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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流 2
64/117

エルフの里 1

<数話おきの定期> 地球語(英語/日本語)での会話(聞き取り)を「」で、グラウギリスの言葉での会話を『』で表記してます。


 




 しゃらんしゃらんと鈴の音を鳴らしながら、ゆっくりと夢のように行進するエルフの行列。色とりどりの光を放つ妖精さん達がその回りを飛び交う様は、まるで白く発光する宝石に虹の粉を振り撒いているようだ。


 そんな一行の中に加わってエルフの里に向かう俺達。

 歩を進める足元は、草がしっとりと柔らかく、それがまた雲の上でも歩いているかのような錯覚を覚えさせる。周囲の木々も薄っすらと発光しているみたいで、更に現実味を薄れさせている。

 

 「きれいだねえ」と思わずつぶやく。


 「…幻想的だな。夢の祭りに迷い込んだみたいな気がする。俺はすごい体験をしているな。なんか、アランに感謝だぞ」 と撮影しながら史朗が言う。


 「なんだよ、急に感謝って」


 「いや、ホントにさ。ずっと思ってるんだ。お前と出会ってから、俺ってすごい体験してるなって」


 カメラをまわしながら、ちらりともこっちを見ずに真面目な声で言う史朗の言葉に、こそばゆいような、ちょっと安堵するような気持ちになった。思いがけず異世界に連れて来てしまったことを、俺はやっぱり申し訳なく思っていたから。

 何とも返答しようがなく口をとがらせていると、ちらっとこっちを見た史朗が笑う。 


 「お前さ、すぐその顔するよな。美形が台無しだぞ」 


 「いいんだよ、少し台無しの方が俺っぽくて」 


 「そうだな。お前はどっちかって言うと中身はそっちだからな」 


 「そっちって何だよ」


 「普通ってことだよ、普通。親しみやすくて良いって意味だ。褒めてんだよ」


 褒められた。親しみやすくて良いと言われた。ホクホクしていると、タロウが恐る恐る話しかけて来た。


 『お話中恐れ入ります。もうすぐ我らがエルフの里に到着致しますが、白銀の御方を皆に何とご紹介させて頂きましょうや?イシルディン神よりのお告げで、お名前はアルランティア様と伺っておりますが、お名前でお呼びしても失礼ではございませんでしょうか。白銀の御方とお呼びしたほうがよろしいでしょうか』 


 む、アルランティア様?


 それは明らかに人違いですね。

 

 んー、どうしよう。ここまで来て人違いですよと言うのもアレだし。史朗はエルフの里に行きたいみたいだし、俺も興味がある。爺ちゃんや奈々恵にエルフの里の様子を見せたいし…。 

 

 「なんだ、どうした?」 史朗が聞いてくる。


 「それがさ、やっぱ人違いなんだよ。どうしよう。エルフの人達はアルランティア様って人をお迎えしてるつもりらしいんだ」


 「ここまで来て人違いかよ」 


 「白銀の御方と呼ぶかアルランティア様と呼ぶか、どっちがいいかって聞かれてるんだ、今」 


 「白銀の御方にしておけ。固有名詞はどうにもならないけど、白銀の御方ならまあお前は当てはまるからな」 


 「いいのかな。まあいいか。エルフの里見たいもんね」


 「うん、ここまで来たんだから見たいし撮りたいし。一緒に歌いたいしな。俺だって神界の人になってんだから、お前も白銀の御方になっとけ」 


 「わかった」 


 返答を待つタロウに向き直り答える。


 『白銀の(ほう)で。またはアランと…』


 俺がにっこり笑って言うと、タロウがほんのり頬を染め『おお、我が(レ・アラン)とお呼びする事をお許しくださいますか!』と興奮したように言い、その場にいた他のエルフの人達に伝える。


 『皆聞け!我らに「我が(レ・アラン)」とお呼びする事をお許しくださったぞ!!』


 エルフの人達が『おおお!』とどよめき、皆さん何だか感激をしていらっしゃる。 


 「今度は何だ?」 


 「白銀の御方か、アランって呼んで下さいと言ったんだけどさ。ほら、レ・アランで我が君って意味になるじゃん。そっちだと思ったみたいで、我が君と呼ぶ事を許してくださったって感動されていますなう」 


 「ああ…、そりゃあれだな、身近に(はべ)るのをお許ししちゃった感じだな。私の臣下と認めましょうってな。やっちゃったね」


 呆れたように言いながらも、もういいんじゃね?と訂正を止める史朗。

 「下手に訂正しても、どうせまた違う方向になっちまうんだろうからさ、この辺で良しとしようぜ」と。

 そっか、そうだね。  


 そう言っているうちに、急に光の(もや)が晴れたような、陽の光が明るい場所に出た。これまでの幻想的な光景とは違った、それは色鮮やかな空間だ。 


 明るいと言うかクリアと言うか、とにかくあらゆる物が色鮮やかでハッとする程に綺麗だ。と言っても南国の日差しの強い明るさとは違う。穏やかでありながらもすごくカラフルで綺麗。ああ、色ってこういうものなのかと気付かされたような、ちょっとした衝撃を受けた。


 「ふわ~、なんだここ!ここがエルフの里か!綺麗だなあ。本当に十分な光があたっていると世界ってこんなに鮮やかなのかって、正に目の当たりにしてる感じ。色が色だ!そしてピントが合いまくっている!どこ見てもくっきりハッキリだぞ!」


 そう言って唖然としながら回りを見渡していた史朗が、こっちを向いた途端に声を上げる。


 「わ!アラン!お前の目が物凄く綺麗なアメジストだぞ!あ、お前、紫だけじゃなくて青も入ってるじゃん!なんだその色!すげえ綺麗だぞ。ほら、鏡見ろ、鏡!」 


 史朗が慌ててザックから鏡を出して俺に渡す。俺は久しぶりに鏡で自分を見た。

 本当だ。よく寝起きとか風呂上がりで血行が良くなっている時に、やたらと色が鮮やかになるけど、こんなにはっきりと綺麗な色に見えるのは初めてだ。

 そして、すみれ色だけでなく、反射してサファイヤブルーが混じって見える。


 「本当だ」


 そう言って史朗を見ると、こっちを見ている史朗の目も、いつもの黒に近い茶色とは違って見える。もっとこう、光に透けて金色の反射が入っているように見える。 


 「史朗!史朗の目も違うよ!見てほら!」


 俺が鏡を渡すと、自分の顔を見た史朗が「おお!本当だ。俺の目がただの焦げ茶じゃない。なんかちょっと金色が入ってるみたいに見えるな。すげえな」と言って顔の角度を変えながら鏡に見入っている。

 ついでに言うと、史朗の髪はほぼ黒だけど実はちょっと茶色がかっているんだが、いつものその色ではなく、ここで見ると本当の漆黒だ。つやつやの黒。肌は…お手入れのせいなのか、湯上がりたまご肌とはこの事かと思うほどに美しい。そして胸のあたりが時々キラッと光る。


 史朗は鏡を見ながら「…なんか俺って、もしかしてすごくカッコいいんじゃね?」とつぶやいている。

 

 『我が君、このエルフの里では真実があらわになります。精霊界ほどではございませんが、お心映えが映し出されるのです。シロウ様は強くしなやかな意志をお持ちで、大切なものを見通す目をお持ちでいらっしゃるのですな』 


 タロウが言う事をそのまま史朗に伝えると、「なんだかこそばゆいな」と言いながらも、「でもさ、今そうなんだとしたら、このまま曇ったりしないように磨きをかけたいよな」と笑う。するとまた、史朗の胸のあたりがキラッと光った。 

 

 「で?お前のその青が反射する目はなんだって?髪もこうしてここで見ると確かに白銀だぜ。すごい神々しいぞ」 


 史朗に言われて自分の髪を手に取ってみる。確かに、俺の髪は白に近いプラチナブロンドのはずだったが、ここで見ると銀のラメを散らしたような白銀で、日に当たらなくても勝手に発光してキラキラしている。この森で目覚める前に夢で見た超ロン毛の俺と同じに見える。え?伸びるのか?あそこまで髪が伸びて、俺は人間モップになってしまうのか? 

 

 『我が(レ・アラン)のお姿は誠にイシルディン神そのものでございます。瞳はイシルディン王家の姫君から譲り受けたものではございましょうが。ああ、そしてやはりシャノトワの深い青もお持ちですな。天上の宝石の如き輝きでございます。

 そしてその白銀の光を放つ御髪(おぐし)はイシルディン神と同じ力を備えておいでの証。人の世では少々お色が変わるようですが、それもまた人の肉体を脱げば変わりましょう』

 

 む。色々と混乱するぞ。聞いたことを消化してと思っているうちに、どんどん情報がやってくる。姫君とかシャノトワの深い青とか…。てか、待って、人の肉体を脱げば変わるってのは何だ?俺、死ぬの? 


 俺は聞いたことを整理しようと史朗に助けを求める事にした。そのまま伝えると、史朗はやけに真剣な顔をして俺をじっと見つめて黙った。


 「何?黙られると怖いんだけど」


 「…あのさ」 


 「うん」


 「…あれ?」


 真剣に何かを言おうとした史朗が、急にいつもの表情に戻って言った。「俺、今何を言おうとしてたんだっけな?」 


 「なんだよ。俺の目とか髪の話と、神様の力と、俺が人の肉体を脱げばどうとかって話だよ」


 「あ、そうそう。それでな…あれ?また飛んだ。ダメだ、なんだろう。大事なことを言おうと思ってるんだけど、言おうとするとパン!と弾けて消えちゃうんだよ。なんだこれ」


 「史朗、ボケちゃったのか?!」 


 「ボケてねえわ!でもダメだな。そうだこれを言おうって思うだろ?そんで口に出そうとすると消えるんだよ」 


 「それはボケだろう。ええ〜史朗、まだ若いのに…」 


 「うっせ!違うよ。何かの力が作用して言わせてもらえない感じなんだよ。あ、あれだ、夢の中に出たお前だ!絶対そうだ!」 


 「えー!なんだよそれ。知らないよ!史朗の夢の中まで責任取れるかよ」


 「ぜってーお前だ!」 


 何だよ、もう!と俺達が言い合ってプリプリしていると、タロウが幼い子どもの喧嘩を見るような笑顔で俺達に声を掛け、皆が待っております、どうぞお進み下さいと先を促しエルフの里の奥に入って行く。 


 しゃらんしゃらんと鳴る音を合図のように、エルフの里の人達が集まって来た。結構たくさんいるな。ガレオ村よりも人口は多いようだ。でも、見た所みんな若い美男美女ばかりで、老人や子供の姿は見当たらない。


 「老人も子供もいないね」 


 「そうだな。不自然なくらいに若い美男美女ばかりだ」 



 エルフの里は森に囲まれた開けた広い草原にあった。かなり広い草原なので、「麗しの森はこんなに広かったか」とタロウに尋ねると、どうやら麗しの森であって麗しの森ではない空間らしい。

 元々、麗しの森そのものが、簡単には普通の人が入れないようにはなっていて、時の流れも少しだけ人の世とは変わるのだという。そこに居る者の意思が働き、人によっては1日が10日にもなり、人によっては1日が10分にもなるのだと。


 更にエルフの里には、住人や呼ばれた者しか辿り着けないように魔法がかけてあり、同じ場所にあっても違う時空になるそうだ。異空間ってことか。


 『そうは申しましても、我が君はいつでもおいでになれます』 とタロウが言う。 


 「史朗、麗しの森とかエルフの里は時空魔法が効きまくってるらしいよ」


 「そうなんだ。俺達、浦島太郎になっちまうんじゃないか?」


 「うれしま何?」 


 「浦島太郎だよ。助けた亀に連れられて竜宮城に行って、楽しく数日過ごして元の場所に戻ってみたら、実は何十年も何百年も経っていました。っておとぎ話」 


 「へえ、宇宙旅行か」 


 「う、うん…まあ、そういう感じ?」 


 「でも、ここは大丈夫らしいよ。調整が効くみたい」 


 「そりゃ良かったよ。森を出たら何十年も経ってたらお前、地球に帰ったら偉いことになっちまうよ」

 

 「そうだね!それはまずいね!!わー、俺やっぱ時空魔法覚えたほうが良いかな」 


 「うん、絶対覚えといて」 


 軽く言って、史朗がまたカメラを回し始める。


 エルフの里と言えば、よく物語に出てくるような木の上に家を作ってある森の民のイメージとか、美しく繊細な作りの城のようなイメージとか、聖なる石のような大きな水晶の館が立ち並ぶのか…なんて思っていたが、実際はそうではなく。むしろあたたかくて素朴な色とりどりの家が並んでいる、田舎の村のようだった。


 屋根がトンガリ屋根だったり、ドアが丸かったり、どちらかと言うと絵本の小人の村のような印象で、とにかくほっこりする。

 畑などは特にないようで、どうやって食糧を得ているんだろうと思ったが、どうやらそこはエルフらしく、必要な食糧はその都度植物に話しかけたり成長を促して分けてもらうのだという。

 なるほどね。魔法のような魔法じゃないような、エルフ特有のやり方らしい。


 多くの家が毛の長い山羊のような動物を飼っているようだ。主食は山羊のチーズとかなんだろうか。

 タロウに家畜の事を聞くと、山羊はペット的な位置にあるようで、エルフの人達は動物性のものは食べないのだそうだ。 


 俺は肉も食べると言うと、『我が君は、今は人の肉体をお持ちですからな。そのやり方のほうが健康を保つのには良いのでしょう。同じ人族でも様々な性質がございます。それぞれに必要とする食べ物も、また嗜好も変わります。それで行きますと、我らは人族ではあっても、やはり精霊に近い性質を持った肉体ですから、自ずと違いは出るのでしょう』とタロウが言った。

 一概に肉食が野蛮だと禁忌だとか、そういう風には捉えないんだな。

 自分達を基準にして他の良し悪しを図るような狭量な事はしない。さすが9626歳、世界観が大きい。

 そういえば、モハメドも果物ばかり食べてたな。モハメドどうしてるかな。


 俺達はエルフの里の広場に向かう。エルフの人達は静かに(かしず)き俺達を迎えてくれた。まるで昔から良く知っている人達に迎えられるような心地の良さがあった。

 聞こえてくる人々の会話は風に乗った歌声のようでもあり、これは一般の人族とは全然違う。やっぱりエルフなんだなと感じた。


 「会話が歌声みたいだな。みんな本当は小鳥なんじゃないのか?」


 史朗が楽しそうに言って、聞きながら音階を拾って鼻歌を歌いだした。


 すると、エルフの人達が驚いたような顔をしてヒソヒソと何かを話している。なんだろうと思っていると、タロウが聞いて来た。


 『シロウ様は我らの言葉をご存知でしたか。先程まではおわかりではないご様子でしたが…』


 どうやら、史朗が音として捉えて鼻歌にしていた音階が、エルフの人達には会話をくりかえしたように聞こえたらしい。

 あれだ。口を閉じたまま「こんにちは」とか「ようこそ」と言うと、その言語を知っている人にはなんとなく伝わる感じのあれ。 

 史朗は、意味はわかっていなくても、みんなが会話をしている音を正確なイントネーションで真似て鼻歌にしていたのだ。 


 「ここの会話は心地いいぞ。ほら、あの出迎えのグループにいたエルフがここに戻ったら、あっちのエルフが声を掛けただろ?おかえりなさい、ただいまってやり取りしたみたいでさ」と笑っている。 


 タロウに言うと、『なるほどそうでしたか。意味は正におっしゃる通りでございますよ。あの二人は最近、(つがい)になりまして、先日花に二人の精を注いでおりました』と笑い、周りの者に史朗が言ったことを説明をしている。

 それに加えて、他の出迎えグループの1人が、史朗が素晴らしい歌い手であると言い、それを聞いたエルフの人達が笑顔になり史朗の回りに集まって来た。 

 

 1人が史朗に『ようこそおいでくださいました』と言うと、史朗が歌うようにそれを繰り返す。笑いが起こって皆が『ようこそおいでくださいました』と口にする。

 『大変お上手です』『お会いできて光栄です』『私はナヌークです』『私はピアです』『私はネッコです』と続く。

 史朗が意味に気づいて『私はシロウです』と歌うと拍手が起こった。 


 「あれだな、言葉というより音階で拾って歌だと思うと簡単だな。ガレオ村でもこうすればよかったよ」と笑いながら史朗が振り返った。また胸のあたりがキラキラしている。


 仰々(ぎょうぎょう)しいお迎えの義などはなく、自然に史朗を囲んで楽器を持って来て歌と演奏を始めるエルフ達。音楽は国境を越えると言うけど、地球を越えて他の星でも伝わっている。 


 歌って楽しんでいる人達や、それに合わせて踊りだす人達。そして飲み物や食べ物が運ばれて、それぞれが思い思いに飲んだり食べたりしながら、自然に宴会のようになっていく。宴会とはいっても、ガレオ村の宴会とはちょっと違って、何というか詩的な雰囲気だが。

 

 俺もそのまま何となく透明丸イスを出して座った。俺の回りで出迎えグループの面々が地べたに座ろうとしたので、慌てて透明丸ソファを出して座ってもらった。

 その様子を初めて見たエルフ達が声を上げるので、他の皆さんも座れるように大きな透明エアーベッドのような物を出して、座るようにと促した。恐る恐る、でも嬉しそうにぽよんぽよんと跳ねている様子は、なんだかかわいらしい。

 「でもこの人達、みんな爺ちゃんやおばばよりも年上なんだよな」と思い、俺は透明エアーベッドの厚みを少しだけ増したのだった。


 史朗とは楽しそうにしているエルフ達だったが、俺には話しかけて来ようとはしなかった。遠巻きにしながら、見たいけど見たら叱られるというような様子で、違う方を向いたまま目だけでチラチラこっちを見ている。俺の方が見て目が合うと慌てて目を逸らす。

 出迎えグループの面々は、やはり代表になっただけあってエルフ達の中でも地位があるのか、皆の中では俺の近くに来たり話しかける事が出来るのは、彼らのような許された数名のみという認識になっているらしい。


 いわゆる盗み見をしているエルフがたくさんだったので、俺も見てないふりをしておいてパッとそちらに視線を合わせるようにしてみた。まるでイタズラを見られた子供のように、慌ててさっと目を逸らす皆の様子がだんだん面白くなってきて、俺は色んな人をチラチラ見始めた。

 そのうち可笑しくなって来てつい声を出して笑ってしまうと、目が合った人達も笑い出し、だんだんと見てはいけないムードはなくなり、普通になっていった。

 それでも話しかけてくる人はいなかったが、目が合うとはにかむ様ににっこりと笑ってくれるようになったんだ。


 タロウが『我が君、これがエースでございます』と、ひとりのエルフを連れて来た。


 『エースと申します。この度はご尊顔を拝し奉り恐悦至極にございます』


 そういって(かしず)き頭を垂れるエース。やはり40代くらいにしか見えない、ちょっとつり目で髪の短い男性だ。タロウもちょっとつり目だから、タロウの一族はもしかすると皆つり目系なのかもしれない。

 史朗がまだあっちで歌っているので、俺だけではタロウとエースの家族関係についてはわからない。だが、さっき聞きかじった話でエースに言ってみた。


 『エース。ゾフィーは元気か』


 『ははっ!兄は、兄は今も隣国のエルフの里にて、清めの水の泉を守っておりまする!我らの如き者達にまでお気持ちを向けて頂いております事、兄にも必ずや伝えさせて頂きます。我が君がお戻りになってより、我らエルフ族の力も弥増しておりますので、すぐにお言葉は届く事と存じます』 


 わ。なんかすごく畏まられちゃった。まあいいか。史朗が来たら、また色々話せば良いもんね。それにしても、隣国には清めの水の泉があるのか。もう、色んな種類があってわけわかんないね。とりあえず、健康水のレベル分けは3じゃなくて4にしておこう。


  エースには『それは良い』と言ってにっこり笑って、俺は話題を変えることにした。

 こんなに若い男女ばかりで種族が増える時はどうなってるのか、気になっていた事を聞いてみる。


 タロウが詳しく教えてくれた事を要約すると、花から生まれた妖精さん達が200年を過ぎて老人の様になると(さなぎ)になるのだそうだ。そして蛹の中で眠りに入り、通常は40〜50年程で羽根が抜け落ち人の子供サイズに成長する。お出迎えグループの中にいたあの小人のような人達がそうらしい。

 更にそのまま1000年程過ぎると背が伸び始め、300〜500年程かけてここにいるエルフのようになるのだそうだ。その時点で、いわゆる人の15歳くらいと思えば良いらしい。なるほど、1600歳でピチピチってのはそういう事なのか。妖精さん達はエルフの幼生体なんだね。

 

 ついでにエルフと精霊の違いについても聞いてみた。


 エルフと精霊は近いエネルギー体は持っていても全く違うのだそうで、エルフは肉体を持っているが、精霊は肉体を持たない。

 エルフは生殖機能もあるので、時に他の種族との間に子をもうける事もある。長命だし花から生まれる妖精が成長してエルフになる為、特にエルフ同志で子をもうけて子孫を増やすという発想もないらしい。

 ただ、稀にエルフ同士で子をもうける者もいて、その場合は二人で選んだ花に手をかざし二人のエネルギーを注ぐのだと。そうして生まれる妖精達は親となる二人の意志と特色を継いで生まれてくるらしい。

 タロウの一族はそうやって生まれたそうで、特にこの世界を安定に導くための意志を強く受け継いでいるらしく、各地でエルフの長となっている一族なのだとか。へえー。 


 そして、イシルディン神は元々この世界(多分惑星という意味)の精であり、神によって命を受け肉体を得るまでに既に16億年程を精霊王として存在していたのだと。

 個としての意識を持つ精霊としては最古の存在で、同時期に存在していた精霊達は既に霧散し、この世界を創る純粋なエネルギーに戻っている。今いる精霊達は割と新しい世代なのだそうだ。新しいと言っても数千年とかもっと前かららしいけど。


 イシルディン神だけが、生まれてはやがて霧散しこの世界を創る純粋なエネルギーに還るという輪を抜け、この300年を経て神界にて再生し、新たなこの世界の神となった特別の御方であると。

 現在この世界には何代目かの新たな精霊王がいて精霊たちを取り仕切っているのだそう。その精霊達に「至宝」と言われ、この世界に存在する光も闇も共に全ての者達の希望が、人の肉体を持って人の子として生まれたイシルディン神の一部であるアルランティア様なんだそうだ。なんか、すごそうな人だ。


 しばらく不在だったらしいが、最近この世界に戻ったそうで、それによってエルフ族の光の力が増しているという。精霊たちも喜び、闇の者達も竜族も、すべての存在に新たな力が注がれ始めているのだと。

 

 『有り難いことでございます。よくぞお戻りくださった』とエースに涙ながらに頭を下げられ、心のなかで「人違いです。ごめんなさい」と謝りながら、俺は話題を変えることにした。


 『この世界は何歳か?』 


 『私も本当のところは存じませんが、先達に伝え聞いた所では、恐らく30億年ほどかと』


 地球よりは若いのか。てか、そう変わらないな。



 『この世界は、元はただ風が吹き多くの生き物が気ままに暮らしているだけであった。空からやってきた人族の祖の入植があり大きく変化をしたのだよ』 


 「ふーん、そうなんだ」


 『は?何かおっしゃいましたかな?』


 『ん?今のはタロウではなかったか。エースか』


 『いえ、私共は何も申しておりませんが…ああ、我が君はイシルディン神のお言葉をお聞きになったのではありますまいか。今ここにイシルディン神の気配が強く感じられます。神は何をおっしゃいましたか?』


 『空から人の祖がやって来て世界に変化が起きたと』


 『…なんとそれは、我らが先達にも伝わる伝説でございます。…(まこと)の事でございましたか』 タロウとエースが顔を見合わせている。

 


 「何?何の話?」 歌っていた史朗が戻って来て隣に座った。


 「なんか、昔、ゴアウルドみたいなのがいたっぽい」 


 「マジか?」 


 「いや、すごく話しを端折(はしょ)った、ごめん。…何ていうか、この世界は元々は人族はいなかったっぽいよ。空から入植して来たって、神様が言ってた、今」 


 「へえ、結構さ、地球人類が宇宙船で運ばれて来てたりしてな」 


 「あるかもね。なんかこっちの人って地球人と似てるもんね。それに、この星の方が地球よりもちょっとだけ若いみたいだし」 


 あ、それでさ…と、俺はエルフ族の誕生と成長の段階を史朗に説明した。そして、イシルディン神と、俺と人違いされている精霊の至宝の人の事も話した。


 すると、史朗がまた真剣な顔をして「それだ!あのさ!」と言って、そしてまた「あれ?今俺は何を言おうとしてたんだ?」と言う。


 その日、史朗は同じやり取りを更に3回繰り返して「もうやめた!駄目だ。諦めた!」と、大事な話をする努力を放棄した。  



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