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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
57/117

また来るよ


 モフヌシパパが文官達から古い歴史について質問をされて得意げに答えている。モフボーイが家畜となる動物たちに『ちゃんと言うことを聞いてしっかり励め』と話している。その様子を史朗が撮っている。


 俺は最初から気になっていた村の中の道の水はけを改善してから、「村はもう大丈夫そうだから、我らはそろそろ街に行ってみようと思う」と村長に伝えた。

 

 そばで聞いていたスザナ達が『是非我らの馬車で!』と身を乗り出したので、『我らは透明丸で飛ぶ。馬車いらぬ。大丈夫』と断った。

 

 『しかし、ご領主様の城がございます街までは、馬車でも7日程かかります!我らとご一緒なさいませ。そうすればご領主様よりお借りしている魔道具により、転移ポイントの利用が可能ですので1日程で到着致します!』スザナが必死に同行を勧める。

 

 俺は史朗と相談した。俺達の意見は一致していた。


 「一緒に行くとさ、魔法で転移するから7日の道のりが1日で着くんだって。転移ってのもしてみたいけどさ、でもすごく早く行きたいならニルス呼べば、多分30分〜40分で着くよね」


 「だよな。あんまりメリットないな」


 「それにさ、一緒に行っちゃったらご領主様のお城に連れてかれそうだし、そうなったら自由行動しにくくなるじゃん」


 「それな!大事だよな」


 王様からの国内での安全と自由を保証するという通達と共に、こちらの通貨で報奨金?援助金?まあ、森を再生した報奨の方か、とにかく俺達にはお(かみ)からお小遣いが出ていたんだ。


 街に行った時に困らないようにという事、つまり街にも遊びにおいでと言う事だと思う。きっと当面の宿代と食費くらいにはなるんだろう。

 自由にして良いという王様のお墨付きだし、もしもお金が足りなくなったら何か仕事を見つけて働いてもいいって事だ。


 『我らはゆっくり行く。必要ならば神の鳥、飛ぶ。神の鳥30分、ご領主様の魔法1日。大丈夫、神の鳥は速い』  


 スザナは何も言えず項垂れた。


 大体さ、君等は村や森を視察して、運んできた動物達の飼育指導をしたりするから、少なくてもあと2日くらいこの村にいるでしょ?俺達はもう出発するモードになってるから、待っていられない。俺達がこの世界を旅出来るのはあと3ヶ月ちょいだからね。時間は有限なんだ。


 3ヶ月後にはまたこの村に戻って来て、それから森で野営しながらあの崖の下に戻る。そして俺達は地球に帰るんだ。今度は身体ごと。

 それまでにあちこち行ってみたい。王都に行ってみるのも良いな。爺ちゃん達にお土産を買って行くのも良い。異世界のお土産品なんてワクワクするじゃないか。


 俺達が借りていた部屋を片付けて荷物をまとめていると、おばばが来た。


 『もう、お発ちになると聞きました。お名残惜しいのう。貴方様は、わずか数日で我らの生活を大きく変えてくださった。苦悩の日々から、皆が未来に希望を持って生きて行ける日々に変えてくださった。どれほど感謝をしてもし足りませぬ』と頭を下げる。

 やめておばば。俺こそとても助けられた。

 

 『おばば、頭を上げる。我々、この村に感謝する。良い村。来て嬉しい。ありがとう。おばば、笑う』


 『我らもお会い出来た事がとても嬉しゅうございますよ』と笑うおばば。


 そして、『転移を使わぬのでございますれば、街に行かれる途中で、美しい森がのそばを通ることになりますでしょう。そこにお寄りになるとよろしいですぞ。あまり大きな森ではございませんが、麗しの森と申しましての、清らかな水が湧き出ている泉がございますして、妖精たちも沢山おりまする』と教えてくれる。


 俺は不思議に思った。そんな場所があるなら、そこに移転出来れば問題はなかったのではないか。


 『…そのような森がある、そこに村を作るはだめだったか』と尋ねてみる。


 『麗しの森は昔からの聖域でございますでの、その近くには住む事は出来ませぬのじゃ。麗しの森の泉から湧き出る水は癒しの水と言われておりまして、定期的に汲んだ水を王都に運び、そこから各領地の神殿に運ばれ、病気などで苦しむ者に分けるのでございますよ。王家と同じく神の末裔であらせられるご領主、シャノトワ公爵家が管理しておいででの』


 なるほど。

 史朗にこの話をすると「命の水と聖なる水と、いよいよ癒しの水が出て来たか。なんかさ、出る所が違うだけで全部同じなんじゃないの?」と言う。俺もそう思う。


 聖なる石から湧き出る聖なる水は、大神(オオカミ)族が守り手として管理している。麗しの森の癒しの水はご領主様が管理している。

 この村の井戸からは命の水が汲めるようになっているが、もしもその話が広まったら、村はどうなるだろう。おばばに言ってみた。 


 『おばば、霊峰の聖なる水、麗しの森の癒しの水、同じないか。霊峰の聖なる水、命の水、同じ。聖なる水は強い。命の水は優しい』

 

 『そうですな。同じかも知れませぬ。何れもこの大地グラウギリスのお恵みですしの』 

 

 『この村、井戸、命の水出る。知ると沢山人が来るか。大丈夫か』


 『ほほ、大丈夫でございますよ。既にこの村は、白銀の君が再生して下さった奇跡の森の一部として、聖域に準ずる場所とされておるでしょう。神の鳥が舞い降り、聖なる石の守り手である大神(オオカミ)達も訪れる村でございますよ。井戸から聖なる命の水が湧くと知られた所で、何も心配する事はありませぬ。水を求めて沢山の人が押しかけて来る前に、ご領主様がしっかりと考えてお守りくださるでしょう。それにの、枯れることのない命の水を必要な者達にお分けする事も、我々の新たなるお役目かとも思いますよ』


 そうか、そうだね。


 『村が困らない、良い』 


 『麗しの森もご領主様の管理下にございまして、許可なき者、悪い心を持つ者は入ることが出来ません。ですが、白銀の君は問題なく自由に出入りが出来るはず。気持ちよくお過ごしになれると思いますよ。300年前に姿を消した光の民も、実はその森で暮らしているのではないかと言われております。白銀の君の前には現れるかもしれませぬぞ』


 え、本物のエルフってこと?それはちょっと興味があるな。写真を撮ったら奈々恵が喜びそうだ。


 史朗に言うと、「うーん、まあ喜ぶだろうけど、そんなにではないんじゃないかな」とノリが悪い。


「まあ、見てはみたいけどな。でも、何となく想像はつくし。それより俺は街で長角(かぶと)人と二角(くわがた)人に会うのが楽しみだ。いるといいな。腕相撲してみたいし、ちょっと喧嘩してるとこ見てみたい。カブトとクワガタだぜ!」と、憧れのプロレスラーに会う事を夢見るファンのような瞳で笑う。

 そっか、色んな人種がいるんだもんな。街、楽しみだな。


 さて、そろそろ行こう。話しているといつまでも出発出来ない。

 俺はおばばに、奈々恵が俺を包んでくれたストールをあげた。


 『これはこれは、大変に手触りの良い布じゃ。軽くて暖かそうですな。ありがたく頂きまするよ』


 『それでは、おばば、我らは行く。3つ月が過ぎたらまた来る』そう言ってザックを背負い立ち上がる。


 『ほほほ、3ヶ月したらまたお会いできますのじゃな。楽しみでございます。その時にはお目覚めになっておられるかも知れませぬのう』


 ニッコリ笑うおばばが、また目覚めるという言い回しをした。これはやっぱり意味が読めないな。言葉の実を食べたらわかるだろうか。


 おばばと一緒に外に出ると、村の人達がお見送りに集まってくれていた。また来るんだけど、やっぱりお別れは寂しいな。

 崖の下からずっと俺達の後をふわふわ付いて来ていた風呂桶は、村役場に寄贈することになった。セリーヌがこの深型で手足がのばせる風呂でゆっくり入浴するのが気に入ってしまい、俺達がもう要らないと言った時に『欲しい!』と手を上げたのだ。まあ、みんなで使ってくれるなら嬉しい。


 使者と一緒に、街から乳製品の加工のプロが指導に来てるから、3ヶ月後に戻ってくる時が楽しみだ。『天界の菓子を再現したい!』と燃えている人達がいたので、村の名物菓子が出来ているかもしれない。

 大ザリガニも繁殖してるといいな。出発前に繁殖祈願をしてから行こう。


 人のいる集落に着いたら換金しようと持ち歩いていた凶暴パンク熊やタンク猪の毛皮や牙は、報奨金をもらってしまったので売らなくてもよくなった。

 なので、こんなもので良ければだが、ご領主様や国王陛下に、自由と安全を保証してもらったお礼として贈ろう。魔の森のものだから多分珍しいものだと思うんだ。あの森では人を見かけなかったし。

 もし、魔物の毛皮などは迷惑だったら捨ててもらえばいい。これらはスザナに託す事にした。


 スザナ達とモフヌシ達が、凶暴熊やタンク猪の毛皮を見て『これを倒したのか』と言うので、『簡単。一度で倒す。1分しない。史朗も1人で一度で倒す、出来る』と答えると、『一撃で?』『シロウ殿もか!』とザワザワしている。

 そうか、村人達は丸太をひょいひょい運んだり、ジャンプする史朗を見てるから何となく知っているだろうけど、スザナ達やモフヌシ達は史朗が強いことを知らないんだな。


 史朗に「石割り見せてやれば?」と言うと、「え?今そういう話の流れなの?んじゃやるか」と言って、村の外にある大きな岩を指差し「あれ邪魔だって言ってただろ?」と言って拳を握って構えた。

 石を投げるのかと思ったら遠当てをするつもりらしい。30メートルくらい離れた場所の岩に向かって、素手で構えている史朗を、皆が『何してるんだ?』と言う様に見ている。


 呼吸を整え集中する。史朗の纏うエネルギーが変わり始める。身体の中心に集まった力が増幅して広がり、今度は身体中から溢れ出す。その力を右手に凝縮するように集め、ハッ!という声と共に拳を前に突き出す。

 次の瞬間、破裂するような音と共に大きな岩が跡形もなく砕けて消えた。


 史朗は、「いいね、良い感じだね」と満足そうだ。


 村人達は驚いて口を開けたままだ。大神(オオカミ)達も目を丸くして動かなかったが、すぐに復活して大興奮で遠吠えを始めた。モフボーイと仲間たちは岩があった所に走って行って、跳ね回りながらワァオウ!ワァオウ!とはしゃいでいる。


 スザナやその護衛達が顔を青くしている。やっと気付いたか、史朗を乱暴に扱った無謀さ。反撃されてたら大変だっただろ。避けるだけだった史朗、優しいだろ。


 セリーヌを筆頭に史朗派の女の子や青年達が、史朗に駆け寄ってキャーキャー言っている。またモテてるな、史朗。


 モフヌシが『シロウ殿はこのような力をお持ちだったのか!』と感動しているようだ。モフヌシパパも『うむ。穏やかなドワーフだと思っておったが、やりおる。イシルディン神の欠片(かけら)の伴をしておるだけあるな』としきりと頷いている。

 戻って来たモフボーイ達が興奮して騒いでいるのを『落ち着け』とたしなめたモフヌシが、『ところで欠片(かけら)よ、こやつらは魔物ではないのか?』と毛皮を見ながら言う。

 『魔物。目が赤い。怒りだけ持っている。皆が敵』と答えると、『このようなものが、この森に入ってこないように守らねばならぬな』と唸る。


 史朗のパワーを見て、そして魔物の臭いを嗅いで、守り手として、強い獣として血が騒ぐようだ。

 崖の下を命の水川が流れているから、多分大丈夫だと思うけど、一応頼んでおこう。警戒するべきは魔物だけじゃないと思うしね。


 『この森も、モフヌシ達守る』

 

 黙って頷いて、何やらひそひそ話していた大神達だったが、話がまとまったらしい。モフヌシが『欠片(かけら)よ、モフボーイとその仲間がこの森に住み守る。安心してくれ』と言った。

 彼らが常駐してくれるなら願ったり叶ったりだ。そうだ、ビッグバードのことを伝えておこう。 


 『モフボーイ、この森の果て、崖の近く、黄色い大きな鳥いる。魔物ではない。だが強い。気をつける。強い鳥、守らなくて大丈夫。だが、気にかける良い』 


 『そんなに強いのか!?』


 『強い、そして怖い』


 …美味いことはまだ内緒にしておこう。


 『言うことを聞かない時、神の鳥を呼ぶ。黄色い大きな鳥、神の鳥の言うこと聞く』


 『なるほど、ニルス達と連携して森を守るのだな。わかった』 


 『では、我々はそろそろ行く』


 村の入口のところで、史朗は史朗派の皆に花や果物をもらっていた。セリーヌが泣いて史朗の腕にしがみついて離れない。史朗が困ってなだめていると、一大決心をしたように顔を上げたセリーヌが史朗にキスをした。皆が(はや)し立て、史朗もぎこちなくセリーヌの頬にキスを返した。

 史朗派の他の女の子も青年達も1人ずつ史朗を抱きしめたり頬にキスをしていた。 


 俺は大ザリガニの池に繁殖祈願をして、そして、お年寄りや子供と奥様たちにお花をもらった。お返しに子供たちを高い高いしてから、透明丸で包みふわふわと飛ばせた。

 子供だけのつもりだったが、お年寄りや大人たちも期待の目で列になったので、30人位ずつをまとめて一つの透明丸で包んで、村人全員を一気に浮かせ上から村や森の様子を見せた。

 おばばもふわふわ浮きながら『ほほほ、これは絶景ですな』と喜んで、『…ああ、あんなに向こうまで森が広がっておる。ありがたい。ほんにありがたい事です』 そう言って森に手を合わせていた。


 そして、俺は史郎といよいよ出立の透明丸に乗り込む。俺は皆に『また来る。皆、元気でいる』と言って手を振った。史朗も皆に『また来る!』と手を振った。 

 それを合図のように、空が暗くなり大粒の雨が降り出した。来た時の嵐を思い出した。


 「来た時も雨、行くときも雨か」史朗が言う。


 「さて、じゃあ行くか。俺達が行かないと、みんな雨に濡れちゃうもんな」そう言って俺は透明丸を動かす。


 「位置はわかってるんだよな」


 「うん、ニルスに乗った時に方角見てるから大丈夫」


 「飛ばしていこうぜ!」 



 こうして、俺達はまた新しい旅に出る。



 

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