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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
43/117

いや、白銀のエルフじゃないです。

地球語(英語/日本語)での会話(聞き取り)を「」で、グラウギリスの言葉での会話を『』で表記してます。


 村長さんや長老たちが、頭を下げたまま腰を低くして段の上から降りて来て、俺達の前で膝をつく。おばばがゆっくりと近づいて来て、お辞儀をしてから俺を見上げて言った。

  

 「ゴヘノニン、イェハンノンレ レ シトフ エデル  レ アラン、ニド メルン! ミン グラス」



 「なんだって?」と史朗。


 「…なんか、おばばが急に『神よ、その御力に触れる幸運を感謝をします』みたいな事を言ったら皆が頭下げたんだよ。そんで今のは『失礼をお許しください。我が君、白銀のエルフ、そしてその友よ、ようこそ来られた』 的なこと言ってるっぽい。なんだ、急に」


 「おばば、今「アラン」って言ったよね。お前の事知ってるのかな」


 「あ、それは、アランじゃなくて、レ・アランで「我が君」の事」


 「何だ、お前は「我が君」なのか?」


 「違うし。でも レ・アランで我が君になるのはわかった。でも俺の名前とは発音が違うアランで…あれだ、LとRの違いで意味が随分変わる感じ。 le arranと、Allan」


 「ああ、rice(お米)と lice (シラミ)的な…?」


 「…まあ、そうだけど、アランという単語についての説明にその例が出てくるのはなんかやだな」


 「繊細な奴だな。一般的なわかりやすい例だろ。てか、お前こっちの世界でもエルフ言われてるのな、ぷぷ」

 

 「あー、もう、そこスルーしてたのに…」

 

 

 何だかわからないけど、カミングアウトした事によって余計に面倒くさい事になったようだ。

 俺達を連れてきたおじさん、ウォールンさんは口を開けてこっちを見ていたが、慌てて頭を下げている。


 そのままみんな微動だにしない。これは多分、俺が「立ってよし」と言わない限りは皆このままなんだろう。この感じ見たことあるもんね。爺ちゃんが総会で出ていくとグループ会社の各国の代表の人達が全員この状態になって、爺ちゃんが「楽にしなさい」と言わない限り誰も動かない。きっと同じ感じだ。


 俺が頑張って伝える。やっぱり片言なのは致し方なし。


 『立ってください。私達大丈夫。村に来た、皆さん見る、嬉しい。休みたいです。ありがとう』


 「何て言ったの?」

 

 「多分、俺が立てって言わないとこのままだと思ってさ、どうぞお立ちください。私達は悪いものではないから大丈夫。皆さんに会えて嬉しいです。少し村で休ませてください。と言ってみた…つもり。ちゃんと伝わっているかどうかはわからん」


 おばばや長老達、村長さんが立ち上がる。皆もゆっくりと立ち上がる。でも、俯いていて誰も直接俺の方を見ない。見てはいけないと思っているようだ。おばばだけがこちらを見ながら両手を合わせて拝むようにして涙しながら言う。


 『イシルディン神がお声を潜めてしまい、光の民であるエルフ族も姿を消して300年と言われておりまする。まさかこのわしが生きているうちに、我らの前に光が戻り、お目にかかる事が出来るとは思ってもおりませなんだ。ああ、誠にありがたいことでございます』



 やばいな。とてもおかしな事になっている気がする。


 村長が腰を低くし下を向いたまま、『白銀の君よ、粗末なところではございますが、可能な限りおくつろぎいただけますよう務めさせていただきます』そう言って、先に立って歩き出す。長老達や他の村人達も村長の言葉に習って、恭しく頭を下げて俺たちに道を開けてくれた。 



 「アランさーん、何が起こっているのかな?」


 「…ちょっと想定外の方向に話が行ってる感じ」


 「ろくでもないニオイがしますけど大丈夫なんでしょうか?」


 「史郎さん、やっと人族に会えたと思ったんですが、俺は既にこの村から立ち去りたくなっています」


 「俺も何となくそう感じています。でも、折角だからこの世界についての情報は得たいと思っています」


 「…ですね。その辺を聞いたら速やかに立ち去りましょう」



 俺達は、多分村では一番立派な建物の一番きれいなお部屋に通された。

 全然豪華でもなく質素と言うよりも簡素というか。でも、皆の態度を見れば、これがこの村の精一杯なのがわかる。そしてずっと野外でテント生活だった俺たちは、壁があって屋根があって、良く洗ってある清潔な寝具があるこの部屋は天国のように思えた。

 

 入れ替わり立ち替わり人が出入りして、テーブルには果物が盛られ飲み物が用意された。

 俺と史郎がその度ににっこり笑って「ハンノンレ」と言うと皆ハッとして顔をあげ、すぐに下を向いて、でも耳や首まで真っ赤にしてお辞儀をして部屋を出ていく。視線が定まらずドア枠に激突してから出て行く人もいた。大丈夫か。


 部屋にウォールンさん達が荷物を運んで来てくれた。さっきまでとは違い、物凄く(かしこ)まっているので、「ウォールンさん、大丈夫。あなたは良い人。友達。普通は良い」と言うと、ちょっとホッとしたように顔を上げて笑ってくれた。つられて俺も笑うと、ウォールンさんが顔を真赤にしてまた(うつむ)いてしまった。なんだよう。


 ウォールンさん達が荷物を置いて顔を赤くして汗を拭きながら、ぺこぺこして出ていくと、史朗が言った。


 「アラン、忘れてると思うから言うけどさ、お前の素顔と笑顔は破壊力がハンパないんだよ。これまでは森の中で一緒だったのが俺とか妖精だけだったけどさ、人間相手の時は少し考えて、威力を抑えるようにした方がいいよ。この村でお前みたいなのに慣れてる人は皆無だと思うぞ」


 そんな事言われても。どうすりゃ良いんだよ。またゴーグル戦隊になってればいいのかよ。…あ、それが良いかな?


 「俺、ゴーグル戦隊に戻ろうかな」


 「ああ、それもありかもな。その方が皆が普通でいられるかも」



 一通り俺たちの為の準備が整ったのか、テーブルの上にベルのような物を置いて全員が部屋から出て扉が閉められた。 


 「用があればこれを鳴らせって事なんだろうね」

 

 「そうだろうな。で、アランさんや、今はどういう状況なの?」

 

 そこで俺はさっきおばばと村長が言った言葉を史郎に聞かせた。



 「300年ぶりの白銀のエルフの出現か。すごそうだな」


 「なんだかわかんないよ。大体俺は白銀じゃなくて白金」


 「ぷ。ハッキン」


 「なんだよ」

 

 「いや、ごめん。白金てよりもアランは発禁だろ」


 「あはは!ハッキン!わかった」


 「発禁のエロフ」


 「いいね」


 「いいのかよ」


 「だって俺スケベだもん」


 「まあ、それはそうだけどさ」


 「「あはははは!」」


 「しかしどうするかね。一息ついたらきっと宴とかになるんじゃないか?」


 「そうだなあ」



 俺は考えながらテーブルの上の飲み物を手にとってみる。匂いをかぐと酒ではないようだ。ちっ。俺はもう大人なのに。がっかりしながら飲み物を一口含んでみる。お茶だ。甘い。…甘い!! 


 「ちょっと史郎、これ!甘い!!」


 「え?」


 「お茶が甘いんだよ。砂糖の甘さだろこれ」


 「おお、砂糖があるのか」


 「ありがてえ、ありがてえですだ」 俺はちょっと悶た。


 爺ちゃんの差し入れもだいぶ減って、ちょびちょび使っていた砂糖はもう無くなっていたんだ。


 「はい、その「ありがてえですだ」は封印。…お前は本当に、黙ってると確かに白銀のエルフなのになあ。なんか残念だなあ。まあ、俺は好きだけどさ。でも、惜しいなあ。ちょっと奈々恵さんの気持ちがわかって来たぞ。ここにいる間はさ、ちょっとちゃんとしててね。特別の慶事を喜んでいる村人の皆さんの為にもね。」


 「俺は俺だよ。それにしても、この砂糖ってもしかするととっても貴重なんじゃないか?村人みんな痩せてるし。子供も痩せてたよな」


 「そうだよな。中世的な感覚だとしたら砂糖はすごい贅沢品だろ。それを出してくれてるって事なのかもしれないよな」

 

 この村の食糧事情はあまり良くはないらしい。そんな中で、俺達に貴重な、高価な食べ物を差し出してくれているのかと思うと申し訳ない気がした。俺たちは森生活はしていたが、食料には不自由しなかった。肉も食べきれずに放置したりしていた程だ。

 

 「なんか申し訳ないな。お礼にさタンク猪の肉をわけてあげようか」


 「そだね。タンク猪はそこそこのサイズのが3頭分はあるもんね。2頭分で十分全員に行き渡るんじゃないかな。みんなで一緒に食うか」


 「うん、もう少し休んだら申し出てみよう」



 せっかく出してくれたんだ。ありがたく甘い飲み物を飲み、気持ちを受け取ったということで果物も一つづつ頂いた。そして、自分たちの汚れを全て飛ばしてさっぱりしてから、ベッドに転がってちょっと休んだ。

 固いベッドだけど、こんな風にベッドに寝転がるなんて久しぶりだ。気持ち良いな。


 30分くらいゴロゴロしてから、室内の写真を撮って、それから渡す肉を用意して、俺たちは部屋の外に出た。


 すぐに村長がやって来て、『何か御用でしょうか?』と言う。


 『どうか普通にする。私達大丈夫。普通、良い』と言ってみた。普通にして下さいって言ったつもりだけど大丈夫だった? 


 少し思案してから村長が言った。『では、お言葉に従い普通に、努めて普通にさせていただきたく思い候』

 …ん、何だか更におかしくなった気がする。俺が微妙な顔をすると村長もちょっと赤くなって頭を掻いてから『ふう、普通にしますよ。ええ、普通にしてみせます…』とつぶやいた。

 

 村長と共に外に出ると、村人がこっちに向かって拝むようにして口々に何かを言っている。

 うわー。エライコッチャ。

 

「アランくん、彼らは何と言ってイマスカ?」 大凡(おおよそ)を察した様子の史郎が笑顔で問う。


「カレラハこんな事を言ってイマス」と俺は通訳をする。 




 『神秘の森は魔の森となっていたが、白銀のエルフと精霊によって浄化がもたらされる。言い伝えの時が今やって来たのだ』


 『バンザーイ バンザーイ』


 『白銀のエルフよ、神の祝福を我らに』


 『神の恩恵が再び我々にもたらされる。どうか大地に光の浄化を。我らの生活をお守りください』


等々…。



「どうするよ?」


「どうしよう」


「とにかく、まずは物資を提供してお腹いっぱいになって頂いて、聞きたい情報聞いて、そんでこの村を出よう」


「あああ、やっと出会った文明なのに」


「俺達もう跳んじゃってるし魔法使ってるじゃん。ウォールンさん一家が言いふらしてるし、村の人達純粋で思い込み強そうだから、今から普通の人だとか言っても信じなさそうだよな」


「だな。栄養つけてもらってさ、明日への希望を持ってもらってさ。まさか町は流石にこうではないと思うから、そっちに行こうぜ」

 

 他の集落や町の事を聞いて、この世界の情報を得たら早いうちに、おかしな「白銀のエルフ教」が発生しかけているこの村から離れよう。


 そう思っていると、ヨタヨタと腰が曲がって杖をついたお爺さんが寄ってきた。俺は爺ちゃん子だからあらゆるお爺さんに優しい。お婆さんにも優しいぞ。目の前で可愛い女の子とお年寄りが同時に転んだら、間違いなくお年寄りを先に助けるタイプだ。


 そんな俺の前にヨタヨタとお爺さんがやって来きて、震えながら手を伸ばし、後少しで届くという所でよろけて転びそうになった。咄嗟に手を伸ばして支えると周囲で「おおおお」と声があがった。いやいや、普通の事でしょ。

 俺はお爺さんに大丈夫ですか?と聞こうとして片言で『あなたは大丈夫』と言った。瞬間、お爺さんが目を見開いてハッとした顔をしてシャキッと立った!曲がっていた腰がシュッと伸びて、ビシッと直立した。


 え?

 

 周囲の村人が『おお、奇跡だ』とか『エルフの癒し』とか言っている。 


 史郎が「…何したの?」とうつろに言う。説明をするとため息をついて目を逸らした。


 「いや、あのほら、あるじゃん!体調悪くて辛いって思ってたんだけど、大好きな人のコンサート行ったら楽しくて、体調悪いの忘れて無茶苦茶元気で踊りまくっちゃって、なんだか本当に元気になっちゃったみたいな、そういう感じの作用だと思うんだけど?」


 「俺もそう思うけど、まあ村人はそう思わねえわな…」 

 

 お爺さんが泣いている。泣きながら拝んでいる。早くこの場を立ち去りたい。俺は村長に向かって言った。

 『飲み物と果物、とても美味しいかった。ありがとう。私達、食べ物を沢山ある。あなた達にあげる。皆さん食べましょう』

 

 そうして、タンク猪の肉2頭分と、魔の森産大うさぎの肉を2体分差し出した。これだけで村全員が腹いっぱい食べられるはず。少し余ったら加工して保存肉にすればいいだろう。

 村長は顔を真赤にして目を見開き口を開けたまま涙を垂れ流した。ベッドの脇にあったので借りて持って来ていた推定タオルを差し出すと、ハッと我に返ったようで、ビタッと地にひれ伏して「ハンノンレ ハンノンレ」と繰り返した。


 村人も喜んで宴の準備を始め、肉の料理が始まった。肉なんて久しぶりだと喜んでいる。小さな子供たちが『肉って何?』と聞いている。

 村の中央で火を焚いておばばが何やら祈りを始めた。俺に向かって祈られないように、そっとバックステップで建物の陰に隠れた。


 ウォールンさんの娘さんが、物陰に隠れている俺達を見つけてやって来た。娘さんは白いワンピースに着替えて髪に花を飾っていた。周囲の人が言っているのを聞くと、『村に光を呼び込んだ聖なる一家の聖なる娘』という事になっているらしい。

 これまたエライコッチャ。

 お友達に囲まれて嬉しそうに手を振りながら小走りでやって来る。あ、ころんだ。

 やっぱりウォールンさんの娘さんだけある。転び方が似ているな。俺がぼんやりそんな事を思っている間に、史朗がすぐにジャンプして近づき助け起こした。女の子たちがキャー!と言う。


 …史朗、すごいな。


 ちなみにゴーグル戦隊の変身を解いている史朗は、普通に1ヶ月ちょい分伸びた髪と(ひげ)のむさい男だった。だが、なんだろう、妖精さんの女の子達にモテてから、史朗にイケメンの風が吹いている。これが自信による「調子の良い波に乗っている現象」なのか?

 史朗が俺の方を向いて、「おい、アラン、おしゃれして来たのに泥だらけになっちゃて泣きべそかいてるから、綺麗にしてやってくれ」と言う。そして「大丈夫だぞ」と言いながら娘さんの頭をそっと撫でる。いやらしさの欠片もない、あたたかく安心させるナデナデだ。 


 …史朗、すごいな。 


 俺は言われた通りに娘さんのワンピースから泥を弾き飛ばし、水分も飛ばして温風でふんわりと乾かした。泣きべその女の子へのサービスで、花と一緒に良い香りも撒き散らしてみた。

 ほう〜とため息が聞こえて、村人がみんなうっとりしている。うっとりしているんだが、俺のそばに近付いてくるのは子連れのお母さん達やお年寄り。若者は男女共に史朗の潔いジャンプと頼りになる兄貴的な雰囲気にすっかりやられているようだ。

 

 史朗だけモテモテなんだと、俺は全然モテないんだと、あとで爺ちゃんに報告しよう。



 

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