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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
52/117

役立たずの狼


 …というわけで、全員の前で一連の変身が起こりました。

 もうこの変化シーンは4回目なので詳細は省きます。史朗はもちろんちゃんと撮影をしました。

 えーと、モフヌシパパは一回り大きくなり、若返り、つやつやの薄茶色の毛皮の大神(オオカミ)が誕生しました。全ての狼達がひれ伏していました。

 

 あと、親子で『父さん、俺は父さんの子だが、この場合はどっちが祖となるのか?』『お前が大神になってこその我の変化だ。お前が祖となるであろう』と話し合っていました。

 はい、そういうわけで、大神(オオカミ)族の祖はモフヌシで決定。

 


 さて、本題だ。

 俺は狼族が何故聖なる石の守り手になったかを聞いて、1つ思ったことがあった。さっき俺達が頂に到着した時に起こったことと関係がある。


 『モフヌシパパよ、今まで守り手はどのようにして来たのか』 


 『我らは霊峰の頂を清く保ち、聖なる石に癒しの歌を贈る。風を読み世界の出来事を嗅ぎ取り、必要があればその場所へ出向いて場を癒す為に歌う。

 300年の昔、イシルディン神が御姿を隠し気配だけとなった。その御姿を目にした者は今では誰もいない。同時に光の民達が姿を隠した。我らは何が起こったのかわからなかったが、変わらずお役目を果たそうと努めて来た。

 だが、その頃から聖なる石の力が弱まって来たらしいのだ。イシルディン神が我らを見捨ててどこかに行ってしまったのではないかと言う者もいたらしい。だが気配は変わらずお在りだった。

 4つの大陸の、他の3つの聖なる石も少々弱まったそうだが、ここの石ほどではないらしい。100年程前、我が生まれた頃より、聖なる石に捧げる歌は生後1年〜3年の若い心の清らかな者達が歌うようになったらしい。より安らぎを与える為にという事だったようだ。その前はどうしていたのかは教えてもらえなかった。


 そういえば、歌の中に「重なる丸い月と輝く青い花」という言葉があるが、そのような花は誰も見たことはないのだと聞いた。イシルディン神の瞳は青いのだそうだから、恐らくその瞳を歌ったのであろうとの事だ。

 とにかく我らは出来ることを心を込めて行うしかない。毎年、1年に一度、春の満月がふたつ重なる夜に儀式を行ってきた。だが、聖なる石の力が更に急速に弱まり始めて、半年に一度の儀式になり、ここ数年は満月の度に捧げている。それでやっと石の力を保っているのだ』


 なるほど。


 『欠片(かけら)よ、今夜も満月だ。月が空に輝く頃に儀式を行う。是非、立ち会ってくれ。聖なる石もお喜びになるであろう』


 俺は頷いて、長老に提案をした。『長老、今日は全員で霊峰の頂きに行く良い。若者達だけでない』 


 『全ての者でか。そうだな、欠片(かけら)がいらしているのだから、それがよかろう。我ら大神(オオカミ)族も改めて聖なる石にご挨拶をした方が良いであろうしな』 


 俺は史朗に話の経緯と、儀式に出ることを伝えた。そして夕方まで時間があるから、ある作戦をやってみようと持ちかけた。


 「狼達の様子どう思う?」


 「そうだな。さっき俺達が来た時もそうだけど、モフヌシパパが変化してから、更に様子がはっきり分かれてるな」


 「だろ?なあ、あのずっとビクビクしてる連中って皆若いじゃん。モフヌシが言ってた掟に逆らって悪戯に牛を襲ったっての、あの若い連中が、儀式が上手く出来なくて自暴自棄になってやったんじゃないのかって思うんだよね」


 「自暴自棄?」


 「うん。ほら、俺も若いからさ、なんかわかるんだよね。どうせ自分なんて何したってダメなんだってヤケになっちゃう気持ち」


 「なんだそりゃ」


 「あそこのビクビクグループのアテレコします。『先祖代々、聖なる石を癒し世界の均衡を守るという大切な使命を持ってやって来た我ら狼族。だが、先達達が聖なる石の力が弱くなったと嘆いている。我らの時代はそうではなかったのに何故だと。…俺達がダメなのか?俺達の代になって力が弱まるような何か過ちがあったというのか?それとも、俺達は聖なる石を守る狼としては不足だというのか?!』…って感じかなって」


 「ああ。それはあるかもな。何とかしたいのに原因もわからないし、自分にはどうにも出来ない歯がゆさ。自分のせいじゃないかと思い悩む…苦しいよな」


 「それで、『どうせ俺達は獣だ。狼だ。本能のままに生き物を襲い、喰らい、ただ生きる。聖なる役目なんかに縛られず、自分達の好きなように生きればこんなに苦まなくて良いんじゃないか?もっと生きる楽しみを得られるんじゃないのか?もういいさ!俺達はどうせ、神様が聖なる役目を与えた狼達にはなれないんだ。皆も思ってるんだろう?俺達は役立たずだってな!!』…ってさ」


 「さすが現役の拗ねっ子スネスネだな。てか、アラン、役者になるのもありなんじゃないの?」


 「いや、役者にはならないけど。そして、拗ねっ子スネスネはもう卒業してるけど!」


 「でも確かにさ、自分も誇りを抱いてしっかり生きたいって気持ちが強ければ強いほど、何をしてもダメなんだって思うと辛いんだよな」


 「そうなんだよ。あの子達って、多分ちゃんとしてるんだと思うんだ。俺達もやれるって信じたいんだと思う。でさ、モフヌシが大神(オオカミ)として戻った時もだけど、さっきモフヌシパパが目の前で変化してから、狼達がみんなソワソワしてるだろ。それとは反対に、ビクビクしてた奴らは酷くしょぼくれてるじゃん」

 

 「…そうだな。目を輝かせて興奮している連中とは違って、恐れとか不安だけじゃない、憧れと諦めが入り混じってるみたいな感じで痛々しい。お前ら大丈夫だよって抱きしめて撫でてやりたいよ」



 実際、掟を破った若い狼達は恐れていた。

 一族は皆、彼らが掟を破って牛を殺した事を責めはしたが、それ以外、聖なる石の力が回復しない事については、決して彼らに否があるとは思っていなかった。だが、当の本人達は負い目を感じ、全てを責められていると感じた。誰が責めなくても己が責め続けていたからだ。


 苦しくて、集まっては痛みを舐め合い、「老いぼれ達がボケて話しを大きくしてるだけだ。元々神様にお役目を頂いたなんて話もいい加減な作り話で、実際は石の力だって今と大して変わらないに違いない。なのに、俺達が役立たずみたいに辛気臭い顔をして…全くふざけやがって!」と長老たちをバカにし貶め、変なのは俺達じゃなくてあいつらだと粋がっていた。


 しかし、彼らは見てしまった。神の鳥に乗って、伝承に聞くイシルディン神を思わせる白銀の者が現れ、共にあの白金に輝く大きな身体に变化したモフヌシが戻って来た。そしてまた、皆の前で変化するモフヌシパパを見た。目の前に疑いようのない証を突きつけられてしまった。


 本当は俺達だって誇りある狼族だと胸を張りたい。なのに、俺達の何がダメなんだろうか。どうして聖なる石は俺達の歌で癒されてくれない。俺達だって頑張って来たんだ。色々考え、何とかしたいと試して来た。どうして俺達の思いは伝わらなんだ。俺達は狼として役目を果たせない、生きている価値もない無意味な存在なのか。

 


 「あの子達の声にならない悔しさや悲しさがさ、聞こえちゃうんだ」


 「俺もだ」



 史朗と俺は、聖なる石も癒すべきだとは思ったが、それよりもまず、あのコソコソ隠れるようにしている若い狼達の方が気になって仕方なかった。 


 「史朗、一緒にこの狼達全員をモフってみないか。俺を神様の欠片(かけら)だと信じてるんだったら、俺に可愛がられれば少しでも安心出来るんじゃないかって思うんだ」


 「うん。特別の存在が自分を気にかけている、それだけで自分に価値があると感じられる。たった一瞬目が合って微笑まれただけでも、それが生きる力になったりするもんな」


 「それから、あのビクビクしてコソコソしてる奴らはさ、俺達だけじゃなくてモフヌシが声を掛ける必要がある気がする。大神族の祖となったモフヌシが、自分達を見捨てておらず励ましてくれたら、あの村の人達みたいに神様に許されたような安堵を感じるんじゃないかなって」


 「そうだな。よし、夕方までにこいつら全員をモフるとなると、のんびりはしてられないな。早速やるか」 


 「手分けしても良いけど、まずは一緒に始めよう」


 俺達は、最初にビクビクしてる連中の近くにいた狼達から撫で始めた。1頭ずつ、いい子いい子と声を掛けながら撫で、瞬間高圧洗浄で汚れを吹き飛ばし温風を送った。

 予想外のなでなでに驚いて戸惑っていた狼は、すぐに気持ち良さそうに目を閉じて座り込んだ。次々と同じようにしながら、同時に俺達も癒やされていた。


 「なんか、最高だな」


 「俺達の方が癒やされているかもしれない」 


 「あ、ビクビクのグループが見てるぞ。次はあの悪ガキリーダーみたいなのをモフろう」


 「了解」 


 ビクビクグループの方を向くと、皆が耳をペタっとさせて縮こまっている。怖いんだろうな。泣きそうな目をしているのに唸り声を上げている。こんなに怯えていては無理に触れない。さてどうしようかと思っていると、後ろから声がした。モフヌシだ。 


 『お前達、何を唸っている!観念して裁きを受けよ!』 


 モフヌシが言ったのは牛の事なんだろうけど、ビクビクグループはそうは思わなかったらしい。まるで処刑でもされるかのように緊張をしている。

 役目を果たせない役立たずだと、価値のない狼達だと告げられ一族から追い出されると思ったようだ。

 沢山の狼達に周りを囲まれて見られている。がっくりと諦めたように項垂れた。可哀想に。自分達を責めて傷ついてしまっただけなのに。 

 

 絶望で固まっている様子に俺も史朗も泣けて来た。早く違うんだよと言ってやらねば。

 俺達は彼らに近付きそっと触れる。

 

 『お前達、頑張った。いい子。皆いい子』そう言って抱きしめた。1頭ずつ抱きしめて撫でた。史朗も『いい子、お前いい子』と言って撫でながら抱きしめた。

 

 まさか自分達も撫でられるとは思っていなかった狼達は、何が起こっているのかわからないというように呆然として、ただ俺達に可愛がられるままになっている。このグループ全員の汚れを吹き飛ばして、皆と同じに気持ちの良い温風を送って毛並みを整え、そしてなでなでを続けた。

 悪ガキリーダーがふっくらふわふわになった自分達に驚きながら、『…なんで?』と口にした。俺は頭を撫でて『いい子』と言った。 


 モフヌシが優しい声で彼らに言う。『俺が観念しろと言ったのは牛を襲った事だ。お前達が儀式を真摯に行っていたのは皆わかっている。聖なる石の力はお前達のせいではないのだ。イシルディン神の欠片(かけら)は、俺達よりもお前達がよくやっているのをわかっているのだぞ』


 その言葉に、周囲の狼達を見回して悪ガキリーダーが震えながらつぶやく。


 『俺達は、どんなに頑張っても成果を上げられない、価値がない狼なのではないのか…。皆、俺達に群れから出て行けと思っているのではないのか…。父も母も、情けない子だと、いらない子だと呆れているのではないのか…』 


 するとモフヌシが言う。


 『息子よ、俺がお前を情けないと思ったことは一度たりともないぞ。お前達が掟を破った事は間違いだ。償わねばならぬ事だ。だが、そうしてしまった悲しみは理解している。俺はお前が苦しさに負けぬ子だと信じている。父も母も共に苦しみ、支えたいと思っているのだ』


 『父さん…』


 そう言って涙を流し、仲間たちと共に群れの皆に『ヤケになって勝手な事をして申し訳有りませんでした!』『ごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい!』と叫ぶように謝罪をするモフヌシの子、そして仲間の若い狼達。

 『俺達、もう一度、聖なる石を癒せるように頑張ります。諦めないでやってみます。牛のことも大事にします』と決意を新たに顔を上げた。顔つきが変わっている。目に力が宿っている。 

 群れの皆が喜び歌う。この群れは絆が強い良い群れのようだ。皆が家族のように思いやり気遣っていたらしい。さすがは神に選ばれた気高き一族。


 それにしても、悪ガキリーダーはモフヌシの息子だったのか。まだ子供っぽくてモフボーイって感じだね…あ。

 俺がしまったという顔をしたのを見て史朗が囁く。


 「また、何かやっちゃった?」


 「う、うん、この悪ガキリーダー、モフヌシの息子なんだって」


 「…ああ、で?何になった?」


 「モフボーイ、かな」


 俺達がそんな会話をするのと同時に、モフヌシが叫んだ。


 『なんということだ!なんたる慈悲か!!息子よ、イシルディン神の欠片(かけら)が、お前に今、名を与えたぞ!俺は感じた!』


 『我も感じたぞ、孫よ!神はお前の心をしかとお認めになった!!』



 …というわけで、最初に戻ります。

 モフボーイ、光りながら変身します。一回り大きく立派になって、ちょっとおとなっぽくなりました。そんで、狼達がひれ伏しました。 

 

 

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