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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
55/117

村で酒盛り

地球語(英語/日本語)での会話(聞き取り)を「」で、グラウギリスの言葉での会話を『』で表記してます。



 翌朝起きると約束の青い花は消えていた。明るい陽の光の中で見てみたかったな。


 身体も回復して動けるようになっていた俺は、霊峰の頂でそのまま大神(オオカミ)達に別れを告げ、ニルスを呼んで村に帰ることにした。

 来る時に透明丸で運んだ者達も、立派に変化し自力で駆け住処に戻れるというので安心だ。 

 

 村に戻った俺達を迎えた皆に、聖なる石が無事に再生した事を伝えた。

 それから、拡張した村の土地の柵や塀を完成させる作業を始めた。考えたくない色々を頭から追い出すように、俺は黙々と作業に集中した。と言っても、魔法を使いまくったので、木の切り出しも冊を作るのも、塀を組み上げるのもそれ程時間はかからなかった。


 「あっけなく終わったな」 史朗が言い、「今日はさ、もう昼間から酒盛りしよう」と俺の肩を叩く。


 酒盛り。素敵な言葉だ。そうだ、酔いつぶれるのだ。 


 『村長、おばば、我々は今日は部屋で休む』

 そう告げて、史朗と2人で部屋に()もることにした。村人はまだ農作業中だし、それを見ながら俺達が呑んだくれるわけにはいかない。


 部屋に戻って室内を暖かくし、Tシャツになって補給物資の中にあった食糧を並べる。タタミイワシを炙り、チーズを焼き、缶詰を温めて準備完了。残っていたビールをカップに注いで酒盛り開始だ。

 史朗が、「あ、そうだ、ちょっと待ってろ」と言って出ていき、戻ってきた時には村の酒を抱えていた。そうだ、村の酒も飲むのだ。 

 

 ぐいぐい飲む史朗を見ながら、俺も飲む。村の酒は何ていうか、ちょっと濁っていて酸っぱい。アルコール度数は高いのかも知れないが、やっぱり俺にはちょっと厳しい。俺の担当はビール3缶…コーラ割り、だ。

 つまみの缶詰を味見してはあれこれ言い合っていた俺達の元に、おばばと村長がやって来た。昼間から部屋に引きこもった俺達を心配して様子を見に来たのだ。


 『よろしいですかの?お疲れでございますかな』 


 ビール半缶をやっつけて、ちょいと良い気分になっていた酒初心者の俺は、『2人、入る。酒飲む』と言って呼び込んだ。


 「おっと、アラン君、絡み系ですか?」と言って史朗が笑う。

 絡んでない。断じて絡んでない。ほら、村長も早く座って飲む!


 『おやまあ、なんと暖かいこと』


 ほくほくしているおばばに、チーズを焼いたものと厚切りハムを焼いたものと、タタミイワシを差し出すと、『これまた美味なる。この薄い網のようなのは何ですかの?パリパリと変わった食べ物ですのう』と楽しそうに味わっている。


 村長は遠慮していたのだが、史朗に酌をされると『そうですか?』と笑い飲み始めた。つまみも勧めていると、村長を探しに来たウォールンさんがそのまま加わる。


 俺は皆に聖なる石の再生のことを話し、史朗がカメラの画面を見せる。なるほどなるほどと聞いてるが、どこまで伝わっているかは怪しい。それにしても画像があるのは助かる。情景を見せられるからね。

 約束の青い花が咲いている画像を見て、おばばがカメラに向かって手を合わせて拝む。


 『もうちょっと何かつまみを持って来させましょう』と村長が言って、村人に言いに行く。少しして用意されたつまみを運んできた人達がそのまま加わり、俺達の部屋の人口密度が上がって行き、当然のように宴会になった。

 残りの缶詰や魚の加工食品、インスタント食品や菓子なども全部放出した。

 

 『おばば、女は強い。俺が好きだった女は他の男の元へ行った』


 そう言って、俺はおばばに酒を注ぐ。

 おばばは若い頃からかなりの酒豪らしい。『酔ったことなどありませぬなあ』と笑いながら飲んでいる。俺はビール1缶目で眠くなって来てるのに、すごいな。

 

 『白銀の君よ、いや、アラン様よ、縁があり共に生きるべき相手とは、何がどうあっても一緒になるようになっておる。どんなに感情が求め合うても、その女は貴方様の相手ではなかったのでしょうのう。

 皆それぞれに役割がある。その女は、貴方様を一時優しく包み抱きしめる役割だったのでしょう。

 その役目が終わった。そして、その女も今度は己が暖かく包まれるのですよ。


 貴方様はその女に安らぎを教わった。心の痛みものう。成長したのじゃ。

 今は辛く嘆いても、御身に受けた愛は捨ててはなりませぬぞ。大切にされる嬉しさを持って先に進むのですよ。もっと大切にされたかったと思うのであれば、この先、出会う者達を、自分がされたかったように大切になさいませ。

 おばばにはわかりまする。貴方様には運命の女がおるのです。貴方様の心を奪い満たす、素晴らしき女がのう』 


 運命の女。キャロじゃなかった運命の女。本当にいつか出会うのかな。会えると良いな。…運命の女か。男ではないんだな。そうか。 


 「あ、アラン、寝るな、こら」

 

 酔っぱらい史朗の声が聞こえた気がした。誰かが『これこれ、寝かせておやりなされ』と言った。誰かと言うか、これはおばばだな。俺はそんな事を思いながら眠りに落ちたようだ。 


 気がつくと、目の前にセバスが立っていた。至近距離で。びっくりした。

 セバスもびっくりしたようだ。あ、ここ、うちの玄関ホールだ。

 

 「アラン様!こんな薄着で!」と奈々恵の声がして、大慌てでストールを持って来て俺を包む。俺を暖かく包む女。そういう意味では奈々恵も運命の女なのかな。…いや、考えないでおこう。


 「旦那様のお車が只今お戻りになりましたよ。アラン様のお出迎えをきっと喜ばれるでしょう」とセバスがニコニコ笑いながら、しっかりと俺に補給物資を背負わせる。…背負わせる。そう、量が増えていて大きめのザックにいっぱいになっている。 


 「おお、アラン、来ていたのか!」


 爺ちゃんが玄関に入って来た。両手を広げて近づいて来て俺を抱きしめる。「今来たのか、まだ居られるんだな?」そう言ってから「…酒臭いぞ」と俺の顔をじっと見る。 


 爺ちゃんと廊下を歩きながら、「狼達が大神になったんだ。聖なる石が弾けて光になって、そして再生したんだよ。そしたら青い花が咲いて、そのあたり一面が青く染まったみたいだったんだ」と昨夜の事を話した。


 「写真を見たぞ。シロが随分と撮ったようだな。どれも素晴らしい光景だった。良くやった。それで?お前は狼達と仲良しになったのか?」 


 「大神(オオカミ)族だよ。より大きな力を得た神聖な一族なんだ。しゃべるし、モフモフで暖かいんだ。メス達がみんな俺のお嫁さんになりたがってたよ、無理だけどさ」 


 居間で座るとコーヒーが用意され、また生クリームたっぷりのケーキが出て来た。そうだ、史朗が生クリーム食べたいって言ってたな。俺は奈々恵に「これ、史朗にも持って行きたいから箱に入れてくれる?」と言った。

 程なく30センチx30センチくらいの四角いケーキが箱に入って俺に渡される。残り全部持っていけという事らしい。


 セバスの部下がマサルとマサコを連れてきた。ああ、我が家のモフモフだ!よしよしと俺が一通り撫でると、そのまま俺の足元に寝転んだ。

 が、セバスがちょっと動いただけで、さっとセバスの方に行きその両脇にビシッと座った。ああ、やっぱりお前達のボスは俺じゃないんだね。


 申し訳無さそうにしているセバスに「大丈夫、俺には巨大な聖なるオオカミがいるから。俺を乗せて飛べる山みたいな鳥もいるし」と言っておいた。


 俺は、皆にニルス一家が狼の牧場から牛を持って来た事、狼達の儀式のこと、俺の身体を使って狼達を大神族にした神様の事を早口で説明した。いつ目が覚めてしまうかわからないから。

 画像が届いてたので、皆話しを飲み込みやすかったようだ。


 そして、俺は爺ちゃんに「俺、フラれちゃったんだ…」と話した。詳細は省いたけど、霊峰の頂で眠った時にキャロのアパートに行ったらしいこと。そしてさよならを言われたこと。 


 「それで酒か。…まあ、人生にはそういう事もある」と爺ちゃんが言う。 


 「アラン様は、もっと年の近い方とお付き合いをなさってみても良いのでは?年上も良いですが、アラン様は愛情深い方ですから、年下の女性に甘えられて面倒を見るのもお好きだと思いますよ。

 実はオススメのお嬢様のリストを作ってありますので、この機会にそれをご覧下さい。ザックに入れておきましょう」


 口は出さないが俺の行動のすべてを把握しているセバスが、今だ!とばかりに、部下にオススメのお嬢様リストを持って来させてザックに詰める。


 「年上でも年下でも、アラン様を大切にしてくれる方がよろしいですわ。アラン様は一生懸命に尽くそうとなさいますから、お互いに大切に尊重し合えるお相手が好ましいと思いますよ。優しく毅然とした方が良いですね。美しい方なら更に良いですが、いずれロートリングの女主人となるのでしたら中身がしっかりした方でないと」と、奈々恵が言う。 


 なんか、恋愛というよりも嫁取りの話になって来てないか?もしかして夫婦でそんな話しをしてるのか?

 

 「ははは」と爺ちゃんが笑った。


 「お前達、気が早いぞ。アランの結婚相手の話しをしているのではないのだから、そう急くな」 


 「「失礼致しました」」つい…とセバスと奈々恵が畏まる。

 

 「アラン、人生の中で、愛しく思い共に生きたいと思う女性には何度か出会うものだ。最初に出会った1人を生涯愛し続ける事もあるし、もしも別れがあっても、後にまた誰かに出会う事もある。大事なのは、出会ったら嘘偽り無く誠実に向かい合うということだ。

 お前もまた別の誰かに出会うだろう。心に響く人がいたら、大切にしなさい。たとえ相手がお前を選ばなくてもだぞ。まあ、お前を選ばない女性がいるとは思えないがな」


 「でも、キャロは他の人を選んだ…」 


 「その女性はお前を思って泣いていたんだろう?連絡が途絶えてから、会えなくて苦しくて、ずっと泣いて過ごしたのかもしれない。お前を捨てたわけじゃなく、彼女の方がお前に捨てられたと思ったのかも知れない。辛すぎて、お前を諦め、意識を切り替えるしかなかったのかもしれないぞ」


 そうなのかな。 


 「お前には彼女以外との関わりで出来ている世界があるだろう。それと同様に、その女性にも彼女だけの人生がある。そちらの世界、グラウギリスだったか、そこにお前が行ってしまった様に、何かの力が働いているとすれば、お前と彼女が一緒になるべきではなかった理由があるのかもしれないぞ。なんとしても彼女はその男を選ぶ必要があったのかもしれない。お前が良いとか悪いとか、そういう事ではなくな」


 俺とは関係ない、キャロという1人の人間の人生。

 その為に、あのヒゲモジャが必要…。


 納得できるわけじゃないし、相変わらず俺は辛いままだけど。多分、キャロも辛かったけど。でも、俺達が想像できない、どうにも出来ない何かはあるのかもしれないと思った。いや、そう思うしかなかった。


 「お前にも、選ぶべき相手がいるのかもしれないな。まだ出会っていな誰かがな。セバスと奈々恵が世界中から選りすぐりの令嬢達を見繕っているようだし、まあ、楽しみに帰って来ると良い」と、爺ちゃんが俺の頭を撫でる。

 「令嬢でなくても、お前が大切に思う相手ならば私は構わんがな」と。

 

 「リストと言えば!アラン様、大変なことをしてしまいましたね」とセバスが言う。


 「シモンとヤーニスをミニセバス隊に入れたりするから、あの映像を見て志願者が沢山湧いて出てますよ。そいつらの志願書もザックに入ってますから、責任を持ってチェックするように」と渋い顔をしつつ、「全く、私の目を盗んで補給物資に手紙を仕込むとは、シモンとヤーニスも中々やる…」とつぶやいている。


 「アラン様、奈々恵隊もいた方が良いのでは?」と奈々恵が咎めるように言うので、「考えておきます」と答えた所で目が覚めた。 

 

 起きると、史朗が「おかえりー」と軽い。酔っぱらいだ。

 村長とおばばが驚いたように俺を見ていて、『お身体が光っておいででしたぞ』と言う。他の皆は人数が増え過ぎた為に、俺が光り始める前に外に移動して広場で宴会を始めているそうだ。 

 

 ふと見ると、ドアのそばにきれいなドレスを着た可愛い女の子がいる。誰?見たことあるような気がするけど。

 その隣にいる青いコートの男を見てわかった。ご領主様の使者の人達だ。じゃあ、この女の子はあの感じ悪い使者か。名前なんだっけ?なんか、ドレス姿で雰囲気が違うんだけど。 

 彼らも俺が光っているのを見てたらしく、とても畏まっている。


 酔っぱらい史朗が、俺が持ち帰った物資を見て「来たー!補給物資、来たー!」とバンザイをしている。あ、そうだ、史朗にケーキ渡さなきゃ。 

 

 「史朗、これ。ケーキ貰ってきたよ」

 

 そう言って俺が箱を開けると、中から現れた美しく装飾されたケーキに、皆がため息をついた。良かった、崩れてない。料理長の力作というか、芸術作品。

 『これが食べ物…?』と、皆が見入っている。どうだ、すごいだろう? 


 「このカットされてる所はあっちでアランが食ったのか?美味かった?」と史朗が言うので、もちろんだと答えた。

 俺に合わせて甘さ絶妙に抑えつつ、料理長の天才的な味覚と技術センスの結晶である特製ケーキだ。


 「食おう!森の再生と新しい聖なる石の誕生を祝ってケーキ食おう!」


 史朗が喜んでいる。


 俺はふと、祝いのケーキか、それなら村人にも食べさせたいと思った。とはいえ、15人分くらいのでかいケーキだけど、とてもじゃないけど村人全員には足りない。そう言うと酔っぱらい史朗がまたすごい事を言うんだ。


 「コピーしろ!複製だ複製。同じものを何個も作れよ。元があれば何度でも出来るんじゃないか?魔法だろ?」


 複製魔法!まじで?それが出来たら物凄く便利なんですけど。

 俺が考え込んでいると史朗が更に言う。

 

 「アラン、『完璧な複製が無制限に欲しいだけ出来る』だぞ。何回かやってると摩耗(まもう)するとか劣化するんじゃないかとか、そういう発想は無しだ!

 そういう発想で変質を心配するとそういうのが出来ちゃうんだからな。

 いいか、お前の気持ちひとつで『完璧な複製が無制限に出来る』だ!忘れるな」


 「…はい、コーチ」


 無制限に全てが完璧に複製出来る魔法。

 「そんなのありか?」と思わないで「それサイコーじゃん!」って思いながらやるんだ、俺。大丈夫だ、俺はまだちょっと酔っているから、やれる。やれるぞ。


 何個いるかな。1ホールを10カットするとして、とりあえずは20個あればいい? いや、40個にしておこう。きっと皆ケーキ好きだと思うし。余ったら明日も食べられるし。

 

 そして俺はケーキに言った。 


 「料理長の最高ケーキ、40個完璧に複製!箱入りで!5箱ずつ重なって8列!」 


 史朗が爆笑している。

 

 「なんだよ、その呪文!」と腹を抱えて転がりながら笑っている。「お前、細かい。マジで細かい」と泣いている。

 「普通に、『これあと40個!』でいいじゃんかよ。もう、もう、やばいよ」

 

 笑い過ぎだ。

 だって、この部屋のあちこちにケーキが40個出たらどうするんだよ。箱入りで重なって出てきた方がスペースが取られなくて、崩れる危険がないじゃないか。運ぶのだって楽じゃないかー! 


 5箱ずつ重なって8列。これだけだって結構なスペース取ってるじゃん。もういい。笑っている酔っぱらいは放っておいて、これを村人に配って来よう。その前に検品だ。ランダムに箱を開けて中をチェック。うん、大丈夫。形も味も本物と同じだ。


 『あのう…』 


 皆が食べるものだからと、真剣に検品をしている俺に、か細く声を掛けるける人がいた。ご領主様の使者だ。

 史朗に笑われ過ぎてムッとしていた俺が、そのままの顔で振り返ると、ひっと言って泣きそうになった。あ、ごめん。君に怒ってるわけじゃない。いや、こないだの態度についてはまだ怒ってるけど。 


 俯いてぷるぷる震えているので、『史朗に謝る』と言うと、『は、はい!』と史朗に向き直って、一緒にいた文官と、『先日は、大変な失礼を致しまして、誠に申し訳ございませんでした!』と謝罪をし頭を下げた。

 酔っぱらい史朗はケーキの笑いの続きで転がったままニコニコしながら「なんだ?あんたらも酒飲むのか?『いいよ。大丈夫』、だいじょぶー!」と言って手をプラプラ振っている。


 使者達はホッとした顔をしてからチラッと俺の方を見る。ちゃんと会話が噛み合ってたわけじゃないけど、謝罪をしたのは認めよう。

 俺は頷いてからケーキを一箱あげた。


 



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