表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
異世界文化交流
42/117

誇り高きアンティアン…じゃないよ

この先、地球語(英語/日本語)での会話を「」で、グラウギリスの言葉での会話を『』で表記していきます。


 「史郎、俺たちはこの世界にたった二人きりの人間ではなかったんだね」


 「ああ、なんか変な感覚だけど、人がいるんだなって実感が湧いてきたよ」



 俺達は今、この世界に来てから初めての人族の村を目視している。

 村人であるおじさん一家と共に、初めての異世界文化交流に向けて歩を進めているのだ。

 草原を吹く風も、どことなくロマンを掻き立てる。


 広い平野にぽつりと見えている村。

 遠目に見える村の外観は、これで大丈夫なのかと思う丸太で出来た柵で取り囲まれている。タンク猪などが居たら、あっという間に破られてしまいそうな造りだった。この辺にはそんな生き物の驚異もなく、比較的平穏なのだろうと推測できる。 

 建物は高くない。せいぜい2階建て程度だ。1つだけ高い建物があるが、あれは多分村役場的なところか、または教会だろう。


 村を囲む柵の外側には隣接して畑があるようで、そこも申し訳程度の低い柵で囲まれている。畑では麦に似た植物を作っているようだ。あとは野菜や果物か。果樹園のような物も見える。でもあんまり生育が良いようには見えない。草はぼうぼうと言っていいほどに生えている平野だけど、作物としての植物の育ちは良くないのか。大地の栄養が足りないのか。


 畑には働いているの人の姿が見える。雨があがったので今日の作業に忙しいのだろう。

 うん、普通に人だ。子供もいるようだ。風にのってニワトリに似た鳴き声がしているから鳥も飼っているんだろう。全体に素朴な田舎の村といった印象だ。

 

 おじさんが『あれが私達の村だよ。何もないが良い人間ばかりだ。良かったら家に泊まってゆっくりしていってくれ』と言ってニコニコしている。


 ありがとう、おじさん。でも初めて見るアンティアンを気軽に家に泊めちゃうの?いいの?俺達が悪い蟻だったらどうするの?

 俺が戸惑いながら史朗に通訳すると、「それだけ平和って事なんだろうけど、なんか心配な人達だな」と言う。そうだよね。

 本当はこんな風にのんびりと、人を疑わずに受け入れて生きていられたら一番良いんだろう。この世界はみんなそうなのかもしれない。でも、この広い平原を武器もろくに持たずに家族で移動していたこのおじさんが、とても心配な俺達です。


 村に到着して、おじさんの馬車と一緒に、これまた申し訳程度の門のところに行く。門番が出て来て俺達を見てギョッとしている。俺達はすっかりゴーグル戦隊から人に戻るタイミングを逃していた。更にアンティアンだと思われているという事で、つい虫っぽいままでいたのだった。


 門番とは顔見知りなんだろう。おじさんが門番の様子を見て笑いながら、俺達と一緒になった経緯を伝えている。すると門番の男は『ああ、それは良かったな』と笑顔になって、俺達に『村の者が世話になったな。ありがとう。そうか、アンティアンか。初めて見るが随分と目がピカピカしてるんだなぁ』と言った。


 村を守るべき門番がこうだと言う事は、やっぱりこの村は全体的にのんびりしていて人が良いんだろうか。


 『アンティアンはあれだろ、ほとんど喋らないけど言葉は通じてるんだよな。穏やかで果物しか食べない種族だって聞いてるけどそうなのかい?死んだ爺様が昔、若い頃にやっぱりアンティアンに助けられた事があるって言ってたが、まさか俺も生きてるうちにお目にかかれるとは思ってもいなかったよ』と門番が嬉しそうだ。

 

 おじさんも、『そうなんだよ。私もさ、最初雨の中で見た時はびっくりしたけど、だが良い奴らだよ。ぴょんぴょん跳んでな、馬と同じ速さで走るんだ。しかも魔法を使えるんだよ。驚いたね』と言っている。

 『へえ、魔法か。アンティアンが魔法を使うとは聞いたことなかったが、そりゃすごいな。さすがは精霊の使いと言われる種族だ』と門番が言う。

 あ、アンティアンって精霊の使いって言われてるんだ、へえ。


 『まあ、ここで話してても仕方ない。村長さんとか長老たちにも紹介した方がいい。伝説のアンティアンだ。みんな驚くぞ』


 『そうだな。じゃあ、また後でな』


 門番が通してくれて、俺達は馬車と一緒に普通に歩いて村の中に入っていった。

 村の中もやはり素朴で静かな印象だ。つまり活気はない。人口もそれ程多くはなさそうだ。


 俺たちが村に入ると、見慣れない二人を遠巻きに見ながら人が集まってきた。俺達を見てヒソヒソと話している。嫌な感じはしないけど、まるで珍獣になったかのような居心地の悪さがあった。

 だがそれよりも、久しぶりに自分たち以外の沢山の人間を見た感動を俺は味わっていた。

 ああ、人間の集落だ!

 村人達や村の建物の様子を見ると、まさに中世後期の村といった感じだ。

 

 「なんか、ヴィスビューってとこで毎年夏に『中世祭り』ってのがあるんだけどさ、この村を見てるとそこを思い出すような思い出さないような…」


 「どっちだよ」


 「微妙。ああいう服装で人が歩いてる感じは似てるんだけど、ここはイマイチ活気がなくて、静かというかちょっと暗いね。現実なんてこんなものか」


 「痩せてる人が多いな。ぱっと見ただけだけど、畑の作物もあんまり上手く育ってるようには見えなかったよな」


 「そうだね。農耕の技術とか進んでないのかな。この村の雰囲気だけだと地球の16世紀位ってイメージだ」


 「室町とか安土桃山時代か…」


 「え?」


 「いや、16世紀って事は日本だとその時代だなって」


 「へえ、そうなんだ。今ちょっとモモハラさん思い出した」


 「安土モモハラ時代かよ。どういう時代よ!モモしか合ってないだろ」


 「チーム☆フェルナンドのみんなが、この状況知ったらびっくりするんだろうな」 


 「びっくりさせたいなあ」


 「帰ったらさ、写真見せて『信じるか信じないかはあなた次第です』って言ってやろうよ」


 「それいいな」



 そんな事をヒソヒソと話しながら、俺達を見てヒソヒソと話している村人達の中を行く。

 『魔法か?』『浮いてる』と言っているのが聞こえた。あ、そうか、俺達だけじゃなくて、後ろをフワフワとついてくる獣の皮や牙や肉を入れている木の風呂桶も珍しいんだね。

 おじさん一家の反応もそうだったけど、みんなはあんまり魔法は使わないんだろうか。


 俺達も色々珍しくて、キョロキョロと周りを見ながら歩いていく。

 家の脇で中型犬くらいの大きさのニワトリっぽい緑の鳥や、平原にいたあの兎の飼育をしている家が多いようだ。だが鳥も兎も数は少ないし、元気がなかったり痩せている。牛や豚系の大型の家畜は見当たらない。放牧してるのか、居ないのか。


 家の数と大きさからして、人口は200人位かもしれない。木で出来た家が半分位で、半分が石造りの家という感じだ。上空から見た感じでは、ここよりも更に行った所に何十倍も大きな町があったから、ここはそれほど大きい村ではないんだろう。

 村の中にも畑にあったような滑車がついた井戸があった。鍛冶屋はあったけど、その他はお店のような物は見当たらない。

 

 周囲が平原なのに、この家を作った木や石はどこから運んで来てるんだろう?


 おじさんが『小さな村だろう?アンティアンは地中に住んでキノコを栽培してるって聞いてるが、そうなのかい?ここは雨が降るから水には恵まれてるが、大地が枯れて来てるのか、作物があんまり育たなくなって来ててなあ』と言う。


 えー、モハメド達ってキノコなんて栽培してるの?えー、やだ。安全なキノコなんだろうけど、えー。

 ゴーグルとマスクで見えないだろうが、ついとても嫌な顔をしてしまった。


 史朗が果樹園の方を見ながら「木がある。良いな」とつぶやいている。 

 「久しぶりに木を見るとホッとするな。のぼりたいな、あとでのぼらせてくれないかな」と言っている。のぼりたいね。木の上で風に吹かれたいね。


 おじさんにカタコトで『大地、枯れている?』と言ってみる。さっきおじさんが言った言葉を拾ってみた。

 するとおじさんが驚いたように言った。

 『おお、あんた喋るのか!そうなんだよ、昔は豊かな大地だったらしいんだ。俺達の先祖が300年前にこの土地に移り住んできた頃はな、この辺も森だったらしいんだよ。それがなあ、今ではご覧の通りの草原になっちまった。このままでは、いずれ俺達はこの地を離れなければ生きていけなくなるだろうなあ。仕方がないが、寂しいなあ』


 『寂しいか』


 『ああ、寂しいよ。だが子供たちが生きていくには、もっと豊かな所に移り住まないとダメだろうって、ご領主様にも相談をしているところなんだよ』


 そうか、長く住んだ土地を離れなければ生きて行けないのは辛いだろうな。安心して暮らせるいい土地があるといいね。


 村の中はさっきまでの雨でひどく泥濘(ぬかる)んでいる。皆の足元も泥でぐちゃぐちゃに汚れている。水勾配をつけたりしてもうちょっと水はけをよくしたらこんなにならないだろうに。土の感じは悪くないのに栄養が枯渇しちゃってるのかと思いながら、誘導されるままにおじさんの家に行く。

 

 おじさんが(うまや)に馬車を置きに行き、おばさんと娘さんが俺達を家の中に案内してくれる。入り口を入った所に荷物も置かせてもらって、椅子を勧められ座る。

 近所の人や娘さんの友達がドアから覗いている。娘さんが自慢そうに雨の中の出来事を話し、小さい方のアンティアンが花をくれたのと嬉しそうに言っている。


 おばさんも村の女性達に色々聞かれているようで、ニコニコしながら仔細を話している。どうやら異形ではあるものの、アンティアンは伝説になる程、誇り高く良い種族として知られているらしい。精霊の使いとも言われ、生涯で会うことが出来る者は限られており、こんな風に家に招待出来るのは(かつ)て無い、大変に名誉な事のようだ。


 俺は周囲の会話を聞きながら単語を覚えていく。そして史朗に周囲の会話を通訳していく。

 史朗が「モハメドの種族って凄いんだな。なあ、俺達が普通の人だってこと早めに公表した方がいいんじゃないか?」とささやく。それはそうだ。ずっとこのままアンティアンの振りをしているわけにもいかない。


 「そうだよね。でも、もうちょっと待って。もっと皆が話しをしてくれたら、言葉が話せるようになりそうだから。そしたら説明出来るから」 


 「おお、やっぱ天才だな。俺達まだこっちの言語に触れてから2時間も経ってないぞ」


 「いや、なんかこの言葉やっぱり知ってる気がするんだよ。それに、この言語ってゲルマン系とかラテン系の言語に似てるみたいなんだ。だから単語を覚えれば史朗もきっとすぐ話せるよ」


 「英語っぽいってことか」


 「そそ」



 おばさんが、あら、いけない!とお茶の用意を始めたようだ。が、今お茶を出されても俺達はマスクを外して良いものやらどうやら。

 そう思っていると、おじさんが戻って来て、「村長や長老に紹介するよ」と言い、俺達を連れて村の中央に向かって歩き出した。

 おじさんの家を出てから、俺達の後を村人が総出でぞろぞろ着いて来る。田舎の村って感じだ。アンティアン珍しいんだもんね、わかるよ。でも、なんかやっぱりいたたまれない。

 

 周りをついてくる村人達の会話に意識を向けながら、話しかけてくるおじさんの使う単語を覚えながら歩いた。ここの人達はサイズ的には地球と変わらないけど、やっぱり俺はでかい方らしい。大抵の男性は史朗と同じくらいの身長みたいだ。女性は少し小さくて160〜170cmくらいかな。

 あ、門番の人がニコニコしながら一緒に歩いてる。門番しなくていいの?放ったらかしでいいの?そんなに平和なの?

 俺が門番の人に片手をあげて挨拶すると、門番の人が嬉しそうに笑って手をあげた。それを見て村人達が『おおお』と言っている。

 本当に素朴な人達だなと思う。今のところまだ『何だお前たちは!』とか『みんな、騙されるな!』とか言い出す人はいない。そんな事にならないように、気をつけてキチンと対応しよう。

 

 中央の広場に着くと、一段高くなっている所に恐らく村長さんと思われる男性と、長老であろうおじいさん達、そして小さいおばあさんがいた。なんか、小さいおばあさんが一番迫力がある。良く物語で出てくる「おばば」って感じだ。

 村長さんが俺達を案内して来たおじさんに声をかける。 


 『ウォールン、これはどうしたことだ?その2人は何だ』


 『村長、長老方、おばば、嵐の中で馬車がぬかるみにはまって動けなくなっていた所を、この2人に助けられました。お礼に家に泊めてもてなしたいと思って連れてきました。とても善良なアンティアンです』


 『アンティアン…』 


 本当に「おばば」だった。史朗に「ちょっとちょっと、あのお婆さんって、この村のおばばらしいよ」と言うと、「おばばって居るんだ…」と言った。

 

 村長達が俺達を見てヒソヒソと話し合っている。おお!とか言って感動しているような様子だ。もう、ここでカミングアウトしておかないとまずいかもしれない。まだ完全に言葉を覚えてないけど、言うしか無いか。

 その時、おばばが前に出て俺達に向かって言った。 


 『あんた達は本当にアンティアンかい?妖精の加護が胸にあるのはわかる。アンティアンの気配もする。だが、もっと違う大きく強い光が視える…』


 バレているようだ。もう仕方ない。俺は史朗に言った。


 「史朗、おばばが俺達はアンティアンじゃないと見破っているようだ。仕方ない、カミングアウトだ!」


 「おう!」


 俺達は、ゴーグルとマスク外して帽子を脱ぎ、ゴーグル戦隊から人族へと変身をした。

 そして俺がちょっと頑張って言う。


 『我々、アンティアンない』


 …以上。



 史朗が「え?それだけ?」というような生暖かい目で俺を見ている。

 だって、他に適切な言葉が出てこないんだもん!!聞いてわかっても話せるのとは違うだろ。わかるだろ?


 そんな俺達を見て、おばばがカッ!と目を見開き両手を上げて「オオオ! ツゥェト バラン ガル ブメーレ!」と言った。そして、おじさん一家も村長さんも長老達も、そして村人も、ハッとした後に俺達の予想外の行動に出た。


 全員が急に頭を下げて、と言うか膝をついて礼を取り、そのまま動かなくなったんだ。


 えええ!? 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ