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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流 2
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麗しの森で溶ける


 おばばだったエルスペすは、この後もしばらくエルフの里で過ごす事になった。その旨を書いた、エルスペスから村長への手紙を預かり、里のエルフ達に別れを告げて、来た時と同じようにタロウ達長老グループに付き添われ幻想的な空間を抜けて、癒しの水の泉に戻って来た。


 『お名残り惜しゅうございます。どうかまた我らが里にお越しくださいますように、心よりお待ち申し上げております』と言って礼を取り、エルフのタロウ達は里に帰っていった。 


 エルフの光が消え、癒しの水の泉で史郎と2人になり、俺たちは少し無言で過ごした。そして、俺は癒しの水でコーヒーを淹れた。


 「美味いな」


 「うん」 


 「夢みたいな3日間だったな」


 「本当だね」 


 「…泣いてたなあ」 


 「そうだね」 


 そう、史朗のレーレとジャナは静かに、でもとても泣いて史朗との別れを惜しんでいた。短い時間だったけど、彼女たちは本当に史朗が好きになったんだろう。

 何となくだけど、ジャナに史朗の子供が出来てるような気がしたけど、確信はないから何も言わなかった。


 「まあ、俺はもうエルフの里には入れないからな。彼女達には二度と会う事もないだろう。きっとすぐに俺の事なんて忘れるよな。忘れないと何千年も生きてなんていられないだろうからな…」 


 そういった史朗の目がちょっと涙で光っていたような気がした。


 別れは切ないね。

 

 「あ、でも、地球に帰る前にもう一回ジラールを見に来るから、その時にまた会えるよ」


 「そうなのか?俺はまた俺の妻たちに会えるのか」


 妻って言ったよ、史朗。え?


 「史朗、彼女たちと結婚したの?!」 


 「うん、昨夜な。まあ、真似事だけど3人で式を挙げた」 


 「えっと、おめでとう。でも妻を置いて地球に帰っちゃって良いの?」 


 「それな。俺も悩んだんだけどさ、彼女たちが自分達はこの地を離れないし、俺もここには長く居られないから仕方がないんだって。だから、良いんだって言うんだよ。それでも、それでも俺が生きている間は俺の妻でいるんだってさ…」 


 「長く居られない?」


 「うん、何か俺がエルフの里にいられるのは一週間が限度だって。それ以上居ると死ぬっぽい」 


 「マジで?!」


 「俺はこっちの人間とはやっぱ違うみたいでさ」 


 「…そうなんだ」 


 「あ、でもアランは大丈夫らしいぞ。我が君は里への出入りも自由だし、ずーっと居ても大丈夫なのにって言ってた」 


 ん?よくそんな会話が成り立ったな。史朗、いつの間にそんなに話せるようになったんだ?音階のせい? 


 「ねえ、よくそんなに話が出来たね。随分言葉覚えたんだ」 


 「ああ、言葉の実ってのをもらって食ったからな」


 「は?いつ?」 


 「昨夜な、もっと話したいってレーレが持って来てさ。あれ、酸っぱいんだな。レモンみたいな酸っぱさで、一個丸ごと食べなきゃダメって言うんだけど大変だったぜ」


 「え?じゃあ、史朗はもうこっちの言葉ペラペラ?」 


 「おお、母国語みたいに話せるぞ」 


 「俺も言葉の実欲しいんだけど」 


 「一個しか無かったんだって。お前は神殿でもらいなよ。もう随分話せるんだから慌てなくて良いじゃん」


 「なんだよそれー。ずりぃ」


 「とにかく、やる事先にやっちまおうぜ。なんか、帰りにまた里に寄れると思ったら元気出てきたよ」

 

 「まあ、良かったけどさ。えー、いいな言葉の実」 


 「ほら、沐浴すんだろ?早くしな。溶けて戻ったら話せるようになってるかもしれないぜ」


 「史朗も沐浴しなよ」


 「うん、俺はしない。冷たいもん、無理」


 「大丈夫だよ。水温20度近くはあると思うよ」 


 「無理。俺は26度以上じゃないと無理。溶けないように見てるからさ、ほら行け」


 何だよもう、と言いながら俺は服を脱ぐ。溶けてもどのあたりにいるかわかるようにとパンツだけは履いたまま癒しの泉に入っていく。本当に溶けるのかな。

 うん、この程度の水温なら、全然オッケーじゃん。水、気持ちいいし。


 「史朗、26度はないけど、この水すごく気持ちいいぞ」と言って振り返ると、そこに史朗の姿はなかった。景色が違う。驚いて見回すと、上の方に俺のパンツが浮いていた。


 ウソ。溶けるってこんなに一瞬で? 


 でも、俺という意識はあるし、視界も良好だ。でも身体は溶けたの?自分の手を見ようとするが、感覚はあっても手が見えない。手だけではなく身体が見えなくなってしまった。


 あ、なんか頭の中にシューッとこの水の気持ち良さが染み込んでくる感じ。頭の天辺が開いて、頭の周りから染み込んで来た気持ちの良さが、その天辺から吹き出していく。どんどん染み込んで来て吹き出して、ポンプのように元あったものを押し出して、俺の頭の中が気持ち良さだけになっていく。

 わかった。これ俺の顔が、頭が溶けたんだ。今はまるで目だけになっているような気がした。

 あああ、目にもこの水の気持ち良さが侵入してくる。本当に全部が気持ち良さになって行く。

 全部が気持ち良さになってしまったら、額だった辺りから淡いピンクの光が扇状に広がって行くのがわかった。



 気持ちいいな。



 ただそれだけだ。


 そのままになっていて、気づくとまた喉、つまり首があるのが感じられるようになってきた。…身体が戻ってくるのか。


 喉があるから何となく口を開けて「あ」と言ってみたつもり。

 すると、顎と口があるのを感じた。白く明るい所に日本語で大きく墨で書いたような「る」という文字が浮かんで来たので、平仮名で「る」と言ってみた。すると、続いてカタカナで縦に「ランティア」と出て来た。なので、そう言ってみた。


 その瞬間にわかった。


 あ。

 

 俺だ。


 俺がアルランティアだ。 


 驚いて目を開けたと思った。でも、実際はまだ目がなかったんだと思う。何というか、目を閉じたまま自分が漂っている姿を、意識だけの目を開けて見たような、不思議な感覚。自分が同時に色々な所に存在しているような感覚でもある。


 一瞬で、外側からの視点で自分の肉体が目に映った。同時に俺の意識が肉体とひとつになって、意識が身体の中に収まった気がした。


 額のあたりから出ている扇状の光の上を、超ロン毛の俺がスーッと滑るように近づいて来た。どんどん近くなって、そして「目覚めよ」と言う声と共に俺の頭の中に入って来た。


 水の入ったビニールの玉が顔の前で弾けたようなパシャ!とした感覚がして、今度は本当に目を開けた。

 あ、身体がある。上を見るとパンツは浮いていなかった。なんと、ちゃんと履いている。俺には身体があってパンツを履いていた。水に入って来た時と同じだ。

 

 でも、ここは泉の底だ。沈んでいるのか。全く苦しくはないが、思考が「息をしなければ」と考え、そのまま上に泳いで上がった。水面から顔を出して息をする。そこは泉の真ん中あたりで、岸では史朗が心配そうな顔と落ち着きのない動きでこっちを見ていた。


 おーい!と声を出して史朗に手を振る。史朗がホッとした顔になって手を振り返して来る。「大丈夫かー?!」と言っている。 

 俺は答えるより、そのまま岸に向かって泳いだ。泉から上がると、史朗がタオルを持って来た。身体を拭いて、髪を拭いていると、あれ?ちょっと待って、髪の色が金髪じゃなくなってる。

 

 「アラン、なんかエルフの里にいた時みたいな髪になってるぞ。銀色にきらきら光っていて、目も紫に青が入ってる」 


 「…俺、溶けたんだよ、一瞬で」 


 「うん、見てた。歩いて水に入っていったなと思ったらシュッといなくなった。神様に聞いてなかったら大パニックになってたよ」 


 「パンツがさ、上の方に浮いてるのを見たんだ」 


 「うん、パンツだけ残ってた。沈んで行ったけど」 


 俺は水に溶けて完全に身体が無くなる体験をしたと史朗に話した。 

 

 「溶けて再生してラメ入りアランになったのか」と史朗が難しそうな顔をしておかしなことを言う。


 なんだ、ラメ入りアランって。確かに変にキラキラ光ってるけど。

 俺は史朗にも沐浴をしてみればと言った。


 「いや、俺はいいよ」と言っていた史朗だが、俺があまりにも勧めるので、しぶしぶ服を脱いでパンツだけになり水に入っていく。


 「うわ、冷てえ!お前よくこんなのに入ったよな」 


 そう言いながら水に入って行き泳ぎだした。


 「ほら、俺は溶けないんだよ。お前だけ溶け…」


 史朗が消えた。パンツだけが浮いている。

 俺はそのままそこで待っていた。1〜2分すると水面にぽっかりと黒い頭が浮いてくるのが見えて、顔を出した史朗がプハーッと息をした。その様子がちょっとジラールに似ていて、俺はつい笑ってしまった。 


 「おーい!お前今笑ってただろ。俺は急に身体が無くなってびっくりしてたんだぞ!」 


 そう言いながら泳いで戻って来た史朗。パンツがない。 


 「ごめん。だって、プハーって出て来た史朗がジラールに似てたんだもん。てか、パンツは?」 


 「あ!パンツが無い!何でだ?」 


 泉を振り返ってキョロキョロしている史朗が、あ、あそこに浮いてると言ってバシャバシャ戻りパンツを取ってきた。


 「俺、履いたまま入ったと思ったんだけどなあ」と言って体を拭いてから、パンツを絞っている。俺は自分でもしたように、水分を飛ばして温風で乾かしてやった。

 「おう、サンキュ」と言った史朗は服を着てから、溶けた時の体験を語りだした。


 「俺はさ、溶けないなって、まあ、そうだよなって思って泳いでたのよ。そしたら瞬間的に身体がなくなったのがわかってさ」 


 史朗は、俺とは違って気付いたら地球の日本の家を上から見ていたのだそうだ。

 暖かくも寒くもなく浮いているというか、身体は無くて意識だけで、あ、家だと思ったら、すっと家の中に入ったんだと。

 そして視点が切り替わるような感じで家の中を移動して、仏壇に目が行って、お祖父さんとお祖母さんの写真を見て「放ったらかしにしちゃってごめん」と思って手を合わせた…つもりだった。

 次の瞬間、二階の自分の部屋に移動していて、部屋の中を見回して、「アラン家に出発する時、こんなに散らかして行ったのか」と思って「帰ったら片付けないとな」と思った瞬間、今度は台所にいた。そしてお湯を沸かしてお茶を淹れて飲んだんだそうだ。 


 「お茶を飲みながらさ、ふと、アランの家では皆どうしてるんだろう?って思ったら、急にアランの家の居間のソファに座っててさ、フリードリヒさんとセバスさんと数人のメイドさんがものすごくびっくりした顔で俺を見てたんだよ」


 「マジで?」


 「マジだよ。夢かなって感じだったのにフリードリヒさんが『シロか!?』 って言うんだもん、びっくりしたよ。その格好はどうした、ジラールの湖で泳いでいるのか?それとも風呂か?って言われたぜ」


 「うわ、繋がっちゃってんだ。ここで繋がれるんじゃん!」 


 「そんでさ、ジラールの湖じゃなくて癒しの泉で泳いでるんですよって言ったんだよ。セバスさんが廊下に何か叫んでて、で、あれ?なんで俺ここに来てるんだろう?って、夢かな?って言ったら、フリードリヒさんが夢ではないぞ、寒くないのか?って言って。

 そこに奈々恵さんが温かいお茶とケーキを持って駆け込んで来て、そんで俺を見てヒッ!って言ってすごい顔しながらお茶とケーキを出してくれたんだ。

 美味かったよ、ケーキ。でもさ、今思うと俺…全裸だったんだな。てか、何笑ってんだよ」 


 ごめん史朗、俺は笑うのを止められない。その場の様子が目に浮かんでしまう。うちの居間で爺ちゃん達と全裸でケーキを食う史朗。

 

 「お前よぉ、笑い過ぎだよ。…まあいいけどさ。で、アランも元気ですから大丈夫ですよって言って、フリードリヒさんが何か言おうとした所で戻ったんだ。あれじゃないか、今頃、次はアランが全裸で出てきたらどうしようって服とか用意してんじゃないの?」

 

 ありそうだ。俺はスマホを出して自撮りでメッセージを送った。 


 「エルフの里を出て癒しの泉にいます。なんか神様にこの泉で沐浴をしなさいって言われて泳いだんだけど、俺は普通に、普通に…あれ?普通になんだっけ。兎に角俺はもう上がって服を着ています。

 俺はそっちには裸で出ないから大丈夫だよ。今、史朗がそっちから戻って来て話を聞いて笑ってます。少し休んだら移動をします。もう一回ガレオ村に行ってから街に行く予定です。

 あ、そうだ、補給物資にノートパソコン入れて下さい。ジラールの生態とかまとめたいから新型のフルスペックのをお願いします。

 奈々恵、びっくりしたと思うけど、史朗は自分ではちゃんとパンツを履いてるって思ってたんだ。なんか、パンツだけがそっちに行かなかったらしい。でも、今はちゃんとパンツを履いていいるから大丈夫です。あ、ケーキ美味しかったって。


 それと一大事があったんだ!爺ちゃん、大変だよ。おばばがエルフの血筋で、エルフの里におばばのお祖母さんがいたんだ。

 ええと、20歳くらいにしか見えない3687歳のエルフなんだけど。孫に会いたいって言うから、おばばをエルフの里に連れて来たら、あの145歳のおばあちゃんが、なんと若返って18歳くらいの女の子になっちゃったんだよ!中身は変わらずおばばだったけど、俺はもう思考が追いつきません。

 ええと、あとは、そうだ、とにかく俺はエルフはお嫁さんにはしません!子供が600年くらい生きるっていうから、地球じゃ絶対無理でしょ。だから、セバスのリストを後でちゃんと見ます。後でまたゆっくり連絡します」


 「弾丸レポートだな」


 史朗が言う。

 

 「思ったんだけどさ、やっぱね、この水温がダメだと思うぜ。お前は全然平気なんだろうけど、俺はもう本当に冷たくてダメ。感触はすごく気持ちいい水だけど、冷たさが先に立って、ひいいって、ずっと思ってたぞ」 


 「そうなの?俺はすごく気持ちよかったよ。形が無くなって水とひとつになっちゃって、そんで、あ、俺だ、俺が出て来て、なんだっけな。よく覚えてないや。あ、でも、そうだ。アルランティアって俺だって事がわかった」


 「ああ、それはそうだろうな」 


 「史朗、知ってたの?」 


 「え?何が?俺いま何て言った?消えちゃったんだけど」


 「俺がアルランティアだって」 


 「わかんない。何それ」 


 「…わかったよ。何かまた大事なことだから言えなくなってるんだ。すっきりしないなあ」 


 「うーん、まあ俺が言ってわからなくなる事をさ、メモっておけ。多分大事だから。もう全然わかんないんだけど、きっとすごく大事なことだからな」


 「そうするよ。ああ、早くパソコンもらいたいな。そしたらもっと色々整理しやすくなるんだけどな。スマホじゃちまちましててやだ」 


 「俺もさ、パソコンに写真取り込んで大きい画面でチェックしたいな。早めに受け取りに行ってね」


 「うん、今夜辺り行けるといいかなとは思う。邪魔するお姉さん達いないし」 


 「だな。2晩とも忙しかったもんな」 


 「あ、それなんだけどさ、ガレオ村に行ったらエルフの里では3日のはずが1週間経ってるって言われたんだよ。やっぱここは時間の進み具合が違うみたいだ。1週間ってやばいじゃん。3日だと思ってのんびりしてたら史朗死んでたよ。だからだな、神様がもうエルフの里を出なさいって言ったの」

 

 「そうか。時間の経過が違うんじゃ、一週間に一度エルフの里を出れば良いという感じじゃないんだな…。ちょっとさ、そうすればこっちに居られるかなっても思ったんだよな。神様が死なないように助けてくれたんだな」


 「そうだね。沐浴も終わったし、この森も早めに出た方が良いかもな」 


 「そうしようぜ。何で行く?丸?鳥?」 


 「まずはガレオ村におばばの手紙を届けないといけないから、ニルス呼ぶよ」


 「オッケー」

  

 

  

言語が理解できるようになる魔法の実の名前を「知恵の実」から「言葉の実」に変更しました。

「知恵の実」だとちょっと違うものになってしまう。

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