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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
45/117

蘇る大地  〜爺ちゃんの助言〜


 村の中央に皆が一同に集まっている。肉が焼けているが、その他にもいつもよりも食料を多めに出して来ているようだ。祭りのような感覚なんだろうか。

 でも、そんなに食料を消費してしまって明日から大丈夫なのか?なんて、相変わらず俺はそんな心配をしてしまう。


 皆が俺が席に着くのを待っている。そして黙って息を潜めるように俺の一挙一動を見ている。また、俺が言わない限りは皆食べない流れらしい。挨拶じゃないが、簡単に宴の開始を宣言しよう。


 俺はにっこり笑って日本語で言った。


 「召し上がれ」


 皆は何だかわからなかったようだが、意図は伝わったようだ。一斉にワッと歓声をあげて食事が始まった。生まれてはじめて肉を食べるという子供たちが目を輝かせている。

 タンク猪の肉は1頭分でも十分だったようだ。焼くだけではなくスープにしてかさ増しをしたらしい。食料が少ない村の主婦の知恵か。さすがだ。

 残った肉は燻製にしておくといいよ。作り方を知らないなら、明日教えよう。


 「おい、ほら、酒だぞ」


 そう言って、既にちょっと飲んでいる様子の史朗がカップを持って来た。

 おお、酒!どんな感じ?貰って飲んでみる。…む。

 

 史朗がニヤニヤして見ている。

 

 「まずい…」 


 俺がそう言うと史朗が声を上げて笑い出した。


 「やっぱりな。ここの酒はかなり原始的な作りというか、洗練された酒とは違うからな、お子様舌には無理だろ。お前の口には合わないと思った。お前まだシャンパンしか飲んだことないんだろ。まあ、この村では酒は諦めてさ、お茶かジュースにしておけよ。町に行けばもっと違う酒があると思うぜ」


 ちぇっ。お子様舌で悪かったな。だけど実際美味しいと思えないから無理して飲まないでおこう。俺は給仕をしようとしてくれる女の人に言った。


 『ジュース下さい』

  

 女の人が赤くなって頷いてどこかに行った。


 「なんて言ったの?」 史朗がニヤニヤして聞いてくる。


 「…ジュース下さい」 


 「あははは、正解だな。なあ、何でさっき日本語で「召し上がれ」って言ったんだ?」


 「ん、なんとなく。綺麗な言葉じゃん。召し上がれって」


 「日本ではさ、召し上がれって言葉知らない奴らも多いんだよ。びっくりだろ?」


 「え、そうなの?日本語なのに?」


 「前にテレビ見てたら、美味いものを紹介して食べる番組で、有名なタレントが「どうぞ、頂いてください」なんて言うんだぜ。何語だよ?って。

 カッコつけててもさ、教養がないんだなって白けた。しかも、司会のアナウンサーが一切訂正しないんだよ。どうなってんのって思ったよ」


 「そうなんだ。時代なのかねえ」


 「お前が時代とか言うな。アランは奈々恵さんに教わったの?」


 「うん」


 「ちゃんとした大人がそばにいるのっていいな」 

 

 「そうだね。史朗もちゃんとした大人だ。一緒にいて良かった」


 「…なんだ、この発禁エロフ、なんだか可愛いぞ」 酔っ払い史朗が赤くなった。


 「おにいちゃん」


 「お、おお…なんだ。おにいちゃんに何でも言ってみなさい」


 「おにいちゃんだけモテないで」


 「あ、それは却下。ダメだ。俺には今、追い風が吹いているからな」 


 「ちっ、この世界から風を消してやろうか」 


 「やめろ」


 「あはは」


 軽口を叩きあいながら食事をする。さっき聞いたこの村の話が消化不良であんまり食欲がないんだけど、笑っているからきっと皆には気づかれない。または、エルフは少食だなって思われるだけだろう。


 「みんな美味そうに食ってるな」と史朗が言う。


 「そうだね。小さい子供達はこれが初めて食べる肉らしいよ」 


 「マジか…。まあ菜食も悪くはないだろうけど、それも食う物があっての事だからな。…なあ、腹一杯になってもらって、情報を貰ったら、早々に立ち去ろうって話したけどさ、さっき皆に水を配ったりして、言葉はわからないけど交流したらさ、もうちょっと何か出来る事はないかなって思っちゃったんだよな。どうよ?」


 俺は史朗に、ウォールンさんが言っていた事を話した。この土地はもう枯れてしまって住み続けるのが難しいから、住み慣れた場所を離れるのは辛いけど、子供たちの為にも移転先を探していると言っていた事。 

 そして、さっきおばばに聞いたこの土地の歴史の話しもかいつまんで話した。


 「また後で詳しく話すけどさ、この村の人達は近い内にこの場所を離れなければならないと思ってるみたいだ。大地が眠ってしまって、枯渇状態らしい」


 「そうか。何とかしたいけど、それは難しいな」 そう言って史朗がチラッと俺を見た。


 「だね」 俺は気づかないふりをする。


 「…村を囲む塀というか柵が簡単なのが気になったからさ、もっとしっかりしたのに作り直したらどうかなとか思ったんだけど、ここを去るんだったら無駄かなあ」 


 「俺も、泥濘(ぬかるみ)とか水はけが気になったんだよね」


 「俺達よそ者だもんな、あんまり余計なことも出来ないか」 

 

 そう言ったまま、史朗は黙ってしまった。 


 俺達は、「旅をして来て疲れているから」と言って、早めに部屋に戻らせてもらうことにした。皆も俺達がいない方が気楽に盛り上がれるだろう。 

  

 部屋に戻ってベッドに寝転んで、俺はさっきおばばに聞いた話をしたんだ。 

 

 「そうか、そんな歴史があるのか。なんか考えちゃうな。バカやった連中の尻拭いで子孫が大変な思いをしてさ」と史朗が言う。

 

 辛い体験すると色々考えるけど、でもその大切さを伝えようとしても、過去の人達の言う事としてしか伝わらない。実感としては伝わらない。だからまた繰り返して、そしてまた反省して伝えようとして…。なんか、歴史ってそういう繰り返しなのかなあ。


 「俺、ちょっと色々考えちゃって。あと、おばばが何だか俺のことエルフじゃないって言ってたんだけど」


 「マジで?わかってくれたのか」 


 「いや、それがさ、この世界の神様の力を受け継いでるとか言うんだよね」


 「なんだそれ」 


 「まあ、それは別にさ、エルフって言われるのと大差ないと思ってるから良いんだけど。実際エルフじゃないし。でも、正直な所さ、大地の再生をするなら出来るんじゃないかなとは思ってるんだ」 


 「ああ、俺もね、やっちゃえば?ってさっきちょっと思ったぜ」


 「でもさ、どうなんだろうって。おかしな宗教が発生しちゃいそうで」


 「まあな」 


 「どこまで関わって良いのかわかんないんだよね。俺達ずっとここに居ないしさ。その後何かあっても責任取れないじゃん」 


 「とりあえずさ、ちょっと寝ろ。俺達は本当に疲れてるんだしさ、疲れてる時は考えちゃダメなんだ。(ろく)な考えが浮かばない。寝て起きたらいい考えが浮かぶかもしれないしな」 


 「そうだね」


 「そうだぞ。おにいちゃんの言うことはちゃんと聞くんだぞ」 


 「わかったよ、おにいちゃん。だからおにいちゃんだけモテるのやめてね」


 「うっせ、寝ろ」 


 笑って布団を被せられた。そして静かに史朗が子守唄を歌ってくれたよ。この歌声を独り占めで、なんて俺は贅沢なんだろう。そう思いながら眠った。 




 その晩、俺は夢でまた家に行った。いや、夢じゃなくて幽体離脱?ま、何でも良いや。

 明るい日が差している。だいぶ暖かくなって来てるようだ。居間で、爺ちゃんが新聞を読んでいる所に俺は現れたらしい。


 「爺ちゃん」


 俺が呼ぶと、爺ちゃんが笑って「おお、来たか」と言った。

 これまでとは違って、お互いにやり取りが出来ているせいか、爺ちゃんが辛そうじゃない。良かった。


 「ここに座れ。どうだ、人の村にいるんだろう?皆良い人なのか?危険な事はないのか?」


 俺は爺ちゃんの隣に座る。いつものように危険がないのかと心配してくれる。

 ベルを鳴らして奈々恵を呼び、コーヒーをと言うと、奈々恵が他のメイドに申し付けて、近くに来て俺の顔を覗き込みながら「顔色は大丈夫ですね。髪が随分伸びましたね。もう切ってはいけませんよ」と言う。

 俺は「わかったよ、あ、髪ゴムある?」と言って髪ゴムを貰っていこうと思った。

 

 セバスが急いで補給物資を持って来て俺に渡す。俺がいつ消えるかわからないからと慌てているようだ。あれ、なんか、補給物資が大きくなっている。

 手渡してから肩や腕を掴んで、怪我をしていないか確認している。目をひん剥かれて左右を見させられ、「目も大丈夫ですね。充血もしていない」と言って、口を開けさせられ舌の状態や喉を確認される。セバス、医者か!


 安心したのか、「無茶はしてないですよね?気を抜いてはいけませんよ。虫歯にならないように、ちゃんと歯は磨くんですよ。水が出せるんだからうがいも頻繁に」と言って俺の頭を撫でる。

 ああ、俺はこの家の子供なんだなと感じる。可愛がられてるんだなと。

 普段は当たり前だったことが、離れてみると改めてよく見えて来る。俺は、こんなにあれこれ気にかけられていたのかとくすぐったい気になった。


 奈々恵が、俺が抱えている荷物に髪ゴムを入れる。そんなに何本も要らないのに、一本くれと言うとあるだけ持ってくる。そんなおばさん奈々恵。

 「補給物資に砂糖多めでお願いします」と言うと、慌てて他のメイドに砂糖を持ってこさせて、俺が抱えたままの荷物に入れる。俺のそばから離れない。

 砂糖を多めと言ったから、甘いものが食べたいのだと思ったんだろうか。生クリームたっぷりのケーキを持ってくるようにと若いメイドに言う。そんなもの俺はいつもは食べないんだが、なんだか嬉しいので食べる。


 俺は爺ちゃんに村の事を話した。おばばが言っていた事も、早口になったけど爺ちゃんに話した。

 黙って聞いていた爺ちゃんがふっと笑った。

 

 「何を悩むことがある。お前は大地を癒し再生出来るのではないのか?森でやっているのを動画で見たぞ。出来るのであればやってみろ」


 「でもさ、それじゃなくても白銀のエルフとか言われちゃってるのに、大地の再生なんかしたらなんて言われるか。俺はあの世界の人じゃないから、ずっといるわけじゃないし、みんなの未来に責任が取れない事をしちゃっても良いのかなって…」

 

 「なんだ、お前らしくないな」と言って俺の頭をポンポンたたく。「お前がどこの者で何者であっても、状況を変える力を持っていて今そこいる。それが、紛れもないその村の現実ではないのか?」


 あの村の現実。


 「お前が違う世界の者だから何だというのだ。困っている者がいて、助けることが出来る。そこには資格も権利もいらん。私はむしろ、その世界の大きな力が、お前達に何かして欲しくて、その村に向かわせたように思えるがなあ。お前達のことを大きな光が守り導いてくれているんだろう?それがもしもその世界の神様なら、その村を救いたいから力を貸してくれと望まれているのではないか?そして、それが出来るのが今のお前の現実だろう」


 今の俺の現実。


 「どこにいても、出来る事でやるべき事はやりなさい。お前たちがその世界に行ってしまったのも、何か意味があるのかもしれん。村人が余計な事をするなと言うなら別だが、望まれて、より良く生きる為の力になれるなら力を惜しむな。どの世界にいても、困っている者は助けたいだろう?」


 「そうだね…」


 「村人が本当に望んでいる事が何なのか、よく見てみなさい」


 「村人が本当に望んでいる事?」


 「村人の本当の救いが何であるのか。彼らがこの先も生きていく事に望みを見いだせるのはどういう事なのか。それがわかればお前は余計な事を考えずに、何をすればいいかわかるはずだ。

 本質を見なさいといつも言っているだろう。見つけるのは本質だ。出来る事をやらない理由を無理矢理見つけ出そうとするな。無理があると苦しくて悩むんだ。わかっているだろう?」


 そうか…。

 

 「1人ではどうしたら良いかわからなければ、シロと話し合いなさい。2人で居るんだから1人だけで抱えるな。シロにも、みんなにも考えを聞きなさい。おばば殿にも村長にも、どうしたいのか聞いて、お前が出来ることだけをすればいい」 


 そうか。俺は目の前にある現実に触れる資格があるかないかみたいな面倒くさい理屈をこねて、見るべき事を見ないで、自分だけのフィルターで判断しようとしてるんだ。またか。バカだな。


 「俺、弱虫だね」


 そう言うと、爺ちゃんが「お前は大丈夫だ。気負わずにやってみろ」と言って飴を俺の口に放り込んでくれた。



 そこで目が覚めた。 

  

 史朗がまだ起きていた。起き上がった俺を見て「あっちに行ってたのか?」と言う。


 「うん、なんで?」と聞くと、「お前が光ってたんだよ。そんで、ほら、補給物資がさ、薄ぼんやり(もや)が出て来たと思ったら、じわじわと物質に変わったんだ」と興奮気味に言った。

 現場を見てしまった!動画撮っておけば良かった!と悔しがっている。それ俺も観たかったな。 


 子守唄を歌ってから数分しか経っていないらしい。寝息が聞こえたと思ったら光りだしたと。俺は今回は結構長く爺ちゃんと話していた気がしたけど、こっちの時間では1〜2分程だったようだ。

 

 「甘いココア飲もう。砂糖もらってきた」


 そう言って起き出して、補給物資の中身を確かめながら、早速ココアを淹れて飲んだ。あっちでケーキを食ったと言うと、史朗が「あああ、生クリーム食いてえ!」と悶ている。次はイチゴショートでも頼もうか。 


 缶詰や米や味噌汁の素の他に、今回は日本のカップラーメンが入っていた。史朗が大喜びだ。俺もカップラーメン大好き。コーラも入っていて、菓子類も増えている。この前、ザリガニはいても魚がいないと言ったからか、魚の加工食品が何種類か入ってる。パンとチーズがあるから後でチーズトーストにしよう。


 追加で入れてもらった砂糖は、この村にプレゼントしようと思う。



 

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