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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
51/117

惑星グラウギリス 


 俺達は今、霊峰の頂きで聖なる石を見上げている。


 フル装備で出発した、霊峰の頂にあるという聖なる石への旅。

 だが、ニルスに乗って移動するなら村からの通いでも良かったかもしれない。何故なら15分で着いたから。


 霊峰は恐らく標高5000m位だろうか。だが、ニルスはもっと高く飛べる。徐々に上昇すれば良い霊峰までの移動は、ニルス的には魔の森よりずっと近いらしい。


 聖なる石は、モフヌシが村で「この家よりも大きい」と言っていた通りとても大きい。5階建てのビルくらいはあるだろう。1つの大きな無色透明の石。これは水晶なんだろうか?


 この石から絶え間なく水が流れ出ている。雪以外何もないような山頂で、凍ることも無く流れ出している清らかな水。その水が小さな流れとなって山を降りて行き、やがて川となって行くのだろう。つまりここが命の水川の源流らしい。

 聖なる石から湧き出る聖なる水、それを俺達は命の水と呼んだのだ。


 「聖なる水に呼び方変えた方がいいかな?」


 「どっちでもいいんじゃないか?」


 山頂に着いた時には具合が悪そうで、急性の高山病じゃないかと心配した史朗だったが、この石から湧き出る水を飲んだ途端に回復した。俺が「日帰り出来たな」と言うと「ヒマラヤとまでは行かなくても、こんな高い山でキャンプする機会なんてそうないんだし、泊まりでいいんじゃね?」と笑っている。とても元気だ。

 ちなみに何故か俺は全然平気だった。

 

 巨大な聖なる石は、まるで白い神様がそこにいて絶え間なく聖なる水を湧き出させているような(たたず)まいでありながら、確かにちょっとお疲れのように感じる。だけど、そんなに枯れてしまうほどには感じられないな。これでも狼達に枯渇を危惧させてしまう程に、元の力がすごいということなんだろうか…と思っているとモフヌシが言った。


 『おお、欠片(かけら)よ、あなたがここに来ただけで聖なる石が力を回復させ始めている。やはり来てもらったのは正解だった。どうかこのまま力を注ぎ、聖なる石を救ってくれ』


 あ、いつもよりもちょっと元気になってるのか。

 でも、これに力を注いで元気にするってどうしたらいいんだろう?大地は命の水で癒やしたが、この聖なる石は命の水の源流だ。ここに命の水を与えても意味はないだろう。

 

 「腹減ったな」


 その史朗の一言で、俺達は朝食を食べていないことに気付いた。


 まずは何か腹に入れて、それから考えた方がいいだろうということで、霊峰の頂きの聖なる石の前でカップラーメンに湯を注ぐなう。せっかくだから俺がお湯を出すのではなく、コッヘルで命の水の源水を汲んで沸かしカップラーメンに注いだ。さてどんな味になるか。期待しながら3分待つ。


 霊峰の頂きは雪が積もっていて寒い。狼達はもっと下の方に住んでいるのだそうで、更にその下の草原になっている所に牧場を持っているそうだ。牛飼い狼、すごいな。


 『我らの牛も必要であれば食べると良い』とモフヌシが言うが、牛乳だけもらおうかな。あとで絞りに行こう。ニルスには既に帰ってもらっているので、透明丸に乗って保温をしながらモフヌシに乗って連れて行ってもらう事にする。


 さて3分経った。温かいものを腹に入れよう。いざ実食。



 …失敗。


 命の水の源水は浄化の力が猛烈に強いようだ。添加物なども消してくれたのだろうが、なんとカップラーメンの味が完全に消えている。無味無臭の温かいカップラーメン。いや、聖なる湯でふやかしただけの味なし麺。これはどうしたらいいんだ…。

 史朗を見ると、無言で咀嚼し飲み込んでいる。無駄にはしない精神。立派だが辛そうだ。


 「で、どうなん?聖なる石、解決しそう?」 涙目になりながら味なし麺を食い切った史朗が言う。ごふっとむせている。

 

 「石の回復そのものは正直まだ何も掴めないけど、原因の1つは既に解決しつつあるんじゃないかとは感じている」 俺も無味無臭麺を飲み込みながら答える。


 「へえ?」 空になったカップをこっちに差し出して、スープくれという仕草をする史朗。そうだ、俺も早く麺をやっつけてスープを飲もう。


 「狼達を見てよ。すごくビクビクしてる連中と、好奇心とか期待を丸出しの連中とに分かれるだろ?」


 「ああ、そうだな」 


 俺達の周囲にはたくさんの狼達がいた。霊峰の守り手である狼達は、神の鳥が頂に飛んで来たのを見て集まって来ていたのだ。


 「ニルスに乗って、大神(オオカミ)になったモフヌシが戻ってきた時、皆大興奮してたじゃん。でも、ビクビクしてる連中は居心地悪そうで、コソコソ隠れて回ってるだろ?多分あいつらが食べるためじゃなく悪戯に牛を襲った連中なんじゃないかって思うんだよね」


 俺達は、遠巻きにこちらを見ている狼達をちらちらと見ながら小声で話す。相手は狼達だが、今俺達は防寒も兼ねて透明丸に入っていて防音にしているので、こちらの声は聞こえていないはずだ。

 

 俺達がニルスに乗って霊峰の頂に着いた時、透明丸で降りてきた俺達を見て、狼達は大興奮だった。口々に『神の鳥が言っていたのは本当だったのか!』『神の欠片(かけら)が我らの元に訪れた!』『年寄り達の世迷い言では無かったんだ』と言っていた。


 そして、モフヌシが大神(オオカミ)に変化して戻ったことも、大きな衝撃だったようだ。自然にハウリングが始まって、しばらく狼達の遠吠えが止むことはなかった。

 モフヌシを尊敬の眼差しで見つめる者たちやうっとりと眺める者たち、そして怯えるようにコソコソする者たちに分かれた。 

 モフヌシが俺の名付けによって大神となったと言い、防寒の為に透明丸に入ったまま浮いていた俺達を狼達に紹介すると、コソコソしていた者たちは更に恐れるように縮こまった。モフヌシに姿を認められていなかったらとっくに逃げ出しているだろう。

 その様子がとても気になった。


 腹を満たした俺達は、石の様子は確認したので、モフヌシの案内で霊峰の中腹にある狼達の住処に向かうことにした。頂に来ていなかった他の狼達、そして長老に会って話しを聞く為だ。

 俺達を背に乗せて猛スピードで山を駆け下りるモフヌシ。その後から頂に集まった狼達が一緒に着いてくる。狼達、すごいよ。集団で雪の斜面を駆ける様子が、それはもうカッコいい。

 

 だが、しかしだ。


 感じて欲しい。ほぼ直角に近い雪の斜面を、猛スピードで下に向かって落ち続ける状態を。俺はスキーは得意だが、自分で滑るのと、自分ではコントロール出来ない狼の背中に乗って駆け下りられるのとでは感覚は全く違う。

 2000メートル落ち続ける下が見えないバンジージャンプをうっかり跳んじゃったみたいな、パラシュートなしで飛行機から頭を下にして飛び降りちゃったみたいな、車で走ってたら急に崖でそのまま飛んじゃったみたいな、とにかくやっちゃった感でいっぱいだ。

 すっげえ怖い。真っ白で何も見えない崖をひたすら下に向かって積極的に落ちていく感。史朗なんかもう無言で固まって蒼白だ。まさに屍のようだ。

 もちろん、透明丸の中にいるから心配はないんだが、理屈で大丈夫だとわかってはいても感覚が無理だと悲鳴を上げている。


 『モフヌシ、止まる!モフヌシ止まるーっ!!』と俺は叫んだ。


 左右に跳びながら徐々にスピードを落として、岩の上で止まったモフヌシが、『どうした?』と不思議そうに聞いてくる。


 俺は、『我々、透明丸でゆっくり降りる。モフヌシ先に行く良い』と伝えて、モフヌシの背中から離脱し、ふわふわと透明丸で浮き上がる。すると、『…神の鳥には乗るのに、我の背に乗らぬか』と不満そうにモフヌシが言う。 


 『我々はモフヌシにも乗る。だが、今は…えーと、そう、景色をゆっくりと見たい』 俺は苦し紛れに言った。 


 史朗がやっと口をきく。「助かった…」

 

 後に、この時の事について話した。俺達が食べた味なし麺は不味かったが、命の水の源水で作ってあったのが救いだったのかも知れないと。もし普通に作ったカップラーメンを食べていたら、多分透明丸の中で俺達はもどしていただろう。

 この霊峰にいる間は、今後またモフヌシに乗る機会もあるだろう。その時には、念の為に源水飲んでからにしようという事で意見は一致した。

 

 俺達の透明丸はふわふわと進み、本当に景色をゆっくりと見ながら狼達の住処に着いた。聖なる石がある頂きから2000メートル程下った辺り、気温は低いが植物が増えて生き物の気配が強い。もしかすると熊とか鹿のような生き物もいるんじゃないだろうか。

 住処に着くと、頂に来なかった狼達や狼族の長老は、まずモフヌシの姿を見て驚いた。


 『おまえ、その姿は何としたのだ』 


 長老が近付いて来てモフヌシに問う。それに答えてモフヌシが説明をする。


 『我はイシルディン神の欠片(かけら)によって大神(オオカミ)族へと変化した』と。


 その言葉に、長老がこちらに向き直り頭を下げた。パサパサした薄茶色の毛の老いた狼。村に来た時のモフヌシよりは小さいが、やはり馬程の大きさだ。顔を上げこちらを見る目が鋭い。歳を取ると真剣な時に目が鋭くなるんだろうか。おばばもそうだが、相手を誰何(すいか)する時に、一切の偽りを許さない強い目をする。

 そういや爺ちゃんもそうかも。だから怖いって言われるんだよな。でも実際は優しい。だからってわけじゃないが、きっとこの狼の長老も優しいような気がする。


 『あなたがイシルディン神の欠片(かけら)か。そちらはドワーフ族だな。神の鳥があなた方の事を話していた。牛を捧げよと言っていた。受け取って頂けたと聞いている。どうか、我らの願いを叶えて頂きたい』


 え?あの牛って捧げものだったの?てことは、俺は既にお供えを受け取った事になる。これは絶対に何とかしないとまずいんじゃないのか。もう、ニルス何してんだよ。 


 『欠片(かけら)が来ただけで、聖なる石の力が回復した。すぐに完全に回復してくれるであろう』とモフヌシ。


 どうしよう。というか、俺が来ただけで回復し始めているというのは、どういうことか考えよう。

 まさか、俺から凄いパワーが出ていて調整されたとか、そういう事ではないと思う。そもそも、あの聖なる石の守り手が何故狼達なのか、そこから聞いていこう。 


 『長老、何故、狼達は守り手なのか』


 『何故我らが聖なる石の守り手となったか、か。ふむ』


 どこまでが事実なのかはわからぬが、と前置きを置いて長老が語りだす。


 『わしも祖父達から、そして祖父達も更にその祖父達から代々聞いてきた話だ。

 昔、この世界には大きく分けて闇を好む者達、光を好む者達がいた。互いに相容れず、時折小さな(いさか)いはあったが、それでも自分たちの地域でそれぞれに平和に暮らしていた。

 だがある時、人族という種族の中で力を持った者達が、自分達と相容れぬ者達を滅ぼせば、永久に平安が得られると言い出し戦いを始めた。


 その戦いは長く続き、やがて世界全土を巻き込んでの大きな戦いへと発展してしまった。これが1800年程前の事だそうだ。…まあ、我が祖父の時代には既に1800年前だったようだから、2000年くらい前と言った方が良いのかもしれぬがな。

 そうだな、そのくらいにはなるだろう。これは改めておこう。まあ、いずれにしても大変な昔のことだ。

 相反する者達だけではなく、光を好む者達同士、闇を好む者達同士も戦い始めた。たとえ同じ種族であろうとも、ただひたすらに己と意を異にする者達すべてを敵とし、皆が怒りに燃え、他を滅ぼそうと戦った時代だったそうだ』



 …どの世界でもあるんだな。

 力を持った者の声は大きく、意見は通りやすい。たとえそれが間違っていたとしてもだ。


 長老は続けた。曰く。

 そんな時代でも、「異なる同士であっても、己を尊重するように他者も大切にし、支え合って共に生きる道はあるはずだ」と唱える者達はいた。だが彼らは弾圧され、真っ先に消されていったのだという。

 この迫害された者の間には種族を越えて助け合う者達も多かったそうだ。それまで分かれて住処を構えていた者達が力を合わせ、互いに勇気付け合うようになり、助け合って生きるコミュニティーが生まれ、その時に多様な混血が起こり様々な新しい種族も生まれたのだそうだ。

 


 更に長老が語る。

 『この世界、それが本当かどうかはわしは知らぬが、この世界は1つの大きな丸い大地であり、生きているのだそうだ。夜になると空に星が輝くであろう。あの星々も同じ様に丸い大きな大地なのだそうだぞ。信じられるかの。ふふ、わしは信じておるがな。

 争いは激しくなる一方で、あまりにも混沌とした暗黒の世界となった。そして、丸い大きなこの大地「グラウギリス」を滅ぼし兼ねない状況になった。この丸い大きな世界グラウギリスは、蔓延した病に侵され、このままでは死を待つばかりというような状態であったそうだ』



 ふうん。昔から既に、自分達のいる大地が星だという概念があったということか。 

 そうか、ここは惑星グラウギリス。もしかすると星図を書いて見せたら宇宙の中での位置もわかったりして。後で聞いてみよう。



 『この世界を生み出した神は、この世界の者達すべてを等しく消し去ろうと思った。神はこの大地にとってただの病となった者達を消し去り、グラウギリスの苦しみを取り除こうとしたのだ。


 だが、グラウギリスは思った。それもまた自らにとっては大きな痛みであると。我が身の上に芽生えた小さきもの達。愛おしく思い、生きるに必要なものを与え愛し育んできた沢山の命達。

 中には外から飛来して根付いた者達もいるが、それら全てを受け入れ生きる場を与えて来た。己の子供達とも言える者達を消し去って、自分だけが残るというのか。

 神の言うように病を消し去り楽になるか、己が崩壊する最後の時まで諦めずに、小さき者達が救われる道を残すべきだろうかと悩んだ。

 丸い大地グラウギリスは狂うことも出来ず、傷つき悲しみ、それでも神に願ったそうだ。

 「せっかく生まれ育った命を、どうか最後まで消さずに、生き延びる道を残してやって欲しい」と。己は可能な限り耐えよう、と。

 その時にグラウギリスの苦しみを感じ、心に寄り添い、歌うことで癒したのが我ら狼族だった。憎しみや怒りばかりの中で、狼族の気高き声は遠く遠く繋がり世界中に広がった。世界中で狼族が歌い、この世界グラウギリスに愛を示し安らぎを与えたのだ。


 神はグラウギリスの願いを尊く大切に思い、如何にするべきか考えた。そして神は、グラウギリスの精であり自然界を司っていた強き精霊に更に力を与え、その時に最も争いで力を(ふる)っていた種族の姿を取らせ送り、直接争いを平定させてみる事にした。その時の精霊が後にイシルディン神という神になる。

 イシルディン神は、その存在をそのままに現す美しく強い人族の姿となり、争う者達の中に身を投じた。そして、力だけではなく魂の輝きを以って多くの種族を導き、世に平安をもたらした。それが1200年前の事だったと言われておる。

 イシルディン神は4つの大陸全てに聖なる石を作り、その石から湧き出る聖なる水の流れによって世界を癒し続けるように、そして全ての種族が争うこと無く、安心して暮らせる領域を守る事が出来、世の安寧が続くようにした。

 

 その聖なる石を守り続ける力と清廉な魂を持つ種族として、イシルディン神は我ら狼族をお選びになったのだ。我らが守り手である事を、この世界グラウギリスが喜び心強く思うからな』 


 長老が語り終える。一緒に聞いていた狼達も誇らし気に胸を張る。俺は思ったままに言った。


 『狼族、気高き一族』


 『欠片(かけら)よ。やはりおわかりになるか』


 長老は更に誇らし気だ。そして『この度、1200年ぶりに我が(せがれ)が新たにお役目を頂き、狼族から大神(オオカミ)族の祖となった。実に喜ばしい事だ』 そう言ってモフヌシを見た。


 へえ、長老はモフヌシのパパなのか。

 俺は史朗に今聞いた話しを説明をしてから言った、「…で、なんと、長老はモフヌシパパなんだよ」と。すると史朗が顔を強張らせて「おい、不用意に名前っぽい事を口にするな」と言った…が、遅かった。

 モフヌシが声高に言った。


 『父さん!欠片(かけら)が父さんに名を付けたぞ。俺は今確かに感じた』


 『なんと!』 



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