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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流 2
69/117

エルフの里 6 エルスペス


 ユリアは3687歳だそう。若いな。いや、若くないけど。


 でも人間だとしたら中学生くらいって事だろ。そう脳内変換をしてこれまた混乱し、俺は若干罪悪感を感じた。


 いや、違うぞ。圧倒的に俺の方が若いんだから、そんな中学生を相手にしたとか思う必要はないんだ。シンプルに考えろ。俺は18歳、ユリアは3687歳。雑に計算しても3669歳年上だ。地球年齢に換算したら、もっともっと年上だ。大丈夫だ。


 『我が君、どうなさいました?』


 『…何でもない、それで?』


 『私は人間が好きで、もう5回も人間の夫を持ちましたわ。子供も毎回2〜3人産みましたので、私の子孫も沢山増えているはずですわね』


 爽やかに笑顔でそう言うユリア。なんか、既に人間族の大半にエルフの血が入っているんじゃないかと思えてくる。実際はそうでもないんだろうけど。

 彼女は虫人(むしびと)獣人(けものびと)とも結婚したことがあるという。


 『人間の夫達はみんな性格も生まれも違いましたが、とても大切にしてくれましたの。一緒に暮らせたのはやはり30〜40年程度でしたが、中には夫が5歳の時に知り合って15歳で結婚をして、72歳まで生きてくれたので67年一緒に過ごせた人も居ましたのよ。それでも私達に取っては瞬きするような時間でしかありませんでしたが、幸せでしたわ』


 置いていかれる悲しさもあるけど、一緒にいられた時間が幸せだと。その幸せはずっと大切に心の中に残っているんだね。


 『最後の結婚で息子を2人と娘を1人生みましたが、もう3人とも亡くなってしまいました。わかってはいますが、やはり愛しい夫と子供たちが自分よりも先に逝くというのは、言葉に出来ない思いですわ』


 そうか、エルフは感情のあり方が人間とは違うみたいな説があるけど、やっぱり悲しみは感じるし愛は深いんだな。

 俺はお嫁さんを残して先に死ぬのは嫌だな。俺が置いて行かれるならその方がまだ良い。残されてしまう辛い思いを大事な人にさせたくはないよ。


 『実は私には行方不明の孫がいるのです。この世界にどれだけ子孫が増えているかわからないのも確かですが、でも、名前もわかっている孫がいるのに、どこにいるのかがわからず、どんな暮らしをしているのかもわからず、それがずっと気になっています。

 最後に生んだ子供たちもそれぞれに400〜500年生きて、2番目の息子の3人目の妻が、遠く遠くイシルディン神の血を引く巫女でした。孫は息子が400歳を過ぎてから出来たと娘だと聞いております』


 イシルディン神が姿を消してからこの300年、光の民はエルフの里から出られなかったそうで、時々息子さんが、癒しの水を汲みに来る神殿の神官に頼んで手紙を送ってよこしたのだそうだ。


 神官も代替わりをしながらなので、中にはこの森に手紙を置いて行って何になるのかと不審がっていた者もいたようだ。それでもちゃんと手紙を持って来ては癒しの泉のほとりに置いて行った。

 そして長老によって里に持ち込まれた手紙に返事を書いて、また長老に泉のほとりに置いてもらう。そうして返って来る返事を、神官たちは驚きながらも息子に届けてくれたらしい。


 それで麗しの森にはエルフ族が住んでいるという噂が広まっていたのか。


 ところが、140年前に息子夫婦が亡くなったと神官からの手紙があったのを最後に、5歳になっていたはずの孫の行方はわからなくなってしまったらしい。


 『エルフ族と人間の子であるわが息子を父に、そしてかすかとは言えイシルディン神の血を引く母を持つ子ですから、恐らく神殿に引き取られたのではないかと思っています。無事で元気に育ってくれていたらと願いますが、出来れば孫が生きている間にひと目だけでも会いたいと思っているのです。ですが、私はまだエルフの里を出ることが叶いません。

 息子の手紙に、私に良く似た娘だとありました。このようなお願いを出来る立場ではございませんが、我が君、もしもそのような娘にお会いにありましたら、どうか祖母がここに居て会いたがっているとお伝え下さいませ。今更、奇跡が起こるとも思えませんが、それでも願わずにはいられないのです』

 

 わかるよ。見たことが無くても家族がいるなら会いたいよね。俺も幸せに育ったけど、それでもやっぱり肉親の事は考えてしまう。俺の探知で探せるなら探してあげたい。


 『孫の名はわかるのか』


 『はい。息子からの手紙にエルスペスと名付けたとありました。今では145歳になっているはずですわ』


 ん?145歳のエルスペス?

 なんか、それ知ってる気がするぞ。おばばじゃないか?


 『…確信はないが、エルスペス、知っているかもしれない』


 『本当ですか?!』


 『145歳と言っていた。イシルディン神の血筋が入っているとも言っていた。巫女をしていた。今はとても良いおばあちゃんになっている』


 俺はおばばと一緒に撮った写真をユリアに見せた。見てもシワシワのおばあちゃんだからわからないだろうけど。 


 『これ、私の知るエルスペス』


 『これが…ああ、わかりますわ!間違いなくこの子です。この子から発せられる色が息子と同じです。息子は特殊な色でしたから、こんなに同じ色の者が全くの他人で居るとは思えません。それに、つぶらな瞳が私に似ているようにも思えます!』


 『本当だわ、顔がユリアに良く似ている!』


 え?どこが?


 『こ、この子は、今どこにおりますでしょうか?私はまだこの里を出られませんが、会えるなら会いたい…。せめて手紙だけでも届けとうございます』


 『割と近くにいる。ニルスで飛べば20分の場所。連れてくるか』


 「連れて来て頂けますか?!』


 『大丈夫。タロウに聞くよい。長老達が里に入れても良ければ、明日の朝連れてくる』


 『あああ、我が君…!!ありがとうございます、ありがとうございます!』 


 感極まって泣き崩れるユリア。そして一緒に泣いているネッコ。俺の可愛い2人の為に何かが出来るなら、それは俺も嬉しい。


 だが、ユリアが俺がとてもお世話になった心の祖母おばばの、更におばばだという衝撃の事実は、俺のバズーカを完全に沈静化させるだけの威力があった。

 おばば、お祖母さんに色んな事をしちゃってごめんなさい。もうしません。絶対にしません。


 すぐにタロウに話しに行った2人は、あっという間に許可を取り付けて来た。というか、タロウが話しを聞いて我が事のように大喜びをし、泣きながら部屋に駆け込んできたのだ。

 そして俺に抱きついてベッドに押し倒し、『なんたる奇跡。神の計らいとはかくもお優しく…』とか色々言いながら、そのまましばらく俺の胸で泣いていた。


 俺は9626歳の背中をなだめるようになで続けた。

 泣き続けるタロウをネッコ達が回収して行ってくれたので助かった。


 今日はもう寝ようと思っていたら、史朗の所に送ったはずの2人が『お召し替えを』とやって来て、タロウの涙で濡れたガウンを脱がせてくれた。

 そこから、お召し替えが済むまでが大変で、…それはまあどうでも良い。とりあえず俺は頑張ったとだけ言っておこう。



 翌朝、朝食で会った史朗に事情を話し、俺はニルスに乗ってガレオ村に飛んだ。

 もちろんすぐに到着して、『3ヶ月したら返ってくると言ったのに1週間で帰って来た!』と村人達に喜ばれた。

 1週間?まだ3日くらいじゃないの?やはり麗しの森、エルフの里は時間の流れが違うのか。


 そのまま宴会になりそうになったのでそれは止めてもらう。そして、おばばにユリアの事を話した。ショックで倒れないかと心配だったので、座らせて命の水を少しずつ飲ませながら話したんだ。


 おばばは、『なんと…、私のお祖母様がお元気でいらして、私を探していてくださったと…会いたいと言ってくださっているというのですか…』と泣き崩れた。

 あまり泣いて震えているので、俺はおばばを抱きしめた。すると泣きながらおばばがまた光り始めたんだ。


 光が収まり、涙を吹いて顔を上げたおばばは、また若返っていて地球の感覚で40代くらいになっていた。

 命の水を少しずつ何度か飲ませたかせいなのか。白髪は金髪になり背筋も伸びて、もうおばあさんではなく、おばばと呼ぶのも申し訳ないおばさんだ。

 何故おばばだけこんな反応が起こるんだろう。しかも俺が出した命の水を飲んだ時だけ。もしかすると、エルフの血と関係があるんだろうか。


 40代くらいになったおばばは、言われてみれば確かにユリアにちょっと似ているような気もする。見た目だけなら、まるでユリアのお母さんみたいだ。


 おばあちゃんからおばさんに変身してしまったおばばを見て驚いた村長や長老たち。皆に事情を話すと、それを村長が村人達にも伝えた。

 村中が驚きと感動の涙に包まれ、皆に見送られておばばをニルスに乗せてエルフの里に直行する事になった。


 村長に『エルフの里、時間少し違う。何日も帰らないかも知れない。だが、大丈夫。心配ない』と伝え、俺はガレオ村を後にした。 


 エルフの里の草原にニルスが着地すると、待ちきれなかったのかユリアが走って来る。

 『遠くからでも間違いなく孫の光がわかります!その子は私のエルスペスです!エルスペス、お祖母様ですよ!!』と泣きながら叫んだ。 


 対面したおばば、いやエルスペスとユリアは、やはり孫であるエルスペスの方がお母さんに見えてしまうのだが、2人の間では間違いなく孫と祖母。見えない何かを感じ合い『私のエルスペス』『お祖母様』と呼び合って抱き合って泣いていた。 

 

 泣いて泣いて泣いた2人。ユリアが俺にお礼を言ってから、エルフの里の皆にエルスペスを紹介した。お母さんみたいに見えるはずのエルスペスが、ユリアに『私の孫ですの』と言われ、エルフ達に挨拶をする様子が、とても幼く可愛らしく見えて、まるで少女のようだった。

 本当に可憐で可愛らしかったんだ。そしてユリアは確かに祖母の顔になっていた。

 皆が2人を囲み、座って少し落ち着いてから、癒しの水で淹れたお茶が出された。それを飲んだエルスペスは、またしても光って若返った。今度は17〜8歳の姿に。

 

 もしかして、エルフ族がみんな若くて長命なのって、種族のせいもあるけど、普段から特別な水を飲んでるからじゃないのか?


 『そうだ。元々はエルフ族も2000歳を過ぎると姿も老人になっていた。寿命も長くても精々3000年程だったのだ。だが、いつの頃からか、エルフ族の清い心がグラウギリスの御心に叶い、その恵みによって更に長く存在するようになった。お前が出す水はグラウギリスの恵みそのものだ。エルフの血を引く者には十分に効果があったであろうよ』


 ふうん、そうなのか。って、誰?…なんて言わないよ。わかってる。神様だ。時々答えてくれるんだよね。あ、そうだ、ジラールに会わせてくれてありがとうございます。最高です。


 お礼を言うと、神様がふっと笑ったような気がした。


 『お前達はもうこの里を出なさい。癒しの泉で沐浴をして、それから人の街に向かうのだよ。ゆっくりと水に浸かるのだ。溶けてしまってもすぐに戻るから心配はいらない。史朗にもそう言っておきなさい』


 はーい。

 溶けるって何だ?ま、いいか。俺は考え過ぎずにいい加減になるんだ。


 「誰としゃべってるんだ?神様か?」 史朗が気付いたらしい。


 「うん。もうこの里を出なさいって。癒しの泉で泳げってさ。溶けてもすぐ戻るから心配するなと史朗に言っておけって」 


 『おお、白銀の君よ、イシルディン神がいらしておいでですな。気配を感じまするぞ。有り難い』


 若返ったとは言っても中身はおばばそのままで、変わらない話し方と動きで手を合わせるエルスペス。ユリアと並んでいる様子は姉妹のようだ。本当によく似てるよ、すごく可愛い。

 というか、こんなに綺麗で可愛いのに、歳を取るとあんなにちっちゃいおばあちゃんになってしまうのか。本日二つ目の驚愕の事実だ。


 『おばば、いや、エルスペス、とても美人』 と言うと、嬉しそうににこっと微笑む。その笑顔が可愛らしくて俺は多分ちょっと赤くなった。

 …良く似たユリアとのあれこれが俺の目を泳がせるということもアリ。

 

 ユリアがはしゃいで『我が君、次は私達2人を一緒にお召下さいませ!』と言い出した。

 エルスペスが『お召しとは?』って聞くもんだから、ユリアが得意げに『エルフの里においでの間、私とネッコがお世話をしているのよ。私達をお気に召して、直々にご指名を頂いたのです』と、頬を染めてうっとりと言う。


 ちょっと!その人、若返りはしたけど、俺の心の祖母なんだよ。おばばに、おばばに俺のそういう話しをしないでよ。

 それに、2人は祖母と孫だろ?!おおらか過ぎるだろう!ダメだよ!そもそも「秘め事」と言うようにこんなに沢山の人の前で話すような事じゃないだろ!


 『エルスペスにそんな話しない!エルスペスは大事なおばば!』


 真っ赤になって抗議すると、まさかのエルスペスが『白銀の君のお相手でしたら私もしたいですのう。若返った今なら子も産めますからな。ほほほ』と発言した。嘘でしょ。俺のおばばはどこに行っちゃったの?

 俺が唖然としているとエルスペスが笑いながら言った。


 『ほほほ、冗談でございますよ。焦るお顔が可愛らしいですのう』


 くそう、からかわれた。でも変わらないおばばだ、良かった。


 あっという間にエルフの里に溶け込んで、ずっとここに居たかのように馴染んでいるエルスペス。ユリアに『お祖母様、実はガレオ村にはお祖母様の子孫たちがおりまする』と言った。

 村にはおばばの血筋、つまりユリアの血筋の者が7名いるのだそうだ。それを聞いてユリアが泣いている。いつか里を出られる時が来たら、必ず皆に会いに行くとエルスペスの手を握って泣いている。ちなみにタロウも泣いている。


 感動と幸せムードに満ちている中、また俺の服を涙で濡らしているタロウの背をさすりながら、『神が呼んでいるから俺達はもうエルフの里を出なければならない』と伝えた。嘘は言っていない。ただ、この状況を何とかしたいなとは思ったけど。


 涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、『なんとそのような…もう御出立ですか…』と悲しそうな顔をするタロウ。止めることは出来ないと、『せめて昼食を取ってから癒しの泉まで送りましょう』と言ってくれた。

 俺たちは皆で一緒に食事をした。昼の宴会だ。酒が出されて少し飲んだ史朗がヘラヘラ笑いながら言う。


 「おばばってあんなに可愛かったんだなあ。すっごい良いじゃん」


 「軽いな史朗。展開について行けてるのか?俺は混乱しまくってるよ。だって、おばばだよ。俺のおばばはすごく良いおばあちゃんなんだよ。それが、あんな若い女の子になっちゃって。しかも冗談でも俺のお相手ならしてみたいとか言い出して。俺はもうわけがわからないよ」 


 「過去を振り返るな、今を見ろ。今のおばばは、若くて綺麗な女の子だ。エルフだって若くて綺麗な女性だけど数千歳なわけだろ?それからしたら145歳なんてピチピチもいいトコじゃないか」 


 「それはそうだけど」 


 「な、あれはもうおばばじゃない。エルスペスちゃんだ。ピチピチの可愛い女の子、エルスペスちゃんなんだ。彼女が望むなら受け止めればいい」 


 「受け止める…」


 「そうだ。望まれて、そしてお前もやる気になるならば、一緒に気持ちよくなればそれでいいじゃないか」


 「ちょっとだけだと思ったけどかなり酔ってるな?ダメだ。ダメ。俺には無理。あ、そうだ!それよりセバスお勧めのお嬢さん達のリストでも見ようっと」 


 「あ、それは現実逃避だぞ。この現実逃避のヒー助め」


 なんと俺は、拗ねっこスネスネからヒー助になってしまった。



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