エルフの里 2 ジラール
「あ、そうだ史朗、この人がエースだよ」
俺は史朗にタロウが連れて来た家族、エースを紹介した。瞬間、史朗がカッと目を見開いて「エース?!タロウと一緒に育ったエース?!ゾフィとウルトラマンの弟のエース?!」と言った。
その言葉は、二人に通じたらしい。揃って頷き、エースは史朗に挨拶をした。
史朗はエースの手を取って感極まったようにつぶやく。「なんてこった。まさか実在したなんて…」
「史朗、なんで彼らの家族のことそんなに知ってるの?」
「お前本当に奈々恵さんに聞いたことないの?日本の特撮テレビのヒーローの一族だよ」
「知らない」
「奈々恵さんはウルトラマンには興味なかったのか。あのな、ウルトラマンな、ULTRA MAN。光の国から地球にやって来た宇宙警備隊の光の巨人なんだよ。何故か毎回現れる怪獣たちと戦って地球を救ってくれるヒーローでさ…」
「ウルトラな人、超人か」
「そそ、光の国は地球から300万光年離れたところにあるの、M78星雲なの」
「いや、ちょっと待って。M78星雲はそんなに離れてないぞ。確か1600光年位だった気がするな」
「何言ってんの、お前…」
「M78星雲でしょ?オリオン座の近くの」
「え?本当にあるのかよ、M78星雲」
「あるよ。え?史朗どこのM78星雲の話してるの?」
「特撮ドラマの設定の中の、ウルトラの国があるM78星雲」
「は?」
「お話の中の、ウルトラマンのふるさとで光の国があるM78星雲だよ。そこは地球から300万光年離れているっていう設定なの。テレビのドラマの設定」
「テレビドラマの設定か。でも、実在のM78星雲の距離をテレビで誤って伝えてしまっては…」
「ほら、お前は頭が固い。もっといい加減であれ。昔のテレビなんだよ。俺達が生まれるずっと前のな」
「固い…、俺は固いのか…」
「えっと、最初は確か1960年代だ。その頃の設定なんだからさ。まあ、俺達が生まれた後も今も続いている大人気シリーズなんだけどな。俺がこないだ観たのは確か、タロウの息子のタイガが主役だって話だ。タロウに認めてもらいたいのに素直になれなくて反発してしまう息子だ」
「俺はかたい…」
「聞いてねえな。もう、いいから。とにかく俺が言いたいのはさ、こんな偶然あるのかって事だよ。俺達がこっちに来ちゃったり妖精が地球に出たりさ、何かで繋がってるんだったら、テレビのヒーロー特撮も宇宙のどこかの、まあここだけど、その事実をテレパシーとかで受け取った地球人が作ってる可能性もあるよなってことでさ。しかも本当にあるんだろ、M78星雲が。てことはだ!」
「…ここがM78星雲かもしれないと」
「そう、それだよ。300万光年が正しいのか、名前のM78星雲が正しいのかはわからないけどさ」
「300万光年でも1600光年でも、とにかく遥か彼方の地球と一瞬で繋がったと。一体どういう仕組みでそんな風に…」
「それそれ、そういう難しい事はいいからさ、アラン、ちょちょいだ。ちょちょいって繋がるって思え」
「ちょちょい…」
「魔法でな、ちょちょいだ。実際俺達も数秒で来ちまっただろ。写真も動画もちょちょいで地球に行ってるだろ」
「数秒で、300万光年も1600光年もちょちょい」
「そそ、いつも言ってるだろ。魔法は理屈も時空も越えるんだ」
「理屈も時空も越える。…そっか、ちょちょいか」
「前も言ったけど、お前は下手に頭が良いからな、仕組みを理解しようとしちまうだろ。とりあえずバカになれ。いい加減であれ。途中の過程は無視して、いきなり結果に辿り着くんだ」
「理解しようとしない。いい加減になる」
「そう。それでちょっと時空魔法、練習してみな。お前なら出来るんじゃないか?」
「わかった、やってみるよ!」
そっか、また悪い癖で難しく細かく考えちゃったんだ。
自分の理解できる範囲で起こる現象を説明しようとしない。ただ現実を認める。ただ受け入れる事から始めるんだ。その受け入れが、不可能と思い込んでいる事を可能に変える。
素直になるんだ。俺が全てを理解する必要はない。俺が理解してなくたって世界ではたくさんの事が起こっている。
まずは、思うことが実現可能であると信じて、そこだけにフォーカスするんだ。真実はいつだってシンプルだ。
史朗は自由で拘らなくて、いい加減な様でいて大事なことを見ている。
俺は可能性を思い込みで制限する癖がある。わかっているのに全然出来てない。
「史朗、俺が固いってのは、簡単な事なのに思い込みが邪魔をして大事なことに気づかないでいるって事だよね。もっと自分も含めて俯瞰で見てみる事にするよ」
「あ、そうだ!それな!お前は自分の事に全然気づいてないんだよ。あのな、お前は多分本当は…あああ、またわからなくなった!!くそう、俺は今、本当は何だって言おうとしたんだ!?すごく大事なことなのに言おうとすると弾けて消える。悔しいぜ!!」
史朗と俺がそれぞれに、吹っ切れてやる気になったり、悔しさに悶ている所にタロウがおずおずと話しかけて来た。
『あの、我が君、何か我々の話しをなさっておいででしたでしょうか?』
「あ、そうだ。『光の民ウー・ルトラ・マーニの一族』」
『はい』
『遠い場所と一瞬で繋がる魔法は知っているか』
『はい、我々は使えませんが、神はお使いになるはずです。それとは別に我々の伝説に「光の回廊」というものがございます。これもまたそうそう使えるものではございません』
『そういえば、エースよ、お主のところの次兄が以前使ったと言ってはいなかったか』
『タロウ、あれは酔った席での戯言ではなかったか。ああでも、ゾフィー兄さんも使ったような事は言っていたな』
『次兄?』
『はい。私にはゾフィーの下にショダイと申す兄がおります。以前2500年程行方不明になっていた事があり、捜索に出た兄ゾフィーに見つけ出されて帰って参りまして、後に酒の席で酔って「光の回廊を使って空間を飛び、見知らぬ世界に行って魔獣と戦っていたのだ」と申しておりました』
『光の回廊』
『皆笑っておりましたが、長兄のゾフィーも「光の回廊」を使ってショダイを連れ戻したような事を申しておりました。長兄のゾフィーは冗談を言うような性格ではございませんので、もしや本当に使ったのではないかと、皆も言っておりました。私も尋ねたのですがあまり詳しくは教えてはもらえませんでした』
光の回廊か。でも光と同じ速さじゃダメだな。宇宙は広すぎる。光の速さでは遅すぎて使えない。
『よくわかった。ありがとう。タロウはタイガを知っているか』
『タイガでしたら、私の愚息でございますが』
わ、本当に親子なんだ。
『そうか。…タイガはタロウが好き。タロウに認めて欲しい、かわいい息子。褒めると良い』
『タイガが私に認められたがっておると仰るのですか?!あの子は調子のいい生意気な事ばかり言っては私に反発しておりますが』
『いいえ。タイガはタロウが好き。可愛がると良い』
『そのような…。いや、思いを込めて精を注いだ花から生まれた大切な我が子と思えばこそ、確かに私はタイガに厳しすぎたかもしれません。そう言えば、私も父に厳しくされ悲しく悔しくて反発をしたものでした。
あの子ももう3850歳なのだから、いつまでも子供だと押さえつけず、ちゃんと話しをしてみなければならぬのでしょう。
我が君は本当に、我が一族の事をよくご存知でいらっしゃる。ありがたくお言葉を頂き、仰せの通りに今一度息子と向かい合ってみようと思います』
『それが良い』
3850歳。地球年齢だとほぼ4800歳。十分大人だ。俺的には超お年寄りだよ。全然子供じゃないじゃないか。まあ、エルフ族からしたら、俺なんて幼生体ですらないんだもんな。卵みたいなもんだ。いや、でも…でも、俺は18歳だ!地球ではちゃんと成人した大人なんだ!
そうだ、地球に帰ったら免許取りに行かなきゃ。車も買おう。ずっと家の敷地で乗り回してるのでも良いけど、せっかく免許取るなら新しいのにしたいよね。
何にしようかな。ケーニグセグみたいなスーパーカーも面白いけど、一般道を走るなら最初はボルボのXC40みたいな普通のが良いかな。ニルスが国産車の方が雪道は走りやすいって言ってたし、やっぱボルボだな。
免許取ったら史朗と一緒に車でヨーロッパを旅するのも良いよね。史朗は免許持ってるのかな…。
ぴぃいいいいいいぃぃぃぃぃいいいっっ!!
え?
「アラン、ニルスを呼んだのか?」
「呼んでないけど。今、運転手のニルスのことは考えたけど、でも鳥は呼んでないけど」
「でも、あれニルスだろ?」
史朗が指差す方向を見ると、上空で旋回しているニルスの姿があった。
『あれが神の鳥でございますか?!我が君、どちらへお出掛けですか?あ、なるほど!ジラールを見に行かれるのですね?イシルディン神のお告げで我が君はジラールがお好きだと伺っております。
ジラールは森の南端に生息していますが、神の鳥でしたら数分で着きましょう。神の鳥にはそちらの草原に降りていただいて、私が方角や場所をご案内して参ります』
そう言ってタロウがエルフ達に場所を開けるように指示をしている。
エースが『こちらがジラールの餌になります。少しずつお与え下さい』と言って、綺麗なゼリー状の直径3センチ程の丸がたくさん入った袋を俺に渡す。
餌?南にいるジラールって何?
エルフ達の誘導でニルスが着地をする。タロウが駆け寄ってお辞儀をし、何かを話している。
「今からどっか行くのか?」 史朗が聞いてくる。
「なんか良くわからないんだけど、南の方に何かがいるらしくて、ほらこれ、餌だって渡された」
「餌?このゼリー玉が?」
「ジラールを見に行くのですねって言われたんだけど、ジラールが何だかわからないんだよ。神様があのアルランティア様?が好きなものだって言ってたらしいんだけど」
「何か可愛いのがいるのかもしれないな。行ってみようぜ」
『我が君、ジラールはおとなしいですが、万が一、尻尾が光り始めたらお気をつけ下さい。背びれまで光り始めましたら、顔が向いている方には絶対に行かないように。光る個体がいたら、必ずその背後へとお回り下さいませ。中々の破壊力でございますからな』
え?破壊力?
「なんだって?」
「尻尾と背びれがあって、光ったら離れないと危ないんだって」
「なんだそれ?」
「俺達は何を見に行くんだ…」
『我が君、神の鳥に場所をお伝えしてありますので、お乗りいただければすぐに出発出来ますぞ。お戻りになる頃にお食事や部屋をご用意しておきますので、どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ』
『…いってきます?』
史郎と俺は、何だかよくわからないままに透明丸でニルスの背まで浮き上がり乗った。ニルスが『欠片よ、ジラールは我も初めて見る。楽しみである』と言う。ワクワクする感覚が伝わってくる。
『ニルス、ジラールとは何か』
『ジラールは小さいと聞く。欠片より小さい。だが尻尾は強い。欠片は気をつける』
益々わからない。
『南の湖にいると聞いた。そこへ飛ぶ。ニルス速い。すぐ着く』
湖にいる?魚かな?まあいいや、行ってみればわかるだろう。
「史朗、湖にいるんだって」
「なんだ、魚か?餌がこのゼリー粒だとするとでかい鯉みたいなのかな」
ふわりとニルスが浮いて飛び始める。眼下ではエルフ達が手を振って見送ってくれている。
ニルスはそれ程スピードを出すわけでもなく、でも確かに4〜5分で湖がある場所にやって来た。上から見下ろすと湖の回りに小さな黒い点々がたくさんいて、ニルスが近づくと一斉に湖の中に逃げ込んだ。
『ジラール、いる。ニルスを恐れて逃げた。ニルスは大きく強い。小さいジラールは怖い。仕方ない。ニルスは湖から少し離れて降りる。小さいジラール安心する』
ちょっと自慢気にニルスがテレパシーを送ってくる。
『わかった。ニルスは優しい』
返事をすると、満足そうな感覚が伝わってきた。気遣いを理解されて嬉しいようだ。
湖から500メートル程離れた草地にニルスが降りる。ニルスはそこで待たせて、史朗と俺は湖の方に移動した。
湖のほとりには何もいない。餌を出して千切って湖にひとつふたつ投げ込んでみるが何も起こらない。
「なあ、さっき上から黒いつぶつぶに見えた奴らが目的のジラールなんじゃないの?」と史朗が言う。
「水中に逃げたやつね」
「なんかちょっとイグアナっぽい感じがしたんだよな。尻尾があってさ」
「俺も思った。でもさ、動きがちょっと違ったよね」
「ああ、4足歩行の動きではなかったな」
「うん、寝そべっていたイグアナが立ち上がって、2足歩行でのそのそ移動した感じだった」
「静かにしてれば水中から出てくるかもしれない。ちょっと動かないで待っててみよう」
俺達はしばらく黙って動かず湖のほとりでジッと立っていた。気持ちのいい風が吹いている。麗しの森はどこに行っても常春という感じだ。そのまま風に吹かれてぼんやりと、5分くらい経っただろうか。水中からポコっと空気の泡が上がって来て、複数の何かが浮かんで来る気配がした。
ジッとしていると、何かがすーっと泳いで岸に近づいて来る。パシャっと音がしてそれは水面に姿を現した。
のそのそと陸に上がって来た生き物を見て、俺は危うく大声を出しそうになった。
なんてことだ!!
ああ、神様、こんな事があっていいのか!
水から上がり2足歩行で歩く生き物。ブルブルと頭や尻尾を振って水を切り、プハーッと息をする様子。濡れて光る黒い身体、そして王冠を思わせる見事な背びれ。開けた口に並ぶ尖ったギザギザの牙。
しっかりした後ろ足と太く長い尻尾で身体を支えている。後ろ足よりは小さめだが、強靭そうな両手。そして何よりも目つきの悪い怖い怖い顔。
次々と水から上がってくるジラールの姿に俺の歓喜メーターはMAXを超えて振り切れ、針は宇宙の果てに飛んでいった!
ジラールって、体高70センチ程のゴジラじゃないか!!
震えが止まらない。あまりの事に俺は泣いていた。だが、涙に曇って愛おしい姿が見えないなんていやだ!俺は涙を拭って夢の生き物を目で追った。全ての個体を視界におさめたい!
そうだ、これはゴジラではないのかもしれない。でも姿形がゴジラそのものだ。そして、そして小さい。獲れる。持ち上げて抱えて走れる大きさだ。…いや、抱っこ出来る大きさだ。どうしよう。ああ、まだまだ次々に陸に上がってくる。たくさんいる!やっぱりひとつくらい抱えて持ち帰っても…。
「アラン、餌だ!餌を与えろ!」
はっ!そうだ。餌だ。歓待をするのだ。喜んでいただくのだ!
俺は袋からゼリー状の餌を出して3つに千切って足元に撒いてみた。すると近くに上がって来ていた数匹が餌に気づいて寄って来た。一匹がフンフンとニオイを嗅いでから屈んで前足いや、手で持って口に運ぶ。その短い腕はちゃんと口に届くんだね。良かったね。
同じ様に他の個体にも餌を千切って投げてやる。
最初の個体が俺の足元でムグムグと食べている様子を、真上から見下ろしている俺の心臓は破裂寸前だ。
史朗に小声で「アラン、息をしろ」と言われるまで、自分が息を止めていたことにも気づいていなかった。
冷静さが歓喜メーターの針と共に宇宙の果てに飛んでいってしまった俺とは違い、冷静そのものだった史朗は、既にカメラを出して撮影を始めていた。そして「おい、次の餌!早く!」と俺に言う。
あ、ああ、そうだ。そうだった。餌を、餌を…餌、俺は今ゴジラに餌を与えているのか?!なんということか!俺がゴジラに餌を与えている!?鼻血が出そうだ。
ドキドキしながら、震える指でつまんだゼリー状の玉を千切って足元のジラールの鼻先に持っていく。フンフンとニオイを嗅いでジラールが口を開けた。俺が餌を口に放り込むとパクリと食べる。…なんという喜び!
「おい、いっぱい寄って来たぞ。まんべんなく餌を与えろよ」
「はひ」
俺は、寄ってくるジラール達に向かって千切った餌を投げる。近付いて来たジラールには手のひらに乗せた餌を食べさせる。鼻息が手にかかる。撫でてもいいのかな?触ったら嫌がるのかな?そう思って躊躇していると、カメラを構えたまま史朗が言った。
「…やってみろ」
「はひ」
餌を口に入れてやってから、そのままそっと後頭部あたりを撫でてみた。ヒンヤリしている。そして硬くてゴワゴワした手触りだった。あまり感覚は敏感ではないのだろうか?触っても全く気にしていないようだ。
思い切って、そのまま爪を立てて軽く掻いてみた。ピクッとして顔を上げ、そして気持ちよさそうに目を閉じてじっとしている。掻くのをやめてみると、また目を開けて俺の手に頭を押し付けてきた。キュンとした。俺は今、ゴジラに、いやジラールに「もっと掻け」と要求をされている。つまり甘えられているのだ。
別のジラールがそっと俺の脚に手をかけた。餌を要求して見上げてくる。俺は求められている。たまらない。もちろん俺はすぐに餌を口に運んでやった。ムグムグと食べる怖い顔が愛おしい。
俺はしゃがんで、掻けと要求していた個体の耳の後ろを両手でガシガシ掻いた。嬉しそうに目を閉じてじっとしている。可愛い。顔はとてつもなく怖いが、可愛い。
そのまま掻いていると、「あ、おい、気をつけろ!」と史朗が言った。俺が腰につけていた餌の袋を、後ろから忍び寄って来ていたジラール達が奪おうとしたのだ。おっと、危ない。そう思って立ち上がると、気持ちよく掻かれていたジラールが、至福の時を邪魔されて怒ったようで、餌袋を狙ったジラール達を威嚇した。
威嚇の鳴き声は、甲高い「あんぎゃ〜ぅお~おん!」だった。音量は小さいが映画で聞いたゴジラの鳴き声そのままだった。あれは本当の鳴き声だったんだ!俺の感動のボルテージは一気に上がり、ついに俺は「うぉー!まじゴジラっ!!」と叫んでしまった。
その声に驚いたジラール達はビクッとしてあたふたと湖の方へ飛び込んだ。釣られて他のジラール達も水に入ってしまった。あああ、ごめんよぉ!
あっという間に水の中に逃げ込んで見えなくなってしまったジラール達に、俺は小声で「大丈夫だよ、怖くないよ」と声をかける。指でパチャパチャと水を弾いても、餌を水に投げ込んでもゴジラ達、いやジラール達は浮かんで来ない。
「ああ、失敗してしまった。ごめんよぅ、ジラール」
「また少し待ってれば出てくるだろう。とりあえずちょっと座ろう」 史朗がそう言って、草の上に胡座をかいて座った。俺も座って餌袋の中身を確認する。まだ半分くらい残っている。
「まさかミニゴジラとはな…。想像を大きく越えていたな。アラン大丈夫か?鼻血出てないよな?」
「もう、もうトキメキが止まらないよ。ハァハァ。あんな小さいサイズで、俺の足元で餌を食べて、俺の手から餌をパクってして、そんで、そんで掻いてやるとと気持ちよさそうにしてて…ハアハア」
「うん、相当やられてるな」
「俺はこの世界が一気に好きになった。もうここに住んでもいい」
「そこまでか」
「はあ、やばい。ヒンヤリしてるんだよ、ゴワゴワしてててさ。あの鳴き声聞いた?!撮った??」
「撮ったよ。お前が撫でてる様子とかバッチリ撮ったよ」
「かわいいなあ。持って帰りたいなあ。連れて行っちゃ駄目かなあ」
「地球には連れていけないと思うぜ」
「そうかなあ。良いなあ、欲しいなあ」
「この森にいる間、ここにテント張るか?」
「ああ、いいね!それいいね」
「とりあえず一回戻ってさ、タロウさん達に連れて帰っても大丈夫そうか聞いてみれば?」
「そうだね。生態がわからないとどうにもならないもんね。無理に連れて帰って病気にでもなったら大変だし」
「だな。あ、ほら、また出てきたぞ。残りの餌あげちゃえよ」
「うん。ほら、おいで〜おいで〜。お父さんだよ〜。ご飯をあげるよ〜」
俺は餌を手のひらに乗せて差し出した。3匹のジラールが俺の手のひらから餌を食べる。落ち着いてよく見ると、微妙に大きさや色が異なるのがわかる。顔もちょっとずつ違う。どのジラールも強面なのに何とも言えずかわいい。
これは確かに尻尾が強そうだ。ゴジラも強いもんな。ジラールは身体は小さいが、思い切りこの尻尾で叩かれたらかなり痛いだろう。
手から食べていた3匹の後ろから、一際大きいジラールが寄って来て3匹を追い払い、残りの餌を独り占めしようとした。「あ、こら、喧嘩しちゃだめだぞ」と俺が言った時には、追い払われたうちの一匹が怒って威嚇を始めていて、あの鳴き声で甲高く鳴いたと思ったら、尻尾の先から光り始めたんだ。
あ、やばい。
「史朗!やばい!ちょっと離れて!!」
「え?何?!」
「良いから離れて!光ってるジラールの背後に回って!!」
俺も餌を投げ捨て、慌てて光りだしたジラールの後ろに回る。
尻尾の先から光り始めた青い光は、徐々に背中の方に上がって行き、やがて頭の辺りまで来ると、次に展開したのは正にゴジラの放射熱線吐きシーンの再現だった。
身体は小さいミニゴジラ・ジラールだが、吐いた熱線は強烈だったようで、大きめの割り込みジラールが余裕でひょいと避けた為に、そのまま湖面をかすめて飛んで行き、向こう岸の太い木を破壊し燃やした。
「チビなのにすげえな…」
「ミニメテオ史朗だ」
「これは、地球には連れて帰らない方が良いぞ」
「…うん」
「とりあえずさ、餌も終わりだから一回戻ろう」
「…うん」
ちょっと名残惜しいけど、とにかく一度戻ってもっと生態についての情報を得よう。あと、餌をもっともらって来なきゃ。
ニルスのところに戻ると、ニルスがフン!と鼻息を荒くして『あの攻撃、ニルスは消せる。ニルスが羽ばたけば消える』と自慢気に言う。『ニルスの方が役に立つ』と。
確かにニルスの方が役に立つよ。でも、あの形は俺の夢なんだ。あのジラールをうちの池で飼えないかな。ザリガニ食べられちゃうかな。別の池にすればいいかな。湖の水がしょっぱかったから塩水湖みたいだ。近くに海があるのか、湖底でつながっているのかな。うちで飼うなら海水を引かないとダメかな。いっそのこと海の近くに家を買っちゃえば良いか!
「なあ、大きいジラールが余裕で熱線を避けてたな」
「え?ああ、そうだね。まあ、尻尾から青く光り始めたらどうなるかわかってるだろうから、まあ避けるだろうね」
そんな事を話しながら、俺達はエルフの村に戻る。ニルスを待機させておいて、早速タロウにジラールが気に入ったので、あの湖のそばでテントを張り夜を明かしたいと申し出た。
『我が君、それはお勧め出来ませぬ。ジラール達は日が沈む頃には水の中に潜ってしまい出て参りません。あの湖は底の方が熱を持っており、夜は暖かい湖底で眠りにつくのです』
『それは残念』
更にタロウが言うには、ジラールはあの湖から離れては生きられないとのこと。他の地に連れていけば弱って死んでしまうでしょうとのことだった。
『それは残念』
『明日また昼間に行かれればよろしいですよ。もうすぐ日も暮れますので、今日のところはご用意した部屋でゆっくりとおくつろぎ下さい』
『では、そうする』
史朗に詳細を話し、あの湖のほとりでキャンプすることは断念した。そしてニルスに明日また来るようにと言って帰した。
広場に明るく灯をともし、再び歌ったり踊ったりしているエルフ達。史朗も酒を勧められ飲んで楽しそうだ。俺も勧められたが、悔しいがやっぱり俺はお子様舌なのか、ジュースで割らないと酒は美味いとは思えなかった。
チビチビとジュース割りを舐めながら、史朗のカメラから俺のスマホにジラールの動画を転送しようと頑張ってみる。
アランwifiを飛ばすんだ。絶対にジラール動画を俺のスマホに保存するんだ。いや、待て。wifiという発想に囚われてはいけないんじゃないか?転送という思い込みを捨て去らないとダメじゃないのか?
そうだ、複製だ。ケーキを複製したときのように、ただそのままを複製してスマホにぽん!するのだ。それで良いんだ。ここにあるものがもう一つ欲しいから、ただもう一つあると思う。これだ!
シンプルにスマホにジラール動画がぽん!と入るようにと魔法を使った。出来るはずだ。もうスマホに入っているはずだ。そう思いながらスマホのフォルダを開くと果たして!あった!!
ジラール動画!これで見放題だ!!スクショで静止画も撮ろう。俺がジラールに餌を食べさせている様子を待受にしようっと。
嬉しくなった俺は『タロウ、私、もう休む。皆はゆっくり楽しむ良い』と言って、一人部屋に閉じこもる事にした。
『は。それではお部屋をご用意してございますので、そちらに案内をさせましょう。湯浴みの用意もしてございますので、どうぞごゆるりとお休み下さいませ』
『ありがとう』
まだ歌って踊っている史朗はそのままにして、俺は一足先に風呂に入り休む。…というか、部屋で転がってジラール達の動画を見たいのだ。もう何度も再生したけど、もっと見たいのだ。
スマホに入ったからにはスローモーションで再生も出来るぞ。俺はウキウキした気分で案内のエルフについて宴の席を後にした。




