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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
魔の森
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出発


 恐らく高さ300メートルはあると思われる崖。俺達はそこを垂直に上がっていかねばならない。


 「あれだな、断崖絶壁で軽々と移動し、当たり前のように生活をしている山羊の気持ちになることだな」と史朗が言った。 


 まあ、そこら辺から入っていく感じだよね。前に竜鷲の巣から降りてきた俺としては、そんなに気合を入れなくても結構行けるんじゃないかなとは思うんだけど。 


 足場を見極めてジャンプする。でも、それだけではやはり落ちた時が怖いので、俺は風魔法で下から持ち上げるようにしてみようと思う。 


 「俺は山羊、俺は山羊、俺は山羊…」とつぶやいている史朗に、「風魔法で援護するから、あんまり緊張しなくても大丈夫だよ」と言うと、「あ、ああ、そうか、そうだな」とこっちを見て、「てかさ、お前いっその事ここに足場を作れないのか?」と言う。 


 足場を作る。そうか、足場を探して登るのではなく、事前に足場を作っておく!素晴らしい!! 


 「それはいい考えだ!それやってみるよ」と言って、俺は足場をボコボコ作り始めた。7〜8メートル置きくらいにジグザグに段差を作り、10ジャンプで一回の割合で、大きめの2人で休める広さの場所を設けた。これなら結構すぐに登れてしまいそうだ。


 「ああ、いいね。これだと安心だな」


 「うん、でも一応風魔法の援護も入れておくよ」


 早速、跳び上がり崖を上り始める。2人共いつもの木の枝を跳んで登る感覚で順調に上がっていく。

 最初の休憩地点まで1分もかからない。この足場は戻ってきた時にも使えそうだから、そのまま残そうという事になった。更に次の休憩地点まで登ろうとした時、妖精さんが俺の髪をツンツンと引っ張った。


 「どうしたの?」


 俺が聞くと、妖精さん達が全員で祈るように手を組んで俺達を見ている。600人はいるだろうか。老妖精から幼児まで、この辺り一帯の妖精さんが集まっているようだ。

 そして目を閉じて本当に祈り始め、全員が大きな光の塊になっていった。


 俺達は眩しくて目を閉じた。あまりに明るくて、目を閉じていても目の前に太陽があるような感じだった。少しして明るさが戻り、ゆっくりと目を開けるといつもの妖精さん達がいて、そして5人が代表の様に前に出て綺麗な七色に光る5センチ位の珠を掲げていた。


 光そのものが珠になったような不思議な輝きを放っている。それを俺に差し出して、俺が受け取ると、また祈るように手を組んで俺達を見つめる。 


 ああ、そうか。妖精さんはここから先には来ないんだ。


 「ここでお別れなんだね?」


 そういうと、みんなが頷く。また俺の周りに(たか)って来て、代わる代わる髪をなでたり頬ずりしたり、見ると史朗にも同じ様にしていた。


 俺は七色の珠を大事にジャケットの内ポケットに入れた。後で何か袋を見つけて首から下げるようにしよう。そう思っていると、こちらの世界の日の経過を教えてくれたおばさん妖精が、綺麗な銀色の袋を持って来た。

 紐がついていて首から下げられる。これはハサミ蜘蛛の糸で出来ているみたいだ。ハサミ蜘蛛達が作ってくれたのか。 


 俺はポケットから珠を出して、その袋に入れて首から下げた。

 妖精さん達が満足そうに微笑む。


 そして、別の妖精さんが小さな木の板を持って来た。見ると、そこには狩りをする蟻人の絵が描いてあって、小さく「モハメド」と文字が入っていた。

 モハメドだ!これはきっとモハメドが作ったお守りだ。


 俺は嬉しくて袋に入れる前に、史朗に見せようと史朗の方を見た。


 そしたらだ!


 史朗は3人の可愛い女の子の妖精さんから綺麗な小石を受け取っている所だった。赤くて内側で炎が揺らいでいるような石だ。そして同じ様にハサミ蜘蛛の袋ももらっている。

 更に2人の女の子の妖精さんも水色の小石を史朗に渡している。別の女の子のグループも慌てて飛んでいって史朗にピンクの小石を渡しているんだ。


 なんだか様子が俺の所に集まっている妖精さんと違う。はにかむように頬を染め、心なしかクネクネしている女の子の妖精さん達。


 …あれ?もしかして史朗、モテてる? 


 俺が見ている事に気付いた史朗が、こっちを見て嬉しそうに鼻の下を伸ばして笑っている。

 え、チョット待って。俺は?俺には? 

 

 俺にはー?!と思っているうちに、妖精さん達はみんな崖から距離を取って、お見送り体勢に入ったようだ。

 羽根をいつもよりも早く動かしながら浮かんでいる。みんなが綺麗な虹のようになっていく。それはとても美しい光景だった。


 全員が(うやうや)しく頭を下げた。

 「いってらっしゃいませ」と言う声が聞こえたような気がした。 

 


 俺と史朗は顔を見合わせ、そして、妖精さんたちに笑顔で「行ってきます!」と言って、崖の上に向かって跳び出した。



 

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