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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
46/117

蘇る大地  〜竜鷲の飛来〜


 補給物資の中には、爺ちゃんからの誕生日プレゼントでゴジラのTシャツとキーホルダーが入っていた。やった!ゴジラのボールペンもある。


 大きな包みがあったので開けてみると、奈々恵がエルフの衣装を一式入れてくれたらしい。メモが入っていて「必要になる時があると思いますよ」と書いてある。笑い飛ばしたいところだけど、何だか奈々恵が言うと、本当にそんな事があるんじゃないかという気がしてしまう。とりあえず黙って包み直し、木の風呂桶にしまっておく事にした。

 

 セバスからは、「18歳になったので解禁ですね」とメモがついて缶ビールが6本入ってた!ヒャッホー!わかってるね、セバス!

 俺達は早速酒盛りを始めた。タタミイワシも入ってたから、それを軽く(あぶ)って、ビールを冷やして乾杯だ!

 まあ、正直、すごく美味しいとは思わなかったけど、でも大人だからね。楽しく酔っ払いになるよ。史朗が「無理しないでコーラで割れば?」と言うから、半分飲んだ所でコーラ割りにしたけど。

 え?コーラが入ってたのはそういう事?


 気分が盛り上がった所で史朗に爺ちゃんに言われたことを話した。


 「そうだな。こっちに来ちゃったのも現実だし、村に来る時にウォールンさんを助けたのも現実、村人の伝承を思わせる白銀のエルフが今ここにいるのも現実だな。

 確かにさ、モハメドや竜鷲だけじゃなくて、連れて来られた感はあるよな。もしかしたらさ、やることやらないと帰れないのかもしれないぜ」

 

 「うわあ。それは困るな」


 「とにかくさ、明日になったら当事者の村の人と話してみようぜ。俺も安易に奇跡を起こして助けますみたいなのはどうかなって思ったけど、でも必要ならつまんないこと気にしてないでやってみるべきだよな」 


 「うん。出来ることがあって、手助けを望まれるんだったら、俺はやっぱり助けたいって思うし。俺がエルフだとか神の力を継ぐとか、そんな誤解を与えてしまったら…なんて事も考えちゃったけど、そんな事どうだって良いことだよね」


 「ああ、お前が自分でそう名乗って、皆にひれ伏せって言うなら大問題だけど、そうじゃないからな。あれだよ、この先エルフを名乗っておかしな事するやつが出てきたら、そいつに雷が落ちるように自動設定しておけよ」


 「あはは、いいな、それ」


 ありがとう爺ちゃん。ありがとう史朗。俺は霧が晴れたみたいな気がしたよ。


 そんな事を話しながら補給物資をチェックしていると、封筒が入っていた。また爺ちゃんが手紙を書いてくれたのかと開けて一言、「なんだこれ…」。

 そのまま俺が黙っていると「なに?」と史朗が言うので黙ったまま見せた。

 

 「…なんだこれ」

  

 「セバスの部下だな」


 封筒の中には写真と手紙が入っていた。セバスの部下で画像解析などを担当している若い連中らしい。動画や画像を観ていて、「ミニセバス隊に自分達の姿も入れて欲しいと思ったのです」という嘆願書だった。

 別にいいけど。でも、いいのかな?内緒で補給物資に手紙を入れておいたらしいけど。

 

 「やってやるの?」


 「うーん、別に良いんだけどさ、でも、それを撮ったら確実にセバスにバレるよねえ?大丈夫なのかな…」


 「いいんじゃね?怒られた方が引き締まるんじゃね?」


 「じゃ、今度入れとくか」 


 ビールを一缶ずつ飲んで程よく緩んだ俺達は、物資をちゃんと受け取っている事を動画に撮ってメッセージを送ってから、今度こそ本当に寝ることにした。



 翌朝、起きると外がザワザワしている。何だろうと思って身支度をして外に出てみた。もちろん上着の下は爺ちゃんに貰ったゴジラTシャツだ。史朗に、それは寝間着にすれば?と言われたが普段に着るさ。

 

 外に出た俺達を見て村長とウォールンさんが慌ててやって来た。畑に来てくれと言う。ついて行ってみると、畑の様子が変わっていた。

 明るく気持ちの良い風が吹いて、村人が忙しく、でも嬉しそうに働いている。畑が元気に見える。

 村長が言うには、いつものように井戸の水を畑にまいたら、作物が急に元気に育ち始めて、あっという間に収穫が出来る状態になったのだと言う。そして今は、皆で水をまいては収穫をするという作業をしている所だと。

 

 俺達に気付いた村人が、作業の手を止めて俺達に向かって手を合わせる。史朗と俺は居心地の悪さを感じたけど、逃げ出そうとは思わずに受け止めた。だって確かに井戸に命の水を降らせたのは俺だけど、実際にすごいのは「この世界の命の水」だって、はっきりわかっているからね。


 昨夜史朗と話したように、村長達にこの村をどうして行きたいか、希望を確認することにした。 

 村長と長老たち、そしておばばに集まってもらい、俺はまず、『私は大地を生きさせる、出来る。あなた達は望むか』と言った。おおお、と皆が言って、村長が『ありがたい事でございますが、我々にはお礼が出来ません』と畏まる。

 『お礼ない、大丈夫。あなた達は畑が欲しいか。森が欲しいか』と尋ねる。


 おばばが『我々の罪が許されるのであれば、この地を元の豊かな森に還したいと存じまする。我らはささやかに恵みを得て生きられれば十分です』と言う。長老たちも『さよう。わしらもこの大地が元の姿に戻ることを願います。元の姿に戻して差し上げたい』と同意した。 


 『わかった。では、村長さん、皆に聞く。皆が同じ、私は森をつくる』と俺が言うと、村長がお辞儀をして部屋を出ていく。そして村人を集め皆に問う。 

 『白銀の君が大地を癒し、この地に生きる我々を救ってくださるとおっしゃっている。皆は、この平野に広く畑を持ちたいか?それとも、畑は既にある、だから森を取り戻し本来の姿にしたいか?または、予定通りこの土地を離れて新しい土地で生きたいか。希望を聞かせてくれ!』


 村人達は互いに顔を見合わせてザワザワしている。誰もはっきりとは声を上げない。『畑は広くあるとありがたいが、手入れをして収穫をあげるにはあまり広くても困るよなあ』『そうだな。出来る事には限りがある』と言う声が聞こえる。 

 『今だって広い土地はあるが、これ以上は俺達は畑にしようとは思わねえしな』『ああ、それよりも森があって動物がいて、恵みを受けられる方がありがてえよなあ』『この土地は元々ずっと遠くまで森だったんだろ?そっちの方がいいんじゃねえのか?』

  あがる声に「そうだなあ」と皆が同意しているようだ。反対意見はないのだろうか? 

 村長が更に問う。『みんな、出来る範囲でしか畑は面倒見られないのは本当だ。だが、土地が蘇れば、もっと人が増えるかもしれん。そうすれば村も大きくなって、畑を広げても収穫はあがり生活はずっと楽になるぞ。どうだ?』


 しばらくまたザワザワと話し合っているようだ。すると子供が声を上げた。『森って何?』と。 


 皆が黙った。

 その子の親と思われる女性が『あんた達は、森を見たことがないんだよねえ。あのね、森っていうのは、この辺がずーっと向こうの方まですごく立派な果樹園になったみたいな所だよ』と言った。『全部果樹園になるの?そしたら鳥もいっぱい来る?』『ああ、来るだろうね』『森が見たい!森で遊びたいなあ』


 別の女性が言う。『いつかこの子達が大きくなって村を出て行って、広い世界を見る時に、出来れば自分たちが育った村が豊かで美しい場所だと誇らしく思って欲しいね』『そうだな。畑も欲しいが、森が蘇るならそれが良いなあ。俺達は畑は作れるが、森は作れない』


 若い男が『でも、森には危険な動物が住むんだろう?森が出来たらそいつらも集まってくるんじゃないか?』と言った。

 門番のあの男が、『そうだな。だが、村の守りを強化すれば良いんじゃないのか? どのみち、このままでは俺達はここからどこかに移らなければならないだろう?移った先にも森はあるかもしれない。今はもう村がなくなってバラバラになるかもしれないんだ。この土地を離れたい者は離れると良いが、俺はここで暮らせるならここに居たい』と言う。


 長老の1人が言う。

 『森が戻れば、霊峰の守り手である狼達も戻るかもしれぬ。狼達は我らには手を出さぬ。狼達がいれば森の守り手となり危険な生き物が来ても守ってくれるだろう』

 

 狼達が守り手? 


 門番が笑いながら言った。

 『俺達のご先祖様がバカやって失った森が戻ってくるなら、俺は生涯この村も森も守るぞ。死んでからも狼達と森を守り続けて、またバカが出てきたら化けて出てぶん殴ってやるさ!』

 笑いが起こる。『そうだ、俺もそうするぜ!』『あたしも化けて出るわ』『あははは』


 井戸水が命の水になったこの土地は、魔物みたいな危険な生き物はやって来ないんじゃないだろうか?それに、村と森を少し離しておけば、動物はそうそう森から出ては来ないのではないか。 


 まだしばらく話し合いは続くようなので、俺と史朗は一旦部屋に戻ることにした。彼らだけで話しをした方がいい。



 俺達は部屋でチーズトーストを作って食べた。美味い。コーヒーも淹れる。

 

 「これさ、牛乳があったらなあ。カフェオレにしたいよな。こっちって牛系の動物があんまりいないよな」


 「ああ、カフェオレいいな。今度牛乳入れてもらおうか」


 そんな事を言っていると、おばばがやって来た。部屋に招き入れて椅子を勧め、チーズトーストとコーヒーを出すと『おお、これはなんとも良い香りじゃ。こちらもまた実に美味なる…』と言ってもしゃもしゃ食べている。パンの耳が固くなかったかな?歯は大丈夫かな? 


 『ここには乳を出す動物いないか』と尋ねると、『昔はおりましたが、狼達に獲られてしまいましたのじゃ』と言う。

 狼に獲られた?守り手なんじゃないの? 


 『狼は危険か』


 『いやいや、狼は霊峰の番人、守り手です。決して人は襲いません。だがまあ生きる為に必要な動物は獲りますからな。今では滅多に山から降りてくる事もない。牛を獲られたのも昔の事ですじゃよ。元々あまり家畜は居りませんでしたからな』


 『危険はない、良い。昔牛いたか』


 『移り住んで来た祖先が連れてきた牛が居りましたようじゃが。放牧していたそうで、牛たちは勝手に住処を求めてどこかに行ってしまったそうです。霊峰の方にはきっと今も居るのではないかと思いますが、我らにはとてもじゃないが連れてくることは出来ません。馬はのう、乗れますからのう。霊峰の方には馬もいるはずですぞ』


 え?いるの?俺達連れてこようか? 『牛ほしいか。我らは欲しい』


 『家畜にすることが叶うのであれば欲しいですがのう』


 ふむ。俺は史朗に霊峰に牛がいるらしいと話した。史朗が「牛乳がいるのか」と言って思案顔だ。牛乳じゃなくて乳牛でしょ?


 俺はおばばに、村と森を少し離して再生する案を説明しようとした。メモ帳を出しておばばに見せながら村と森の位置を書いていく。もちろんゴジラペンでだ。


 『おばば、村これ。森はこれ。少し離れる。ここに命の水を置く。史朗、ここに柵作る。村は安心なる』 


 『おお、これはなんと。このように薄くきれいな紙は初めて見ましたぞ。そしてこれは不思議な物じゃ。何も付けずに書けるとは。ここに付いている竜の御加護でしょうか…!』


 多分おばばが何を言っているのかわかったのだろう。史朗が目を逸らして口元を抑えて咳をした。


 『おばばはどう考える。書く、ここ』 そう言っておばばにゴジラペンを持たせる。


 『おおおお、私も書けましたぞ!竜の御加護よ!ありがたい』


 「アラン、ちょっと…」史朗が俺を呼ぶ。


 「なに?」 


 「何となく流れがわかるけど、そのペンと紙な、他の人の前では控えて。まあ、お前が何をしても魔法だと思われるだろうけど、とりあえず面倒くさくなりそうな事は避けて。ゴジラを褒められて喜ぶな」


 「…はい」


 あ、そうだ。ついでにおばばの写真を撮っておこう。爺ちゃんに見せるんだ。俺はおばばにスマホを向けて『おばば、笑う』と言って写真を撮った。おばばは意味がわからずポカンとしている。更に動画にして自撮りで3人で撮る。 


 「爺ちゃん、おばばを紹介しまーす。『おばば、笑う』こちらが50歳若返ったおばばです。若返る前は145歳、地球年齢に換算して180歳でした。今は95歳で、地球年齢では118歳です。元気な迫力のあるおばあちゃんです。あ、今度牛乳が欲しいです。カフェオレ飲みたいから」

 

 『白銀の君よ、これはなんですかな?随分と質の良い鏡のようじゃ』


 「おばばが、今自撮りしてる画面を見て、質の良い鏡かと言いました。『おばば、これ鏡ない』」

 

 「…俺が撮れば良かったんじゃないか?」と史朗が言うが、いや、3人で写るのが大事なんだ。…きっと。 


 俺は、撮り終わった動画を再生しておばばに見せた。おばばが、ひえええ!と驚いている。自分がさっき喋っていた言葉がそのまま、姿もそのままに再生される様子が不思議で仕方ないようだ。


 『このような魔法があるのですなあ』と感心している。


 『これで時を記録する』


 『ほおお』


 「アラン、何だって?」


 「カメラの説明」


 「嘘だろ。今一言しか言わなかっただろう。一言で説明できるのかよ?」 


 「『おばば、史朗も出来る』 史朗、ほらカメラ出して。ほらスマホじゃなくて一眼」


 史朗が一眼を出して撮っておばばに見せると、おばばが『おおお、ご友人のドワーフ殿も魔法をお使いになる!』と言った。

 俺が笑っていると史朗が「なに?」と聞いてきた。


 「おばばが史朗の事ドワーフだと思ってる」


 「はあ?俺が?マジか、皆そう思ってるのかな?」 


 『おばば、史朗はドワーフか』


 『この世界の理とはいささか違う輪の中においでのようにお見受けいたしますが、ドワーフ族のお方に見えまするなあ。白銀の君が異界からお連れになった異界のドワーフ殿ですかのう』


 おばばは鋭い。「史朗は異界のドワーフ族のお方だそうだ」


 「(ひげ)のせいじゃねえの?まあいいけどさ。そういうイメージなんだろ。『おばば、笑う』」

  

 史朗がそう言って、おばばの写真を何枚も撮りだした。俺だって少しは言葉を覚えてきたぜと。 


 そして、しばしおばばと俺達で撮影会だ。


 


 ドアがノックされて村長が入ってきた。皆の意見がまとまったので来て欲しいと。

 外に出ると皆が神妙な顔をしている。そして村長が代表して俺に言う。 


 『我々はこの土地を離れず、この村を守っていく事に致します。どうか、この土地を、大地を生き返らせ、我らがこの地で引き続き生きていく為に御力をお貸し下さい』 


 『『『『御力をお貸し下さい』』』』


 えっと、それは森を再生させるって事?作物が出来る大地にするってこと?目標が見えないと着工出来ない。 


 『…森、いるか。畑か』


 『それですが、両方で、ひとついかがでしょうか?』村長が恐る恐る言う。


 『両方…。良い。畑どこまでか』


 俺が範囲を確認しようとメモ帳とゴジラペンを出しそうとした時、史朗が俺に木の枝を渡した。そして目で「地面に書け」と言う。あ、そうか。はい。 


 俺は地面に、今の村と畑の図を描いた。そして村長に木の枝を渡す。村長が村人たちを見てから村の周りの畑の枠を一回り大きく描く。すると村人の何人かが咳払いをする。皆で顎を動かしたり手を動かして『もうちょいでかく』と村長に指示をしている。 


 俺の顔色を伺っている村長から史朗が枝をひったくり、ぐるりと大きく丸で村を囲んだ。村人から『おおお』と声が上がる。笑顔になっている様子からして、その範囲のイメージで満足らしい。まあ、元々畑を今の10倍くらいには取っておいた方が良いだろうとは思ってたから、全然良い範囲だよ。グッジョブだ、史朗。 


 俺は今の村を大きく囲んだ線の辺りを指しながら『ここ、史朗強い柵を作る』と言い、そこから更に先に線を引いて『ここからずっと森』と言ってみた。村人たちが笑顔のままなので、これで進めて良いようだ。


 史朗に、柵を作るラインを村人達と決めて、柵の設計をして準備をしてくれるようにと頼み、俺は透明丸で元の魔の森の命の水川のあたりに向かうことにした。種の採取だ。

 森をつくるなら果樹園の木だけではなく、他の木や植物があった方が良いと思う。大地を癒やすなら、あの不思議な癒しの花もあった方が良いと思うんだ。 

 

 「透明丸を飛ばしても往復するのに時間かかるかな?一日で行ってこられるのか?」


 「まあ、新幹線並みに飛ばせば二日で往復出来るんじゃないかな?」


 「そうか。じゃあ、それまでに俺は柵とか色々村の構想を皆で話し合っておくよ。図を描けば伝わるから、まあ何とかなるだろう。セバス隊を少し置いてってくれると助かるなあ」


 「そうだね。いない間にまた嵐が来るかもしれないから、完全防水セバス隊を大小で置いていくよ」


 あのセバスの部下たちも入れて作ってやろう。

 全員、史朗の言うことを良く聞くように言っておく。


 セバス隊20人が動き出すと村人たちが『おおお』とどよめいた。ミニセバス隊も40人作った。子供たちが大喜びで一緒に遊びだした。

 ミニセバス隊が戸惑って俺達の方を向く。俺が「しばらく遊んでやっていいよ」と言うと、おままごとの子供役やパパ役、そして石割りの指導を始めた。


 普通サイズのセバス隊は奥様方に人気だ。執事モードで対応しているらしい。このモテっぷりを奈々恵に見せても良いのだろうか?と思いながら、俺と史朗は撮影をした。

 


 「こういう時に竜鷲が来てくれたら速くて楽なんだけどな」


 「タクシーかよ!」


 俺達は笑った。

 冗談を言って笑ったつもりだった。だがそれから数分後、草原が一瞬暗くなったと思ったら地響きがしたんだ。


 ずずぅぅうううん!! 


 村人たちが叫び声を上げて逃げ惑っている。

 音のした方を見ると、草原の、村に近い所に竜鷲が舞い降りていた。でか!やっぱ軽く20メートルあるよね。


 「…お前、呼んだな?」 史朗が言う。


 「呼んでない。電話番号もらってない」


 「いや、お前が呼んだんだ。てか、来てくれたんだな」


 竜鷲はジッとこちらを見ているだけで動こうとはしない。もちろん村を襲うわけでもない。

 おばばが、『おおお、神の使いじゃ。遠く昔にイシルディン神を乗せて飛んだと言われておる神の鳥に違いない!』と言って拝んでいる。それを見た村人たちも、家の影から出て来て恐る恐る拝み始めた。

 

 神の鳥。俺は掴まれて飛んだけど、神様は乗ったのか。

 来てくれたなら俺を連れて飛んでくれるんだろう。でもまた掴まれるのかな。かと言って乗ってしまったら、またエライコッチャに話が盛られそうだな。 


 「乗れ。もう観念して乗れ」と史朗が俺を押す。 

 

 「え、でも…」


 「もう、良いから。既にもう後戻りが出来ない位に神話は出来てるから。良いからもう行け。何をどうしたって話は盛られるよ。ここの皆がそう信じたいんだからさ。やってやれ」


 「皆がそう信じたい?」


 「ああ、皆、神様が自分たちを助けに来てくれたんだって思いたいんだよ。自分たちは見捨てられていない、ちゃんと見守られているんだって」


 …ああ、そうか。皆は許されたいのか。

 祖先の過ちを背負って苦しい生き方をしなくてもいいんだと許されて、自分たちが大地と共に安心して生きて良いんだと。ようやく過去のしがらみから解放されて、これからは希望を持って生きて良いんだと。救いの時が来たと信じたいのか。

 爺ちゃん、わかったよ。爺ちゃんが言っていた本質を見ろって、村人たちの救いってこの事だったんだね。


 「それじゃ、いいか!」と笑って、俺は竜鷲に近付いた。


 ちょっと怖いので透明丸に乗って近付くと、竜鷲がゆっくりとお辞儀をした。そして「ぴぃいい」と鳴いた。乗れって事か。

 俺が透明丸で浮きあがって竜鷲の首の後ろあたりに乗る。上空は寒いからそのまま透明丸はキープする。

 後で史朗が、この時の様子を「コックピットみたいだった」と笑って言った。


 ふわりと竜鷲が舞い上がり、村人たちが歓声をあげる。おばばが、両手を合わせて拝んでいる。俺は「じゃ、ちょっと行ってくるね」と言う。

 行き先を告げてもいないのに竜鷲は魔の森の方に向かって飛び始めた。


 高度がどんどん上がっていって、また俺は上空から地上を見下ろす事になった。

 見渡す限りの草原。


 高く高く高度を上げていくと、魔の森に向かう俺の4時の方向に以前見た森と湖が見えた。そこから5時の方向に大きな町というよりも都市がある。村は6時の方向だ。そして村の遥か遠く向こうに雪をかぶった山脈があり、ひときわ高い山が(そび)えている。あれが狼達が守る霊峰だろうか。

 

 ここから魔の森までどのくらい時間がかかるのかわからないが、俺は前回よりも空の旅を楽しんでいる。

 


誤字を訂正して、一部書き足しました。  


尚、北欧のアランの国では18歳で成人です。酒OKです。

(この後、日本でも成人が18歳になりましたねー。)

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