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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流 2
60/117

神の鳥ニルス、人の王の巣に止まる 


 史朗がずっと黙っている。


 「調子悪いの?」


 「いや、大丈夫だ。腹減っただけだ。ほら見ろ、この辺はちょっと景色が違うな。家が点在してるぞ」

 

 「…ああ、そうだね」 


 何となく話しをはぐらかされたような気がしたが、無理に聞かない方が良いんだろう。必要があれば言ってくると思おう。

 

 街から離れて、更に飛んでいく。人の王の街、王都に向かっている。


 何となくさっきの街でニルスが現れた場合の人々のパニックぶりがわかったので、今度はあまり低空飛行をしないで、高く飛んで上空から全体の様子を見るだけにした方が良いだろう。 


 『ニルス、人の王の街では高く飛ぶ。街に近くしない』 俺が言うと、ニルスが『街、高く飛ぶ。人の王の巣に行く』と言う。


 え?王宮に行くってこと?それはどうなんだろう?さっきのご領主様の城では、みんなニルスが飛んでも平気だったけど、王宮はまずいんじゃないのかな? 


 『人の王の巣、あまり近く行かない』と言ってみた。


 『イシルディン神言った。欠片(かけら)は人の王の巣、近くで見る。花たくさん降らす』


 「ええ〜、そうなの?大丈夫かな」 


 史朗、どう思う?と聞こうとしてやめた。なんだかすごく考え込んでるみたいだ。俺はザックから新しく補給物資に入っていたカップ蕎麦を2つ出して湯を注いだ。何か食べた方が良い。お腹すいたし。

 温かい蕎麦を差し出すと、史朗がハッとしたように、「ああ、どうも」と言って受け取る。


 「大丈夫?」ともう一度聞いてみる。


 「おお、大丈夫だ。腹減ったからな、ボーッとしてた。あ、蕎麦か!嬉しいな。奈々恵さん流石だな」そう言って笑って食べ始めた。


 俺も食べる。温かいし塩味が意識をはっきりさせる。


 「蕎麦ってさ、食べる時に音をたてるんでしょ?日本好きとしても中々馴染めない文化だけど、頑張ってすすってみたことあるんだよね。でも難しくて出来なかった。東京に行った時に立ち食い蕎麦ってので、みんなが本当にすすってたからびっくりしたよ」


 「そうだな。音を出してすするのが粋だっていう文化だな。まあ、俺もそんなにすすらないけどね。勢いよくすすると汁が飛ぶじゃん。服につくと結構困る」 


 「すすらなくても失礼じゃないなら、出来ればすすらないで食べたい」 


 「まあ、そうだろうな。西洋文化とは真逆だもんな。すすらなくても失礼じゃないから大丈夫だよ」 


 「蕎麦って美味しいよな。うどんも好きだけど、蕎麦の方が好き。東京で仕事した時、板そばってのに連れて行かれたんだけど、美味しかったけどザルとどう違うのかがイマイチよくわからなかった」 


 「あはは、板そばか。山形県で板に乗って出てくるってやつな。ご縁が板につきますようにって、つまり仲良くなって長くそばにいられますようにっていう願掛けみたいな意味があるらしいよ。後付の意味かもしれないけどな。蕎麦はいいよね。俺も好き。おとなになって前より好きになったな」 


 「そういう意味があったのか!カメラマンさんとかスタッフが連れて行ってくれたんだけど、そうか、そうなのか。帰ったら連絡しよう」 


 「その人達がそれを知ってて連れてったかどうかはわからないけどね」


 「うん、でも、そういう意味があるなら、やっぱり連絡してみるよ。面白い人達だったし」


 「面白いって言えば、チーム☆フェルナンドの連中はどうしてるかな」 


 「そうだね。俺達音信不通になってるから、心配してないといいけどな。そうだ、街で何かお土産買っていこうよ」 


 「ああ、いいな。王都も、ちょっと歩いてみたいよね」 


 「あとで透明丸でそっと遊びに来ようよ。目立たないように」


 「そうだな」 


 点在する村や畑を通り過ぎ、蕎麦を食べ終える頃に大きな街が見えてきた。どこまでが公爵領なのか全然わからなかったけど、多分もう結構前に王都の境界に入ったんだろう。


 何ていうか、エネルギーが変わったんだ。公爵領では割と穏やかな空気だったんだが、離れて少しして感じが変わって、そして王都が見えてくる少し前と、見えて来てから、何かのラインを越えた様な感じで雰囲気がガラっと変わった。

 そして、王都に近づくに連れて、勢いの強い動きのあるエネルギーが濃くなって行く。自信家で好奇心が旺盛な感じ。これは王様のエネルギーなのか。


 史朗も感じたようで、「なんか急にやんちゃな空気に変わったな」と言っている。


 「やんちゃ!まさにその通りだ。結界があるのかもね。おばばが、王様は魔法の力が強いって言ってた。結界を張っているのが王様だとしたら、こういう雰囲気の人なのかも知れないね」 


 「そうだな。だとしたら、さっきのご領主様は穏やかで思慮深い感じかな」 


 「俺もそう思った。面白いね」 


 ピィイイイイイイィィィィィッ!とニルスが鳴いて、『欠片(かけら)よ、人の王の街来た。このまま王の巣に向かう』と言う。


 『わかった』と答えたものの、さっきとは違って先に王宮に行くのは何でだろうと思う。さっさと王宮の上を飛んで、街を見て帰ろうという事か。


 「あれ?旋回しないでまっすぐ行っちゃうの?」


 「そうみたい。一気に王宮に向かうんだって。大丈夫なのかなって思うけど」 


 「ニルスが行くなら大丈夫なんだろうけど、ちょっと緊張するな」


 「だよね。兵隊さん達に攻撃されて怒って蹴散らしちゃったらやばいよね」


 「やばそうだったら、すぐに離脱させろよ」


 そう言っているうちに大きな白い建物が見えてきた。あれが王宮か?

 高い塔も幾つかあるが、全体には横に長い。5〜6階建ての屋根が金色の大きな建物が中央にあって、左右に2〜3階建ての棟があり、その後ろにも3階建て程の棟がある。兵舎と思われる建物や馬やビッグバードくらいの大きめの鳥や…え?小型の竜?竜だよな、翼があるものとそうじゃないものがいる。とにかく騎乗用と思われる動物の為の建物があるようだ。


 「流石にここはお前んちより随分でかいな。前庭がむっちゃくちゃ広いし、前庭の左右に森か、面白いね。建物の後ろもずっと広がっててすごいな。王宮だけでも街みたいじゃん」と感心したように言った。

 

 ニルスが近づくと、思った通り騒然として兵士が沢山出て来た。

 

 「あ、史朗、見て!兵士の中に角がある人がいる!」


 「本当だ!あれ、長角(カブト)人かな? 見ろ、あっちは二角(クワガタ)人じゃないか?!」


 「兵士枠なのか!ムキムキだな!」


 「うわあ、すげえな」 


 上から史朗が写真を撮る。

 あ、矢が飛んで来たぞ。小型の竜に乗って飛び出そうとしている兵士もいる。やばい!


 「アラン!花!早く!!」 


 「はいっ!」 俺は慌てて花を撒いた。さっきの街よりも多く撒いた。


 花を撒きながら俺は思った。これか?これがニルスが言ってた、イシルディン神が「欠片(かけら)は人の王の巣、近くで見る。花たくさん降らす」と予言したってやつか?もしかすると予言というより本当は、「そうならないように気をつけろ」て言われたんじゃないのか、ニルス!? 


 花を撒いていると兵士たちからの攻撃が止まった。見ると司令官のような人が止めたみたいだ。

 すいません、すいません。お騒がせしてすみません。


 兵士だけでなく、長い袖や裾の衣装の綺羅(きら)びやかな人達も外に出て来ている。騒ぎになる前に早く立ち去ったほうが良さそうだ。


 『ニルス、もう帰る!麗しの森、行く!』


 俺がそう言うとニルスが大きく、ピィイイイイイイィィィィィッ!!と鳴いた。そして『ニルス、人の王の巣に降りる!』と言った。


 ええええええええ???


 「何?何?どうした!?」


 「にるしゅに、もう帰ろうて、麗しの森に行こう言ったら、にるしが、王宮に降りるって言い出したっ」


 俺は大慌てでぐだぐだだ。


 「アラン、ニルスが言えてない。落ち着け。そして、すぐ止めさせろ!」 


 そんな事言ったって史朗、既に下降し始めているニルスをどうやって止めろと言うんだ?! 

 俺達が困っているうちにニルスは着地体勢に入り、そして…、そして何と、とても高価そうな王宮の金色の屋根にズズンっ!と着陸してしまった。


 「あああああ〜!!」


 「王宮壊してるぞ、おい!」


 崩れてガラガラと落ちていく王宮の屋根だった金色のかけらたち。下にいる人達が右往左往して大騒ぎだ。

 大変だよ。せっかく俺達に自由と安全と報奨金をくれたのに、その王様んちを破壊って、どうしよう。


 もう、俺達はこのまま森に帰ってひっそりと、あと三ヶ月過ごすしか無いんだろうか。ああ、だめだ、俺達が逃げ隠れしてあの村が罰を受けてはまずい。やっぱ、ここは俺が出頭するしかないのじゃないか。ああ、神様の予言は、やっぱり予言じゃなくて事前の注意だったんだ。


 「史朗、もう俺が出頭して謝るしか無いと思う」


 「何でお前が出頭するんだよ」


 「だって、ニルスは俺の鳥だ。ニルスを差し出すわけにはいかないよ。かと言って、ここで逃げたらあの村の人達に迷惑かかるかもしれないし」


 「んじゃいいよ、俺が行くよ!お前は逃げとけ」


 「そうは行かないよ!」


 俺が、いや俺が!と言っているうちに、またニルスが高く鳴いた。


 ピィイイイイイイィィイイイィィィッ! 


 下にいる人達や、建物から顔を出している人達がシーンと静まり返る。そして、ニルスは悠然と大きな声で話した。


 『神の鳥ニルス来た!イシルディン神、言った。人の王の巣にイシルディン神の欠片(かけら)、祝福の花を撒く。沢山花を撒く。人の王、喜ぶ!』


 全部聞こえたのかどうかわからないが、人々がざわざわした後に、全員が片膝をつき、そして頭を下げた。静まり返った王宮の中央の広い場所に、数人の男達が出て来た。

 金髪の豪華な衣装を身に着けた1人が、両手を広げて何かを言った。すると、見えない何かが近づいて来てニルスの前で声に変わった。魔法だ。 


 『神の鳥ニルス殿、ようこそおいでくださった。私はこの国の王ローレル・カラド・ナウア・ジル・イシルディンだ。イシルディン神の恵み、確かに受け取った。ニルス殿の来訪を心より歓迎致す!』


 おお!歓迎すると言っている!怒っていない、良かった。 

 俺達がちょっとホッとしていると、王の元にさっき兵士の攻撃を止めていた司令官らしき人が駆けて行き何かを報告している。報告を聞いた王様が驚いたような動きをして、すぐにまた何かを言ってニルスに送ってきた。 


 『神の鳥ニルス殿、わが城の者が御身に矢を射掛けたと報告を受けた。神の鳥に大変な失礼をした。心より謝罪を申し上げる。どうか寛大な御心を以てお許し願いたい』 


 いやいや、こちらこそすみませんだよ。俺はニルスに許してやれと言おうとしたが、その前にニルスが俺にテレパシーを送ってきた。


 『欠片(かけら)よ、人の王が謝罪をしている。矢を射掛けるとは何か?悪いことか?人は我らに悪いことをしたか?』


 ニルス、攻撃には全然気付いてなかったらしい。


 『人は偉大なニルスを恐れ、驚いて攻撃した。しかし、我ら無事。問題ない』


 俺がそう言うと、少し考えてからニルスは王に向かって言った。


 『…人の王よ、ニルスに矢を射掛けた。ニルスは怒った。そして人の王の巣、壊した。だが許す』


 おい、ニルス、お前…。


 王様がまた何かを言って送って来た。


 『おお!神の鳥ニルス殿、その翼の如き広く大きな御心をお持ちか。ありがたい!』


 そしてニルスはふん!と鼻息を吐き自慢気に顔を上げた。


 俺が呆れた顔でニルスを見ていると、史朗が「何?何??」と聞いてきたので、俺は流れを伝えた。


 「王様がさ、兵士が弓矢で攻撃しちゃったのを謝ってきたんだよ。そしたらニルスったら、攻撃に気付いてなかったくせに、あたかもそれで怒ったみたいな言い方して、王宮の屋根を壊したのは攻撃で怒ったからだが、許す!とか言ってんだよ」


 「なんだよそれ。でも、ニルス考えたな。もう、それで通しておけよ」


 「なんか悪いなって思うんだけどさ」


 「しょうがないよ」 


 俺達がヒソヒソ話していた時だ、別の人がニルスに言葉を送って来たらしい。


 『神の鳥ニルス殿!お尋ねしたい!私はディアネル・エアイン・アダル・シャノトワ。貴殿が王都を訪れる前に、我がシャノトワ領を訪れたとの報告を受けている。我が領にも花の祝福を感謝する。

 その際に、その背にイシルディン神をお乗せになっていたと言っている者達がいる。今もお乗せになっておいでか?あるいはイシルディン神ではない方をお乗せか?』


 あ、あの人がご領主様か。


 「史朗、あの人、王様の右側にいる人が、さっきの街のご領主様みたいだよ。ここに来る前にあの街で花を撒いたって、もう連絡が入ってるっぽい」


 「へえ、魔法通話かな。早いな。…アランさ、じゃあ、夢で見た男の人ってあの人?」 


 「ちょっと遠くてよくわからないな。でもそうかもね」 


 ニルスがご領主様に返答をする。


 『人の街の主よ、イシルディン神、乗ってない。イシルディン神、もう鳥乗らない。イシルディン神は鳥がいなくても飛ぶ。神の鳥よりずっと速い』


 『では、その背に乗せておいでなのはどなたであるか?!どうか、どうか教えて頂きたい!!その方にお会いしたい!是非ともお会いしたいのだ!!どうか!!』


 ご領主様が必死に叫ぶ声が届いた。俺達に会いたいって事?

 俺は「ご領主様が俺達に会いたいって言ってる」と史朗に言った。史朗が急に真剣な顔になって俺の肩を掴み「…会え」と言った。ええ?何でだよ。


 『欠片(かけら)、我が背にいる。イシルディン神、欠片(かけら)が人の街と人の王の街を見ると言った。人の王の巣を近くで見ると言った。だが、人と会うと言わなかった。だから、欠片(かけら)は人と会わない!』 


 「だめだって。ニルスがイシルディン神が予言してないから、俺達のことは会わせないってさ」


 ニルスは、ピィイイイイイイィィィィィッ!!と鳴いて翼を広げて王宮の屋根から飛び立った。屋根が更に崩れて落ちる。王様とご領主様達が魔法で下にいる人達を守る。

 

 「アラン!ご領主様に花を渡せ!」史朗が叫んだ。


 え?何で?


 「渡せ!絶対に渡せ!手渡しだ!!」史朗が叫ぶ。


 王様じゃないの?ご領主様に?でも、史朗が言うんだからそうした方が良いんだろう。

 何だかわからないままに俺はニルスにテレパシーを送った。


 『ニルス、人の街の主に花を渡す。近くを飛べ』


 でも同時に、地面にあんなに近い位置にこの巨大なニルスが、俺が花を手渡し出来るような形で近づけるわけがない!と思った。


 するとニルスが『ニルス出来る!』とテレパシーを返してきた。 

 

 どうやって?


 ニルスは高く飛んでからゆっくりと降下し、人々が驚いて慌てふためいている所に近づきながら、くるりと回転をして背面飛行をした。翼を畳んで透明丸に乗っている俺達が下に来るように飛んだんだ。

 すごい。地面ギリギリを背面飛行するなんて、とんでもない技術だ。

 

 俺達は透明丸の中で自然に上下が入れ替わり、逆さまにはならなかった。

 そして、俺は王様達の集団に近づく。ゆっくりと飛んでいるとは言っても、実際はそこそこのスピードのはずだ。だが、俺にはスローモーションで通り過ぎる人々の顔を見ているような気がした。


 透明丸の中から見たご領主様は、そうだ、夢で見た男の人だ。俺を見て目を見開いて手を伸ばしている。何かを言っているようだがわからない。

 俺は史朗に言われた通り、花をご領主様が伸ばしていた手に渡した。魔の森に咲いたピンクの花だ。その時に一瞬手が触れた。ご領主様は俺の手をつかもうとしたみたいだが、かすっただけだった。


 隣りにいた王様の顔も見た。あの金髪のすみれ色の瞳の女の人に似てる。ものすごい色男だ。うわー。


 ニルスが回転して元の様に戻り、そして翼を広げて羽ばたき、再び俺達は上空に舞い上がった。下では王様達が上を見て騒いでいる。多分、風圧で皆転ばされたんだろう。ごめんなさい。あんなに近くを飛んで。


 そのまま王宮を後にして飛んでいると、小さい竜に乗った兵士が飛んで後を追って来た。その随分後ろからご領主様も竜に乗って飛んできた様だった。

 何だろう?何か用事があるのかな、止まったほうが良いのかな?と思ったその時、ニルスが旋回をして追って来た竜達に向き直り、大きく翼を羽ばたかせた。ああ、みんな飛ばされてる。バランスを崩して落ちていく者もいる。


 『ニルスは言った!イシルディン神が言わない事、ニルスはしない。欠片(かけら)を会わせない!』


 怒ったように言って、高くぴいぃぃいぃいいいいいいいぃぃ!!と鳴き、ニルスは小さな竜達が追ってこられないところまで高度を上げて、猛スピードで王都を後にした。

  

 

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