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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流 2
67/117

エルフの里 4 湖探検

地球語(英語/日本語)での会話(聞き取り)を「」で、グラウギリスの言葉での会話を『』で表記してます。



 朝食を済ませて、すぐにジラールの湖に行く準備をした。今日は一日あそこで観察をするんだ。餌を受け取っているとニルスが飛んできて着地した。

 

 『ニルス、時間通り。良い鳥』


 俺が褒めると、自慢気に顔を上げて胸を膨らませるニルス。これはこれで可愛い。ジラールとは違った可愛さがある。 

 タロウが『ニルス様に癒しの水をお出しせよ』と指示している。それから俺のところに来て言う。


 『先に出発している者達が南の湖でお待ちしております。餌も豊富に持って行ってありますので、本日はどうぞ心ゆくまでジラールを愛でてお過ごしください。あちらで食事もご用意致しますし、お疲れになりましたらテントでゆるりとお休みいただく事も出来ます。ええ…それで』


 タロウがにこにこと笑顔で続ける。


 『昨夜の者達はお気に召して頂けましたでしょうか。もし気に入らなければ違う者もおりますので、どうぞお申し付け下さいませ』


 あのお姉さん達ね。まあ、気に入りましたけど、でも人数が多い。ていうか、こっちの世界では人間の男性にはああいうおもてなしをするという認識が一般的なんだろうか。現代人としてはちょっとびっくりする。

 エルフは恋人になっても夫婦になっても、人間同士のような性的な接触はほぼしないみたいだから、人間と恋愛や結婚をしたことがある女性がいてこその対応だと思う。

 まあでも、知識だけはあるのか。とにかくマニュアル的になってるのかもしれないな。だから1人対4人になっちゃうのかもね。悪しき人間社会の因習か?いや、女性が乗り気なら悪しきではないのか?

 人間の女性にはどうするんだろう。男性エルフを充てがうのかな。それとも、普通にエステとか…。


 『昨日の4人、皆良い。だが私は4人は必要ない。史朗の方に4人で』


 『左様でございましたか。昨夜の者達は、更にあと2人程増やした方が我が君にはよろしいのではないかと申しておりましたが…。私はとんと疎いもので、申し訳ございません。それでは、今宵はどの者をご希望でしょうか』


 『…赤毛』 俺を案内したあのふわふわの髪のお姉さんは好きだ。


 『赤毛、ネッコでございますね。ネッコだけでよろしゅうございますか』


 『…では、あと金髪』 他のお姉さん達よりもちっこくて、俺の髪をまとめようと背伸びをしていた様子が可愛いかった。まあ、小柄とは言っても170センチくらいはあるんだろうけど。


 史朗には「俺は1人で十分なんだ」と言っておいて2人指名してしまった。ちょっと恥ずかしい。俺はやる気満々じゃないか。

 でも史朗が「2人が良い」みたいな事を言ってたから、そうなのかな?って思ったし。それに、女性にあと2人増やした方がいいと言われたということは、俺は結構な頑張りをみせたのではないだろうか。1人では女性が大変なのかもしれない。エルフだし、俺の知っているアリスやキャロたちとは違うのかもしれないな。いや…正直もっとパワフルな感じはしたけど、本当は大変だったのかもしれない。

 うん、ひとりの負担を軽くするためにも、きっと2人居た方が良いんだろう。そういう事にしよう。


 『はい。それではネッコとユリアを遣わせましょう。2人共、南の湖に行っておりますから、今宵はそのままお召し下さい。それで、よろしければ、その…』


 『?』


 『よろしければ、是非とも我が君のお胤を2人に頂きとうございまして。あの、昨夜は頂けなかったと申しておりましたので…』


 おたね? 


 『おたね』


 『はい。実はこの機会に、我らエルフ族に我が君の直系の御子を授かれればと願っております』


 あ、種。精子ってことか。え?俺の子供?俺の子供が欲しいの?

 それはダメだよ、結婚もしてないのに子供を作ったら奈々恵に叱られるし。それに爺ちゃんに紹介もしてないのにお嫁さんには出来ない。

 そうか、子供が目的だから4人も俺に…。俺は子供はお嫁さんに生んでもらうんだから、そんなに何人も連れてこられてもダメだよ。お嫁さんは1人でいい。とにかく、まだ子供はダメだ。


 『…子はまだ作らない』


 『左様でございますか…。わかりました。ですが、もしも御子をお持ちになるお気持ちになりましたら、是非エルフの娘をお選び頂けますと幸いでございます。エルフは長命ですから、我が君が人の肉体を脱いだ後も、末永くおそばにお仕えすることが出来ると存じます』


 『わかった』


 よくわからないけど、わかったと言っておく。

 そうか、昨夜の「あら、残念」と言うのはそういう事だったのか。俺の子供か。ネッコかユリアが俺の子供を生むのを想像すると、まあ悪くはないかな。あ、でもネッコもユリアもこっちの世界のエルフだからロートリング家のお嫁さんにはどうだろう。


 うちなら1000年くらいは上手く世間から隠せるだろうけど、でも俺もいなくなっちゃった地球で何千年も生きるとなるときっと寂しいから、やっぱり2人一緒にお嫁さんにした方がいいのかな。子供はどうなるんだろう。200年とか300年とか生きるのかな。もっとかな。やっぱり地球でそれは色々と不味いんじゃないかな。

 

 そうだ、2人とも人間の夫がいたって言っていた。もしかすると人間との間に子供がいるかもしれない。あとで詳しく聞いてみよう。

 あ、忘れてたけどお嫁さんて言えばセバスに候補のリストを渡されてたんだ。俺は跡取りだからロートリング家の事を考えると、お嫁さんはそっちの人達の方が良いかな。


 「おう、これからジラールのとこに行くんだろ」


 「あ、史朗。もう先発隊のエルフ達が行ってるらしいんだよ。あっちでお昼も食べられるみたいだ。日が暮れるまで一日遊べるよ」


 「いいね。あのさ、カメラに防水の魔法かけてよ。そしたら俺、泳ぎながら水中のジラールを撮るからさ」 


 「それいいな!俺も撮りたい!」 


  そんな事を話しながら史郎と俺は透明丸で浮かび、待機していたニルスに乗る。そしてニルスが飛ぶ。 

  俺はふと史朗に聞いてみた。 


 「あのさ、さっきタロウに子種をくれって言われたんだ。俺はばっちり避妊したけど、史朗も避妊したんでしょ?」


 「避妊?したかな。多分したと思うけど、夢中でよく覚えてないな」


 「マジで?子供出来ちゃってたらどうするの?」 


 「子供か、考えてなかったな。出来てないと思うけどな。でもわかんないよな」 


 「俺も色々考えちゃってさ」と、史朗にさっきのロートリング家の嫁問題あれこれを話してみた。ネッコとユリアに子供が出来たとして、お嫁さんにして地球に連れていくのは無理があるだろうか等。


 「お前、本当に真面目だな。そりゃ自分の子供と思うと、ちゃんと責任持って育てないとと思うけどさ、でもきっとエルフ族にお前の血筋が欲しいってのは、子種だけくれればあとはこっちでやりますって意味だとおもうぜ」 


 「そうなの?」 


 「むしろ、お嫁さんにして地球に連れていくなんて言ったら、困るって断られるんじゃないのか?せっかくの直系の子が地球に連れて行かれちゃうわけだからさ」 


 「そっか。でも、それじゃ益々ここでは子供作れないよ。俺はちゃんとお嫁さんと一緒に子供を可愛がって育てるからさ」


 「まあ、そうだよな。俺だってそうだよ。…そんなわけで、俺も気をつけないとダメだな」


 「そうだ、今日は俺は2人にしたから。他の人はみんな史朗の方に行くよ。頑張って」


 「ちょっとまって、それ何人?」 


 「2人か4人」 


 「おいおい、無理だろ。俺は2人で手一杯だ。お前が何とかしろ」


 「だめ。俺はもう指名したから」


 「指名したの? …そんなに気に入ったのか、その2人」


 「…ん、気に入ったというか、もし彼女たちが俺の子供を生むと想像しても嫌ではない」 


 「アランとエルフの子供か。とんでもなく綺麗なんだろうな」 


 「史郎とエルフの子もきっとカッコいいよ」 


 「子供かぁ。もし昨夜の事で出来てたら俺はこっちの世界に残るかなあ。作りっぱなしで居なくて良いって言われても、やっぱ俺は子供とはちゃんと一緒に暮らしたいしな。それに、地球に連れて帰っても何千年も生きる奥さんと子供を、仲間も居ない世界にぽつんと置いておけないしな」 


 「ほら、それ考えちゃうでしょ」


 「確かに。お前は真面目なのも真面目だけど、やっぱ現実的なんだな」


 「でも、ちょっとさ、俺の子供って思ったら嬉しい気持ちになったんだよね」


 「わかる。俺もだ」


  「俺は子供が出来たらどんなお父さんになるのかなあ」


 「そうだな、セバスさんみたいになるんじゃないか」


 「セバスか、いいな」


 「俺もせバスさんみたいなお父さんになりたいかな。きちんとしてるのに面白くて、強くて優しくて頼りがいがあって、鬼神だけど奥さんの尻に敷かれてる」


 「あはは。セバスは理想のお父さんだね。…俺はセバスみたいになれるかな。俺の本当のお父さんはどんな人なんだろう。変な奴じゃないといいな」


 「大丈夫だろ。お前のお父さんも格好良くて立派な人だぞ?」


 「なんだよ、まるで知ってるみたいに言うな」


 「うん、多分知ってる。昨日見たし」


 「え?」


 「あ!言えた!あのな!…ああ、ダメだ消えたあ!!くそう、俺今なんて言った?」


 「俺のお父さんを知ってるって。昨日見たって」


 「それ!…あ、また消えた。ダメだな、意図して言おうとすると消えるんだな。とにかく、なんか今俺が言ったことを覚えておけ。俺はすごく大事な事を言ったはずだ」


 「…わかった」 


 そんな話をしているうちにジラールの湖に到着した。昨日と同じ様にニルスは湖から少し離れたところに降りる。俺達が湖の方に行っている間、先発で来ていたエルフ達がニルスの相手をしてくれるらしい。まあ、ニルスは日向ぼっこしながら居眠りするんだろうけど。

 

 湖のそばでは先に来ていたエルフ達が日よけのきれいなテントを張って、椅子やテーブルを並べて俺達を待っていた。

 馬車のような乗り物が3台停まっていたが馬はいない。どうやら魔法で走る箱、自動車のような物らしい。1台に7〜8人は乗れて、荷物も積めるようだ。この魔法の箱だと2時間程でここに着くのだと言う。

 

 エルフ達はみんな思い思いに過ごしていた。座ってお茶を飲みおしゃべりをする者達、湖で泳ぐ者達(みんな裸だ)、楽しそうに食事の用意をしている者達。史朗を見てイソイソと楽器を出して集まってくる者もいる。春のピクニックの様な感じで楽しげだ。

 史朗はその様子全体を撮っていたが、始まった演奏に合わせて歌い出した。俺は自分のスマホとデジカメに完全防水と防塵の魔法をかけて、早速ジラールの元に向かうことにした。


 昨日のジラールがどれだかわからないが、同じ場所にはきっと同じ個体がいるはずだ。

 近付いていくと何匹かが俺を見て寄って来た。なんだ、お前達、俺を覚えてるのか。寄って来られて嬉しくなった俺は、餌を出して今日はひと玉ずつ持たせてみた。両手で丸を持ってムグムグと食べるジラール達。愛しい。

 そのうちの一匹が、餌を持ったまま俺に頭を擦り付けてくる。そうか、お前が昨日の子なんだな。よく見て特徴を覚えておこう。そう思って少し掻いてやってから、顔の特徴や頭のサイズ、身体の色を覚えながらスマホで撮っていく。前後左右で全身を捉えて背びれの形と数を数えてみる。


 他のジラールも同じ様に観察する。そして、背びれの数が2種類に分かれる事と、形と大きさも2種類に分かれることに気付いた。尻尾も先が細くなっている者と太く丸くなっている者がいるようだ。もしかすると、これは雄と雌の違いか?

 昨日のジラールはちょっと身体が大きいのか。あの大きな割り込みジラールよりは頭一つ小さいが、それでも他の個体よりは大きいようだ。この子は若い雄なんだろうか。

 では、あの割り込みジラールは大人のジラールなのか。待て、ということは、子供のジラールもいるということか?

 ミニゴジラの更にミニがいる…、考えただけで鼻血が出そうになった。

 ミニラか?ミニラなのか?映画のミニラは顔があまり可愛くないけど、実際はどうだろう。いるかもしれないと思うと見たくてたまらない。 


 俺は日向ぼっこをして寝そべっているジラール達の間をそっと歩き出した。動画を撮りながら、どこかにミニラがいないかと探して歩いた。歩いていくうちに、他とは違う形で日向ぼっこをしているジラール達をみつけた。

 数匹がそれぞれに頭と尻尾をつなげるような寝方をして円を作っている。どの個体も尻尾の先が太い。雌か。その内側に外側を向いて立って円を作っているジラール達。これも尻尾の先が太い。

 この円形を作っているのは全部雌らしい。そして、円の中心では小さな黒い山がもぞもぞと動いている。


 近づこうとするが、手前の円のジラール達に威嚇をされて無理には近づけない。これは子供を守っているのか?

 ワクワクしながら俺はデジカメで円の中心をズームしていく。黒いもぞもぞした山に見えたところにピントを合わせると、そこには10センチから20センチくらいまでのちっこい、とてもちっこいゴジラ達が、いや、ジラール達が30匹程で塊になりじゃれて遊んでいた。子供たちだ!

 顔はミニラではない。ジラールがそのまま小さくなった姿だ。つまり、10センチしかないゴジラの群れがそこにいるのだ。

 

 ああ、触りたい。近くで見たい。でも子供を守ろうとするジラール達を尊重しなければ。俺だってミニラは守りたい。でも近くで見たい。

 俺が1人でハァハァしていると、『我が君はあたくしたちよりジラールの方がお好きなのね』と、カメラを構える俺の腕に手を絡ませて来た者がいた。

 驚いて振り返ると、陽の光でオレンジに輝くきれいな赤毛をふたつに分けて三編みにした、そばかすが可愛い女の子が口を尖らせて緑の瞳で俺を見ている。

 誰?と思っていると、反対側からも『妬けちゃうわ』と、やはりきれいな金髪をふたつに分けて三編みにした、これまた可愛い小柄な女の子が俺の脇の下からするっと入ってきてペッタリとしがみついて胸に頬ずりをしてきた。だから誰? 


 『でも、我が君はあたしたちをお選びになったでしょう?』『そうね、お気に召して頂けて嬉しいわ』と言って、うふふと俺の身体を撫で回す。

 もしかしてこの素朴な女の子達は、昨夜のお姉さん達か?随分と印象が違うんだけど。


 『…ネッコとユリア?』


 『そうよ。覚えてくださったのね!』と言って、更に俺の身体を撫で回し、何気なくシャツの裾から手を入れてくる2人。 

 待って下さい。まだ午前中です。確かに2人を指名しましたが、俺は今ジラールを観察しているところです。あああ、ちょっとその触り方はダメ、許して。


 『2人とも止まる。あまり触らない。ジラール見る、大事』


 焦る俺の様子を楽しんでいるかのように微笑んで、『そうですわね。後に致しましょう』『うふふ』と両脇から俺の耳に息をフッと吹きかけるネッコとユリア。 

 その、素朴な村娘のような格好でそんな事をするなんて、反則だ。


 落ち着け、俺。今こそ落ち着け。ジラールを見るんだ。俺はジラールを観察するんだ。

 史朗と一緒に水中のジラールを撮ろうと史朗の姿を探す。あ、史朗がテントの奥に連れて行かれて歓待されている。いけない。助けよう。

 ジラールは昼は居るが夜は居ない。だが、美女は昼も夜も居るんだ。今はジラールだ。ジラールが優先だ。 


 「史朗!大丈夫か?!」テントの奥でマッサージをされてホニャホニャになりかけていた史朗に声をかける。 


 「あ、アラン。…はっ!いかん。俺はいつの間にテントの中に」


 「史朗、気をつけろ。今はジラールの観察が優先だぞ。女の子は夜にしろ」 


 「お、おう、そうだな!」


 正気に戻った史郎と一緒に湖に近づき、史朗のカメラにも完全防水と防塵の魔法をかけた。泳ぐために俺が服を脱ごうとしていると、岸にしゃがんで湖にカメラを入れ水中を試し撮りした史朗が振り返って言った。

 

 「だめだ、冷たい」


 「え?」


 「冷たいよ、この水。ダメだ、俺は泳いだら死ぬ」


 「そんな事ないだろう。軟弱だなあ」


  そう言って俺が水に手を入れる。冷たいけどこのくらいなら全然大丈夫じゃないか。


 「この水温は俺は無理だ」


 「しょうがないなあ。じゃあ透明丸に入ったまま水中に行くか」 


 「それいいね!それで行こう。服も着たまま入れるし息も出来る」 


 それじゃと透明丸を出して、脱ぎかけていた服を着ていると、後ろから『まあ、残念』と声が聞こえた。ネッコとユリアだな。振り返ると、うわ!そこには既にスッポンポンになって泳ぐ気満々の2人が立っていた。

 俺も驚いたが、俺よりも史朗が驚いていた。驚いたからだと思うが史朗はそのままそっとシャッターを切っていた。カシャ。


 「アラン、エルフって何ていうかおおらかだな。あっちで泳いでるエルフ達もみんなスッポンポンだ」


 「長く生きていると色んなこだわりが無くなるんだろう。あと慣れかな」


 「恥ずかしがる方が恥ずかしい気がしてきたよ。アランも平気で脱ぐけど、やっぱエルフに近いんじゃないの?」 


 「いや、うちの国はやっぱりその辺がおおらかな人が結構いるからだ。ほら、公園で日向ぼっこしながら脱いじゃってる人達いるでしょ」


 「そういやそうだな。女の子たちも随分と潔く脱いでたりする人いるよな」


 「そう。それに目が行って俺はキャロに怒られた事がある。まあ、脱いじゃうのは極少数だけどさ、たまにいるのは本当だし。まあ、俺の場合はさ、ファッションショーなんかだと楽屋が戦場で、回りに誰が居ても急いで着替えなきゃならなくて裸になることあるからな。そっちは皆そうだから普通、男も女も」


 「ああ」


 「そうは言っても、ショーの楽屋でもないのに女の子が裸だとやっぱりびっくりするし、俺だってどこでも脱ぐわけじゃない」


 「まあ、そうれはそうだな。とりあえず、丸に乗って行こうぜ、服着たまま」

  

 史郎と俺が透明丸に入ると、当然のような顔でネッコとユリア、そして俺の知らない2人のエルフが一緒に乗り込もうとして来た。


 「あー、彼女たちはレーレとジャナだ。俺の…アレだ」と史朗が言う。

 

 彼女たちも泳ぐ気だったのか裸になっていた。…小柄でぽっちゃりだ。いいな。いや、そうじゃなくて。


 『ネッコ、ユリア、服を着る。レーレ、ジャナも服を着る。服を着ないと乗らない』


 そう言うと急いで服を着る4人。そうか、史朗の方の美女達は2人とも小柄なんだな。史朗に合わせてあるんだ。ちっこい女の子も可愛いよな。


 「…何見てんだよ。お前には6人もいるだろ?俺の見るなよ」 


 「いや、小柄で可愛いなと思ってさ」


 「ああ、お前んとこは皆スーパーモデルだもんな」


 「何ていうかこう、むっちり良いな」


 「まあな。ちょっと腹の肉がつかめるくらいって柔らかくて良いよな」


 「うん。良い」


 前にキャロが5キロ太ったと、ダイエットだと騒いでた時、むっちりしたキャロが俺は結構好きだった。いや、だめだ、キャロの事は考えないようにしよう。まだちょっと胸が痛む…って、イタタ!物理的に胸が痛い。何で? 


 『我が君、着替えるレーレとジャナをそんなにじっとご覧になって…いけませんわよ』 ネッコだ。


 「はひ」


 ごめんなさい。もう見ません。だから乳首をピンポイントでつねらないで。


 『よそ見をなさるとガブリですわよ』


 あ、小指を噛まないで。俺に歯型を付けたのは亜麻色の髪の彼女だと思ってたけど、ユリアだったのか。やめて、噛まないで。俺は痛いのは好きじゃない。 


 「よし、行くぞ、史朗」


 「お、おう、良いぞ」 


 2人で撮りまくるはずだったのに、何故か6人で乗り込んだ透明丸。湖の中ほどまでぷかぷか浮いて行くと、ジラール達が泳ぎながら珍しそうに見に来る。かわいい。

 湖の水は澄んでいて、浮いていても水中の視界は良好だ。だが、少しずつ水の中に沈んでみる。ジラール達がしっぽを使って素早く泳いでいる様子がよく見える。魚も沢山いるようだ。綺麗だな、水中。


 「ちょっと深く潜ってみようぜ。底の方は温かいんだろ?巣があるのかもしれないぞ」


 「そうだな。行ってみるか」


 少しずつだが、20メートルくらい潜っていくと、周囲はかなり青一色になる。更に潜って行くと青が濃くなる。底の方が温かいというのは本当らしい。魚の数が増えて水草も大きく長くなって来た。透明丸の近くをのそっとした様子の、地球のハタに似たカラフルな魚が通り過ぎる。


 「でか!」


 「なんか、海みたいだな。この湖って塩水湖だから、どっかで海と繋がってるのかもね」


 「洞窟があるのかもな」


 ジラール達もスピードアップして泳いでいる。弾丸みたいに速いぞ。

 細長い赤い魚の群れを、数匹のジラール達が協力するかのように一方向に向けて追っていた。その行く先には大小のジラール達が待ち構えていて、一斉に捕食している。これは追い込み漁だ。ジラール、なんて頭が良いんだ!


 俺がその様子を見ながら嬉しくてハァハァしていると、ネッコが俺よりもっと興奮気味に言った。


 『ジラール達がこんな風にして魚を食べているのは初めてみましたわ!あたくし、生物学も得意でございまして、王都の貴族院では教鞭を取っていた事もございますの。ジラール達の主食が湖の魚であることはわかっておりましたが、実際にこの様に集団で漁をしている所は誰も見たことが無かったはずです。大発見ですわ!』


 え?ネッコって学者さんなの?学校の先生なの?

 ネッコに続くようにユリアも言う。


 『素晴らしいわ!私もこの湖ではよく泳ぎますが、こんなに深く潜ったことは初めてです。ああ、ほらご覧になって!ジラール達だけでなく、海だけに生息するはずの三つ首海竜もいましたわ!信じられない…、この湖が底の方で海と繋がっているというのは本当かもしれませんわね。学会に報告をしなければ!』


 学会?ユリアも学者さん? 


 『私達は長命なので、様々な事柄を学ぶ事が多いんですの。時間がたっぷりありますから、自然と専門家になってしまうのです』


 なるほど。 


 「何だって?」 


 「いや、エルフはみんな長命だからさ、博識で学者さんだったりするらしいよ。さっきのジラール達の追い込み漁は初めて確認された行動みたいだ。それと、俺は見てなかったんだけど、三つ首海竜ってのが泳いでたらしくて、それは海にしかいないんだって。この湖が海につながっているっていう説が本当かもしれないって。学会に報告するって」 


 「へえ、すごいな。三つ首海竜ってこれかな。ちらっと撮れたんだけど」 


 史朗が、そう言ってカメラの画面を俺に見せる。え?!ちょっ…!!三つ首海竜ってキングギドラ?! 


 「マジかよ!実物見たい!どっちにいたの?」


 「あっちに泳いでいったぞ」 


 俺は史朗が示す方向に透明丸を移動させる。ちょっと速すぎるくらいに移動させる。だが、深いせいで暗くて、居たとしても近くに来ないとぼんやりしか見えない。


 ああ、はっきり見たい!


 そう思った瞬間に透明丸の周囲にフラフープのように輪状の、360度好きなように照らせるサーチライトが設置された。一瞬でだ。やはり必要は発明の母なのか。いや、魔法の母か。欲望が魔法を進化させるんだ。細かく考えないで一気に結果にたどり着く。これぞちょちょいだ! 

  

 「アラン、良いちょちょいだ!」 史朗が笑顔で親指を立てる。


 「うん!」 


 明るくなった周囲を目を皿のようにして見回す。三つ首海竜ってどのくらいのサイズなんだろう。


 「お!居たぞ!!ほら、2時の方向だ!穴に入っていくぞ!!」 


 史朗の言う方を見ると、2メートル程の大きさに見える三つ首海竜が青に溶けるようにすうっと泳いで行った。キングギドラだ。羽というより大きなヒレが付いたキングギドラだよ。 


 三つ首海竜が入っていった穴の近くに寄ってみる。ライトの光で奥が深いのがわかる。穴の直径は3メートル程度で、6人乗りの透明丸ではとてもではないが入れない。 


 『ここで海と繋がってるのかしら?』


 『そうかもしれないわね』


 ネッコとユリアが話している。

 すると、それまで黙っていた史朗のレーレが『わたしが泳いで行ってみましょうか?わたしは水妖精の系列ですから、水の中は得意ですわ。お任せ下さいませ』と言って服を脱ぎだした。ちょ、ちょっと待って。

 レーレが脱ぎだしたのを見て、ジャナも脱ぎ始める。それに対抗するかのようにユリアとネッコまで脱ぎだした。 


 『ダメ、脱がない!』


 慌てて止めるが、既に泳ぐ気になっているレーレは完全に脱いでしまった。


 「どした?どしたんだ?」


 史朗が慌てている。説明しようとするが、ネッコとユリアが邪魔をする。


 『我が君、ご覧になってはいけません!』


 『見るなら私達を!』


 『2人とも離す!』


 俺の目を覆い、2人で抑え込んでくる。ちょっと、やめて。 


 「ダメだ、史朗、もうダメだ。女の子達だけ陸に戻すぞ!」


 「何だかわかんないけど、わかった!」 


 俺は透明丸をふたつに分けて、女子部を切り離す。

 『我が君!?』と大騒ぎしているが知らない。切り離した女の子達の透明丸は岸に着いたら消えるように設定して少しずつ上げて行く。 


 「すごいな、スーパーモデルズ。もうすっかりお前の嫁みたいだぞ」 


 「参った。あれがお嫁さんというものなのか…。俺はしばらくお嫁さんはもらわない事にする」


 「お前が指名なんかするからだよ」 史朗が笑っている。


 「ちょっとさ、落ち着いて観察しようぜ。今日しかないんだからさ」 


 「そうだな。どうする、洞窟入ってみる?」 


 「行ってみたいけど、どこまで続いてるかわからないからな。それより湖の中をもっと見てみよう。ジラール達の巣があれば見たいし」 


 そう言って湖底を移動してみる。所々深さが変わるらしく、底だと思って移動していると、急にクレバスのように深くなっている場所がある。

 今いる場所で恐らく水深50〜60メートル位だろう。もっとずっと深い場所があるということだな。一番深いところで一体どのくらいになるんだろうか。

 確かロシアのバイカル湖の最大水深が1700メートルちょいあったはずだ。もしかしたらここの水深もそのくらいあるのかも知れないな。

 

 面白かったのは、この浅めの湖底を二足歩行で歩くジラールがいたことだ。歩くと言っても、俺達がジャンプするみたいに跳ねながら歩く感じだが、尻尾でバランスを取りながら、泳がずに楽しそうにゆっくり跳ねている様子がとても可愛かった。

 この深さでは普段は暗いだろうから、俺達のライトが照らしながら移動していくのが不思議だったようだ。跳ねながらしばらく着いてきたが、途中から泳ぎだして、ぐるぐると周りを回ってからどこかに泳いで行った。


 更に深く潜っていく。

 魚の稚魚は水面近くにいるものだが、ジラールの子供は日向ぼっこをする以外は底の方にいるようだ。底の方が水温が高いからだろうか。15センチから20センチくらいの小ジラールの群れが泳いでいる様子がライトに浮かび上がった。

 魚の群れのような動きをしているが、どうやらリーダーがいるようだった。まとまって泳ぎながら小さい魚を追い回し、追い込み漁の練習をしているようにも見えた。


 「すごいな」


 「うん。本当に夢の国だ。ここで多分水深100メートルくらいかな」


 「結構来たね。どんだけ水深あるんだろうな」


 「それね。さっき思ったんだけどさ、バイカル湖が1700メートルちょい、1741メートルだったかな?あるんだよ。ここもそのくらいか、もっと深いかもしれないよね」


 「湖ってそんなに深いの?」


 「場所に寄るだろうけどさ。ストックホルムがあるメーラレン湖は60メートルちょいだよ。日本ではマショウ湖だっけ?確か200メートル位のはず」


 「ましょうこ?」 


 「北海道」 


 「摩周湖か。ましゅうこ、な」


 「マシュー湖」


 「そそ、マシューさんの湖」 


 「へえ、そうなんだ!マシューさんが持ち主だからマシュー湖か」


 「信じるな!嘘だよ」


 「なんだよ」 でも覚えたぞ、ましゅうこ。もう間違えない。

  

 俺達は強靭な作りの潜水艦で探検をしているようなものだ。透明丸って水圧にも耐えるし空気も減らない。気圧の影響も受けないし、我ながらすごいなと思う。

 しばらくふよふよ進んでいると、深い所からゴボッと大きな空気の泡が上がって来た。


 「今の何だ?」


 「さあ?深い所に何かあるのかな」 


 暗い下の方を照らして見ていると、また大きな泡が上がってくる。さっきまでは無かった現象に顔を見合わせる俺達。突然水が大きく動いて透明丸が揺れた。


 「うわっ!何だ?!」 


 泥が舞い上がっているのか水が濁ってライトが点いていても周りが見えなくなった。

 そのまま俺達は少し流されたらしい。水の揺れが収まり濁った水が少し落ち着いて、やっと回りが見えるようになったと思った時、俺達の目の前にあったのはライトに照らされて浮かび上がる大きな目だった。30センチくらいある目がすぐ近くでギョロリと透明丸を見ていた。

 

 俺と史朗は声にならない悲鳴をあげた!


 でかい!魚か?いや、違う、この目はアレだ。ジラールだ。ジラールの目と同じだ。まさか…! 


 「嘘だろう…」俺がつぶやく。


 史朗はずっと無表情で動かない。だがその手にあるカメラは止まらずに撮り続けている。

 そのまま、どのくらいそのでかい目と見つめ合っていただろう。いや、たったの数秒なのかもしれない。

 そのでかい目の持ち主はゆっくりと瞬きをし、透明丸に向かってゴボゴボと泡を吐いた。鼻息か。

 揺れて俺達が慌てている事など気にもかけないように、視線をずらすとスッと行ってしまった。興味を無くして泳いで去っていったのだ。「なんだ、つまらん」と言われたような気がした。


 去って行くその影は、さっき三つ首海竜が入っていった洞窟がある方向、そのもっと深い所に消えて行った。


 「…おい、アラン。あれって」 史朗が固まったまま俺に言う。 


 「うん。今のはジラールだ。すごくでかいジラール。湖底にいたんだ。もっとずっと深いところに。どこかに本当に海につながるでかい洞窟があるのかもしれない」 


 でかいジラール。それはもう紛れもなくゴジラではないのか。もしかすると、ジラール達は海に出て行き、湖の制限を超えて大きく育つのかも知れない。何年生きるのかはわからないけれど、海には本当に100メートルあるゴジラがいるのかもしれない。俺は鳥肌が立って震えが止まらなかった。 


 「大丈夫か?アラン芹沢」  


 「あ、ああ、大丈夫だ」 


 こんな時に芹沢博士をぶっ込んでくる史朗が大好きだ。 



 「あれが、ここのジラール達の親なのかも知れないな」


 「そうだな」


 「なんか俺もうパンパンだよ。一旦、戻ろうぜ」 


 「そうだな」 


 俺達は一度浮上することにした。お腹いっぱいだ。

 ゆっくりと浮上しながら、史郎と俺はそれぞれに周りの様子を撮る。そして回りをジラール達が泳いでいる姿をバックにお互いの様子を撮る。爺ちゃん達見てるかな。俺が興奮して震えてるのを見て笑ってるかも知れないな。


 岸に戻ると、レーレとジャナが走って来て史朗を迎え、温かい飲み物を渡す。良かった、ちゃんと服を着ていた。

 ネッコとユリアも温かい飲み物を持って俺を待っていた。さっきまでとは様子が違い、2人とも泣きべそをかいている。俺に切り離されて戻されたのがショックだったらしい。

 もう、2人とも何千年も生きてる大人なんでしょ。そんな風に泣かないでよ。なんか俺がすごく悪いみたいじゃないか。 


 『我が君、もう邪魔は致しませんのでお許しください』と、泣きながら飲み物を差し出すネッコ。いや、別にそんなに怒っているわけじゃないよ。


 ユリアも『お召頂いて嬉しくて調子に乗ってしまいました。お許しくださいませ。嫌いにならないで』と泣く。嫌いじゃないよ。むしろなんか可愛くなって来ちゃって朝より好きです。 


 『邪魔をする、ダメ。でも大丈夫、怒っていない。嫌いではない。あ、でも、噛むしない。痛いは嫌い』 


 そう言って飲み物を受け取って一気に飲んで、空いたカップを渡しながら2人を抱きしめると『我が君〜』と言ってしがみついて来る。ああ、なんかこういう風にヤキモチ妬かれて、甘えられるのって初めてかも知れない。悪くない。とっても2人が愛おしい。 

 交互に額にチュッとキスをすると、スリスリと擦り寄って来て、また俺の身体を撫で回し始めた。 


 『それは、今ダメ。しない』


 『ごめんなさい』 しょぼんとする2人。 


 …可愛い。俺はついデレデレになってしまいそうだった。


 だが子供は作らない。 



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