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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流 2
63/117

まさかの偶然 


 しゃらんしゃらんという音が大きくなる。色とりどりに光を放ちながら飛び交う妖精たちと、光の民の一行がゆっくりとこちらに近付いて来る。


 それぞれにデザインは違うものの、全員が裾の長い白い柔らかな布の衣装を身に(まと)っている。金糸銀糸の飾り縫いがキラキラと反射していて綺麗だ。衣装の形は、映画に出て来るエルフの正装をイメージして奈々恵が作ってくれた俺のコスプレ衣装に似てなくもないが、生地の素材は光の民の衣装の方が薄くて軽やかに見える。

 質感がハサミ蜘蛛の糸に似ているな、と思った。もしかすると、瘴気の抜けたハサミ蜘蛛達の糸で織った布なのかも知れない。この森にもあのハサミ蜘蛛達がいるんだろうか。


 光の民の一行の先頭には、良く似た顔立ちの若者達が2人並んでいて、上の方に幾つもの鈴が付けられた、繊細な装飾が施された銀色の美しい長い棒を掲げるように持っている。それをゆっくりした歩に合わせて左右に小さく振ってしゃらんしゃらんと鳴らしながら歩いている。

 去年、日本に初めて行く前に動画で見た、神道のお(はら)いみたいな動きで不思議だと思った。

 二人の後ろには、見た目が40代位の男性が1人いて、その後ろに10人くらいの光の民が続いている。その間に小人のような人達も5〜6人居て、一緒に歩いてくる。


 一行は、こちらに近付いて来たかと思うと、俺の数メートル前で止まった。先頭の若者二人がすっと左右に動き、内側に向かい合わせになるように立って、銀の棒…杖と言ったほうがいいのか。それを上前方に高く伸ばして、互いに先の方を交差させて静止した。門が開いたようなイメージの動きだ。


 邪魔にならないように避けたつもりだったけど、俺が立っているここに用があったのかな?もっと退()いたほうが良いだろうか?などと思っていると、妖精たちが飛んで来て、俺の周りを取り囲んで、輪になって楽しそうに踊りながら俺の周囲を回り始めた。


 …何だこれ?

 

 ひとしきり妖精たちが踊ると、光の民の方に戻って行き、そして光の民が全員で俺の前に(かしず)いた。何だこれ?

 どうしよう?と、史朗の方を振り返ると、史朗がうんうんと2度頷いてから、くいっと顎を上げてサインを出してくる。そのままにしてろって事か。


 そのまま立っていると、杖を掲げていた二人がしゃらんと杖を降ろした。そして、先頭の男性が右手を胸の位置に置いて顔をあげた。本当は何歳なんだろうな?なんて、ちょっとごめんなさいな事を考えていると、その男性が(うやうや)しく俺に話しかけて来た。


 『イシルディン神のお導きにて、御身の御帰還を我らが森にてお迎えし、ご尊顔を拝する栄誉を頂きましたこと恐悦至極に御座います』


 …は? 


 俺はまた史朗を振り返る。史朗はカメラを構えたままキョトンとしている。こっちに来てと手招きで呼ぶと、ぶんぶんと顔を振って断られた。 

 

 先頭の男性が言葉を続ける。


 『ああ、まさにイシルディン神のお姿そのままでいらっしゃる。300年ぶりにお告げを受け御声を聞きました。更に尊いお姿そのままに生き写しの貴方様をお迎えする事が出来るとは、誠に幸甚(こうじん)に存じまする』 

 そう言って『長生きはするものでございますな…』と俺を見ながら涙を拭う。その後ろでは(かしずいたまま同じ様に涙を拭っているエルフの人々。 


 えーと、俺は今、何をどうしたらいい? 


 どう考えても俺に向かって言っているし、俺に向かって傅いている。

 そうだ、とりあえず普通にしてもらおう。俺はまた、総会で各国の社長達に頭をあげさせる時の爺ちゃんの真似をして言ってみた。


 『楽にする、よい』

 

 すると、その言葉にハッとしたような顔をして、震えだす先頭の男性。あれ?何か間違った? 

 

 『我らに、我らに直接お言葉を頂けるとは…ああ、なんと慈悲深い!!これ、皆もお言葉を聞いたであろう。仰せのように楽にせよ。決して失礼のないように楽にするのだ』


 先頭の男性の言葉に、失礼のないように楽にするとはどうしたらいいのかと、周りの様子を伺っている者やどうしていいかわからず固まっている者、すっと立ち上がり自然にそのまま立っている者、見事に三者三様。先頭にいるエルフの人も、自分でも立ち上がったものの、それからどうしていいかわからないようでこちらを見ている。


 …エルフの人達って割と普通の人って感じだな。みんな、見た目が若いけど、この内の何人かはとってもお年寄りなのかな。


 この先頭の人はおばばよりもずっと年上のおじいちゃんのはず。300年ぶりにと言っていたから、この人は300歳以上だろう。ということは、爺ちゃんよりも少なくとも4倍位は歳上。

 長生きはするものだと言ってたことを考えると500歳とか600歳なのかもしれないし、もっとなのかもしれない。とにかくお年寄りは(いたわ)らなきゃ。  


 『楽にする、良い。皆に会えるは嬉しい。あなたは誰か。何歳か』


 俺はにっこり笑って聞いてみた。どうぞお楽に。みなさんにお会い出来て嬉しいですよ。お名前は何と仰るのですか。お幾つですか。と言ってみたつもりだ。


 『は?私で御座いますか?』


 急に予想外の質問をされて戸惑うエルフの人に、俺は笑顔で頷く。


 『私は、エルフ族で長老をしておりますタロウと申します。長老と申しましても、確かに現存するエルフ族では長命の方では御座いますが、そうは申しましても、未だ9626歳になったばかりの若輩者で御座います』

 

 9626歳!?


 予想以上のおじいちゃんだった!!


 地球年齢に換算したら、いや、しても意味がないだろうけど、一応すると1万2000歳じゃないか!!

 大変だ。

 俺は慌てて透明丸をちょうど椅子のように座れるサイズで出し、『タロウ、座る。楽に座る』と勧めた。


 俺に勧められてタロウが、何故自分が座るのか?と不思議そうに、『…では、仰せの通りに』と座り、『おお、これは、随分とぽよぽよですな』とつぶやいた。

 

 想像以上の年齢を聞いてしまい驚いた俺は、俺に挨拶に出て来たらしいここに来ている他のエルフ達は、もしかすると全員が長老達なのではないか?ということは皆とてもお年寄りなのではないか?!と思って聞いてみた。


 『…皆は何歳か』 


 すると、口々に私は6320歳です、9547歳です、1600歳、最年少でピチピチです…等と返って来た。

 1600歳でピチピチ?何を言っているんだ。とにかく、どうやら全員が少なくとも1600歳以上であることはわかった。お年寄りばかりだ。


 どういう身体の構造なのかはわからないが、どの人も髪はふさふさだし、太っている人もいないし、(しわ)もない。

 女性もとても若々しくて美人ばかりだけど、だがおばあちゃんだ。とにかく立たせておいてはいけない。座って楽にしてもらおう。

 俺は透明丸を長いソファーのように出し、全員に着席を勧めた。


 『皆、座る。楽に座る、良い』


 小人のような人達も、それぞれに172歳とか236歳とからしい。やっぱりお年寄り。同じ様に透明丸ソファーを身体のサイズに合わせて出し座ってもらった。


 そして俺は史朗に声を掛けた。 


 「史朗、みんなすごいおじいちゃんとおばあちゃんばかりなんだよ。今の所エルフの人達だと、この中で一番若くて1600歳だって。とにかく座ってもらった。立たせておくわけにはいかないからね。でも1600歳でピチピチっていうんだぜ。確かに見た目は20歳くらいに見えるけどさ」 


 すると史朗が、そっと木陰から出て来て言う。 


 「あのさ、多分そんなに気を使わなくても大丈夫だと思うぞ。エルフってびっくりするくらい長命だと思うから、更にこの星だと本当に1600歳でピチピチで、地球人的には20代くらいの感覚かも知れないぜ」


 あ、そうか。地球人の感覚を混ぜて考えない方がいいんだ。でも、だからと言って今からまた立てとも言えない。 


 「そうだ、記念撮影。このまま記念撮影しようよ」


 俺は良いことを思いついたと思い、笑顔で史朗に言った。


 「そうだな。じゃ、俺撮るから皆と一緒にお前も座れよ」


 史朗がカメラを構えたままこっちにやって来る。


 俺はエルフの人達に向き直って言った。


 『これから良い時を止め記す』 


 タロウが『おお、ドワーフを伴っておいででしたか。これは、何と申しますか、…珍しい』と言って、史朗を見ている。他のエルフの人達も史朗を見てちょっと引いているようだ。なんだろう、あんまり仲が良くないのかな?早めに史朗がドワーフではないと言っておかなければ。 


 『違う。ドワーフない。人』


 『人ですと?しかし、人には見せませぬ。黒い髪と黒い髭、小柄な身体。ああ、確かにお肌はつるつるで美しく、一般的なドワーフとは随分異なりますが』


 『人です。この世界ない、違う世界の人。ドワーフではない。とても強く優しい』


 『違う世界の、人…。なんと!それでは神界よりお連れになったお伴の方ですか。それは大変失礼を致しました。どうかお許しくださいませ』


 ん、なんか違う話になってるかな。まあ、いいか。


 「おい、みんな俺の事またドワーフって言ってるんだろ?別にいいぞ、もうドワーフで」


 面倒くさそうに史朗が言う。 


 「ドワーフって言うから、違う、人だって言ったんだよ。異世界の人なんだって。…まあ、そしたら異世界を違う風に捕らえたらしくて、神界の人だって理解してるっぽい。面倒だからそれで行くよ。どうせここには2〜3日しかいないんだし」 


 「なんだそれ。良いのか、そんないい加減で」  


 俺と史朗が話していると、『おお、神界の言葉をお話になっておいでだ』とヒソヒソ言っているのが聞こえる。


 タロウが言う。


 『イシルディン神の欠片(かけら)であり、シャノトワの光である御身を、この森にてお迎え出来る幸運を得まして、厚かましくもお許し戴ければ、是非ともエルフの里にお招きしたく思っておりました。

 お伴の方がドワーフでは同行をして戴けませんでしたが、神界の方であればこれは重畳。是非ご一緒にお越しいただけますようお願い申し上げます』 


 なんか、また新しいのが出たぞ。シャノトワの光ってなんだよ。


 「史朗、これからエルフの里に招いてくれるんだって。でもドワーフだとダメなんだって。だから神界の人って事でいいよね?それともエルフの里はやめとく?」


 「エルフの里か、それは行ってみたいな。んじゃ、俺、神界の人でいいわ」 


 よし、そうと決まれば、とにかくまずは記念撮影だ。その前に、爺ちゃん達に報告。 


 「史朗、今も撮ってるんだよね?OK。爺ちゃん、今俺達は麗しの森という所に来ています。後ろにいるのは全部エルフです。本物です!

 奈々恵、見てる?本物のエルフだよ!ね、本物のエルフと俺は全然ちがうでしょ?この人達、一番若くて1600歳だって!長老は9626歳。地球年齢で1万2000歳です。

 でも見た目通りそんなにお年寄りじゃないのかもしれません。俺達はこれから2〜3日この森にいます。とても綺麗で気持ちの良い森です。

 これからみんなで記念撮影をします。それからエルフの里を訪問する予定です」 


 エルフ達にはそのまま透明丸ソファに座っていてもらって、小人達にはその前に並んでもらい、俺と史朗が後ろに立って、妖精さん達は適当に誰かの肩や膝にのって、そしてタイマーでパシャリ!

 撮った画面を史朗がエルフ達に見せると『おおお!本当に時を書き留め(しる)してある!』と珍しそうに覗き込み、一人一人の顔を拡大して見せると「私だ!」と喜んでいる。村の人達とそんなに変わらないリアクションだ。

 そうだ、良いことを考えた。


 「『これから史朗、歌う。みんな聞く』史朗、みんなに何か歌ってやって」 


 「え?歌うの?」 


 「短い歌でいいからさ」 


 「…んじゃ、そうだな、この場所がとても気持ちよくて安心するから、ゆりかごの唄でも歌うか」


 「それ知らない」 


 「子守唄だ」 


 そう言って史朗が皆の前に出て歌い出す。

 俺はそれを撮る。


 明るく心地の良い森に、優しく心に触れる史朗の歌声が響く。エルフ達も小人達もうっとりと聞き入っている。さすがは子守唄だ。とても安らぐ。

 癒しの水が湧く泉が小さく波打ったように見えた。泉も喜んでいるんだろうか。


 史朗の歌が終わってから、俺が撮った動画を見せると、エルフ達が『これは素晴らしい。この魔法をエルフの村にも留め起き、何度でもこの歌を聞きたいものです』と言って喜んだ。

 スマホは置いていけないけど、何かそういう魔法を編み出せたらいいな。後でやってみよう。

 

 エルフ達の中で、史朗は「謎のドワーフ」から「神界の素晴らしい歌い手」へと昇格した。一気に史朗にフレンドリーになったエルフ達が、是非エルフの里に来て一緒に演奏をと言っている。


 「なんだって?」と聞いてくる史朗に、その事を伝えると、「エルフ族との演奏か。いいな。一生に一度体験出来るかどうかっていう機会だ。俺もお願いしたいぜ!」と乗り気だ。

 

 『タロウ、史朗はエルフと一緒に歌う、喜ぶ。我らエルフの里、行く』 


 『おお!お越しくださいますか!有り難い!!』 


 そう言ってひれ伏すタロウ、そしてエルフの人達。

 エルフって勝手なイメージではもっとこう、ツンとしてて高慢な所があるのかと思ってたけど、本当に全然普通なんだなあ。

 史朗にそう言うと「それは…多分、相手がお前だからじゃないのか?最初から普通の人とか俺が出てきたら、なんか口も聞いてもらえないと思うよ」と言う。


 「そうかな?」 


 「そうだよ、きっと。お前はさ、ちょっとこう、自分に対しての他者の扱いが特別だって自覚した方が良いぞ。特にこっちの世界ではさ」

 

 「そっか…。俺さ、子供の時に大学とか他の所でいじめられた事もあるし、好かれる事も多いけど、逆にすごく嫌われる事もあるからさ。なんか、特別に扱われるって有るとは思うけど、時と場合によるだけで、通常はごく普通だって思ってるんだけどなあ」 


 「なんだ、いじめられた事があるのか」 


 「結構ね、意地悪な大人とか多いよ」 


 「大人か…」 


 「うん、まあ、もう今は戦えるしさ。自分より弱い者への意地悪をする人は、その人自身が問題有りなんだってのもわかってるから良いけどさ」 


 素敵な森で、美しいエルフを前にして、こんな話はよそう。俺は話題を変えてタロウの事をちゃんと史朗に紹介することにした。

 

 「ところでさ、こちらはタロウ。ここのエルフ族の長老で9626歳、未だ若輩者だとか言うんだよ。『タロウ、これは史朗。とても強い、そして優しい。歌う、上手い』 今、史朗のことを紹介したから」


 「おう。タロウさん、よろしく」


 『シロウ様と(おっしゃ)る。お名前がわたくしと似ていらっしゃるとは、大変に光栄でございます。わたくしはタロウ・ウー・ルトラ・マーニと申します。この森のエルフ族のまとめをさせて頂いておりまする。どうぞお見知りおきを』 


 「シロウ、名前が似てて嬉しいって」


 「ちょっとまて、今、この人なんて言った?」 


 「何が?自己紹介をしてくれたんだよ。タロウ・ウー・ルトラ・マーニさんだよ」 


 「…!聞き間違いじゃなかったか!タロウ、ウルトラマン!まさか、エルフ族の長老がウルトラマンタロウなのか!?」 


 「え?ナニソレ?」


 「ウルトラマンだよ!ウルトラマン!!ウルトラファミリーだよ!お前知らないのかよ?」


 「知らないよ」 


 「何だよ、知らないのかよー!いやまさかな。偶然にしてもびっくりする位名前がかぶるけど。…あのさ、もしかしてタロウさんにセブンっていう異母兄姉とかエースっていう一緒に育った兄弟みたいな人っているのかな?そんで、エースのお兄ちゃんがゾフィーとか言う名前だったら、もう、もう、やばいんですけど、まさかなあ」


 俺はタロウに聞いてみた。


 『なんと!!シロウ様は我が家族をご存知だったか!…さすが、神界。我らの想像を超えていらっしゃる。ああ、ゾフィーさんやセブン兄さんがこの森に居たらご紹介できたのに…、いやエースはおりますからな!是非ともご紹介させていただきたく存じまする!』


 「…シロウ、なんか当たりっぽいよ。さすが神界の方は我らが家族をご存知か!って感動してるよ」 


 「うっそでしょ?マジで?うわ…やばいわ。何だこの偶然。いや、偶然じゃなくてあの物語は異星の事実をキャッチした人々が作った物語なのか?年齢もバッチリ地球年齢で1万2000歳だし、うわあ、俺、エルフの里がむっちゃ楽しみになったわ。早く行こうぜ!」  


 史朗が物凄く乗り気になっている。よくわからないけど、俺も楽しみになって来たぞ。 


 『タロウ、史朗はエルフの里楽しみ。私も楽しみ。行く』 


 『ははっ。それでは早速ご案内をさせて頂きまする!!』 




 こうして俺達はエルフの里を訪問することになった。

 


 

位置情報のヒントが…? いやいや。

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