなかったとか、そういう事なんだろうか。それとも商業的にインパクトのある効果を狙ったのか。
後者ならば、インパクトという点では成功しているが、ブランドイメージという点では大失敗なんじゃないだろうか。
俺がそんな事を考えていると史朗がちらっと見て言う。
「お前、またなんか小難しい事考えてんだろ。細かいことはスルーだぞ。俺達に必要なのは目立たない服と小銭、それだけだ。建物が異次元な事はどうでもいい」
「わかってるよ」
ショーウィンドウの奥はカーテンが閉じていて外からは店内は見えなかった。休みかと思ったが、カーテンが時たま揺れるので中に人が居るらしい。
「ウインドウの服は洗練された感じなのにね。…とりあえず入ってみるか」
水色にピンクの大きな水玉模様が描かれているドアに白い雲のような取っ手が付いている。触ると甘くてベトベトしそうな気がしつつ手をかけ押し開ける。
恐る恐る店内に入ると中は明るく広い。外観とは違い落ち着いてシックなイメージだ。置いてある服も上品な色使いの物がほとんどだ。
やっぱり店を出す時にこの建物しか借りられなかったんだな、きっと。
『いらっしゃませ』
お揃いの淡いグリーンの服を着た2人の若い男性がにこやかに迎えてくれる。良い感じだ。
そして、彼らの後ろから彼らよりも上等そうな手の込んだ刺繍の入った服を着た、妙な髪型…いや、個性的なウェーブヘアにセットしている40代後半くらいの男性が出て来た。
『これはこれは、ようこそいらっしゃいました。本日は何をお探しで』
彼が店主だろうか。サルバドール・ダリみたいなピンと上を向いた細い髭が変わってい…いや、おしゃれだ。
「ファッション界って、個性的でなんぼなのはこっちも変わんないんだな」
早口でそうつぶやいた史朗が『俺達は見ての通り外国から来たばかりなんだ。この国の服を一式揃えたい。神殿でここが良いと紹介されて来た』と言うと、ダリ髭が『神殿からのご紹介で…?』と言って一瞬目を細めた。
すぐに何事もないかのように『さようでございますか。ようこそ当店へ』と笑顔でお辞儀をする。身分証のカードの提示を求められ史朗が示された読み取り機に置く。買い物に身分証が必要なのか。
『ドワーフ族の方とお見受けいたしましたが、黄人族の方でしょうか。ご出身は…外国でいらっしゃいますか?文字が読み取れません。いえ、大丈夫ですよ。外国のお客様も沢山いらっしゃいますので、きっとお気に召す衣装を提供できると思いますよ』とダリ髭がにっこりと笑った。
『お荷物はそちらに置いて頂けますよ』と入り口の脇を指し、従業員に『お預かりして』と言いながら、次に俺のカードも読み取り機に置く。
『お二人共変わった衣装をつけていらっしゃいますね。初めて見る素材ばかりです。大変興味深い…』と俺達の着ている服をさり気なく観察してから、表示された俺の情報に目をやる。そして一瞬目を見開き強張った顔をしてから、恭しく大げさな笑顔を作って、『少々お待ちくださいませ』と言って従業員の一人を連れて奥に入って行った。
すぐに何着か用意して戻って来て俺達の前に並べる。奥から新作を出してきたのだと言う。
サイズなどは特に測らず、ずらりと目の前に服を並べ『どうぞゆっくりとお好きな物をお選びくださいませ。もし、お気に召す物が無ければ別の物を持って来させますので、遠慮なくお申し付けください』と笑顔で揉み手をする。
この揉み手は何度も見て来たぞ。上客だと判断した時によくする仕草だ。
俺が小さい頃は、屋敷にロートリングの専属デザイナーのうち誰かしらが来て、サイズを測られ好きな色や生地の希望を聞かれた。あとは彼らが持参したデザイン画やその場で描いたりして、奈々恵がその中から幾つか見繕って注文をし後日届いた服を着た。
テレビの仕事をするようになってからは、時々街にある洋服屋に服を買いに行くようになり、入った店では対応する人達の中にこういう風に揉み手をする人がいたものだ。
子供が使用人を連れて車で乗り付けて、値段を聞かずに身に付ける物を注文する。俺が着ていると同じものを求める人もいたようで、まあ、俺は「上客」って事だったんろう。
こちらの世界でもこの仕草が意味する事が同じなら、ここでも上客と判断されたという事だと思った。表示された情報に王様の認可があるとか、「金はある」とか表示されたんだろうか。
ダリ髭店主や従業員もそうだが、この国の男性は膝下くらいまである長めの上着を着ているのが一般的らしい。街中では片方の肩から長い布を掛けて飾帯で留めている人も多く見かけた。上着の前を開けて中のシャツとの色合わせを楽しんでいる風の人も多い。染色技術が発達しているのか、発色の良い素材が元々あるのか、きれいな色が目についた。
上着は着ずシャツにベストという人もいるし、このベストがまた短かったり膝下まであったり様々だ。みんな上着やシャツで隠れていて膝下の様子しかわからないが、柔らかい布で少しゆとりのあるタイプのパンツが主流らしい。俺達が今履いている細身の綿パンはきっとかなり珍しい。
靴はサンダルだったり、スリッポンだったり。男女ともに装飾の多い靴を好むようだ。ブーツを履いている人はあんまり居なかったな。兵士達や旅人位か。そういえば、シャツをインして着ている人は見かけていないので、基本的にシャツは出して着るのかもしれない。
ガレオ村ではあまり新しい服を着ている人がいなかったが、豊かになったら街の人達のようにおしゃれも楽しめるだろう。早くそうなると良いなと思った。
ダリ髭はこの店の店主でデザイナーでもあるそうだ。濃い紫と緑を上手く組み合わせた、襟の詰まった上着を着ている。光沢の有る生地の胸元や袖口に手の混んだ刺繍が入っていて、同じく手の込んだ豪華な飾り帯を腰に巻いている。そして薄めの柔らかそうな、やはり光沢のある生地のズボンを履いている。
どれもシルクのようにな布に見える。とても高級なインドや中近東の衣装のを思い出す。やたらとウェーブをかけた髪型はどうあれ、身に付けている物のセンスが良いというか、カッコイイ。…ターバンを巻いたら更にかっこいいんじゃないか。
街で見かけた女性達も綺麗な色合わせで、ドレスのスカートの丈は膝下丈の人もいれば、靴が見えないくらいロング丈の人もいた。
ロング丈のドレスの人のそばには御付きと思われる人がいるから、多分、富裕層の女性が長いドレスを着ているんだろう。短めのスカートの人達は靴下や靴でおしゃれを楽しんでいるようにも見えた。
首元まで閉じるブラウスの女性が多かったような気がする。慎み深い衣装は嫌いじゃない。…と言いつつ、ウエストを絞って胸を強調するようなデザインが多いのは中々良いと思った。
「俺、この白いシャツと水色のズボンをベースにしようかな。上着や小物はお店の人にお任せでコーディネートしてもらう。アランはどうする?」
あ、そうだ。自分の服を選ばないと。
「俺は今はアンティアンだからなあ。あんまりきれい系の色より目立たないのがいいな。この薄い茶緑のフード付きシャツにその茶色のチュニックと、あと濃い茶色のズボンで良いかな。ベルトはちょっと凝りたいけど」
史朗が選んだものを伝えると、揉み手をしながらプロのアドバイスを入れてくる店主ダリ髭。
この色であればこちらを合わせた方が良いとか、首元にこのタイを使うと良いとか、上着を薄手にして縫い取りのきれいなベストをアクセントに合わせてはどうかとか。靴や帽子も勧められ、その気になっている史朗。俺もお勧めの飾帯と靴を幾つか見せられた。
「でもさ、これサイズあるのかな?見るからに小さいけど」
「だよな。聞いてみるよ。『これらのサイズはちゃんとあるのか?俺は良いけど彼には小さいんじゃないのかな』」
史朗が尋ねると、待ってましたとばかりに胸を張りダリ髭が答える。
『大丈夫でございますよ。着る方の身体に合わせてきれいなラインが出るように大きさが変わりますです』
え、勝手に着る人に合わせる服?
『それは魔法で?』と史朗が聞く。
『はい。当店の商品はサイズ合わせの魔法がかかっておりますのでね、どなたにでもすぐに着て頂けるんですよ。太っても痩せても問題ございません。
私、実は恐れ多くもイシルディン神の血筋の末端の者でございますれば、平民ではありますが少々魔法を使います。衣服のサイズを合わせる魔法は私のオリジナルでして、国内でも当店のみの扱いなのです』
店主が誇らしげに言い、そしてすぐに、まあ、それ以外は簡単な生活魔法しか出来ないのですがね、と笑う。いや、十分じゃないですか。
それにしても、そうか。そういう魔法もありなのか。
「アランはすぐ出来そうだな」
「そんな気がする。あとでやってみるよ。手持ちの服も交換して着られそうだね」
「そうだな。俺はゴジラTシャツは着ないけどな。じゃ、取り敢えずはこのセットで買うか」
…なんか引っかかったが、まあいいか。
店主に購入すると伝え、この店で着替えて行くことにする。
試着室で着替えてみると、着た途端に身体に丁度いいサイズに変化した。服のラインがきれいに出てデザインが最も引き立つようになる魔法らしい。人をきれいに見せる服というわけだ。しかも、生地そのものは収縮性はないのに、着ていると動きに合わせて伸びるので突っ張らない。破れず動きやすい服。実に着心地が良い。
史朗は先に着替え終わったようだ。カーテンの向こうから『お似合いですよ』『そうかな。うん、良い感じだよな。そろそろヒゲ剃ろうかな』と聞こえる。
俺も着替え終わって、マスクの上からストールを巻き直して出て行く。ダリ髭店主がしげしげと俺を見ながら『お客様は、何と申しますか、服を作る者からすると実に理想的なプロポーションをされていますねえ』と言う。まあね。
『庶民の方でしたら新作のお披露目の際に是非見本役をやって頂きたい所ですが…残念ですなあ』
いや、俺は庶民ですよ。まあ、どっちにしてもマネキンはやらないけど。
「俺達さ、こっちの世界で美肌水とドア番とモデルで生活して行けそうだな」と史朗が親指を立てる。仕事を見つける事から離れられないのか。
「もう、お金あるじゃん、いっぱい。それより早く支払いして細かいの作って串焼き食いに行こうぜ。腹減ってきたよ」
「だな。『店主、全部で幾らになる?』
『ありがとうございます。それでは小金貨2枚と銀貨3枚でございますが、小金貨2枚におまけ致しますよ』
『え?安くしてくれるのか?でも、どちらかと言うとそのまま払いたいんだけど』
『いやいや、お安くさせて頂きたく存じますよ。ええ、あの、…そう、神殿のご紹介でございますからね。今後ともご贔屓にして頂ければ幸いです』
やっぱり上客認定か。銀貨3枚がどのくらいの価値なのかは謎だけど、気持ちはありがとう。今後共はないけどね。
金貨って幾らなんだろ?この服が2セットで小金貨2枚っていうと、地球の感覚より高めだとして小金貨は5000〜6000クローナ位?もうちょいか。
「ねえ、史朗、金貨とか銀貨ってどのくらいの価値なのかな?」
「さっぱりわからん。銀貨10枚で金貨1枚とか、そういう感じなのかな。でも、小金貨って言ってるから色々あるっぽいな」
『ダリ髭さん、小金貨1枚は銀貨何枚か?』
あ、いけない、ダリ髭って呼んじゃった。史朗が吹き出した。
『は?だりひげ?あ、いえ、直接お言葉を頂けるとはもったいない事でございます。銀貨5枚で大銀貨1枚、大銀貨4枚が小金貨1枚となります』
「アラン、お前安易に名前つけんなよ。おっさんが光って変身したらどうすんだよ」
それは嫌だな。もう黙っておこう。
俺達がボソボソ話していると、店主が赤くなって俺をじっと見ていた。汗もかいているようだ。
なんだ?俺は今アンティアンだから素顔は出してないはずなのに。このおっさん、虫人愛好家か?いやまあ、人の趣味はそれぞれだから良いと思うけど、でも俺はだめだよ。本当は虫人じゃないし。
『じゃあさ、露天で売ってる串焼きって幾らくらいなのかな?』
通訳史朗が話を引き受けてくれた。
『串焼きでございますか。はあ…、少々お待ち下さいませ。おい、シシリー、プライ、お前たち露天の串焼きが幾らか知ってるか?』
『旦那様、プライはお言いつけ通りお使いに出ましたよ』
『そうだったな。シシリーは串焼きの値段を知っているのか』
『串焼きは銅貨3枚くらいでしょうか。露天で売ってるものなら大概は銅貨3枚〜10枚の間かと思います』
『銀貨は銅貨何枚なんだ?』
『銀貨1枚は銅貨50枚ですな』
『酒場で食事をしたらだいたいいくら位になる?』
『酒場…でございますか?シシリー知っているか?』
『庶民の飯屋でしたら、軽い食事なら銅貨20枚程かと思いますが酒場はちょっとわかりません。良い食事処に行くと銀貨1枚位かと』
『そうか。それじゃさ、さっき神殿で紹介された宿があるんだけど、そこが一泊どのくらいかは知ってるかな?この「月の女神亭」ってところなんだけど』
『ああ、この宿は清潔で良い宿でございますね。飯屋もやっていますから食事も出来ますよ。ここはお部屋にもよりますが、確か銀貨2枚位だったかと思います。広い風呂付きのお部屋ですと大銀貨1枚はすると思いますが…』
『大銀貨?』
『はい。大銀貨は銀貨5枚でございますな。大銀貨が4枚で小金貨1枚。小金貨が10枚で中金貨。中金貨以上になりますと貴族の方々か、店同士の商売で使われるようなものでございまして、中金貨が20枚で大金貨となり、その上もございますが、それはほぼ目にすることはございません』
『…なるほど。じゃ、これは何金貨にあたるのかな?』
史朗がポケットに手を入れて金貨を一枚出して店主に見せた。
「ちょっと、そのままポケットに入れてたの?」
「すぐ使えるように5枚だけポケットに入れてた。他のはちゃんと別にしてあるぜ」
「ああ、ちゃんと財布に入れたのか。ポロッと出すからびっくりしたよ」
「ジップロックな」
「え?」
「ジップロックに入れてある。ジップロックは万能の入れ物だからな。軽いし防水だし、今は金貨用の便利な財布だ。お前もジップロックに入れとけば?持ってんだろ」
「あ、ああ…うん。そうか、そうだね」 なるほど、現金の扱いとはそういうものなのか。あとで革袋ごと入れておこう。
『あの、お客様、よろしいですかな。ええと、こちらは小金貨でございますよ』
『なるほど、これが小金貨。ではこれは?』
史朗が腰バッグに入れていたジップロックから大きい金貨を出して店主に見せる。
『こ、これは!これは大金貨でございます!』
『これが大金貨か』…アラン、何となく通貨の感じわかった?」
「うん、なんとなくね。小金貨は日本円で10万円くらいだね。王様は俺達に3000万円くらいくれたみたいだな」
「やっぱ結構くれたな。まあ、広大な森の再生だしな。てかさ、もう滞在中は働く必要ないな」
史朗が店主に向き直って言う。
『教えてくれてありがとう。で、俺達は今この金貨しか持ってないから、銀貨とか銅貨が欲しいんだ。だからおまけなしでさ、金貨3枚で払ってお釣りをもらいたい。串焼きを買いたいんだ』
『は、はい。それでは金貨3枚お預かり致します。お掛けになって少々お待ち下さいませ』
そう言って店主が奥に入っていく。ソファに座って待つ俺達にシシリーさんがお茶を出してくれた。良い香りだ、頂こう。あ、ダメだ、俺はいまアンティアンなんだった。飲めないよ。
「おお、お茶まで出て来ちゃったよ。なんか偉くなったみたいな気がするな」
「普通じゃん」
「何言ってんだ、普通はないぞ。服を買いに行ってお茶でもてなされた事なんてない」
「そうなの?普通、買い物ってお茶が出るんじゃないの?何軒も行くと腹がタプタプになるだろ?」
「ねーよ。お前が服とか買いに行く店はちょっと特別。そしてお前は更に特別。普通のお買い物は量産品をレジに持って行って払って完了。その辺のスーパーで買い物してもお茶出ないだろ。そういうことだよ」
「そうか、確かにスーパーとかでは買うだけだな。ネットでもそうだ。効率いいよな」
「いや、そっちが普通だからね。お、このお茶酸味があって美味いぞ」
「俺も飲みたいな…」
「そういえば、お前そのスタイルだと外食出来ないな」
「そうだ!お茶を一口分だけ覆面の内側に瞬間移動させればいいんじゃないのかな?いや、口に入れちゃえばいいのか」
俺は早速、一口分のお茶を球にしてカップから浮かせ、回転させて適温に冷ましてから口の中に移動させてみた。うん、いいね。口の中に良い香りの温かい液体が広がる。これは酸味とほんのり甘みのあるお茶だな。
「美味い」
「アラン、今のはいい発想だぞ」 史朗が笑顔で頷く。
うん、この感じでやれば人前での食事もいけるな。串焼きも食べられそう。俺がホクホクしていると、丸くなって浮いたお茶が消えた瞬間を目撃したシシリーが、目を見開いて口も開いて唖然としていた。
史朗が笑いながら『アンティアンの食事魔法だ。気にしないでくれ』と言うと、戸惑いながらも丁寧にお辞儀をする。やっぱり魔法が有る世界でも物が浮いたり消えたりしたらびっくりはするのか。街の人の方が慣れてるのかと思ったけど、人目につかないようにやった方がいいかな。
店主ダリ髭が、お釣りを乗せた銀の盆を持った男を連れて戻って来た。
『お待たせ致しました。こちらがお返しとなります。銀貨と銅貨でお持ちしました。ご確認下さい』
『ああ、それは助かる。ありがとう』
『あの…この後はすぐに宿の方に行かれますか?』
『んー、まあ少し街を歩きながらかな。初めてだからブラブラ歩いて観光したいと思ってるんだ』
『左様でございますか。それではこの、ええと…』
『バーティスです』
『そう、このバーティスに案内をさせましょう。街のことを良く知っておりますのでお役に立ちますよ。是非、是非お連れください』
店主が銀の盆を持って来た男を案内に付けるという。史郎と俺は顔を見合わせる。案内いる?まあ、初めての街歩きだし初日くらいは案内があっても良いのか。俺達が黙っているとバーティスが売り込みをしてくる。シシリーとプライとは違って随分と筋肉質でガタイが良い男だ。
『私は街のことをよく存じておりますので、串焼きだけでなく他の美味しい名物もご紹介致しますよ。中には悪い奴らもいますから、ボッタクられてもつまりません。私が一緒でしたら顔も利きますので安心して街を楽しんで頂けると思います。是非、ご一緒させて頂きたいのです。
私としましても、初めて街を訪れた方に、ああ、良い街だと思って頂けると大変うれしいのです。それに、ご一緒させて頂きませんと私の主に叱られてしまいますので、どうか、何卒同行をお許し頂きたく』
『主に叱られる…?』
俺がそう言って店主の方を向くと、店主が目を見開いて首をブンブン振って『いえいえいえ、とんでもございません』と言い、それを聞いたバーティスが目に力を込めて店主を見る。
すると店主が慌てて『あ、はい、そうなんです。あの、当店でお買い物をして頂いたお客様を丁重にご案内せよと、先程きつく申し付けましたので、ええ、どうか、どうか、私の為にもバーティスを一緒にお連れ頂けないでしょうか』と、最後の頃は涙目で訴えて来た。
『んじゃあ、お願いするかな』 史朗がそう言うと店主とバーティスの顔がぱあっと明るくなった。
『美味いものいっぱい教えてくれよな』
『お任せください!!それでは参りましょう。では店主、行って参る…でございます、旦那様』
『はい。行ってらっしゃいませ。お気おつけて。バーティスさ…バーティス、しっかりとご案内をして、無事に宿にお連れするんですよ』
『はい、肝に銘じて』
シシリーがドアを開けてくれて、俺達は店を後にした。
服もこちら風に変えたし、でかいザックを背負っていても肌のきれいなドワーフと虫人の行商人か何かにしか見えないだろう…と思ったが、ザックよりも俺のゴーグルがピカピカ七色なのが気になるのか、下から顔を覗き込まれる頻度が高い。
俺は新しい服の大きなフードを深く深くかぶることにした。




