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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
56/117

新たな伝承

 

 何で箱を渡されたのかわからず顔を見合わせている彼らに、おばばが『ほほほ、白銀の君が皆様をお許しになったのでしょう。ありがたく頂いてご使者の皆さんで食べなさると良い。白銀のお方から下賜(かし)される菓子(かし)ですからのう。ほほほ』と、上手いことを言う。良いシャレだ。

 俺とおばばは目を見合わせて微笑み合った。 

 

 それから、村長に何人か呼んでもらい、『大事に運ぶ、甘い菓子、みんな食べる』と伝え、宴会場にケーキを運んでもらった。

 俺達も部屋でカットして食べる。俺は5センチ角だけで十分なので、あとは史朗と村長とおばばで食べてもらった。

 史朗が1人で3分の1くらい食べるから驚いた。そんなに甘いもの好きだったっけ?気持ち悪くならない?大丈夫?


 おばばも村長も、一口くちに入れてしばらく動きが止まっていた。頬が紅潮し眉が下がり、目が潤んでほわ〜っと魂が抜けたようになっている。『これが天界の食べ物ですか』と村長が言うので、やばいと思い『天界、ない』と否定する。


 『左様でございますか』と頷いていた村長が、やおら立ち上がり、窓を開けて外の村人達に『天界の菓子であるぞ!ありがたく頂くのだぞ!』と言った。否定したのに全然聞いてない。

 村人達も『天界の菓子だぞ!』『うおー!』と盛り上がっている。天界じゃないのに。料理長は確かに神とも言える腕前だけど。 

 

 別室で食べたらしいご領主様の使者や護衛達も『公爵様の城でも戴いたことがない、まさに天上の菓子でございました。仰せの通りに同行の者達にも分け与えました』とひれ伏した。

 使者の誰だっけ、あの女の子、あの子がこの前とは違って、何だかクネクネして上目遣いに俺をチラチラ見る。そんなにケーキが気に入ったのか。まあ、女子は甘いもの好きだからな。

 

 『ところで、ご使者の方々は此度は何用でいらしたのですかな?』と、おばばが尋ねた。 


 慌ててビシッと背筋を伸ばし、女の子が文官から巻いた羊皮紙のような紙を受け取り、すっと開いて口上を述べ始めた。


 『この度、シャノトワ領ガレオ村の周辺に、長く失われていた森を再生させし白銀の君、そしてその伴であるドワーフ殿に、聖王国イシルディン国内での安全と行動の自由を保証する。ゆるりと旅を楽しまれよ。との国王陛下からのお言葉が御座いました事をお伝えにあがりました。今後、何かご希望等があればシャノトワ領の領主シャノトワ公爵家に連絡を頂きたく合わせてお伝え致しますっ』


 なんと、俺たちは国内のどこに旅をしても安全が保証されるようだ。とても好意的だ。ありがたい事だ。ただ、史朗はドワーフじゃないけど。そして、俺はどういう位置なのか謎だけど。人?エルフ?ま、何でもいいか。


 『ありがとう』と笑顔で頷く俺。ポッと赤くなるスザナ。そうだ、この人はスザナだった。思い出した。

 良い知らせをくれたので、ちょっとリップ・サービスしておこうかなと思った俺は、『スザナ、ドレス良い。きれい』とドレス姿を褒めた…つもりだった。

 だが、その途端にスザナがボン!と音を立てるように一瞬で全身赤くなってあわわわと言って震え出した。え?大丈夫?何か持病?

 

 おばばが、『これこれ、意味を取り違えなさるでない。この御方は我らの習わしなどご存知ない。人の言葉もまだ完全に覚えてはおいででない。そのままに、ただ美しいとお褒め下さったのだと思いなされ』と言った。 

 

 『何だったか』と聞くと、『ほほほ、主に貴族の間の事ですがの、成人の女性にドレスが素敵だと褒めますとの、それは「そのドレスを脱いだ姿もきっと美しいのでしょうから、私にだけ見せて頂きたい」という求婚と申しますか、まあ、(ねや)への誘いとなるのですよ』


 なんですと!


 それじゃ、俺は今、皆の前でスザナをベッドに誘ったことになるのか!それはスザナじゃなくてもあわわわと震える! 

 怖いな貴族言葉。気をつけよう。

 意味を知って赤面した俺は、スザナに『失礼した。違う。大丈夫、心配ない』と謝罪をした。スザナは『いいえ、私はその、あの、お望みでございましたら、あの…』と言ってモジモジしている。


 なんだ、まんざらでもなさそうだぞ。こっちの世界も地球同様に割と自由なんだろうか。もっと貞操観念がきっちりしてるのかと思ったけど、良いの?それなら、癒されたいと言えば癒されたいし…いや、駄目だ。気をつけろ俺。迂闊に行動する前にリサーチだ。 

 俺は小声でおばばに尋ねる。


 『人族は夫婦でなくとも一緒に寝るは良いのか』


 『ほほ、近頃の若い者達は自由に恋愛をしますがな、しかしやはり閨を共にしますと、それはほぼ結婚するものと見なされますのう。そうでもない場合もございますが、特に貴族社会では深く関わりながらも結婚に至りませんと、それはもう評判が落ちてしまい、男女ともに良い縁談はなくなりますな。

 特に女性は、なんと申しますか…最初に畑を耕すは夫であるべしと、そのような事が非常に重要視されますのでの。くれぐれも軽い気持ちで手をお出しにはならぬことですぞ。

 このご使者はその気があるようには見えまするが、御家の問題が絡んで参りますからな』


 おばばの目が鋭く光る。


 なるほど。うっかりその気になったら偉いことになるって事だな。

 責任取ってこっちで結婚して貴族に婿入りしろって言われても困る。俺は帰るんだ。爺ちゃん達が何か良さそうな令嬢を見繕っておくとか言ってたし。

 あ、そうだ。リストチェックしなきゃ。いや、セバス隊の方ね。令嬢の方は…、まあ、一応あとでじっくり見させていただくけど。

 

 『おばば、よくわかった。大丈夫。私は手を出さない』

 

 俺がそう言うと、おばばが『左様ですとも。こういうことはご両親とお話になってお決めにならねばならぬ。特に貴方様の場合はご身分がございますからの』と笑った。 

 

 ん?ご身分って言ったのかな?身の上だったか。まあ、とにかく安易に女性に手を出すと大変だぞって事だよね。やっぱり慰めはプロに依頼しよう。


 スザナ達は改めてこちらの視察ということで2〜3日村に滞在するらしい。今回は大人数で来ていたようで、村に家畜として飼える動物が連れて来られており、村の再興の為にご領主様から貸し出されるのだそう。それを元に利益を上げ、上手く行って余裕が出たら貸し出したものを返却するか、頑張って買い取るかという事だそうだ。

 貸出中にこの村で新たに生まれた家畜はこの村のものとして、貸し出しには換算しない。返却や買取の期限も特に無く、言ってみれば無料(ただ)でくれたようなもの。中々粋なご領主様だ。


 更に、神の鳥が牛を運んで来たという報告を受けて、牛乳からチーズやバター等の乳製品を加工する技術の指導者も派遣してくれたらしい。必要な器具も支給だ。

 いたれりつくせりですごい。気が利くご領主様。本気で村人がしっかり生活していけるように考えている方なんだろう。


 使者のスザナと文官、そして護衛は村の中に滞在し、他の者達は村の外で野営をするようだ。森もあるし、果物を採ったりしながら過ごせるだろう。但し、村の入口の池のザリガニは絶対に獲らないようにと伝えてもらった。村人にも言ってある。繁殖する前に獲ってしまったら意味がない。


 ウォールンさんの娘セリーヌが、「聖なる娘」として使者一行のお世話役を任されているそうだが、セリーヌは史朗にひどい対応をしたスザナ達を良く思っていなかったようで、結構な塩対応をしたらしい。

 そして「あんた達、謝ってないでしょ!だから白銀の君だってあんた達に笑いかけないじゃないのよ!」と突きつけたらしい。村の「聖なる娘」、強い。


 さっきスザナ達が史朗にちゃんと謝罪をしたと聞いて仲直りをしたそうだ。史朗派のセリーヌは、スザナが白銀(おれ)派と知り仲良しになったらしい。そんな事をセリーヌがわざわざ言いに来た。史朗へのアピールだな。

 そうか、スザナは俺派か。ドレス姿を褒めた時の様子でわかったけどさ。でも近づかないよ。ただ、やっぱり女の子は可愛くてちょっと心が癒やされたから、2人に良い香りとお花をふわりと飛ばしてあげた。それを見て史朗がニヤニヤ笑っていた。なんだよ、いいじゃないかよ。



 おばばが、『貴方様は知っておくべき事でございますからな』と、ここの領主様であるシャノトワ公爵家と王家は祖先を同じくする一族で、始祖はイシルディン神であると話してくれた。うん、門番さんと大神(オオカミ)族にも聞いた。


 『門番さんと大神族に聞いた。大丈夫、知っている。おばば、大神族はもっと古いことを良く知っている。そして、聖なる石再生の時、神様、私の身体使って話した。石の力弱った理由、神様も再生だった』


 1200年より前の事については大神族の方が詳しいようだ。そりゃそうだよね、人族はその後で関わることになったんだから。

 俺はおばばに大神族に聞いた話をした。そして神様が言っていた事も伝えた。もっと言葉がちゃんと話せれば良いんだが、中々細かい事が伝えられない。でも、おばばはちゃんと拾ってくれる。


 『なんと、そのような事が。この大地が丸くグラウギリスという名だと言うことは、神殿の者たちも知っておりましたが、我らにそのような御心を向けていてくださるのだとは知りませんでしたぞ。

 更に人の世を去ったイシルディン神が真に神としてこの世にお戻りになる際に、それ程の時がかかっておったとは。いやいや、神々からすれば、誠に一瞬の事なのでしょうが』

 

 人の世で知られている歴史は、初代国王が世界を平定してから200年国を治めて、それから子孫である現王家に王位を譲ってシャノトワと名乗り250年王家を支えた。

 そして精霊界に戻ったが、200年後「役目は終わった」と言葉を残して霧散し光に還った。消えてしまったのかと思われていたが、250年の後に生まれた優れた巫女によって、「神界にて神となられる」と知らされた所まで。

 その後は、優れた巫女が現れず、この300年は声も聞こえなくなり、人の世界では神様はほのかに気配を感じられるだけになってしまった。更に光の民も姿を隠してしまったから、その間に神界での神として力を蓄え再生していたのだとは、つまり不在だったとは誰にもわからなかった。


 昨日、神様が大神(オオカミ)族を創り、聖なる石が再生したなんて、俺達以外は誰も知らない事だ。このまま俺達がこの世界を去ったら、大神族が話さない限りは、この世界に伝わることは無いだろう。

 この惑星の心と愛情を、神様の想いを、皆が知らないままに過ぎていくのは、ちょっともったいないというか、駄目だと思った。この世界の人達こそ知っておくべきことだ。


 俺は史朗に話して、この村の皆に正確に伝えたいと言った。写真も撮ってあるし、見せながら話して聞かせようと。でも、俺はまだそんなに細かくこちらの言葉で話が出来るわけではない。だからモフヌシ達を呼んで話してもらおうと言うことになった。

 

 「明日、朝からモフヌシ達の住処に呼びに行こう」


 「そうだな」



 と、言っていたら、翌朝、夜明け前にモフヌシとモフヌシパパ、そしてモフボーイとその仲間達が村にやって来ていた。村の外で野営をしていた領主の使者達が、突然現れた大神(オオカミ)族を見てパニックになり、危うく戦いが始まりそうになって、門番が慌てて止めたそうだ。


 『欠片(かけら)が我らを呼んだのがわかった。我らは喜んで駆けつけた』と言ってくれた。


 来てくれて嬉しいよ、ありがとう。

 朝日が昇る頃、村人が中央の広場に集まり、スザナ達使者一行も含めて、大神族の長老モフヌシパパによる歴史の伝承を聞いた。

 文官が必死で話しを書き留めている。一応、スマホを浮かせて動画撮影してるんだけど、それはまあ、後で答え合わせ的に見せれば良いかな。


 歴史を伝えた後に、聖なる石の再生の夜に起こった事をモフヌシやモフボーイ達が話し、史朗が爺ちゃんがプリントして補給物資のザックに入れておいてくれた写真を見せながら歩いて、そして俺も少しだけ話した。


 『この世界に生きる我々全てが、如何に愛され気遣われているか、どうか忘れずに知っておいて欲しい。そして伝えてくれ。この村に起きた奇跡と共に、霊峰の頂で起こった事を。神が我らに直接話し祝福を与えてくれた事を』と、モフヌシが締めくくる。 

 

 村人達はモフヌシの変化の瞬間を見ていたし、何よりも森が蘇る光景を目の当たりにしていた。疑うはずもなく、すべてを受け入れた。そして『この村の皆で、グラウギリスの心を伝えていくという役目を果たそう』と誓った。


 使者たちも、以前は何もなかった所に森が生まれ、数十年姿を表さなかった聖なる石の守り手達が現れて、目の前で話しをされ、受け入れないわけにはいかなかったようだ。

 スザナ達は皆『この事は確かにご領主様にお伝えいたします』と言っていた。


 爺ちゃんは写真をプリントしただけでなく、村で皆で撮った写真などを額装してザックに入れておいてくれた(だから今回こんなにでかかったのか!と思った)。俺は、それらを村に納めた。

 村役場に飾られることになった、大きく引き伸ばされ額装された写真を見て、村人達が5つのうちどれに自分達が写っているかを探してワイワイ楽しそうにしている。


 大神族と俺達の写真も幾つか額装してくれていたので、それはモフヌシに渡した。

 夕日をバックに、雪の斜面を雪煙をあげながら、群れが駆け上がって来る写真はすごい迫力で、撮りながら史朗が最高だ!と連発していたのがよくわかった。


 まだ大神族になる前の狼達を率いて先頭を走るモフヌシ、そしてモフヌシパパ、モフボーイが、精悍で勇壮で、そしてすごく美しかった。

 3頭ともその写真を見て『おお、これは素晴らしい』『シロウ殿、感謝するぞ』『ドワーフはこうやって歴史を伝える役目を果たしているんだね』と感激していた。

 史朗は皆を撫で、そしてモフボーイに「『いい子』俺はドワーフじゃないぞ。わかったか?『お前、いい子』」と返していた。


 何枚か余分に入っていた額装されていない写真を、スザナ達が持ち帰りご領主様に見せたいという。良いよと言うと、村と森の様子、大神族と元の聖なる石、そして再生された聖なる石とあたり一面に咲く約束の青い花、それから俺の写真を数枚選んでいた。

 俺がニルスに乗っている写真、村人達と笑っている写真、モフヌシが变化した時にタイマーで全員で撮った写真等だ。

 「ご領主様にお見せしなければ…」と言いながら、大切にまとめて文官に渡す。


 受け取った文官に『濡らす、ダメ。絶対』と言うと、『はい。絶対に濡らしません!』と丁寧に何重にも油紙のようなものに包んでいた。

 それを見て、俺は気になっていたことを聞いてみることにした。 


 『皆はあまり魔法を使わないか』


 『は?魔法でございますか?私はイシルディン神の血筋ではございませんので、残念ながら魔法を使うことは出来ません』 文官が答える。 


 え?そうなの?チラッとおばばを見ると、おばばが説明をしてくれた。


 『魔法は誰でもが使えるわけではなく、この国の始祖となったイシルディン神の血筋の者のみが使えます。1000年以上の時を経ておりますので、血を引く者は増え、中には私のように巫女として神殿に仕える事になる平民もおりますが、やはり力を明確にお持ちの方の多くは貴族の方々でございますな。この国だけでなく、他国の王族や貴族の方々も婚姻によって血筋の者となり、魔法を使う方が多くおいでです』


 そうなのか。 


 『白銀の君ほどの御力をお持ちの方は、145年以上生きているこの婆もついぞ見たことはございません。直系であらせられる国王陛下が強い御力をお持ちではありますが、ほほほ、白銀の君はケタが違いまする。ほんにイシルディン神のようじゃ。イシルディン神がお身体を使われるのも不思議はござらん。さぞかし使い勝手が良いのでございましょう』 


 「いいえ。もう貸さない。後が大変』


 俺がそういうと、おばばは笑った。


 『お目覚めになれば何という事もなくなりますよ』


 何だ?俺は起きてるぞ。やっぱり、まだわからない言い回しが沢山あるんだな。



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